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過去編
第五話 其々の道
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それから――「剣と魔法の試験か……僕たち素人なのに」と、微かな不満たる心情を吐露していた。
試験用カラステに魔法をぶつける姿を前にして。彼等は再び、自らの順番が来るまで手を拱いて、其々の溢れる感情が異なりし言葉を交わしていた。
「物は試しだ。自分の与えられた力を最大限発揮すれば、もしかしたら待遇が上がるかもしれねぇぞ‼︎」
「よーし! ワクワクしてきた」
「アホか、此奴等」
「うーん、確かにそうかも」
「おいっ! お前までもか!」
「何が言いたいんだ?」
「仮にこの国を揺るがす強大な力があれば脅威と見做され、排除対象になる可能性だってあるんだぞ」
「それに多分、もうこれが」
「次、貴様だ!」
「はーい」
「なんて平常心なんだ、彼奴は……。能天気な馬鹿と捉えるべきか、将又楽観視の天才と呼ぶべきか」
「喚き散らかすより何倍もマシだ。ん? どうした? まだ慣れないのか?」
「うん、ちょっとまだ――なんか気持ち悪くって」
先代の片眼は移植手術を受けてから延々と暗闇に覆い尽くされ、時折隙間から光が垣間見えていた。
「あーわかる。まぁ、俺もさっきまでそんな感じだったし、お前は最後から二番目だろ? いずれ慣れるさ」
「うん」
「早くした方がいい」
「え?」
「この力、想像以上に必要不可欠な存在だぞ……」
友人は物憂げな表情を浮かべ、意味深に告げる。
「頑張るよ」
「結果を残せ」
「う、うん」
「困らせるなよ」
「次、お前だ!」
「はい!」
「彼奴等は15と18番目か、説立証には程遠いな」
「それ辞めた方がいいよ」
「あ?」
「だって、彼だって二十番目だよ」
「! そうだな、もう二度と口にしない。じゃあ、俺は少し試したい事があるから一旦、離れるぞ」
「うん、気をつけてね」
「あぁ、お前もな」
「次!」
そして、遂に先代の晴れ舞台へと切り替わった。
心臓の高鳴りが痩躯を地響きさながらに轟かせ、小刻みに震わす掌をカラステの的へと突き出した。
「撃て!」
燎原の如く掌に容易く収まる赫赫とした燃ゆる火球を押し出すように繰り出された、頼り無い一撃。
それはどの生徒よりも非力で死にゆく生命の息吹きみたいにたった数メートル先の的にすら当たる間も無く、火種へ散って、泡沫に霧散してしまった。
「……ぁ」
「フッ」
彼等の張り詰めていた神経を解してしまったのか、思わず小さく吹き出してしまった近衛兵たち。
それに呼応する形でホッと胸を撫で下ろして、せせら笑う讒謗混じりの騒めきが生徒の間で広がった。
何故か、彼等は安堵していた。そして、近衛兵らも己の汚濁した瞳に一切の疑問を問い質なかった。
たった一人の己の鎧に爪痕の刻まれた兵士を、早々に類い稀な神眼を発揮する生徒たちを除いて。
けれど、先代はいつものように怒りを露呈する事なく、徐に天を仰ぎ「はは」そう悲しげに笑った。
次なる試験《剣術》の結果が振るわなかったのは、言うまでもない。
大勢の出鱈目でありながらも他者を慮る手加減を忘れた素人同士の剣戟によって、切り落とされた幾多もの四肢の治癒に追われる憐れな大魔導士達に、時折、先代に投げ掛けられる侮蔑を含んだ言葉に耐えかねて、友人が大地を焼き尽くさんと言わんばかりの焔を頭上から放たんと周囲を騒然としたりと、様々な面倒な出来事を終えて、無事に大浴場へと。
しかし、それは心の癒しであるオアシスとは遠くかけ離れた、彼等の意思に削ぐわぬものであった。
「ハァ……ッッ⁉︎」
初めに怒号を轟かせたのは麗しい少女であった。
「ちょっと、どういうこと」
「最っ低」
「嘘でしょ……」
「あぁ、こうなるんじゃないかって、思ってた」
「神様神様神様神様」
耳無き俺にさえ何故だか酷く響き渡る一人の雄叫びに忽ち伝播し、その場で茫然と狼狽える女性陣。
「まぁ、そうだろうとは思っていたよ」
「うん、どうでもいいよ、もう」
「だな」
今時では珍しい、男女が分かれていない大浴場。仕切りも無ければ、身を隠せる場所さえ見当たらず、服を眉間に皺寄せる程に汚く染め上げた汗と垢に加え、土泥に汚れた体のまま踵を返す者さえいたが、
「石鹸はちゃんと腕に擦って確かめろよ!」
「お湯が出るかもな!」
「アレルギーのある奴は無理すんじゃねぇぞ!」
「湯船の色が違うな、多分こっちの世界の入浴剤だと思うが、各自他の奴で確信せずに、ちゃんと確かめてから入れよ」
「風呂で寝るなよ! 死ぬからな! あぁ、後ちゃんと体洗ってから 入れよ! いいな! 風呂汚したらぶっ殺すからな!」
「体の傷や爪に入った泥もちゃんと落とせよ! 雑菌が入ると面倒だからな!」
「ったく、風呂が30分だけってどういうことだよ」
「よーし! これでやっと汚れを洗い落とせるぜ」
「ちょっとみんな聞いてくれ! こんな状況に女性陣が困ってるから、俺たちは15分で上がろう! 上がったら、報告すべき事項を各自、伝えること!」
「「「「「「「「はぁーっ……⁉︎」」」」」」」」
「なんでテメェが仕切ってんだよ」
早速、身に纏っていた衣服を脱いだ友人が誰も望んでいないリーダーを嫌味口を漏らして横切って、一番乗りに浴場の最奥の隅へ歩みを進めていった。
体中の隅々に深々と刻まれた古傷を露わにして。
試験用カラステに魔法をぶつける姿を前にして。彼等は再び、自らの順番が来るまで手を拱いて、其々の溢れる感情が異なりし言葉を交わしていた。
「物は試しだ。自分の与えられた力を最大限発揮すれば、もしかしたら待遇が上がるかもしれねぇぞ‼︎」
「よーし! ワクワクしてきた」
「アホか、此奴等」
「うーん、確かにそうかも」
「おいっ! お前までもか!」
「何が言いたいんだ?」
「仮にこの国を揺るがす強大な力があれば脅威と見做され、排除対象になる可能性だってあるんだぞ」
「それに多分、もうこれが」
「次、貴様だ!」
「はーい」
「なんて平常心なんだ、彼奴は……。能天気な馬鹿と捉えるべきか、将又楽観視の天才と呼ぶべきか」
「喚き散らかすより何倍もマシだ。ん? どうした? まだ慣れないのか?」
「うん、ちょっとまだ――なんか気持ち悪くって」
先代の片眼は移植手術を受けてから延々と暗闇に覆い尽くされ、時折隙間から光が垣間見えていた。
「あーわかる。まぁ、俺もさっきまでそんな感じだったし、お前は最後から二番目だろ? いずれ慣れるさ」
「うん」
「早くした方がいい」
「え?」
「この力、想像以上に必要不可欠な存在だぞ……」
友人は物憂げな表情を浮かべ、意味深に告げる。
「頑張るよ」
「結果を残せ」
「う、うん」
「困らせるなよ」
「次、お前だ!」
「はい!」
「彼奴等は15と18番目か、説立証には程遠いな」
「それ辞めた方がいいよ」
「あ?」
「だって、彼だって二十番目だよ」
「! そうだな、もう二度と口にしない。じゃあ、俺は少し試したい事があるから一旦、離れるぞ」
「うん、気をつけてね」
「あぁ、お前もな」
「次!」
そして、遂に先代の晴れ舞台へと切り替わった。
心臓の高鳴りが痩躯を地響きさながらに轟かせ、小刻みに震わす掌をカラステの的へと突き出した。
「撃て!」
燎原の如く掌に容易く収まる赫赫とした燃ゆる火球を押し出すように繰り出された、頼り無い一撃。
それはどの生徒よりも非力で死にゆく生命の息吹きみたいにたった数メートル先の的にすら当たる間も無く、火種へ散って、泡沫に霧散してしまった。
「……ぁ」
「フッ」
彼等の張り詰めていた神経を解してしまったのか、思わず小さく吹き出してしまった近衛兵たち。
それに呼応する形でホッと胸を撫で下ろして、せせら笑う讒謗混じりの騒めきが生徒の間で広がった。
何故か、彼等は安堵していた。そして、近衛兵らも己の汚濁した瞳に一切の疑問を問い質なかった。
たった一人の己の鎧に爪痕の刻まれた兵士を、早々に類い稀な神眼を発揮する生徒たちを除いて。
けれど、先代はいつものように怒りを露呈する事なく、徐に天を仰ぎ「はは」そう悲しげに笑った。
次なる試験《剣術》の結果が振るわなかったのは、言うまでもない。
大勢の出鱈目でありながらも他者を慮る手加減を忘れた素人同士の剣戟によって、切り落とされた幾多もの四肢の治癒に追われる憐れな大魔導士達に、時折、先代に投げ掛けられる侮蔑を含んだ言葉に耐えかねて、友人が大地を焼き尽くさんと言わんばかりの焔を頭上から放たんと周囲を騒然としたりと、様々な面倒な出来事を終えて、無事に大浴場へと。
しかし、それは心の癒しであるオアシスとは遠くかけ離れた、彼等の意思に削ぐわぬものであった。
「ハァ……ッッ⁉︎」
初めに怒号を轟かせたのは麗しい少女であった。
「ちょっと、どういうこと」
「最っ低」
「嘘でしょ……」
「あぁ、こうなるんじゃないかって、思ってた」
「神様神様神様神様」
耳無き俺にさえ何故だか酷く響き渡る一人の雄叫びに忽ち伝播し、その場で茫然と狼狽える女性陣。
「まぁ、そうだろうとは思っていたよ」
「うん、どうでもいいよ、もう」
「だな」
今時では珍しい、男女が分かれていない大浴場。仕切りも無ければ、身を隠せる場所さえ見当たらず、服を眉間に皺寄せる程に汚く染め上げた汗と垢に加え、土泥に汚れた体のまま踵を返す者さえいたが、
「石鹸はちゃんと腕に擦って確かめろよ!」
「お湯が出るかもな!」
「アレルギーのある奴は無理すんじゃねぇぞ!」
「湯船の色が違うな、多分こっちの世界の入浴剤だと思うが、各自他の奴で確信せずに、ちゃんと確かめてから入れよ」
「風呂で寝るなよ! 死ぬからな! あぁ、後ちゃんと体洗ってから 入れよ! いいな! 風呂汚したらぶっ殺すからな!」
「体の傷や爪に入った泥もちゃんと落とせよ! 雑菌が入ると面倒だからな!」
「ったく、風呂が30分だけってどういうことだよ」
「よーし! これでやっと汚れを洗い落とせるぜ」
「ちょっとみんな聞いてくれ! こんな状況に女性陣が困ってるから、俺たちは15分で上がろう! 上がったら、報告すべき事項を各自、伝えること!」
「「「「「「「「はぁーっ……⁉︎」」」」」」」」
「なんでテメェが仕切ってんだよ」
早速、身に纏っていた衣服を脱いだ友人が誰も望んでいないリーダーを嫌味口を漏らして横切って、一番乗りに浴場の最奥の隅へ歩みを進めていった。
体中の隅々に深々と刻まれた古傷を露わにして。
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