それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

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ドラゴンクエスト編

12話 SSSクラスの冒険者

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 ユキヒラが不気味な笑みを浮かべて人間界を出た頃。
 魔界ではトロールの討伐をしゅくして宴会が行われていた。
 ギルドの2階にある一部屋ひとへやを貸しきって行われた宴会は、ドワーフの塔の2階層でトロールの討伐に参加をした冒険者以外にも、魔界で名を馳せている冒険者が情報を手に入れるために密かに参加しているらしい。

 ギルドランクSSSクラスのギフリードは魔界のトップである魔王に仕える直属の騎士である。
 暗黒騎士団の隊長を務める青年が城の外へ出ることは滅多になく、その姿を見ようと城に赴《おもむ》く魔族も少なくは無いと言う。
 漆黒の鎧を纏い同じく黒色のコートを羽織っている。
 背中には大きな剣を背負う、銀色の髪の毛が印象的な青年は調査員の役割を果たす。
 魔王の指示で今回はドワーフの塔に出現したトロールと、そのトロールを倒した者の情報を集めて宴会に参加している冒険者に声をかけている。

 同じくギルドランクSSSクラスの有名人。薄い緑色の髪の毛に緑色の瞳が印象的なエルフの少女も調査員の役割を果たすために宴会に参加していた。
 妖精の森から魔界に情報を集めに来たようで、人見知りなのだろう。
 不安そうに眉尻を下げている。
 アイリスと名乗った少女はヒナミの側を離れようとしない。
 滅多にお目に掛かる事の出来ない最高ランクの冒険者を近くで見ようとトロールの討伐に成功をした冒険者達が取り囲む。
 普段魔王の側近として城にいるギフリードは人に囲まれる事に慣れていないため何だか居心地が悪そうである。
 それは妖精の森から魔界にやってきたアイリスも同じ事で、ヒナミの腕にしがみつき怯えた表情を浮かべていた。

 トロール討伐に成功をした冒険者達がギフリードとアイリスを囲む中でヒビキはというと、部屋の片隅にあるソファーの上に力なく腰を下ろし騒がしい室内で深い眠りについていた。
 宴会が開始したのは午前0時を迎えようとしていた頃。
 その時すでに眠たそうにしていたヒビキは宴会が始まって、すぐに眠気に耐えきれずソファーに腰かける。
 しばらくの間は虚ろ虚ろとしながらも何とか眠りにつくこと無く抵抗を試みていたヒビキは数分間、頑張った後にソファーにもたれ掛かるようにして熟睡してしまう。
 ヒビキの隣に傷は完治したとはいえ沢山の血を吐き出したため、血が足りていないリンスールが腰を下ろす。

 ヒビキは眠たいから。
 リンスールは血が足りず体が重いから。
 それぞれに理由をべてトロールの討伐が終わり、ドワーフの塔から抜け出した後すぐに帰宅しようとした。
 しかし、帰ろうとする二人を他の冒険者達が無理やり引き止める。
 ヒビキに関しては眠気に負けて目蓋を閉じた状態でギルドに連れてこられたため討伐後の記憶は殆ど無いだろう。

 騒がしい室内で熟睡するヒビキを呆然と眺めて
「それにしても、よくこんな騒がしいところで熟睡する事が出来ますね」
 リンスールが信じられないものを見るような視線を向ける。
 隣で本音を口にしてみても起きる気配はない。
 整った呼吸を繰り返している。
 お腹をポンポンと音を立てて指先で叩いても身動みじろぎ一つしない。
 暇をもて余すリンスールが、ため息を吐き出した。

 リンスールの視線が熟睡しているヒビキから床に移り、つまらなさそうにしている頃。
 部屋の中央にあるテーブルの上に沢山の料理が並びだす。
 魚の煮付けや豚の角煮を皿によそう大人たち。
 デザートを真っ先に口にする子供達の姿もある。
 そして、テーブルの上に並べられたお酒は飲み放題。
 大人達が我先にと酒を手に取り口にする。
 自分の周囲を囲む冒険者達を見てギフリードは随分と仲の良いチームだなと考えていた。
 男性も女性も子供も部屋の一ヶ所に集まって楽しそうにはしゃいでいる。

 冒険者に囲まれてしまっているため部屋全体を見渡すことが出来ないギフリードは、部屋の片隅にいるヒビキとリンスールの二人には気づいてはいなかった。
 アイリスに至っては怯えるばかりで周りを見渡す余裕もない。
 そろそろ話の話題をトロールの討伐に持っていきたいなと思っていたギフリードが、どう話を切り出そうか迷っていた時。

「それにしても、今回のトロール戦で死人が出なくて良かったな。リンスールが危なかったけど」
 酒を飲んだ事により上機嫌になった冒険者が声をあげる。

「そうだな。リンスールが骨を砕かれ倒れた時は、正直もうダメかもしれないと思ったな。呼び掛けても反応がないし血は吐き出すし」
 狼男が冒険者の言葉に大きく頷いた。

「あの……その、死人が出なかったって事は、そのリンスールって方は助かったのですよね?」
 狼男の話にピクッと反応を示したアイリスがヒナミの後ろから顔を覗かせる。
 恐る恐る問いかけたアイリスに対して狼男は笑顔を浮かべて頷いた。

「おう、そこにいるぜ」
 狼男が部屋の片隅で、つまらなさそうにしているリンスールを指差した。

 ここで、やっとリンスールとヒビキの存在に気づいたアイリスとギフリードが驚いたように互いに顔を見合わせる。
 部屋の隅に設置されたソファーに腰を下ろし、くつろいでいるリンスールと、その隣で熟睡する少年の姿を眺める。

「今は元気そうに見えますが?」
 ソファーに腰を下ろすリンスールに視線を移したアイリスが、ぽつりと言葉を漏らすようにして呟いた。眉尻を下げて今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。

「うん。お母さんが全回復魔法を使って回復をしたからね」
 アイリスの質問に対してヒナミが笑顔で返事をする。
 自慢のお母さんだよと言葉を続けたヒナミにアイリスは更に身を寄せる。

「君達が途中参加で来てくれなければ、きっと私達は全滅をしていたでしょうね。トロールの動きが速すぎて目で追う事で精一杯だったし攻撃もあてられず、もう駄目だと諦めかけていたときに彼女達が来てくれました」
 知的そうな魔術師の青年がヒナミの言葉を耳にして苦笑する。

「彼女達が途中参加で来てくれたとは?」
 魔術師の言葉に疑問を持ったのはギフリードだった。
 いまいち魔術師の青年の言葉だけでは状況を理解する事が出来ずに、首を傾けて問いかける。 

「緊急クエスに親子3人が途中参加をしてくれたのです。侵入者としてトロールから優先的に狙われてしまいましたが、そのお陰で私達は生き延びることが出来たのです」
 魔術師の青年がヒナミと、ヒナミの母親と、ヒビキの3人を指差した。
 話の話題が自分達の事に変わってもヒビキは熟睡したまま、心地良さそうに眠りについている。
 フードを深く被ったまま熟睡をするヒビキは起きる気配がない。

「トロールは敏捷びんしょう性が高かったので、まともに戦えたのは数名だけでした」
「私は目で追う事で精一杯でした」
「私もです」
 4名の冒険者を指差した魔術師の青年。
 指差しを受けて驚いたように目を見開く冒険者達が苦笑する。見えてはいたけれども目で追うので精一杯だったため、攻撃を放つ余裕も無かったですと正直に手も足も出なかった事実を口にした。

「正直なところ、俺も防御をしていただけで攻撃は一度も届かなかったからな」
 狼男も、素直に攻撃が届かなかった事実を口にして苦笑する。

「今回、出現をしたトロールは敏捷性が高かった……と」
 トロール討伐に携わった冒険者達の情報を元に、ギフリードはペンを懐から取り出すと黒い紙に白い文字を書き記す。

「防御力は弱かったな。でも攻撃力は高かった」
 狼男の言葉に続くようにして魔術師の女性が口を開く。

「ヒットポイントが残り僅かとなったトロールの動きが急激に変化をしてからは、目で姿を捉える事も全く出来なかったわね」
 魔術師の女性が素早い動きを見せたトロールを思い起こして苦笑する。
 2階層にいた殆どの冒険者がトロールの動きを目で追うので精一杯だったと言う。

「トロールの動きが激変してからは、その少女とソファーの上で熟睡をしている少年が戦ってくれたんだ」
 ヒナミとヒビキを指差した狼男の言葉を耳にして、まさか話を振られるとは思ってもいなかったヒナミが慌てて首を振る。

「私にも見えて無かったよ。だって、トロールの拳が目の前に迫って来るまで気付かなかったもん。お兄ちゃんは私に迫るトロールを止めようと剣を振っていたから見えてたと思うけど……私には目で追うことも出来なかったよ。あ、でもリンスールさんは見えてたと思うよ。攻撃を受けそうな私に防御壁を張って、なおかつトロールの身動きを拘束魔法、木のツルを発動することにより封じてくれたから」
 両手を目の前で左右に振り、狼男の言葉を否定したヒナミが困ったように言葉を続けるとギフリードの興味がヒビキやリンスールに移る。

「ほう。だったら、あの二人に話を聞いてみるか」
 素早く身を翻し部屋の隅にいるリンスールやヒビキの元に移動をするギフリードは何だか嬉しそう。
 ヒナミはヒビキを指差して、さりげなくお兄ちゃんと呼ぶ事を忘れない。
 100歳未満であるヒビキは成人をしていないため、夜中に出歩くのには保護者同伴が義務付けられている。
 ヒナミはリンスールの名前も出した。
 喋り相手が居なくて、つまらなさそうにしているリンスールに強引な形で話し相手を押し付ける。
 ヒナミの思惑通りギフリードはヒビキとリンスールの二人に興味を持ち歩み寄る。

 無表情ではあるけれどリンスールは面倒な事をしてくれたとヒナミに視線を送り、実際に言葉には出せないため口から危うく出かかった文句を飲み込んだ。
 へへっと笑うヒナミは最初から、この二人を巻き込むつもりだったらしい。
 嬉しそうにギフリードの後を追いかけるヒナミが、ヒビキとリンスールの目の前に移動をする。

「トロールに止めを刺したのは?」
「彼です。私はトロールを目で追うので精一杯でした」
 暗黒騎士団隊長を務めるギフリードに問いかけられてリンスールはヒビキを指差した。
 面倒事を、ひょいっとヒビキに丸投げする。

 「この少年にも話を聞きたいんだが……」
 熟睡するヒビキの肩を試しに揺すってみる。
 ピクリとも反応を示さないヒビキにギフリードが困ったように呟いた。

「起きないと思いますよ。さっきから揺すったり叩いたりしていますがピクリともしませんし」
 リンスールが言うようにヒナミがヒビキの横腹をくすぐってもアイリスが、ぐいぐいっとヒビキの腹を押しても全く反応がない。

「朝になるまで待つか……」
 ヒビキが起きないのなら仕方がない。
 小さなため息を吐き出すとヒビキの隣に腰を下ろす。
 料理の並んだテーブルを囲み騒いでいる冒険者を見つめてギフリードは再びため息を吐き出した。

「助かった。人の多いところは苦手でな人の輪の中から、どうやって抜け出そうかと考えていた」
「へへっ!」
 笑顔を見せるヒナミがリンスールの隣に腰を下ろす。

「人に囲まれて、すぐに心の色が変化をしたから、お兄ちゃんが困っているのが分かったの」
 ギフリードに笑いかけるヒナミは人懐っこい。
 アイリスとは対照的。
 ヒナミの隣にゆっくりと腰を下ろしたアイリスは、ヒナミの側を離れる気は無いようで身を寄せる。
 怯えるアイリスを安心させるためにヒナミが大丈夫だよと声をかけるけれども、アイリスは不安そうな表情を浮かべたままである。随分と警戒心が強い。
 それでもリンスールに向かって小さく頭を下げてお辞儀をしたアイリスの態度からヒナミは、二人はもしかして知り合いなのだろうかと考える。
 リンスールは笑顔を浮かべてアイリスにお辞儀を返す。
 やはり二人は顔見知りらしい。

「ヒナミさんは、人の心が見えるのですね」
 リンスールが無表情のままアイリスからヒナミに視線を移して問いかけた。

「うん。リンスールさんが、つまらなさそうにしていたから、このお兄ちゃんを連れていけば話し相手が出来るかなって思って」
 笑顔を見せるヒナミに対してリンスールが無表情を崩す。

「確かに暇ではありますが、暗黒騎士の隊長である彼を暇潰しの相手には出来ませんよ」
 クスクスと口元に手を添えて笑いだしたリンスールにヒナミが満面の笑みを見せる。

「ご謙遜を。あなたこそ……」
「それ以上は言わないでください。身元は明かしてはいないので」
 言葉を返すように続けたギフリードだけど、それをリンスールが慌てて制す。
 苦笑するリンスールに対して
「そうか」
 ギフリードは一人、納得すると小さく頷いた。

「お兄ちゃん、おはよう」
 今まで無色だった心の色にポッと色づいた。
 突然ヒビキの顔を覗き込み顔を声を掛けるヒナミ対して、覚醒しきる前の頭で考える。

「ん……おはよう」
 身動ぎをして挨拶を返す。
 うっすらと目蓋を開けると、窓から朝日が差し込み部屋の中を明るく照らしていた。
 そうだった。
 トロールの討伐を祝して宴会が行われていたんだと、昨夜寝ぼけたまま冒険者達に腕を引かれてギルドに足を運んだ事を思い出す。

 ソファーの上に腰をかけ直した所で
「おはようございます」
 リンスールが満面の笑みを浮かべて挨拶をしてくれる。

「おはよ……う、え?」
 リンスールの満面の笑みに、つられて笑顔で挨拶を返したヒビキは未だに頭が覚醒しきっておらず。
 リンスールの白い服が血で真っ赤に染まっている事に気づいて、思わず間の抜けた声を出す。

「すみません。傷は完治しているので気にしないでください」
 ヒビキの視線の先を目で追ったリンスールは服の裾を持ち上げると、眉尻を下げて苦笑する。血を洗い落とす作業が大変ですと、さりげなく本音を呟いた。

「それよりも、ヒビキ君と話をしたいと言っている方がいますよ」
 苦笑をしながら服についた血を手で覆い隠す素振りを見せたリンスールがそっと、右腕を伸ばしてギフリードの肩に触れる。
 服は全体的に血で染まっているため全く隠しきれてはいないのだけれども、話題を変えようとするリンスールの示す方向に視線を向ける。

「おはよう」
 視線の先に漆黒の鎧を身につけた青年が入り込む。見事に目が合うと、一体いつの間にソファーに腰を下ろしたのか、すぐ側に魔族の青年がいることに全く気づかなかった。
 頭で考えるよりも先に無意識のまま深々と頭を下げる。

「おはようございます」
 今までヒナミの母親やドワーフの塔の中で、さまざまな魔族を目にする機会があったけれども、その中でも目の前の青年は、ただそこに座っているだけなのに威圧感がある。
 身分の高そうな魔族だなと考えながら呆然と青年を眺めていると、まじまじと顔を見られて観察をされる事に対して気まずさを感じたのか、ゆっくりと視線を逸らす。

「彼は魔王に仕える直属の騎士。暗黒騎士団の隊長を務めているギフリードさんだよ」
 初対面の相手に対して戸惑っていると、ヒナミが彼の紹介をしてくれた。

 魔王に仕える直属の騎士は人間界の書物や文献に記載されるほど有名な少数精鋭部隊。
 人気があるけれども彼らは神出鬼没。
 滅多にお目にかかる事が出来ないと以前、目を通した書物には書き記されていた。
 暗黒騎士団の隊長を目にする事が出来たのは、きっとヒナミやヒナミの母親と出会う事が出来て本来なら経験出来るはずもない魔界で狩りを行うという体験をさせて貰えたため。
 唖然とするヒビキは思考が停止したのか放心状態のまま身動きを止めてしまっている。

「宜しく」
 ギフリードがヒビキの目の前に右手を差し出した。
 笑顔で握手を求められてしまっては返さなければならなくて、このまま腕を引かれて頭から食われはしないかと思ってしまうのは、魔族が共食いをする種族だとヒナミの母親が言っていたのを思い出したため。
 確か好物は人間だと言っていた気がする。

「宜しくお願いします」
 暗黒騎士団隊長を務めるギフリードの手を恐る恐る握り返す。深々と頭を下げて宜しくお願いしますと言葉を続けると、そのまま力を込めて腕を捕まれる。

 表情から笑みを取り外して真剣な眼差しをヒビキに向けるギフリードの態度の変化に驚き、本当に頭から食われるのでは無いのかと不安を抱いたヒビキが咄嗟に腕を引こうと試みる。
 力では到底、魔族には敵わないためギフリードは澄ました顔をしてヒビキの腕を引き寄せる。

「君の返事次第で、この手を離すかどうか決めるので真剣に答えてくれ」
 ギフリードが真面目な顔をして考えを口にする。
 強制的に身動きを封じ込められて一体、何を指示するつもりでいるのか出来れば難しくは無い自分にも出来るような事だといいなと考えるヒビキは、自信の無さそうな表情を浮かべて頷いた。

 ヒビキの隣に腰を下ろしているリンスールは今の状況を楽しんでいた。
 ギフリードに何を言われるのか分からずに身構えるヒビキが戸惑い混乱中である事を表情から読み取って肩を振るわせて笑っている。

「昨晩ドワーフの塔に出現した980レベルのトロールに止めを刺したのは君だと聞いたのだが」
「あ、はい」
 暗黒騎士団の隊長を務めている青年は、昨晩ドワーフの塔に現れた980レベルのトロールについての情報を集めているようで、とどめを刺した人物から情報を得ようと声を掛けるタイミングを見計らっていたのだと言う。

 面倒事には巻き込まれたくはない。
 しかし、嘘をつくにも目撃者が大勢いるため素直に首を縦に振る。

「ヒットポイントが残り僅かとなったトロールの動きを、彼らは目で追う事が出来なくなっていたと言うが君は?」
 部屋の中央でテーブルを囲み料理を手に取っている冒険者を指差しながらギフリードが首を傾げて問いかける。
 問いかけに対してヒビキは迷わず顔を左右に振った。
 正直に言うと狐面をつけていたためトロールの動きは見えていた。
 しかし、素直に見えていたと答えると、ギフリードの持つメモ用紙に書き記されそうな気がして嘘偽りを口にする。

「殆んど見えていなかったです。がむしゃらに攻撃をしていました」
 悪びれた様子もなくヒビキは嘘を口にした。
 魔族に情報を与えること無く、済みそうだと考えて気を抜いたヒビキの表情の変化を呆然と眺めていたリンスールが、不意に表情に奇妙な笑みを浮かべて口を開く。

「真面目な顔をして嘘は駄目ですよ。何度もトロールに攻撃を避けられてイライラし始めていたように思いましたよ」
 クスクスと肩を震わせて笑うリンスールは確信犯である。
 真実をギフリードに伝える事により、暗黒騎士団隊長の興味をヒビキに向ける事に成功をして状況を面白おかしくしようとする。
 リンスールの思惑通り、ギフリードが手にする黒いメモ用紙にヒビキの名前や、特徴や、性格が書き連ねられる。

「貴方にも彼がトロールに攻撃を避けられている場面が、しっかりと見えていたと言うことになるな。2人ともトロールを目で追うことが出来た……と」
 そして、ヒビキがトロールに攻撃を何度も避けられていた事を伝えたリンスールが自滅する。
 遠回しに自分もトロールの動きを目で、しっかりと追えていた事を伝えてしまう。
 ギフリードの言葉を耳にしてリンスールは唖然とする。

「あ……」
 表情から笑みが引き、ぽつりと声をもらしたリンスールの姿にヒビキが腹を抱えて笑いだす。
 しかし、ギフリードが続けた言葉によりヒビキの笑みは消え、あんぐりと口を開く事になった。

「トロール討伐の情報は後日まとめて魔王に報告するとしよう。もう一つ問いかけたいことがあったのだが、暗黒騎士団に入らないか? 君は魔王が好きそうな姿をしているから、きっと連れて帰ると魔王が喜ぶだろう」
 突然、何を言い出すのやら。
 全く予想をしていなかった問いかけに対して危うく思考が停止しかけた。

「遠慮します」
 首を左右に振る事により即答する。
 真面目な顔をして問いかけてくれたギフリードには申し訳ないけど、そもそも種族が違う。
 今は狐の耳付きのフードを身に付けているから上手いこと魔族に擬態することが出来ているのかもしれないけど、フードが外れて正体を知られた時が怖い。

「何故だ? 暗黒騎士団に志願する冒険者も少なくはないが?」
 悩むことも無く断られるとは思ってなかったようで、ギフリードに理由を求められる。
 魔王が好きそうな姿とギフリードは言ったけれど、今のヒビキの格好は狐耳つきのフードをかぶり、膝下まであるケープを身に纏っているため決して強そうには見えない。
 そもそも、魔王の好きそうな姿とは一体どのような意味なのか。
 意味が分からないと混乱するヒビキが、それでも何とか気持ちを切り替える。

「やりたい事があるんです。暗黒騎士団に入ると、そのやりたい事が出来なくなってしまいます」
 仲間を裏切ったユキヒラを思い浮かべて首を左右に振る。
 暗黒騎士団に入隊すると魔王の指示にしたがって身動きを取ることになる。
 ドラゴンに命を奪われた仲間の姿を思い浮かべる。
 仲間の敵を打つために魔界でレベル上げを行った後、人間界へ移動するつもりでいるヒビキは、暗黒騎士団に入隊する事により行動を制限されることを恐れている。

「やりたい事とは?」
 理由があってヒビキは暗黒騎士団に入隊することを拒んでいるようで、ギフリードはヒビキに対してやりたいことを問いかける。
 ヒビキを仲間にする事を諦めてはいない。

「お金を貯めてクエストを発注して仲間の敵を討ちたいんです」
 ギフリードはヒビキの腕を掴んだまま。
 手を離すつもりは無いのだろうかと考えていると、何やら考える素振りを見せたギフリードが口を開く。 

「君が暗黒騎士団に入るのなら、その仲間の敵を打つために発注したクエストを私達、暗黒騎士団が受けると言ったら考え直してくれるか? 君の好きなように妖精界や天界や人間界と動き回ってくれて構わないから」
「それは心強いです。もちろん暗黒騎士団に入ります」
 人間界の東の森に現れた木属性のドラゴン討伐クエストを暗黒騎士団が受けてくれるのであれば、間違いなくドラゴンを討伐する事に成功をするだろう。
 暗黒騎士団に入る事を伝えると、ギフリードは満足したように大きく頷くと手を離してくれる。

「では、そのクエストの発注も私がしよう。どのようなクエストを発注しようと考えているのか詳しく教えて欲しい」
 ギフリードに手を離してもらったため安堵する。
 気を抜いていたため、危うく聞き流してしまうところだった。
 ギフリードの言葉の内容は簡単に聞き流してしまえるようなものではなくて慌てて首を左右に振る。

「え……お金を貯めてクエストの発注は俺がするよ。そこまで迷惑はかけられないし」
 慌てて懐からギルドカードを取り出して手持ちの金額を確認する。


白峰ヒビキ

age.16

rank.F

level.150
使用可能レベル50.炎の刀
使用可能レベル150.剣舞(けんぶ)、改(かい)

money.2,279,000G


「因みにですが暗黒騎士団にクエストを依頼する場合、クエストの発注はいくらかかりますか?」
 2,279,000Gよりも安い金額でありますように。
 心の中で願いながらギフリードに問いかけると、すぐに返事があった。

「クエストの発注は金持ちや、団体が金を出しあってする物だからな。高額だが、暗黒騎士1人につき1,000,000Gの報酬として、私を抜いても3人。3,000,000Gに加えてクエスト発注時に発生する登録金を合わせて5,000,000Gか」
 簡単に計算をしたギフリードの上げた金額を耳にしてヒビキは唖然とする。
 肩を落とすヒビキの反応は、お金が足りていない事が丸分かりである。

「やはりクエストの発注は私がしよう。恩は後々しっかりと返してもらうからな」
 さりげなく本音を言葉にするギフリードに対してヒビキは苦笑する。
 話をしていると、ついつい忘れがちとなってしまうけどギフリードの種族は魔族である。
 魔族に対して借りを作っても良いものだろうかと考えてみるけれど暗黒騎士団に入隊してしまった今、種族の事を考えていても仕方がない事だと思う。
 借りは後々、返していこうと考えるヒビキはギフリードに向かって深々と頭を下げる。
 もしも、種族が魔族では無いことが知られてしまった時が怖いけど借りは後々、絶対に返す事を心に決めたヒビキが口を開く。

「ご迷惑をお掛けします。お金の分は、しっかりと働きます。このような身なりをしているので頼りなく感じるかもしれませんが、宜しくお願いします」

 ドラゴン討伐依頼の発注をギフリードに頼むため、人間界の東の森に現れたドラゴンの詳細を事細かに説明する事になるだろう。
 しかし、魔族に擬態している最中のヒビキは、人間界で名を馳せていたボスモンスター討伐隊と関わりがある事を伝える訳にはいかなくて、どのように事情を説明するべきかと悩みはじめてしまう。

「事情を説明する事が出来ないのであれば、それでもいい。無理強いはしないから」
ヒビキの複雑そうな表情から他人には話づらい内容なのだろうと、考えて事情を無理に聞き出そうとはしないギフリードは早速クエストを発注するために、ギルド1階にある受け付けカウンターへ向け素早く身を翻す。
 颯爽と歩くギフリードを呆然と見送っていたヒビキの元へ素早く移動をしたリンスールが身を寄せる。

「魔族に借りを作って本当に良かったのですか?」
 リンスールはヒビキの種族が人間である事を知っているから、問いかけに対してヒビキは口ごもる。
 ヒビキの何とも複雑そうな表情を間近で眺めていたリンスールは小刻みに肩を振るわせる。
 人が困っている姿を見て楽しんでいるリンスールは、もしかしたら性格が悪いのかもしれない。

「万一、俺が頭から食われそうになった時は助けてください」
「え……」
 穏やかな笑みを浮かべているものの明らかに人の不安を煽り、その反応を見て面白がっているリンスールに対して、危機的な状況に陥った時には助けてくださいと口にする。
 まさか、助けを求められるとは思ってもいなかったのだろう。
 全く予想してもしていなかった言葉を耳にしてリンスールは、きょとんとする。
 しかし、数分間の沈黙後に分かりました、困った時はお互い様です。
 その時は気軽に頼ってくださいと言葉を続けたリンスールは穏やかな笑みを浮かべていた。

 暗黒騎士団に新メンバーが増えた事は、午前中のうちに魔界全域に広がった。
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悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
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俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
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 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

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