上 下
151 / 241
第四章

第151話 飼い犬

しおりを挟む
「沢山積み過ぎたのかな、道にも木箱が落ちちゃってますね」

「そのようね、パッと荷物を転移で退けてあげたら? 空荷になれば、すぐに直せるでしょうし」

 僕は頷きながら速度を落として、馬車のところで止まりました。

 数人のおじさん達は、落ちた木箱の上に座り、何かお話ししています。

「お手伝いしましょうか?」

「あん? なんだ貴様は! 関係ない奴は向こうに行け!」

 皆さん木箱に座っていたのに立ち上がり、凄い剣幕で、七人いた中の一人が怒鳴り付けてきました。

「え? 街道を塞いでいますし、お困りでしょうから、荷物だけ移動しておきますね、転移!」

 パッ

 街道に散らばっていた物も、馬車の荷台に乗っていた物も、街道の端に転移で移動させました。ちょっと崩れてますがこれで馬車も直せますし、街道も通れるようになりました。それなのに。

「テメエ! 何しやがる! クソ、丸見えじゃねえか!」

「クソ、バラけちまったぞ! 何かシートか何か無いか! 隠さねえとヤバいぞ!」

(ライ! あれ箱は外だけで真ん中はお金よ! あっ、もしかして! んん神眼~! コイツらが身に付けている貨幣も何もかも偽物よ、ぐるぐるっと、やっちゃいなさい!)

(うん。すぐだよ! ぐるぐる~、ほいっと!)

 一気に魔力を抜いてしまい、七人の男の方は全員気絶しました。

「回復の魔道具も持ってなさそうですね、変わった魔力の物がありますけどなんでしょうかね?」

 最初に僕へ怒鳴り付けて来た方の首から下げている紐の先に黒い石板がありました。

んん神眼~、通信の魔道具ね、馬車が壊れていたのに、······もしかしてのんびりしていたのは誰かを呼んだのかも知れないわね」

「そうか、荷物も外側だけ小さな木箱で、大きな箱を中に作っていたんだね。だから馬車から下ろすと木箱を押さえる物が無くなるから崩れちゃったんだ。よく見ると荷台のあおり部分が鉄で補強されてるね」

「ほら、荷台がそこまで大きくないのに六頭引きよこの馬車。鉱山などで使われる馬車かもね、相当重いはずだから」

「本当だ、普通なら満載でも四頭だもんね。じゃあこの人達は······どこが良いかな? 今なら出てきた街にみんないるよね?」

「そうね、ちょうど良いし、このまま転移でお屋敷に連れていきましょう。そして戻ってきて同じ様な馬車が来たら捕まえれば良いわよ」

 僕は一旦横に退けた荷物を収納して、馬さんごとタシンサ男爵のお屋敷に戻りました。

 メイドさんを捕まえ、執務室に案内してもらい、まだそこでお話しをしているみんなとその日の内に再会しました。

「ライ。ああ、また何か捕まえたか倒したかやらかしたようだな」

「あはは······そんなにやらかしてませんよ、ね? えっと、今回は偽貨幣を運んでる方達が街道で馬車の車軸が折れて、立ち往生してましたから捕まえてきちゃいましてですね、庭に連れてきたのですが、うちの庭に連れていった方が良かったですか?」

「何? 良いじゃないかサーバル伯爵。バラクーダ辺境伯もタシンサ男爵も運び屋の根城は分からなかったのだが、そいつらならそっちも知っている可能性が高い。そいつらのところにも倉庫を持っているそうじゃないか、一斉に潰せるぞ」

「その可能性は高いですね。ライ、そいつらはここの庭にでも連れてきたのか?」

「はい。正面玄関の横です」

「そうか、メイドさん。すまないが玄関へ案内を頼めるかな」

「はい。ではこちらにどうぞ」

 メイドさんの案内で、王様に宰相さん、お義父さん達に父さんと母さん、それにアールマティさんと、それに裸の二人を引き連れ廊下を進みます。

 玄関出て正面には馬車と六頭の馬さん、馬車の横には裸の男達が七人寝転がっています。

「ふむ。その七人がか、運んでいた物はあるのか?」

「はい。では出しますね、ほいっと!」

 馬車を挟んで男の人達とは逆側に偽貨幣を出して、忘れていましたが、奴隷の腕輪を嵌めておきました。

「なるほど、この貨幣全てが偽物と言うのか。かなりの量だぞ、これを人攫いが噂になった頃から続けられていたとすれば、いくら教国に流れたと言うのだバラクーダ辺境伯。その辺りの資料はあるんだな?」

「当たり前だ、タシンサ男爵も同じ物を持っているはず、手に入れる報酬は同じだからな」

 物凄く喋りたくなさそうなお顔ですが、すらすらと喋ってくれます。

「それは先ほど出してもらった資料にあるものか? タシンサ男爵、他にもまだ教国や帝国の秘密で犯した事柄の事も喋って良いぞ」

「チッ、出してない。あの部屋の物と言われたからな。それは地下の隠し部屋に隠してある。帝国では今のところ何も動きは聞いたことがない。教国は教皇様の命で、お前達の国もだがラビリンス王国、帝国をも手中にするつもりで動いている。もちろんこの大陸全土だがな。そのため各地に教会を建て始めたのが十代前の教皇様だ。今やどの国にも教会はある。大きな街ならほぼ全てだ」

「くくくっ、お前達の国と帝国が騒いだところで他国が動き出すまでは時間がかかろう。今夜の定期連絡が無ければ動くだろうさ、大陸統一の計画はほぼ終わっているからな」

「ふむ。それならば定期連絡をすれば良かろう。魔道具はどこだ?」

「クソ、なぜこのような事まで、もう私達は飼い犬に殺される」

 そう言った瞬間、ズンと庭に大きな影が落ちてきました。

「三つ首の犬!?」

「ナベリウス! ライ! 邪神よ!」

 テラの声で咄嗟に僕はぐるぐるを全開で回し始めました――。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?

高菜あやめ
恋愛
実家の提灯屋を継ぐつもりだったのに、家出した兄の帰還によって居場所を失ってしまったヨリ。仕方なく職を求めて王都へやってきたら、偶然出会ったお城の王子様にスカウトされて『勇者(代理)』の仕事をすることに! 仕事仲間であるルイーズ王子の傍若無人ぶりに最初は戸惑っていたが、ある夜倒れていたルイーズを介抱したことをきっかけに次第に打ち解けていく……異世界オフィスラブ?ストーリーです。

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか

佐藤醤油
ファンタジー
 主人公を神様が転生させたが上手くいかない。  最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。 「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」  そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。  さあ、この転生は成功するのか?  注:ギャグ小説ではありません。 最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。 なんで?  坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

処理中です...