最愛の敵

ルテラ

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真の英雄がいない世界

104話 青月

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 ラズリさん、貴方の思惑通り世界は変わって来ています。貴方の思い通り人々は貴方を悪とし、自分達を英雄として祭り上げました。
 貴方が死んだ日、自分はとても泣きました。多分、他のみんなが来なければ脱水症になっていたかもしれません。泣いている自分にセリアさんが魔法をかけて寝かしてくれなかったら、自分はそこを離れなかったでしょう。
 目が覚めるとチャムク帝国の城、一室で寝ていた。
「お目覚めですか?」
「レオさん・・・」
 トートは起き上がる。
「チャムクの城の一室です・・・」
 ぎこちない空気が流れる。
「ラズ・・・」
「ラズリは死にました」
 トートはレオを見る。
「戦いは終わりました」
 レオは目を伏せる。その後話すことがなくなる。
 しばらくするとフィールが来る。
「トート、起きたか?」
「あっ、はい・・・」
「歩けるか?」
「はい」
「じゃあ、急だが帰るぞ」
 トート、レオ、フィール、アイシャ、ファーデン、セリア、ライ、セイレが合流しチャムク帝国を後にし、犯罪者村エウダイモニアにあるパーチミの家へと行く。そこには皇帝もいた。
 全員が座る。だが喋る者は一人もいない。
「んん”、今後の方針を立てる為に正確なことを知りたい、話してくれないか?」
 皇帝は気まずそうに言う。
「じゃあ、僕から話すね」
 セイレは手を挙げる。セイレは『エクリプス計画』について話し始める。
 エクリプス計画とはラズリを“完成”させる為の計画だ。 
 まず、親を殺しラズリの心を破壊し、その心を再び修復する。だが完全に修復する前にもう一度、心を破壊。次は完全に破壊する。
「じゃあ、父を殺したのがソロモンだと?」
 ライの問いにトートは体を少し小さくする。ライはまだ何も知らない。
「そこは後で話すよ」
 セイレは表情を変えずに言う。
「その後すぐにラズリを手元に置かなかったのは、実践経験を積ませ、より強く。そして世間に名が知られた、ラズリを手に入れることで全ての者が自分に跪くと思ったんだ。そして、その時は訪れた」
 その合図としてアタナシアナを武器の中に入れ、自身はまだ生きているっと言うことを匂わせた。
「待て、なら戦地で見つかった、あれは何だったんだ?」
「あれ?」
「とある研究所にオムニブスのマークがあったの」
「その理由は分からないけど、多分元々、使っていたんじゃないかな。僕が生まれたのはソロモンがチャムクと手を組んで数年後だからよく分からないや。そして、じわじわと自身の痕跡を残し、最後にあの映像を流した」
「でも、そんなことしたら・・・」
「そう、ラズリが築き上げた全てが否定させる。でもそこはどうでもよかった。ラズリが強いことには変わりないしね・・・ラズリをしばらく放置したのにはもう一つ理由があった」
 重く、深刻そうに言う。
「その理由が人質を得るため」
「人質?」
「君達だよ」
 全員の顔が驚きに変わる。
「ラズリはソロモンにある2択を迫った。世界か仲間か・・・」
「ラズリは迷うことなく君達を選んだ」
 トートは目が濡れないように目を見開く。
「それは演技だった。ソロモンが油断した所をラズリは殺した。世界を君達を守る為に、でもあれは本気だったと思うよ。ラズリにとってソロモンとは絶対的存在そんな相手にちゃんと自身の考えを言えたんだからな」

『生きられない。あなたのためには生きられないんだ。あなたの期待にも目的にも応えられない・・・誰かの為に生きられない。産まれたくなかった。生きたくなかった・・・』
『産まれて良かったことなんてない!』
「(これは言わなくっていいか・・・)」
 セイレは全員を見渡した後、再び話す。
「話しが脱線したね。本来、エクリプス計画はラズリがソロモンの元に帰り、傀儡のように操り人々に頭を下げさ、計画は完成だったはずだった。動物の活性化、気候変動、気がつかなかったかい?」
「(あっ!)」
 酒場での誰かと誰かの会話を思い出す。

『ハァー、最近、獣の活性で退治するのに苦労してるよ』
『こっちだって海が突然荒れるんだ。海だから気候が突然荒れるのいつものことなんだが、最近はなんか荒れ方が違うんだよな』

「それは『青月』の出現させるためのものさ。ソロモンの研究によると青月は最も魔力が満ち、魔法が安定する日だった。だが・・・」
 青月は数百年に一度だけ現れる現象だ。魔力が満ち、魔力が最も安定をする。一説には青月の日に「世界の英雄」が誕生したと言われ、『平和の現象』、『平和の日』などと呼ばれている。縁起のいい現象だ。

 
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