最愛の敵

ルテラ

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エウダイモニア

64話 本性

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「それが幸せか?後悔はないんだな?」
 ラズリがここにきて初めて口を開く。
「ええ、無論」
「なら問おう。お前達は幸せか?好きでもない者と結婚して幸せか?そんな奴との子を産んで、子を愛せているのか?」
「好きではないから始まる恋もあるかと?」
「お前ら当主はそうかも知れないな。現に結婚を強要するには家の主であるお前らなのだからな。ここにいる女性、画面越しにいる女性は幸せか?贅沢が幸せだと言った。綺麗なドレスに身を包み宝石を身につけるお前達は幸せか?虚しさを埋めるために身につけているようにしか見えないぞ。与えられて幸せか?それらはお前達を繋ぎ止める為の鎖にしか見えないぞ。恋愛小説は好きか?それはそうで有りたいと憧れているからではないのか?架空だからと現実逃避する為の材料を集めているようにしか見えないぞ」
 ラズリの言葉に先ほどまで笑っていた者達の顔が曇り始める。令嬢達はそれを隠そうと顔伏せる者、扇子で顔隠す者もいる。 
 ラズリは公爵を見る。 
「公爵」
「何でしょう?」
 公爵は何でも無いかのように振る舞っているが目には怒りが込められていた。
「お前にとってトートは“大事な子”か?」
「えー、何にも変え難い“宝”です」
 次に周りの貴族に目線を向ける。
「ここにいる全員に問う。お前達は公爵家の嫡男、トートを見たことがあるか?」
 全員に騒めきが走る。
 通常、貴族は後継者を自分の傍に置いておく。その理由としては取引先に顔を覚えて貰う為、仕事の引き継ぎを円滑にさせるため。舞踏会などには必ず参加させる。後継者として認知させるため、人脈を広げるため結婚相手を見つけるためなどが挙げられる。
「なら名は?」
 下の位の者ならともかく公爵家という身分。誰もが注目し、名を知らない者はいないはずだ。全員が公爵や公爵婦人だけでなく子供達全員の名を知っている。しかし誰一人トートの名を聞いた者はいないようだ。
 ラズリは再び公爵に目線を戻す。公爵は初めて焦りの表情を浮かべる。
「トートは軍事学校に入学しましたから。あそこは寮生活でしょう?」
「軍事学校に入れるのは12歳以上の者だ。12年間何をしていた?」
 公爵の笑顔が歪み始める。
「息子は体が弱く・・・」
「軍事学校に入るためには身体能力検査もある。体の弱い奴は入学できない」
 貴族の間で、確かに、何故?、っといた声が多く聞こえる。ようやく疑問を持ち始めたようだ。
「お前に会った時、トートは恐怖で顔歪めていた。子供が親にあれ程の恐怖を覚えるのはただ一つ」
「・・・黙れ。ボソ」
「暴力を振られ続けていたからだ」
「・・・うるせぇ。ボソ」
「トートに何をした。考えるたことはあるか?産まれてきただけで暴力を振るわれる子供の気持ちが」

 お前はそのために生まれてきた。
 お前の存在理由を忘れるな。

「それも仕方が無いと言うか?家門のため?先祖のため?過去なんて、今を生きる、お前達には関係のないことだろう。今頑張ったって過去には何の影響もないのだから。贅沢を幸福だと思え?贅沢なんてその場凌ぎのものでしかない。したくも無い贅沢をしても自分が虚しくなるだけだぞ」
「何?」
「生憎、贅沢を幸福だと感じたことはないし、したいと思ったこともない。いい加減本当のことを言ったらどうだ。お前はトートの存在を世間に隠した。何故か、トートがフィジカルだったから隠したかった。そしてトートを亡きのもにしようと軍事学校に入れた。軍事学校に行けば戦場に行くからな。そこで死ねば万々歳。死ななければ敵兵に殺されたと見せかけて暗殺。それが狙い・・・」
「黙れ!!」
 公爵は勢いよく立ち上がる。
「公爵様!」
 公爵を落ち着かせようと公爵婦人も立ち上がるっと同時に手を伸ばす。すると近くにあったカップを倒してしまい、それが公爵に茶がかかる。
「あっつ!何をする」
 公爵は公爵婦人を睨めつける。
 バシ
 公爵が婦人に平手打ちをする。婦人は後ろに倒れる。婦人はお腹を庇い、目を瞑る。
 婦人は何か包まれるような感覚を感じ目を開ける。えっ?、婦人は目を丸くする。婦人を抱えているのはラズリだった。
 公爵はしまったっと思ったが怒りで顔歪ませる。
「お、お前が悪いぞ!私に熱いお茶をかけたのが悪い。何故そんなことをした!お前ら女はいつもそうだ。都合の良い時は媚びを売って、悪くなればすぐに手のひら返し。お前ら女は黙って子供を産んでればいいんだ!」
 婦人は恐怖のあまり涙を流し顔が真っ青になる。

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