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空は灰色の雲で覆われ、頭上を飛ぶ飛行機がすぐ雲の中に消える
今すぐにでも雨が降りそうな空気の中で2人の男が向かい合ってる
片方の男が白い粉が入っている半透明の袋を渡す
「これがご注文の品だな? 最近厳しくなってるから仕入れるのが難しくなってんだぜ?」
受け取った男は黙ったまま、束になった札を差し出す
銀行から取ってきた物だろう、随分と綺麗な札だ
「ほい、ご苦労さん、金は貰ったからとっととずらかった方がいいぜ」
男は頷くと足早に裏路地から去っていく
残された男はその後ろ姿を静かに眺める
「ったく、最近の奴らは礼儀というものがねぇな。ありがとうぐらい言えねぇのかよ」
そう呟きながらお気に入りのタバコを取り出し火をつける
ゆっくりと肺に煙を吸い込んでいると、赤くなったタバコの先に雨粒が当たる
「ちっ.....今日はついてねぇな」
タバコを握りつぶして懐にしまうと、裏路地から早歩きで出る
顔を覚えられるわけにはいかないので、前を向かずに下を向きながら歩く
わざと人混みを選んで、すり抜けるように通る
だが、歩いていくうちにどんどんと人が減っていく
都市部であるはずなのにおかしい
道を間違えたかと考え、僅かに視線を上げる
雨が降っているのは変わらなかったが、目に飛び込んできたのはコンクリートの建物ではなく木造の建物
足元もアスファルトでできた道路ではなく土や砂が合わさった砂利道
電線や標識もひとつもない
車の通過音や街の喧騒は聞こえず、雨の音と馬車の両輪が鳴らす音だけが響く
「ここは......どこだ?」
先程まで居たのは都市部だ
例え多少道を間違えたとしても、こうはならない
気づかないうちに薬を飲んでいたのか
一瞬のうちに、全く知らない場所に立っていた
体が濡れていくのも気にせずに呆然としたように立ち尽くすものの、焦ってはいない
警察にどんな質問されても自然体で回答できるように、日頃から訓練しているのだから
ただ、落ち着きながらも困惑していた
確かにどんな状況に陥っても冷静な判断が出来るように努めているが、流石にこれは想定したこともない状況だ
そもそも誰がこんなことが起きると予想できるのか
思考を切り替えるように頭を振る
再度周囲を見渡し、裏路地がありそうな道を探す
裏路地は基本あまり目が集まらない所だ
異常な状況だが、表を歩くよりは慣れた環境に近い方がいいだろうという、長年の勘を信じながら裏路地に潜る
「ったく、ジャンキーにでもなった気分だ.....」
愚痴を吐いても状況が変わらないが
「そんで、ボウズはこんなとこでなにしてんだ?」
声がする方へ振り向く
そこには高身長で筋肉質な男が、近付いてきていた
片手には長剣を提げており、威圧的な雰囲気を出している
「あー、道に迷ってな。アンタは”こんなとこ”ってのがどこか知ってるか?」
「お前みたいな小僧が来るようなとこじゃねぇのは確かだな」
男は小さく肩をすくめてから、長剣を振り回しながら言葉を続ける
「お前が持ってるもん全て地面に置いてくなら命は助けてやる、この辺にこんな良いカモが来る事なんてないからな」
「ふん、そんな棒切れで人を脅迫するとはな。命乞いをしなきゃいけないのはお前じゃないのか?脳筋」
懐から抜いた拳銃を向ける
「あぁ?? テメェはその棒切れすら持ってねぇじゃねぇか? まずは口の聞き方から教えてやるよ」
男が剣を持ち上げて真っ直ぐに突っ込んでくる
銃を知らないのかと少し驚いたが、向かってくるなら敵だ
狙いを頭につけたまま、確実に当たる距離を測る
『氷の柱よ、我が狙う敵を撃て』
どこからかそんな声がし、氷の柱というよりは氷の槍が走る男の頭を貫通する
男は糸が切れたように崩れ落ち、走っていた勢いのまま首の上に咲いた赤とピンクの花を地面にぶちまける
一瞬、時間が止まったかのような感覚がするが、嫌に大きく聞こえる雨の音と、首筋を伝う冷たさが意識を現実に引き戻す
「大丈夫ですか?」
後ろから女の声が聞こえてくる
とっさに拳銃を懐に戻す
「あぁ、大丈夫だ、助けてくれてありがとう」
そういいながら振り向く
自分よりも幾分か小柄な女だ
赤紫のローブを羽織り、持ち歩くには不便そうな太く長い木の棒を持ってる
大麻でハイになってる時によく読む、日本のファンタジーで出てくる魔法使いというのに酷似していた
「道の真ん中でボーッとしてたから気になって見てたんだけど、いきなり路地裏へ行くなんて......」
つまりはこの女は最初から見ていたらしい
だとしたら、あの男がただの物盗りだと理解していただろうに
随分と厳しい仕打ちに思えたが、助けてくれた事は間違いないので言葉を飲み込む
「あ、あぁ、すまん、初めてくる場所でな。どこに行けばいいか分からなくてな」
「あら、そうなの? 私はここに住んでるから案内できるわよ。でもこんな雨なのよね」
2人で空を見上げると、太陽がとこにあるかも分からないレベルで曇っている
しばらくは雨が弱くなることはないだろう
懐に入れた札束が使えないだろうことを思えば、この女に案内を頼むのは避けたいところだが
「なんなら、私の家でも泊まる?」
そんなことを気軽に聞いてくる
「そんな簡単に赤の他人を家に入れるのか? 俺としては構わないが」
こんな状況なので甘えられるなら甘えたい所だ
しかしながら、彼の常識からすれば身元も分からない赤の他人を助けるなど、あまりにも危険な、正気を疑う行為だ
「あら、私は普通に困ってる人を助けようとしてるだけよ?」
路地裏でここの情報や、金銭を集めてみる予定だった
だが、足元の死体に突き立っている氷の槍を見て少し考える
自分の常識が通用しなさそうなここで、一人で動くリスクと
得体は知れないが自分を助けてくれた魔法使いの手を取るリスク
あまり考えずに答えは決まった
「手を伸ばしてくれるなら、取るしかないな」
ひとまずは今回の選択が最良になるものを願う
「なら最初に案内するのは私の家で決定ね。ちなみに貴方、名前はなんていうの?」
首を少し傾げて聞いてくる
「ああ、名乗るのが遅れたな。俺の名前はノーマッドだ」
今すぐにでも雨が降りそうな空気の中で2人の男が向かい合ってる
片方の男が白い粉が入っている半透明の袋を渡す
「これがご注文の品だな? 最近厳しくなってるから仕入れるのが難しくなってんだぜ?」
受け取った男は黙ったまま、束になった札を差し出す
銀行から取ってきた物だろう、随分と綺麗な札だ
「ほい、ご苦労さん、金は貰ったからとっととずらかった方がいいぜ」
男は頷くと足早に裏路地から去っていく
残された男はその後ろ姿を静かに眺める
「ったく、最近の奴らは礼儀というものがねぇな。ありがとうぐらい言えねぇのかよ」
そう呟きながらお気に入りのタバコを取り出し火をつける
ゆっくりと肺に煙を吸い込んでいると、赤くなったタバコの先に雨粒が当たる
「ちっ.....今日はついてねぇな」
タバコを握りつぶして懐にしまうと、裏路地から早歩きで出る
顔を覚えられるわけにはいかないので、前を向かずに下を向きながら歩く
わざと人混みを選んで、すり抜けるように通る
だが、歩いていくうちにどんどんと人が減っていく
都市部であるはずなのにおかしい
道を間違えたかと考え、僅かに視線を上げる
雨が降っているのは変わらなかったが、目に飛び込んできたのはコンクリートの建物ではなく木造の建物
足元もアスファルトでできた道路ではなく土や砂が合わさった砂利道
電線や標識もひとつもない
車の通過音や街の喧騒は聞こえず、雨の音と馬車の両輪が鳴らす音だけが響く
「ここは......どこだ?」
先程まで居たのは都市部だ
例え多少道を間違えたとしても、こうはならない
気づかないうちに薬を飲んでいたのか
一瞬のうちに、全く知らない場所に立っていた
体が濡れていくのも気にせずに呆然としたように立ち尽くすものの、焦ってはいない
警察にどんな質問されても自然体で回答できるように、日頃から訓練しているのだから
ただ、落ち着きながらも困惑していた
確かにどんな状況に陥っても冷静な判断が出来るように努めているが、流石にこれは想定したこともない状況だ
そもそも誰がこんなことが起きると予想できるのか
思考を切り替えるように頭を振る
再度周囲を見渡し、裏路地がありそうな道を探す
裏路地は基本あまり目が集まらない所だ
異常な状況だが、表を歩くよりは慣れた環境に近い方がいいだろうという、長年の勘を信じながら裏路地に潜る
「ったく、ジャンキーにでもなった気分だ.....」
愚痴を吐いても状況が変わらないが
「そんで、ボウズはこんなとこでなにしてんだ?」
声がする方へ振り向く
そこには高身長で筋肉質な男が、近付いてきていた
片手には長剣を提げており、威圧的な雰囲気を出している
「あー、道に迷ってな。アンタは”こんなとこ”ってのがどこか知ってるか?」
「お前みたいな小僧が来るようなとこじゃねぇのは確かだな」
男は小さく肩をすくめてから、長剣を振り回しながら言葉を続ける
「お前が持ってるもん全て地面に置いてくなら命は助けてやる、この辺にこんな良いカモが来る事なんてないからな」
「ふん、そんな棒切れで人を脅迫するとはな。命乞いをしなきゃいけないのはお前じゃないのか?脳筋」
懐から抜いた拳銃を向ける
「あぁ?? テメェはその棒切れすら持ってねぇじゃねぇか? まずは口の聞き方から教えてやるよ」
男が剣を持ち上げて真っ直ぐに突っ込んでくる
銃を知らないのかと少し驚いたが、向かってくるなら敵だ
狙いを頭につけたまま、確実に当たる距離を測る
『氷の柱よ、我が狙う敵を撃て』
どこからかそんな声がし、氷の柱というよりは氷の槍が走る男の頭を貫通する
男は糸が切れたように崩れ落ち、走っていた勢いのまま首の上に咲いた赤とピンクの花を地面にぶちまける
一瞬、時間が止まったかのような感覚がするが、嫌に大きく聞こえる雨の音と、首筋を伝う冷たさが意識を現実に引き戻す
「大丈夫ですか?」
後ろから女の声が聞こえてくる
とっさに拳銃を懐に戻す
「あぁ、大丈夫だ、助けてくれてありがとう」
そういいながら振り向く
自分よりも幾分か小柄な女だ
赤紫のローブを羽織り、持ち歩くには不便そうな太く長い木の棒を持ってる
大麻でハイになってる時によく読む、日本のファンタジーで出てくる魔法使いというのに酷似していた
「道の真ん中でボーッとしてたから気になって見てたんだけど、いきなり路地裏へ行くなんて......」
つまりはこの女は最初から見ていたらしい
だとしたら、あの男がただの物盗りだと理解していただろうに
随分と厳しい仕打ちに思えたが、助けてくれた事は間違いないので言葉を飲み込む
「あ、あぁ、すまん、初めてくる場所でな。どこに行けばいいか分からなくてな」
「あら、そうなの? 私はここに住んでるから案内できるわよ。でもこんな雨なのよね」
2人で空を見上げると、太陽がとこにあるかも分からないレベルで曇っている
しばらくは雨が弱くなることはないだろう
懐に入れた札束が使えないだろうことを思えば、この女に案内を頼むのは避けたいところだが
「なんなら、私の家でも泊まる?」
そんなことを気軽に聞いてくる
「そんな簡単に赤の他人を家に入れるのか? 俺としては構わないが」
こんな状況なので甘えられるなら甘えたい所だ
しかしながら、彼の常識からすれば身元も分からない赤の他人を助けるなど、あまりにも危険な、正気を疑う行為だ
「あら、私は普通に困ってる人を助けようとしてるだけよ?」
路地裏でここの情報や、金銭を集めてみる予定だった
だが、足元の死体に突き立っている氷の槍を見て少し考える
自分の常識が通用しなさそうなここで、一人で動くリスクと
得体は知れないが自分を助けてくれた魔法使いの手を取るリスク
あまり考えずに答えは決まった
「手を伸ばしてくれるなら、取るしかないな」
ひとまずは今回の選択が最良になるものを願う
「なら最初に案内するのは私の家で決定ね。ちなみに貴方、名前はなんていうの?」
首を少し傾げて聞いてくる
「ああ、名乗るのが遅れたな。俺の名前はノーマッドだ」
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