【完結】無自覚最強の僕は異世界でテンプレに憧れる

いな@

文字の大きさ
上 下
71 / 241
第三章

第71話 キングとクイーン

しおりを挟む
「馬車が街道の端ですけど停まってますね」

 街道を歩く僕達の目線の先には馬車が一台停まっていました。でも人の気配がしませんし、何なのでしょうか。

「誰も近くには居ませんが、馬さんは居ますね、何かトラブルでもあったのでしょうか」

 馬車に近付くと、馬さん達がいななき暴れだしました。

「え? どうしたの馬さん!」

 馬さんは、街道脇の木に手綱をくくりつけられ、馬車から外してももらえず、足元の糞が長時間この状態が続いていたことを表しています。

「嘘っ! いつからこんな事になってるの! すぐに外してあげるから暴れないで!」

「任せるにゃ! みにゃあぎにゃあぐるぐるにゃあ~」

 リントがとととっと馬の前に走り寄り、猫語かなにかで馬さんに向かって喋ると馬さんは暴れるのを止め大人しくなってくれました。

「リント凄いですありがとう! まずはお水とお塩ですよ! 馬具外しますから少しだけ待ってくださいね!」

「神眼! んー、あった! ライ三百メートルくらい行ったところに泉があるわ! 方向はあっちよ! プシュケも馬銜はみ外してあげて!」

「はい! 踏み台は、あった! よいしょっと」

 プシュケは馬車の後ろから踏み台を探して持ってきました。僕は馬さんのお腹の下でベルトを外し、プシュケは馬達の間に踏み台を置いて馬銜はみを外しています。体が自由になったので木にくくりつけられていた二頭の手綱をほどきました。

「馬車をこのまま置いておけないから収納しちゃうよ! 収納! プシュケは馬さんに乗れる!?」

「うん! 任せて、でも収納された踏み台が無いと」

「任せて、転移!」

 パッ

「わおっ! あわわわ、いきなり乗ってごめんね、大丈夫だからね」

 転移で馬さんに乗せ、驚いた馬さんをなだめています。

 驚かせてごめんなさい、でもなるべく急いであげないとね。僕もポンポンと叩いて合図してから飛び乗り手綱を操ります。

「リントはプシュケと一緒にお願いね、転移」

 パッ

「任せるにゃ! プシュケ行くにゃよ! あっちにゃ! ちゃんと水の匂いがするにゃよ!」

 馬さん達も水の匂いがあるのを分かっているのかテラが教えてくれた方向に走り出しました。

 見えてきたそこは岩がゴロゴロある場所で、くぼんだ大きな一枚岩の割れ目からこんこんと湧き出す水によって直径十五メートルほどの泉がありました。

「ふう、凄い勢いで飲んでるね。よし、次はお塩に飼い葉ですよね、馬車に乗ってるかな、ほいっと!」

 馬さん達から降りて、ズンッ、と馬車を出し箱形の荷台を調べましょう。飼い葉は馬車の後ろに縛り付けてありましたので荷台の中を調べます。

「ん~、鍵はかかってませんね、お邪魔しま~す」

「うっ、酷い匂いね、でも仕方ないわね急ぎましょう。んん~神眼。あったわ、ライそこの棚に岩塩が入った箱、そうそれ」

「よいしょ。じゃあまだお水を飲んでるはずだから飼い葉を用意するね」

「ん~、ライここ見て、このロープ誰かを縛っていたようね」

 耳たぶをクイクイ引っ張るテラが指差す方を見ると、壁に繋がれたロープが五組、床に散らばったロープも五組、それと食料を食い漁ったと思われる蓋を開けられた木箱の中に残っている食べ物にはどれも齧った跡があります。

「ん~、誰かを捕まえて、運んでいる最中に逃げられ追いかけてるのかな? 近くには誰も気配はありませんでしたけれど」

「まだ追いかけてる可能性はあるわね。まあ次の町まで歩くとまる一日くらいよね、そこに馬車を運んで衛兵に任せるのが良いかも。馬達は残しておけないもの」

「うん。そうするよ、このまま街道脇で待たせるのはあまりにも可哀想だからね」

 飼い葉を一抱えとたぶん馬用の大きな木でできたお皿がありましたので、それを持って馬さんの近くに置いておきます。もちろん岩塩も一緒にです。

 喉の渇きはおさまったようで、飼い葉の方にやって来て食べ始めましたのでブラシを取り出しブラッシングをしてあげるととても気持ち良さそうです。

「そうだリント、馬さんに何があったのか聞く事ってできる?」

「そんなの簡単にゃよ、もう聞いてあるにゃ。前の馬車から甘い匂いがしてみんな寝ちゃったそうにゃ。だからよく分からにゃいよ」

「それって! テラ、人攫いの手口に似てるよね!」

「そうね、ライ早めに次の街に行きましょう。確か人攫いを続けながらラビリンス王国に向かっていたわよね、それならなるべく止まらず走れば追い付くかも」

「言ってた人攫いですね。私も賛成です!」

「よく分からにゃいけど悪者を追いかけて、やっつけるのにゃ?」

 リントの言葉に僕、テラ、プシュケは頷き、ムルムルは突起をのばしゆらゆら。

「じゃあリントも手伝うにゃよ! キングとクイーンもご主人が心配って言ってるしにゃ」

「キングとクイーン? もしかして馬さんの名前?」

「そうにゃよ。真っ黒がキング、茶色がクイーンにゃ両方雌にゃよ」

「女の子にキングって付けたのご主人様! 男の子の名前だよ!」

「私もそう思います、あった時は文句を言ってやります!」

 その日はこの泉の横でテントを張り、夜営としました。

 翌朝街道に戻り、キングに僕とテラ、ムルムル。クイーンにプシュケとリントが乗り込み街を早足で進みます。

 お昼前には街に到着しましたので、馬車と馬さんを預けるかどうか話し合い、預ける事にしたのですが。

「キングとクイーンは一緒に追いかけたいそうにゃよ。一緒じゃダメかにゃ?」

「良いのかな? でもそうか、人攫いから助け出せたとしても、この街に帰ってくるまでキングとクイーンは寂しいもんね」

「そうね、連れていきなさいよ。それからねえライ、くらとかあぶみ、鞍下なんかの馬具は無いの? キング達もあった方が私達を乗せやすいしあなた達も乗りやすいと思うわよ」

「あっ、たぶんあると思う。え~っとこれかな違いますね······あ、ありました! どこかで見たような記憶があったので、よし付けてしまいましょう♪」

「はぁぁ。待つにゃ、まずは休憩させてあげるにゃ、朝から一回休憩しただけにゃよ」

 リントはやれやれってため息をつきながらそう言ってきてそうだと思い出しました。

「そうだね、よし少し早いですがお昼ごはんを兼ねて休憩にしましょう」

 僕達は門から街には入らないで街を回り込むような街道を、ほんの少しだけ進み、お昼休憩にすることにしました。

 早く追い付きたい気持ちで無理をさせてしまうところでしね。キングとクイーンに泉で汲んできた水と、岩塩、飼い葉を用意して、僕達用に火をおこし、お湯を湧かしながらお昼ごはんを食べ始めようとしたところに街の門から武器を持った人達がこちらに向かって走ってくるのが見えました。

「何かあったのでしょうか?」
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...