最愛の敵

アデリア戦

32話 私の宝物

　風でお酒の匂いが運ばれてくる。
「なんだ？」
「フィールさんが町の人達に気を使っている理由がわかりました」
　町の着くと必ずフィールさんは町の人達を安心させた。それは町の人達と姉を重ねていたに他ならない。
「・・・」
　フィールさんは何も答えなかった。自分はゆっくりとフィールさんの横に腰かける。
「お姉さんのことお悔やみ申し上げます」
　沈黙が走る。しかし、
「すげー優しかった。俺はクソみたいな親父の元で育った。酒ばっか飲んでいつも俺を殴りつけてた。そんな俺を守ってくれたのが姉ちゃんだった。俺の大好きな人。あの日もだった姉ちゃんが強姦された日もだ。俺をクローゼットの中に隠して気づかない様にしてくれた。俺はただ震えてることしか出来なかった。そいつらが去ってクローゼットがようやく開いた。俺は謝った。姉ちゃんはそんな俺を優しく抱いて『大丈夫。大丈夫』って何度も言った。その数日後、姉ちゃんは自殺した」
　酒瓶を強く握る。
「俺は・・・俺は何で気づかなかったんだ。大丈夫なわけないのに・・・何であの日、遊びに何て言っちゃたんだ」
　フィールは両手で顔覆う。
「何も出来なかった。してやれなかった。だからせめて・・・でも守れなかった。大切じゃなかったのかな？姉ちゃんは俺のこと恨んでる。俺さへいなければ」
「正しかったんじゃないでしょうか？」
　意外な言葉にトートの方を見るフィール。
「多分その時のフィールさんはお姉さんに負担をかけたくなかったんじゃないでしょうか。一人の時間も必要だと思ったから、外出したのではないでしょうか」

『フィール、無事でよかった』
「ね、姉ちゃん・・・どうして？」
『フィール、私の宝物、だーいすき』
　そこには幼いフィールを強く抱く姉の姿があった。
「姉・・・ちゃん」
　フィールはその光景に理解が追いつかない。しかし、言わずにはいられなかった。
「俺、強くなったんだ」
　俯いたまま話す。
「ごめん、守れなくて・・・でもこんなクズだけど今は守りたいと思う奴らが隣にいて奴らができたんだ。俺今度こそ守る必ず。だか・・・だから」
　涙が止まらない。
『フィール』
　呼ばれゆっくり振り返る。
「姉ちゃん・・・」
　姉は笑い、フィールにデコピンする。
「イテッ」
『いつまで自分を責めてるの、全く』
　そう言い肩をすくめる。
『謝るのはこっちの方だよ。ごめんね。自殺なんかしちゃって、でも私はいらないって思ったの』
「そんなの・・・」
　何か言おうとするが、それを姉に阻まれる。姉の前髪が長いのか目がよく見れない。下は向くフィール。
『フィールが生まれて来る前何度も死のうした。でも、フィールが生まれてくれて赤ん坊だったフィールが私の手を握ってくれた。その小さな手から想像がつかないくらいの力で』
　姉は愛おしいそうにフィールの頭を撫でる。
『救われたのは私だよフィール。あなたは本当にすごい。人との関わりを嫌う私と違ってあなたは積極的に関わっていつも周りには人がいた。でも・・・あなたはいつも怯えていた。いつも周りの目を気にして辛そうだった。それであの日気付いた。あなたに足りないのは勇気だって、同時にそれを奪ったのは私だって。私があなたを怖いものから守ることによってあなたはどんどんと臆病になっていった。それがわかって辛かった、生きていくためには勇気は絶対に必要よ。だから・・・すぐに死のうとした。でもあなたに会えなくなるにが辛くて先延ばしにしちゃって、それがフィールの心の傷になちゃったんだね。ごめんね』
「し・・・死ぬ必要なかったじゃん。何で何処か遠くに行けばよかったじゃん。死んだら会えないんだよ」
『私が生きてるってわかったら、あなたは私を人せを懸けてでも探してしまう・・・ごめ・・・ごめんね』
　前を向くとそこには泣いている姉の姿があった。
『フィールごめんね、私の宝物』
　姉がそう言うとフィールは姉に抱きつく。
「何でだよ。守られてたのは救われたのはこっちだ！まだ恩返しもできていないのに死ぬなよ！」
　弱々しく姉の胸を殴る。
『そうだね。お互いバカだね』
　フィールを優しく包み込む。
「今度は絶対守るから」
『うん』
「絶対！」
『もう苦しまないで、苦しいなら私の事忘れていいから。でももし辛くないなら私のことたまには思い出してね、フィール』
　全然似てないけど目だけは同じ色。俺達の姉弟の証。ようやくちゃんと見れた大好きなその人の顔。
「うん」
『フィール』
　姉は愛おしいそうに最後に名前を呼ぶ。