それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

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ドラゴンクエスト編

14話 鬼灯の疑問

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 2階層に出現したトロールを倒し終えてレベルが上がったようで、ヒナミの体は淡い光に包み込まれていた。
 背後を振り向くと魔術師の青年も目映い光に包まれている。
 両手を胸の高さまで持ち上げて確認をするヒビキの体もヒナミや魔術師の青年と同じように光輝いていた。

 リンスールが発生させたイベントにより2階層にいたドワーフが全て砂となり消えていたため、周囲にはドワーフの姿は無くドワーフの塔2階層のフロア内は静寂に包み込まれている。
 和やかな雰囲気と共に大きく伸びをしたヒビキは完全に気を抜いてしまっている。
 しかし、穏やかな時間は長くは続かなかった。
 静かだった2階層に小型の魔法陣が幾つも出来あがる。
 一定の間隔を開けて起動した魔法陣から、キランと音を立ててドワーフが続々と出現を始めた。

「3階層に移動しますか?」
「うん、行こう!」
 リンスールの問いかけに対して即答したのは、急なフロア内部の変化に驚き慌てふためくヒナミだった。
 武器を構えて2階層に現れたドワーフが何時、襲ってきてもいいように身構えていたけれども、出現したドワーフが襲ってくる気配はない。
 宝石の影に隠れて顔を覗かせるドワーフの存在に気付き視線を向けると見事に目が合った。
 目が合うと、すぐにビクッと大きく肩を揺らして怯えた様子のドワーフが宝石の影に身を隠す。
 少し離れた位置にいる魔術師の青年と猫耳の女性に視線を移すと出現した沢山のドワーフに囲まれていた。


鬼灯

age.28

rank.SS

level.202
使用可能レベル50.幻術魔法
使用可能レベル100.炎の刃、猛毒
使用可能レベル150.業火
使用可能レベル200.範囲魔法、猛毒の雨

money.18,999,000G

 沢山のドワーフに囲まれているにも拘わらず、魔術師の青年には余裕があるようで、慌てふためくこともなくギルドカードを取りだして眺めている。
 極寒の雪山をビッグベアに乗り移動している間にも多くのモンスターに襲われた。
 背中に乗せてもらう代わりにビッグベアを守り、襲ってくる全てのモンスターを倒していたら随分とレベルや手持ちの金額が増えている。
 気づかないうちに人間界で最強と言われている国王のレベルまで追い抜いてしまっていた。

「ちょっと、そこのお兄ちゃん! カードを見てないで一緒に戦ってよ」
 じっくりとカードを眺めている鬼灯の隣でドワーフの攻撃を食い止めていた猫耳が印象的な女性が文句を口にする。

「あぁ、すまない」
 3階層に続く入り口を抜け上の階層に上がる3人の冒険者。ヒナミとヒビキとリンスールを眺めていた鬼灯が杖の底を地面に打ち付けて音を立てる。

「業火」
 範囲攻撃魔法を唱えた鬼灯が業火の炎を出現させると2階層が炎に包み込まれる。

「熱い熱い!」
 フロア全体に炎が燃え広がり、猫耳が印象的な女性が炎に囲まれてピョンピョンと跳び跳ねる。

 業火の炎は広い範囲を焼き付くす。
 仲間も炎の熱を肌で感じてしまうため、いつもは加減をしていた鬼灯が猫耳が印象的な女性の反応を見て、驚き咄嗟に炎の威力を調整する。
 先ほど見た狐耳が印象的なフード付きケープを身に纏った少年の事を考えていた。

「悪い」
 フードから僅かに見えたクリーム色の髪の毛は狐の面をつける仲間のものと同じ色だった。
 青年が探している仲間とは違って、狐耳フード付きケープを身に纏う人懐っこそうな少年は、おっとりとした口調が印象的。
 髪の毛の色は同じであるものの、青年の知る狐の面を着けた仲間の性格は、とても大人しくドワーフの塔2階層で出会った少年とは性格が正反対。
 人前に出る事が苦手なようで、いつも部屋の片隅にいるような人物だった。
 狐耳フード付きケープを身に纏った少年は、人から好かれる可愛らしい性格をしている。
 対してボスモンスター討伐隊隊長を務めていた仲間は、人に対して無関心。同じ討伐隊隊員である仲間と世間話をしている所を見たことが無い。
 あまり人と話すのは得意では無いようで頷いたり首を振ったりはするけど声を出して仲間に指示を出すようなことは無かった。
 ふと、人間界で話をした受付嬢の言葉を思い出す。
 鬼灯の知る仲間とは真逆の性格。人懐っこくて明るい性格の少年。名前は確かヒビキと言ったか。
 受付嬢の話によるとボスモンスター討伐隊隊長を務めていた人物は可愛らしい性格をした少年だった。

 差し出された一枚の写真には、傷だらけでベッドに横たわっている少年の姿が写し出されたいた。
 柔らかそうなクリーム色の髪の色が印象的。
 色白で人形にんぎょうのような見た目をした少年を、受付嬢はボスモンスター討伐隊隊長を務めていた狐の面と同一人物だと言うけれど正直、同一人物だと思う事が出来なかった。

 先程出会った少年を思い起こす。
 深くフードを被っていたため顔は見えなかった。
 僅かに見えた髪の毛はクリーム色。
 おっとりとした口調が印象的な人懐っこい性格をしていたと思う。
 種族は顔を見る事が出来なかったため分からないけれど魔族か、それとも魔族に擬態した人間か。

 真っ逆さまに頭から地面に打ち付けられそうになっていた彼を助けた時には、お兄さん有り難うと言って人懐っこい笑みを浮かべていたのだと思う。
 深々とフードを被っていたため口元しか見えなかったけど、口元が緩んでいたように思えた。
 先程出会った少年を受付嬢の話していた少年と比べてみると共通する部分が多くある。
「まさかな」
 ぽつりと一言だけ呟いた青年が業火の炎で2階層を焼き付くしている頃。

 3階層に移動したヒビキは見事にドワーフ達の罠にかかり術を受けて体を拘束されていた。
 2階層が20~60のドワーフが襲ってきていたのに対して3階層は200~300と何倍にも増える。
 黒色の魔方陣から現れた無数の影縛りの術がヒビキの手足に巻き付く事によりヒビキの体の身動きを封じている。

 前衛のドワーフを倒す事に苦戦をしていた。
 隙をつかれる事により、中衛のドワーフが発動した拘束魔法に気付くことが遅れてしまった事が原因である。
 見事な連携プレイに感心をしつつ、余裕を見せるヒビキは深呼吸をする。
 ドワーフ達がチームを組み魔法を発動しているのと同じく、今のヒビキには仲間がいる。
 だから、心配する事はない。
 チラッと横目にリンスールを見る。
 そろそろ、トルネードの呪文を唱え終えたリンスールが範囲攻撃魔法を発動する頃かなと予想をしていれば、全く予想もしていなかった光景が視界に入り込む事になる。

「ヒビキ君も捕まってしまいましたか」
「え……」
 助けを求めようとした相手もドワーフによる影封じの術に捕らえられており、身動きを取ることの出来ない状態に陥っていた。
 リンスールは手にしていた弓をドワーフの攻撃により弾かれているため、なす術もなく苦笑する。

 2階層ではイベントを発生させてドワーフを操る姿を見せてくれた。
 自由自在にドワーフを操る術、特別な力を持っているのだと思っていたから完全に油断をしていた。
 ドワーフに捕まってしまったらリンスールの特別な術により助け出して貰おうと考えていたヒビキが慌てふためき、満面の笑みを浮かべて武器を振り上げるドワーフに向かって声をあげる。

「ちょ……タイム、待った、ストップ!」
 影を封じられているため身動きを取ることが出来ない。
 ヒビキの目の前に迫るドワーフ達は、情けなく慌てふためく攻撃対象に対して魔法を使うまでも無いと考えているようで、小さな斧を振り上げる。

 今にも振り下ろされそうな斧を見て立て続けに声をかけてみるものの、ドワーフがヒビキの指示に従うわけもない。
 ドワーフは既に自分の思い通りに事が進んだと思っているため、にやにやと締まりの無い表情を浮かべている。
 ドワーフの塔に屯するドワーフ達は知力があるようで、慌てふためく人の姿を見て馬鹿にしたように笑う。
 そんなに慌てふためく人の姿が面白いか。心穏やかでは無いヒビキが、じたばたと手足を動かして何とか拘束から逃れることは出来ないだろうかと試みる。

 ドワーフの発動した影縛りの術は簡単には解けなくて、力業で拘束から逃れようとして疲れきった様子のヒビキは大きな、ため息を吐き出した。
 満面の笑みを浮かべるトロールによって振り下ろされた斧が、ヒビキの目の前に迫る。
 体の自由がきかずに、もう駄目だとヒビキが諦めかけた瞬間。
 ドワーフに強力な攻撃魔法、落雷が放たれた。
 ドワーフ目掛けて放たれたはずなのに、何故かヒビキの体をビリビリと雷に打たれたような強い衝撃が走る。

 ヒビキを助けるために放たれた攻撃はドワーフのすぐ側にいたヒビキの体も一緒に巻き込んだ。

「きゃあああ! お兄ちゃん、ごめんなさい!」
 遠くでヒナミが甲高い悲鳴を上げている。
 自力で影封じの術から逃れる事に成功をしたリンスールは、すぐ側で一部始終を見ていたため、ぽかーんとした表情を浮かべている。
 ヒビキがヒナミの放った攻撃を受けたのは、これで2回目。
 今回の落雷は、前回ヒナミが発動をした最大限に加減をした電気ショックとは違って、全く手加減をすること無く本気で術を発動しているためヒビキの体に激痛が走る。
 薄れていく意識の中、数人の魔術師が一斉に駆け寄ってよってくる姿を見た気がした。


 先程ドワーフの塔2階層で出会った少年が、自分の探し求めているボスモンスター討伐隊隊長を務めていた仲間では無いのかと疑い始めた鬼灯が、猫耳が印象的な女性と共に3階層へと移動をする。
 出入り口を抜けて3階層に足を踏み入れた瞬間、沢山の悲鳴と共にフロア内は、ばたばたと冒険者達が駆け巡る足音で瞬く間に騒がしくなる。
 
「きゃあああ! お兄ちゃん、ごめんなさい!」

 その中でも一際大きな悲鳴を耳にして、何事かと周囲を見渡した鬼灯が落雷を受けた狐耳フード付きケープを身に纏った少年の姿を視界に入れる。
 どうやら仲間の放った攻撃に巻き込まれたようで、先程2階層で見かけた少女が力無く、その場に座り込む姿を確認する。
 痛みに耐えていたヒビキが体を硬直させている。
 落雷が終わると、一気に全身の力が抜けたように、その場に頽れた。
 ぐったりとした少年の元に2人の女性魔術師と、1人の男性魔術師が急ぎ足で駆け寄った。

 倒れた少年を囲み回復魔法をかける魔術師達の種族は魔族。
 魔族の発動する回復魔法は黒色の光を放つ。
 冒険者が数名、神妙な面持ちを浮かべて少年と回復を担当する魔術師達を眺めている。

「探してる仲間かもしれないから俺も行ってくる」
 鬼灯が倒れた少年を指差して、ぽつりと小声で呟いた。

「いってらっしゃい。仲間だといいね!」
 猫耳が印象的な女性が鬼灯の背中に手を添える。
 いってらっしゃいと口にして鬼灯の背中を、とんとんと叩き願いを込める。
 どうか、少年が鬼灯の探している仲間でありますようにと。

「大丈夫ですか? 私の声が聞こえますか?」
 女性魔術師の2人が少年の頬を最大限に手加減をして何度も叩いていた。
 頬を叩く刺激と共に、何度も少年に声をかけているけれども全く反応がない。
 名前を呼ぶと少しは反応を示してくれるかしらと考えた魔術師の一人が腰を上げる。

「この子の名前は?」
 女性魔術師が今にも泣き出しそうな表情を浮かべているヒナミの元へと歩みよる。
 視線を合わせるようにしてヒナミの前でしゃがむと落雷を受けて倒れた少年の名前を問いかける。
 少年の名前を問いかけられて、咄嗟に口を開き少年の名前を答えようとしたヒナミが開いた口を、ぱくぱくと動かしたまま何とも奇妙な反応を示す。
 数分間の沈黙後、何やら考える素振りを見せたヒナミは、すぐ側に佇んで様子を伺っていたリンスールを見つめて苦笑する。

「ヒビキです」
 いつもヒビキの事をお兄ちゃんと呼んでいたヒナミは、咄嗟に少年の名前を思い浮かべる事が出来なかった。
 ヒナミの何とも複雑そうな表情を見て、何となく事情を察したリンスールが変わりにヒビキの名前を口にすると、両手を顔の前で合わせたヒナミに拝まれる。
 有り難うと小声で言葉を続けたヒナミの反応を間近で見ていたリンスールが苦笑する。
 拝まれるような事をした覚えは無いのですがと考えているリンスールは咳払いを一つ。
 ヒビキが危機的な状況に陥っているため笑っている場合では無いと自分に言い聞かせて、素早く表情を引き締める。

「大丈夫ですか? ヒビキ君」
 魔術師の女性が何度も少年の頬を叩きながら、声かけをするものの反応はない。
 エルフの青年から聞いたばかりの少年の名前を呼んでみる。
 しかし、返事は無くピクリとも反応を示さない。
 少女の放った落雷が致命傷になってしまったのだろうかと不安を抱く男性魔術師が回復魔法の上位全快魔法を唱えると少年の体が宙に浮き、黒い幕に包み込まれる。
 初めてみる闇魔法の回復術に驚き、そして興味を示した鬼灯がヒビキの隣にしゃがみ、黒い幕に手を添える。
 鬼灯達、人間が使う光の回復魔法とは違って闇の回復魔法は近くにいる人の魔力を少しずつ吸い取り対象の相手を回復する。
 手を添えると魔力を少しずつ吸いとられていくような感覚がある。
 初めて目にする闇魔法に感心をしていた鬼灯が、ふと思い出す。

 ヒビキと言う名前に聞き覚えがあった。
 人間界を出る少し前に耳にした名前である。
 ギルドの受付嬢が人懐っこくて、おっとりとした口調で喋る少年の名前をヒビキと言っていた。
 鬼灯が探している仲間と言うのはボスモンスター討伐隊の隊長を務めていた人物であり、普段から狐面を身に付けていたため顔を見ることは叶わなかったけれど寡黙な人だった。
 受付嬢が言うには寡黙なボスモンスター討伐隊隊長と、おっとりとした口調で話をする人懐っこい少年は同一人物であるらしい。

 鬼灯の知るボスモンスター討伐隊隊長は人と余り喋らず人に頼らず一人でも生きていけそうな、そんなイメージを人に与える人物のため、話を聞けば聞くほど同一人物には思えなかったのだけれども受付嬢はヒビキという少年の写真を見せてくれた。
 写真で見たヒビキという少年は、まだ幼さが残る顔立ちで、正直ボスモンスター討伐隊隊長を務めていた人物の顔を見た事が無かったため同一人物であるかどうか判断する事は出来なかった。
 実際に会えば別人か、それとも受付嬢の言う通り本当に同一人物なのか分かると思っていた。
 目の前に倒れている少年を自分の知っている討伐隊の隊長と比較する。
 声のトーンや話口調や雰囲気から判断をしてみるものの、どう考えても別人としか思えない。
 どうしたものかと考えていた鬼灯の目の前で、女性魔術師の一人が名前を呼んでも一向に反応を示す事の無いヒビキのフードを取り外そうとした。

「あ……こいつ顔を見られるのを、とても嫌がるんで」
 女性魔術師の行動を鬼灯が制す。
 理由は適当につけたけど、もしも落雷を受けて倒れた少年が受付嬢の話していたヒビキと同一人物だった場合、フードを外すと魔族では無く人間である事がばれてしまう。
 魔族達に人間が魔界に紛れ込んでいる事が知られた時、どのような反応を示すのか予想する事が出来ない。
 しかし後々、厄介なことになる事は明確で咄嗟に狐耳フード付きケープを身に纏っている少年を庇ってしまう。

「あら、そうなの?」
 首を傾けて鬼灯を見た女性がフードから手をはずす。
 魔術師の女性と鬼灯の会話を興味が無いふりをしながらも、こっそりと盗み聞きをしている人物がいた。

「トルネード」
 片手を伸ばし、ぽつりと呟いたリンスールの指先が白い光に包まれる。
 目の前に迫るドワーフ達の足元に巨大な魔方陣が現れて、現れた魔法陣から巨大な竜巻が発生した。
 ちらっと鬼灯とヒビキを横目に見たリンスールが目を細める素振りを見せる。
 ヒビキと同じ黄色いオーラを体に纏う鬼灯の種族が人である事をリンスールは気づいていた。
 しかし、二人の種族が同じってだけで、まさか顔見知りであるとは思ってもいなかったリンスールが鬼灯の言葉に興味を示す。

 あ……こいつ顔を見られるのをとても嫌がるんで。
 そう言ってヒビキのフードが取り外されるのを阻止した鬼灯が一体、何者なのか知りたくなった。
 ヒビキとどういう関係なのか探るために、先程から聞き耳を立てているのだけれども、なかなか二人の関係性が分からない。
 兄弟では無さそうだし友人同士とも違う。
 鬼灯が口を開き言葉を続ける事を期待していたリンスールの視線の先で、意識を失っていたヒビキの指先が僅かに動く。
 どうやらヒビキの意識が回復し始めているようで

「お兄ちゃん?」
 ヒビキの僅かな反応を見逃しはしなかったヒナミが、素早くヒビキの元に駆け寄った。

 横たわるヒビキの顔を覗き込むようにして声をかけると
「頭が、くらくらする」
 右腕で目を覆い隠したヒビキが、ぽつりと体調が悪いことを口にする。
「お兄ちゃん、ごめんなさい」
 今にも泣き出しそうなヒナミの声を聞き、仰向けだった体を横に向ける。
 そして地面に両手をついて上半身を起こそうとしたヒビキが途中まで体を起こしたところで、ぴたりと身動きを止めてしまう。
 突然どうしたのかと疑問を抱いたヒナミがヒビキの顔を覗き込んだ。
 四つん這いのまま身動きを止めてしまったヒビキが、その場に立ち上がろうとしている事が分かる。
 しかし、中途半端な姿勢のまま身動きを止めてしまったヒビキは気づいてはいないけれども、3階層にいる冒険者達が心配そうに様子を伺っている。

「ごめん、吐きそう」
 ヒビキが弱々しい声で、ぽつりと呟いた。

 きゃあああと悲鳴をあげた女性魔術師がヒビキの背中をさする。
 お兄ちゃん横になってと慌てるヒナミがヒビキに横になるように指示を出す。

 魔術師の男性が吐き気を催してるヒビキから、そっと離れて遠くで
「我慢だ、我慢! 吐くなよ!」と何やら大声で叫んでる。
 ヒビキを取り囲んでいた冒険者達がパニックになるのを眺めていた鬼灯は大きなため息を吐き出した。

「やはり、同一人物とは思えんな」
 そして、ぽつりと呟いた独り言に対して、ずっと聞き耳を立てていたリンスールが反応を示す。

「どういう意味ですか?」
 鬼灯の独り言の意味を知りたくて、リンスールは真顔で問いかけた。
 鬼灯が声の主に視線を向けると、そこには薄い緑色の瞳と薄い黄緑色の髪の毛が印象的なエルフの青年が佇んでいた。

「貴方は、ヒビキ君とお知り合いですか? どうして魔界にいるのですか?」
「えっと……」
 突然の青年からの問いかけに対して、言っている意味を理解する事の出来なかった鬼灯が首を傾げて口ごもる。

「貴方の種族はヒビキ君と同じですよね?」
「あぁ。思い出した。妖精は人のオーラで種族を判別出来るんだったな」
 3階層にいる冒険者達がヒビキを囲み右往左往している中、鬼灯とリンスールが神妙な面持ちで話し合う。

「仲間を探すために来た。狐の面を身に付けているから、すぐに見つけられると思っていたんだが」
「ん? 狐の面ですか?」
 鬼灯の言葉に反応を示したリンスールが、ぽかーんとした表情を浮かべると、首を傾げて問いかける。
 そして、吐き気を催しているヒビキに視線を向ける。
 2階層に980レベルのトロールが現れた時にヒビキがつけていたお面が、確か狐の形をしていた。

「貴方の知る狐の面を付けた方は、どのような人物なのですか?」
「どのような人物か正直、共に狩りを行っていた時は話す事も無かったし、いつも狐の面を身に付けていたから顔を見た事が無くて俺も詳しくは分からないんだけどさ。人と一緒に行動をするよりは一人でいようとする奴だったかな。いつも狐の面をつけていたから容姿は分からないけど髪色はクリーム色。青い炎を纏う刀を何処からとも無く出現させて戦う姿が印象的だったかな」
 鬼灯の言葉を真剣に聞いていたリンスールが、青い炎に包まれた刀を使って戦うヒビキの姿を思い起こす。

「ヒビキ君も青色の炎を纏う刀や赤色の炎を纏う剣を使って戦いますよ」
 少しずつ乱れていた呼吸が整い始めて吐き気がおさまり、ゆっくりと腰を上げて立ち上がったヒビキが覚束ない足取りで歩き出す。

「あなたの探している仲間と同一人物かは私には分かりませんが、しばらく一緒にいれば分かるのでは?」 
「ああ、そうだな」
 泣きべそをかくヒナミの頭を撫でながら、ゆっくりとリンスールや鬼灯の元へ足を進めるヒビキの顔色は血の気が引いて青白い。
 ヒビキを指差して考えを口にしたリンスールの問いかけに対して鬼灯は苦笑する。
 正直、共に行動をしてもボスモンスター討伐隊隊長と、目の前の少年が同一人物であるかどうか見分ける自信は無い。
 不安を抱きつつも鬼灯は小さく頷いた。

 ピロンと高い音がして鬼灯が瞬きを繰り返す。
 リンスールにパーティーに誘われています。加入しますか?
 目の前に現れた文字を読み

 はい

 左下にあるボタンを押すとリンスールに視線を戻す。
 リンスールは鬼灯と共にパーティーを組んでいた猫耳が印象的な女性も仲間に誘う。

 しかし、猫耳が印象的な女性は両手を胸元の高さまで持ち上げて左右に振る素振りを見せると
「私は遠慮しとくよ。この後、行くとこがあるからね。誘ってくれて有り難う」
 パーティーに入る事を断った。
 そして、鬼灯が新たな仲間を見つけてパーティーを組んだ事を確認して安堵する女性は、輪を抜け出してドワーフの塔を後にする。
 塔を抜け出し大きく息を吐きだした女性は遠くに見える魔王城を見つめる。

「寄り道をしすぎたなぁ」
 そして、ぽつりと独り言を呟くと勢い良く走りだして助走をつける。
 勢いが付いたところで強く地面を蹴りつけて、空へと飛び上がった彼女は瞬く間に魔王城の建つ方角に消えていった。


 
 その頃、魔王城では。
 数日前に人間界で起こったボスモンスター討伐隊の壊滅。
 チームの隊長による裏切りについて調べていたギフリードが情報を手に魔王の元を訪れていた。
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