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ドラゴンクエスト編
7話 ギルド
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白を基調とした建物の中央にはカウンターがあり、沢山の冒険者がクエストを受けるために並んでいた。
広い建物内の一部で防具や武器を販売している者がいる。
驚いたことに魔界のギルドにはスキル売り場があり、ここで飛行術や治癒の魔法を購入することが出来るらしい。
スキルを金で買うことが出来るとは考えてもいなかったヒビキは、迷うこと無く一直線にスキル売り場に向かって足を進めだす。
飛行術は50,000,000G。
治癒魔法は30,000,000G。
魔族にとってはクエストや狩を行うことにより、苦も無く集めることの出来る価格なのだろうか。
予想を遥かに上回る値段の高さに動揺を見せたヒビキが目を見開き唖然とする。
一歩足を引き後退をする。頭を抱え込むと肩を落として大きなため息を吐き出した。
「購入することが出来た頃には、寿命は残り僅となっていそうだな」
愕然とするヒビキは考えを漏らす。
頭の中でギルドカードの出現を唱えるとヒビキの手元にギルドカードが現れる。
カードの一番下に記載されているGを確認したヒビキが目蓋を伏せる。
586,000G
もしかしたら自分の知らないうちにお金が貯まっているのではないのかと、淡い期待を抱いていたヒビキの思いは見事に打ち砕かれることになる。
ゼロの数が二桁も足りないなんて。
落ち込んでいたヒビキが考える。
このスキルは種族が人であっても使えるのだろうかと。
お金を貯めてスキルを購入、習得をしてから使えない事に気づいた何てことになったら笑い話にもならないから隣に佇む女性に声をかける。
「このスキルは俺にも……?」
種族が人間であっても使えるのか。
人間という言葉を使うと自分の種族が人間であることを、周囲に屯する魔族達に気づかれてしまうかもしれない。
問いかけ方に気をつける。
「ええ、使うことが出来るわよ」
即答だった。女性は大きく頷いた。
どうやら飛行術や治癒魔法は、種族を問わずに使うことが出来るらしい。
「是非覚えるべきよ」
女性が笑顔で薦めてくれる。
飛行術や治癒魔法は持っていたら絶対に役に立つスキルだから覚えたい。
しかし、習得するためには沢山のお金がかかってしまう。
「ありがとう。まずは、お金を貯めないといけないんだけど」
スキル一覧表を眺めながら呟くと女性が苦笑する。
「私も少女時代にスキルを購入するため、お金を必死になって貯めた経験があるけど、その間お洋服や装飾品は買いたかったけど一切買えなかったわね」
過去の自分を思い出して渋い顔をしている女性が何度も頷いている。
「スキル習得以外にも、お金を使ってやりたいことがあってクエストを発注するのに大体いくらかかるか教えてほしいんだ」
スキルの購入もしたいけどまずはクエストの発注をしたい。
質問に対して女性は、きょとんとする。
「クエストの発注?」
不思議に感じたのか首をかしげてヒビキに向かって問い掛ける。
「うん。人間界の東の森に生息していたドラゴンの捜索と共に討伐を発注したい」
数日前の出来事を思い出して渋い顔をするヒビキは、仲間の敵であるドラゴンの討伐を諦めてはいなかった。
「敵を撃ちたいわよね。ドラゴンの討伐にもなると2,000,000Gほどかかりそうね」
「それくらいかかるか。お金がよく貯まる場所って、この近くだと何処?」
予想していた金額よりは少なかったけれども今の手持ちと比較をしてみると、やはり高額にはかわりない。
まずは、お金を貯めようと決めたヒビキが問いかけた。
「この近くだとドワーフの塔かしら。ドワーフの塔でお金をためて、飛行術を購入して空を飛んで悪魔の住む泉に移動しながらお金をためていくのが、一番手っ取り早くお金が貯まると思うわよ」
魔界近くのドワーフの塔を薦めてくれる。
ドワーフの塔。
1階入場レベルは50
2階入場レベルは100
3階入場レベルは150
4階入場レベルは200
5階ボスの間の入場レベルは300
ドワーフの魔法属性は闇。
単体で行動しているものは少なく、団体で攻めてくるため範囲攻撃魔法を使えると便利。
ドワーフの塔の案内用紙を読み固まるヒビキが苦笑する。
「魔界の人達の平均的なレベルって?」
女性に声をかけると
「250前後かしら」
笑顔で答えてくれた女性は人の平均的なレベルを知らないようで、ビビキは眉尻を下げる。
人の平均的なレベルは30前後。
ボスモンスター討伐隊に所属していたため、54レベルと人間界ではつよい方だったヒビキでもドワーフの塔の一階に入るのがやっとという事実に唖然とする。
「帰りにドワーフの塔に少し挑戦してきてもいい?」
人の姿を取ることの出来る魔族は強いと聞くけど、まさか人間界で一番強いと言われている国の王様のレベル198を抜いてしまっているとは。
「ええ、でもあまり遅くなっちゃダメよ」
ドワーフの塔を、まずは攻略することを目標にしようと心に決めたビビキに女性は小さく頷いた。
「もしも、一人でいる所を国のお偉いさんに見つかってしまったら、人間であることは何があっても隠し通さなければならないわよ。いい人達ではあるのだけど人を見た時に彼らが、どのような反応をするのか予想がつかないからね。食べられちゃったら飛行術を買うことすら叶わなくなるからね」
女性がヒビキに身を寄せて耳元で何やら術を発動する。
小声で言葉を続けると、ヒビキの顔から瞬く間に血の気が引いた。
青白い顔をするヒビキの顔を覗きこみ
「ごめんなさいね。怖がらせるつもりはなかったのだけど、過去に魔族に人が食べられてしまったと言う前例があるのよ」
人間界にいた頃はレベルやお金には興味の無かったヒビキだけれども、何故レベル上げやお金を集めることを怠っていたのかと今頃になって後悔をする。
「ドワーフの塔について行きましょうか?」
顔面蒼白となったヒビキを心配した女性が、自らもドワーフの塔について行くことを申し出てくれた。
「大丈夫、一人で行くよ」
しかし、狩を行う度に女性を連れ出すことを申し訳なく思ったヒビキが首を左右にふる。
「お母さん、お菓子売り場に行こうよ」
ヒビキがランテの申し出を断ったところで、既にヒナミの意識は別のところに向いていたらしい。
お菓子が欲しいと言いだしたヒナミにランテが苦笑する。
「3階に移動して買い出しと行きましょうか」
灰色の買い物かごを片手に持ち、ヒナミの頭を撫でた女性が階段を指差してヒビキに向かって手招きをした。
「魔界のギルドは武器やスキルの売り場だけじゃなく、食品売り場もあるのか。想像以上だな」
食品売り場がこの建物の中にあるなんて全く予想をしていなかったヒビキが階段を見つめて呟いた。
前を歩く女性と少女の後に続き階段を登る。
3階の食品売り場と書かれた看板が天井からぶら下がっていた。
色とりどりの野菜は、どれも初めてみる物で魔界の野菜は派手なものが多い。
ピンクや赤紫だけじゃなく水色やカラフルな水玉模様の野菜まである。
幾つか女性が野菜をかごに入れる。
野菜を選び終わると今度はヒナミに連れられて、お菓子売り場に足を踏み入れた。
「どれが食べたい?」
ずらりと並ぶお菓子のパッケージを眺めていれば、ヒナミが声をかけてくれる。
「ヒナミは、どれを食べたい?」
どれも初めてみるお菓子だから、ヒナミの食べたいお菓子を問い掛けてみる。
「私は甘いものを食べたい気分だから、これ!」
ピンク色のパッケージの見るからに甘そうなお菓子を手に取り母親の持つかごに入れる。
「ちなみにお勧めは?」
本当はヒナミと同じお菓子を選ぶつもりだった。
しかし、ヒナミが手に取ったのは見るからに甘そうなお菓子だっため今度はお勧めを聞く。
「お勧めはこれ!」
即答だった。
赤いパッケージのお菓子は変わった形をしている。
渦を巻いているかと思えば急にぐねぐねとする。
尻尾の方で絡まっているお菓子は始めてみる形。きっと、魔界に出現するモンスターの形を真似て作られたのだろう。
見た目はクッキーのように思えるけど袋の上からの手触りは、ふにゃっと柔らかい。
「これにしようかな」
せっかくヒナミが勧めてくれたお菓子を棚に戻すわけにもいかず、袋を呆然と眺めていれば母親が手招きをしてくれる。
かごを目の前に差し出してくれて、入れなさいと指を指す母親は満面の笑みを浮かべている。
「俺が持つよ?」
母親の持つかごの中には色とりどりの野菜とお菓子の袋が2つ入り、ずっしりと重たそう。
かごに手をかけて問いかける。
「ありがとう、でも大丈夫よ。見た目はか弱いかもしれないけどね。案外力は強いのよ」
グイッと片手で買い物かごを持ち上げて、冗談を言って笑う母親に逆に気を使わせてしまう。
「ヒビキ君はこの後ドワーフの塔に向かうのなら暖かい飲み物とパンケーキでも持っていきなさい」
会計を終えて食品を袋の中に詰めていた母親が、ひょいっと目の前に2つのパンケーキとミルクココアのような色の飲み物が入っているボトルを渡してくれる。
「ありがとう」
いつの間に買い物かごの中に入れていたのか、全く気づかなかった。
「保温魔法をかけたから明日の朝まで、そのボトルは保温を保っていると思うわ」
ヒナミの母親に世話になってばかりである。
「いってらっしゃい」
手を振ってくれる女性と
「お兄ちゃん、無茶はしないでよ!」
ピシッと指を差すヒナミは心配そうな表情を浮かべている。
このような場面では明るく振るまって有り難う行ってくるねと口にするべきか迷ってしまう。
しかし、二人に向かって今さら明るく振るまえば、何だか逆に心配されそうな気がしたから小さく頭を下げるだけにとどめる。
背後を振り向き建物の出入り口に向かって歩きだした。
ドワーフの塔は街のすぐ隣にあるため、真夜中でもレベル上げをする魔界の住人達で賑わっているらしい。
既に外はすっかり暗くなってしまっている。
街路を歩く魔族の姿もヒナミや母親と共に、ここへ来た時よりは少なく感じる。
人間界だと街灯が道を照らしてくれるけど、魔界は街路樹が淡い光を放ち道を照らしている。
街路の所々に描かれている魔法陣が青白く輝きながら浮かび上がっている。
周囲を見渡せば、青白い輝きに包まれた結界が街を囲むようにして張り巡らされていた。
広い建物内の一部で防具や武器を販売している者がいる。
驚いたことに魔界のギルドにはスキル売り場があり、ここで飛行術や治癒の魔法を購入することが出来るらしい。
スキルを金で買うことが出来るとは考えてもいなかったヒビキは、迷うこと無く一直線にスキル売り場に向かって足を進めだす。
飛行術は50,000,000G。
治癒魔法は30,000,000G。
魔族にとってはクエストや狩を行うことにより、苦も無く集めることの出来る価格なのだろうか。
予想を遥かに上回る値段の高さに動揺を見せたヒビキが目を見開き唖然とする。
一歩足を引き後退をする。頭を抱え込むと肩を落として大きなため息を吐き出した。
「購入することが出来た頃には、寿命は残り僅となっていそうだな」
愕然とするヒビキは考えを漏らす。
頭の中でギルドカードの出現を唱えるとヒビキの手元にギルドカードが現れる。
カードの一番下に記載されているGを確認したヒビキが目蓋を伏せる。
586,000G
もしかしたら自分の知らないうちにお金が貯まっているのではないのかと、淡い期待を抱いていたヒビキの思いは見事に打ち砕かれることになる。
ゼロの数が二桁も足りないなんて。
落ち込んでいたヒビキが考える。
このスキルは種族が人であっても使えるのだろうかと。
お金を貯めてスキルを購入、習得をしてから使えない事に気づいた何てことになったら笑い話にもならないから隣に佇む女性に声をかける。
「このスキルは俺にも……?」
種族が人間であっても使えるのか。
人間という言葉を使うと自分の種族が人間であることを、周囲に屯する魔族達に気づかれてしまうかもしれない。
問いかけ方に気をつける。
「ええ、使うことが出来るわよ」
即答だった。女性は大きく頷いた。
どうやら飛行術や治癒魔法は、種族を問わずに使うことが出来るらしい。
「是非覚えるべきよ」
女性が笑顔で薦めてくれる。
飛行術や治癒魔法は持っていたら絶対に役に立つスキルだから覚えたい。
しかし、習得するためには沢山のお金がかかってしまう。
「ありがとう。まずは、お金を貯めないといけないんだけど」
スキル一覧表を眺めながら呟くと女性が苦笑する。
「私も少女時代にスキルを購入するため、お金を必死になって貯めた経験があるけど、その間お洋服や装飾品は買いたかったけど一切買えなかったわね」
過去の自分を思い出して渋い顔をしている女性が何度も頷いている。
「スキル習得以外にも、お金を使ってやりたいことがあってクエストを発注するのに大体いくらかかるか教えてほしいんだ」
スキルの購入もしたいけどまずはクエストの発注をしたい。
質問に対して女性は、きょとんとする。
「クエストの発注?」
不思議に感じたのか首をかしげてヒビキに向かって問い掛ける。
「うん。人間界の東の森に生息していたドラゴンの捜索と共に討伐を発注したい」
数日前の出来事を思い出して渋い顔をするヒビキは、仲間の敵であるドラゴンの討伐を諦めてはいなかった。
「敵を撃ちたいわよね。ドラゴンの討伐にもなると2,000,000Gほどかかりそうね」
「それくらいかかるか。お金がよく貯まる場所って、この近くだと何処?」
予想していた金額よりは少なかったけれども今の手持ちと比較をしてみると、やはり高額にはかわりない。
まずは、お金を貯めようと決めたヒビキが問いかけた。
「この近くだとドワーフの塔かしら。ドワーフの塔でお金をためて、飛行術を購入して空を飛んで悪魔の住む泉に移動しながらお金をためていくのが、一番手っ取り早くお金が貯まると思うわよ」
魔界近くのドワーフの塔を薦めてくれる。
ドワーフの塔。
1階入場レベルは50
2階入場レベルは100
3階入場レベルは150
4階入場レベルは200
5階ボスの間の入場レベルは300
ドワーフの魔法属性は闇。
単体で行動しているものは少なく、団体で攻めてくるため範囲攻撃魔法を使えると便利。
ドワーフの塔の案内用紙を読み固まるヒビキが苦笑する。
「魔界の人達の平均的なレベルって?」
女性に声をかけると
「250前後かしら」
笑顔で答えてくれた女性は人の平均的なレベルを知らないようで、ビビキは眉尻を下げる。
人の平均的なレベルは30前後。
ボスモンスター討伐隊に所属していたため、54レベルと人間界ではつよい方だったヒビキでもドワーフの塔の一階に入るのがやっとという事実に唖然とする。
「帰りにドワーフの塔に少し挑戦してきてもいい?」
人の姿を取ることの出来る魔族は強いと聞くけど、まさか人間界で一番強いと言われている国の王様のレベル198を抜いてしまっているとは。
「ええ、でもあまり遅くなっちゃダメよ」
ドワーフの塔を、まずは攻略することを目標にしようと心に決めたビビキに女性は小さく頷いた。
「もしも、一人でいる所を国のお偉いさんに見つかってしまったら、人間であることは何があっても隠し通さなければならないわよ。いい人達ではあるのだけど人を見た時に彼らが、どのような反応をするのか予想がつかないからね。食べられちゃったら飛行術を買うことすら叶わなくなるからね」
女性がヒビキに身を寄せて耳元で何やら術を発動する。
小声で言葉を続けると、ヒビキの顔から瞬く間に血の気が引いた。
青白い顔をするヒビキの顔を覗きこみ
「ごめんなさいね。怖がらせるつもりはなかったのだけど、過去に魔族に人が食べられてしまったと言う前例があるのよ」
人間界にいた頃はレベルやお金には興味の無かったヒビキだけれども、何故レベル上げやお金を集めることを怠っていたのかと今頃になって後悔をする。
「ドワーフの塔について行きましょうか?」
顔面蒼白となったヒビキを心配した女性が、自らもドワーフの塔について行くことを申し出てくれた。
「大丈夫、一人で行くよ」
しかし、狩を行う度に女性を連れ出すことを申し訳なく思ったヒビキが首を左右にふる。
「お母さん、お菓子売り場に行こうよ」
ヒビキがランテの申し出を断ったところで、既にヒナミの意識は別のところに向いていたらしい。
お菓子が欲しいと言いだしたヒナミにランテが苦笑する。
「3階に移動して買い出しと行きましょうか」
灰色の買い物かごを片手に持ち、ヒナミの頭を撫でた女性が階段を指差してヒビキに向かって手招きをした。
「魔界のギルドは武器やスキルの売り場だけじゃなく、食品売り場もあるのか。想像以上だな」
食品売り場がこの建物の中にあるなんて全く予想をしていなかったヒビキが階段を見つめて呟いた。
前を歩く女性と少女の後に続き階段を登る。
3階の食品売り場と書かれた看板が天井からぶら下がっていた。
色とりどりの野菜は、どれも初めてみる物で魔界の野菜は派手なものが多い。
ピンクや赤紫だけじゃなく水色やカラフルな水玉模様の野菜まである。
幾つか女性が野菜をかごに入れる。
野菜を選び終わると今度はヒナミに連れられて、お菓子売り場に足を踏み入れた。
「どれが食べたい?」
ずらりと並ぶお菓子のパッケージを眺めていれば、ヒナミが声をかけてくれる。
「ヒナミは、どれを食べたい?」
どれも初めてみるお菓子だから、ヒナミの食べたいお菓子を問い掛けてみる。
「私は甘いものを食べたい気分だから、これ!」
ピンク色のパッケージの見るからに甘そうなお菓子を手に取り母親の持つかごに入れる。
「ちなみにお勧めは?」
本当はヒナミと同じお菓子を選ぶつもりだった。
しかし、ヒナミが手に取ったのは見るからに甘そうなお菓子だっため今度はお勧めを聞く。
「お勧めはこれ!」
即答だった。
赤いパッケージのお菓子は変わった形をしている。
渦を巻いているかと思えば急にぐねぐねとする。
尻尾の方で絡まっているお菓子は始めてみる形。きっと、魔界に出現するモンスターの形を真似て作られたのだろう。
見た目はクッキーのように思えるけど袋の上からの手触りは、ふにゃっと柔らかい。
「これにしようかな」
せっかくヒナミが勧めてくれたお菓子を棚に戻すわけにもいかず、袋を呆然と眺めていれば母親が手招きをしてくれる。
かごを目の前に差し出してくれて、入れなさいと指を指す母親は満面の笑みを浮かべている。
「俺が持つよ?」
母親の持つかごの中には色とりどりの野菜とお菓子の袋が2つ入り、ずっしりと重たそう。
かごに手をかけて問いかける。
「ありがとう、でも大丈夫よ。見た目はか弱いかもしれないけどね。案外力は強いのよ」
グイッと片手で買い物かごを持ち上げて、冗談を言って笑う母親に逆に気を使わせてしまう。
「ヒビキ君はこの後ドワーフの塔に向かうのなら暖かい飲み物とパンケーキでも持っていきなさい」
会計を終えて食品を袋の中に詰めていた母親が、ひょいっと目の前に2つのパンケーキとミルクココアのような色の飲み物が入っているボトルを渡してくれる。
「ありがとう」
いつの間に買い物かごの中に入れていたのか、全く気づかなかった。
「保温魔法をかけたから明日の朝まで、そのボトルは保温を保っていると思うわ」
ヒナミの母親に世話になってばかりである。
「いってらっしゃい」
手を振ってくれる女性と
「お兄ちゃん、無茶はしないでよ!」
ピシッと指を差すヒナミは心配そうな表情を浮かべている。
このような場面では明るく振るまって有り難う行ってくるねと口にするべきか迷ってしまう。
しかし、二人に向かって今さら明るく振るまえば、何だか逆に心配されそうな気がしたから小さく頭を下げるだけにとどめる。
背後を振り向き建物の出入り口に向かって歩きだした。
ドワーフの塔は街のすぐ隣にあるため、真夜中でもレベル上げをする魔界の住人達で賑わっているらしい。
既に外はすっかり暗くなってしまっている。
街路を歩く魔族の姿もヒナミや母親と共に、ここへ来た時よりは少なく感じる。
人間界だと街灯が道を照らしてくれるけど、魔界は街路樹が淡い光を放ち道を照らしている。
街路の所々に描かれている魔法陣が青白く輝きながら浮かび上がっている。
周囲を見渡せば、青白い輝きに包まれた結界が街を囲むようにして張り巡らされていた。
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