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過去編

第二十九話 先々代と先代の邂逅

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「教会に繋がっていたんですね」

「誰も神の名の下にガサ入れなどという侮辱的行為には走らんだろう。理性が感情を抑えている限り」

「はぁ」

「では、私の役目は此処までだ」

「ぁ、そうなんですか。どうも? ありがとうございます」

「礼はいい。これからが問題なのだからな」

「え?」

「では、また会う時まで決して死ぬでないぞ」

 突如として礫や小枝を含んだ突風が荒れ狂い、身を裂くような嵐が過ぎ去ったかと思えば、雲隠れ。

「き、消えちゃった……」それはまるで心に深い爪痕を残して去り行く、竜巻のような老翁であった。

「誰だ? 貴様」

 そして、「ぼ、僕は国枝、――国枝京介です!」「ほう、その名が偽りであるとしても、貴殿が名乗りを上げるのであれば、私も答えざるを得ないな」

 颯と兜を取り外して絡み付く髪を払って落とす。

 それはまるで。

 八面玲瓏なる艶やかなモレン色の長髪を白皙な頬を撫でるようにそよ風に靡かせ、仁王立ちする女傑。「我が名はユリ・アイル・ヒース。8代目勇者だ!」

 きっとあれから心の何処かでずっと夢見ていた、二人が邂逅を遂げる光景を目の当たりにした。

「何故、此処を訪れた? 用件を述べろ」

 銀と黒の寂しげな鎧と布の織り混ざりし四肢にまで丈の広がる衣服と絶壁を微かに揺らし、カップヒルト付きのレイピアの柄に手を添え、睨みつける。

 鋭く凝視した先々代の立ち姿に先代は気圧されふがまま躙り寄られていく度に、後ずさっていった。

「ぼ、僕はただお爺さんに連れられて」

「その御老人の姿が見当たらないのだが」

「い、いやさっきまで此処に」

「随分と虚言を零すようだな」

「ほ、本当なんです」

「その真偽は問わない故、即刻、此処を立ち去れ」

「でも、僕他に行くところが! 無いんです……」

「貴様の個人的理由で他者を巻き込むつもりか? 我々も故郷を追われ、此処へ来たのだ。これ以上、私利私欲を満たすが為に迫るのであれば――斬る」

 黄金色と白の彩りに染まる鞘から刃を垣間見せ、直様、糸屑の如く薄板はその場の色に溶け込んだ。

「そ、そんな」

「さぞ難儀だろうか、これも我々が生き抜く為だ」

「っ!」

「許せ」

 瞬く間に華奢な痩躯を陣無しで先代の懐に迫らせ、有無を言わさずに刃を振るわんとした瞬間に、
「お待ちなさい」首筋スレスレで刃は颯と止まる。

「ヒース、貴女は今一度、神の愛を知るべきです」

「愛だけでは明日を迎えられません、シスター様」

「えぇ、ですが、思い遣りが無くては人にあらず」

「『如何なる者にも救済を与えなくてはならない。それこそが信徒たる我々の宿命であり生きる糧』」

「……っ、ぁ」

「なのです」

「えぇ、その通りです。さぁ、刃を収めなさい」

「はい」嫌々、シスター様のお言葉で刃を鞘へと仕舞う最中、己が身から剥き出しにした鋭い眼光を今も依然として、勇者の眼目掛けて突き立てていた。

「さぁ、此方へどうぞ」

「は、はい」

「ッ!」睨みを効かす傍ら、身に突き刺してくる眼差しから逃げるようにしてシスターの後に続いた。

「これからは此処が貴方の心の拠り所であり、居場所です。もう二度と恐怖に怯える必要もありませんよ」

 小綺麗で広々とした内部は多くの孤児であろう子供らで溢れ返っており、嬉々として造りを説くシスターの姿を目にすると、忽ち視線が一点に集まった。

「ねぇ、あれ誰?」
「新入りかな?」
「どうせまた人攫いだろ」
「シスター様って甘いよな」
「意外とカッコいいかも」
「フンッ、あんなの別に大したことねぇよ」
「また食事が減るのか」
「全く、ヒースは何をしているのかしら」
「このままだと配給も一食になりそうね」

 茫漠とした煩慮の念と舌剣さながらの讒謗が入り混じった彼等の愚痴は否が応でも鮮烈に鼓膜にまで行き届き、ある種、手厚い歓迎に板挟みに追いやられた先代の頬が引き攣る様は想像に難くなかった。

「不満はありませんね?」

「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」

 自らの抱く幸福を満面の笑みとともに振り撒き、対照的に暗雲に呑まれながらも、泣く泣く頷いた。
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