上 下
194 / 241
第五章

第194話 僕の装備が

しおりを挟む
「なっ! 本当に牢から出ているではないか! 何をしているのだ役立たずどもが! ガキども! 大人しくもう一度捕まるのだ! 私は次期イット男爵で管理監、それに衛兵長だ! バン・デ・イットだ! 逆らうなら不敬罪で即刻叩き切るぞ!」

 ふ~ん。なら僕は、この大陸に来る前、王様から叙爵式はまだですが、僕の辺境伯にった時の紋章を作ってもらいましたので、それを出して、名乗ってしまいましょう。

「不敬罪にはなりませんよ。初めまして、パラジウム王国の新興貴族当主、ライリール・ドライ・サーバル辺境伯と言います。バン殿、私達の武器や防具を返していただけますよね?」

 そう言い、王様からもらったゴテゴテ装飾されたナイフを取り出しました。

 それを聞いて見たバン衛兵長達は、バン衛兵長を除き、みんな跪き、たまたま通りかかって、大声を出すバン衛兵長のせいで、見物客も皆さん跪いてしまいました。

(くふふ。これは傑作ね、バンって奴顎が外れそうなほど大口開けてるわよ)

(くはは、良いのう、中々の見物じゃわい)

「ま、まさかそんな事が、そ、それも偽っ、偽物だろう! そうだ! そうに決まっておる!」

「いえ、本物ですよ? 領地は十五歳の誕生日が来てからですが、このナイフはちゃんと王様にもらいましたからね、それ以上言うなら不敬罪? あなたに適応させてもらいますよ?」

 そこに、一台の馬車が止まり、一人の男の人が降りてきて、こちらに向かって、やって来ます。

「何を騒いでいる。バン、何事だ?」

「ち、父上、この者がパラジウム王国の辺境伯、それに冒険者ランクも偽装でSランクなどと言うものですから捕縛するところです」

 管理監みたいですね、では、挨拶を。

「初めまして、パラジウム王国、新興貴族のライリール・ドライ・サーバル辺境伯と言います。お見知りおきを」

「なっ! 噂通りとは! も、申し訳ない! バン! 何を突っ立っておる! お前は跪き、頭を垂れておけ! 辺境伯様、どうか、我が息子にお慈悲を!」

 バン衛兵長は父親に言われ、流石に跪きました。

「まだ、バン衛兵長がそこのお店に売った物と、今持っている刀と杖を返してもらってませんから、許すとしたら、返してもらってからですね」

 ですがバンはぷるぷる震えて、青ざめているだけで、動こうとしません。

「おいバン、何をしている。速やかに、辺境伯様にお返ししなさい」

「は、で、では、刀と杖は馬車に、防具は······もうお金がありません······借金の返済に使ってしまいました」

「ちいっ! ライリール辺境伯様、私が買い戻します、どうぞ付いてきて下さいませ」

「はい。よろしくお願いしますね」

 イット男爵さんは、バン衛兵長の襟首を掴んで無理矢理立たせました。

「そこの衛兵、バンが持ち込んだライリール辺境伯様の物を馬車から下ろしてきてくれ」

「はっ!」

 御者さんはそう言われ、急いで馬車の中に入り、がさごそと音を立て、両手いっぱいに武器や防具、魔道具まで抱えて顔を見せました。

「も、申し訳ありません、どれがそうなのか分かりません!」

「なっ、おいバンよ、お前はいったい何をしておるのだ! 申してみよ!」

「しょ、娼館通いのツケを払うため衛兵の詰め所にある高そうな物を片っ端から持ち出し、売ってました!」

 ダメダメですね、でも、僕の革鎧ですが黒貨で数枚は余裕ですると言ってましたから、そんなに借金があったのですね。

「なんという事を! いったいどれほどの借金をしているのだ貴様!」

「だ、大金貨五枚ほど、半分は鎧のお金で返しました」

「え? そんなに安く売ったのですか? 最低でも黒貨にはなるものですよ? ヒュドラとリヴァイアサンの皮を使っていますから」

 それを聞いて、驚くイット男爵に青ざめるバン衛兵長。

「そ、そんな、防具はたぶんもうバラされているかと、子供用から仕立て直すと言っておりました······」

 僕はとりあえず刀を二本取り、アミーも小さな木の枝のような杖を手に取り、······魔力も何も感じない杖ですけど、まあ後で聞いてみましょう。

「では急いだ方が良いですね、バン衛兵長。案内して下さい。急いで」

「は、はっ!」

「さっさと動け!」

 そしてお店に入り、バン衛兵長が一人の男をつかまえ。

「おい、さっき売った革鎧を買い戻すぞ! すぐに持ってきてくれ!」

「は? ああ、あれか? あれならもうバラしているぞ? それでも良いなら黒貨三枚で売るが」

「なぜだ! 売った時は大金貨五枚だったではないか!」

「当たり前でしょう、買う時はなるべく安く押さえて、まずあり得ない金額からの交渉を始めるものです。冗談で言った金額で良いと言ったのはあなたでしょ? あれは普通なら黒貨三枚は下らない素材を使っていましたからね、買い取りますか?」

 あはは······お店の方の完勝ですね。

「では、それを元に戻して返して下さい。お金はバン衛兵長が払いますから」

「いや、元には難しいぞ? 縫い糸を切っちまったからな、後から気付いたが、あの糸を残しておけばさらに白貨になったのになぁ、アラクネの糸なんて使っているとは思いもしなかったぜ」

「それは困りましたね、では一旦バラした物で良いので返してもらえますか? それは元々私の物を勝手に売られてしまったので」

「ああ、糸以外は全部揃っているぞ、ってかなんて事を、そんな事していたのか、犯罪じゃないか」

 そう言うと、本当に、バラバラになった僕の革鎧が出てきました。

「ああ、バラして、さらに切り分けてあるのですね」

「その通りだ、こうして薄くして革鎧の急所部分に張り付ければ、格段に防御力が上がるからな、それも一枚を薄く切っているだろ?」

「はぁ、仕方ありませんね、ではこれは黒貨二枚で売りますね」

「なんだと? そんな事が······そういう事か、分かった、バン衛兵長に黒貨三枚で売り、うちは黒貨二枚で買い取るという事だな」

「はい」

「ま、待て! いや、待って下さい! それでは破綻してしまうかも知れない! 父上もなんとか――ぐはっ!」

 イット男爵さんはバン衛兵長を殴り倒しました。

「バン。お前の男爵家の継承権は無しとする。私に黒貨三枚を返すまでな、それと、嫡子という事で付いてもらっていた衛兵長も無しだ、衛兵に格下げだ良いな!」

「そ、そんな······」

 その後、お店側も黒貨をすぐには払えませんので冒険者ギルドカードに入れてもらう事にして、その場は収まりました。もちろん主任さんも、店の前に止まる馬車を見て、話を付けている最中に駆けつけ、事の顛末を見届けました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

妻が森で幼女を拾い、我が家の養女に迎えました。

黒炎 瑠懿
ファンタジー
俺、レオン・グラッセは妻のユリアと一緒に森の中でハイキング(狩猟)を楽しんでいた。そんな時、ユリアは小さな少女が倒れているところを発見。 体は病魔に侵されてはいるものの、灰銀色の髪に片方は濃いアメジストの瞳もう片方は包帯で見えないが、かなりの美女になるだろうと思われる。そんな少女にユリアが一目惚れ? 家に連れて帰り、大きな屋敷で家族と秘密と少しの勇気と共に少女が幸せになっていくお話。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

処理中です...