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過去編

第二話 召喚と異世界

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「お前、木刀買ったんだって?」
「あぁ! やっぱ土産って言ったら、木刀だろ!」
「やっぱ彼奴、俺に気があるって! ずっと見てたし!」
「クラスのマドンナがお前なんかに興味示すかって」
「仏像凄かったなぁー」
「やっぱ神社だろ! あぁ神様! どうか俺の頭をもう少しだけで良いので、賢くしてください!」
「あそこって金運を上げてくれるんじゃなかった?」

 生徒たちの騒々しくも弾んだ言葉の豪雨が飛び交い、渡り廊下中に響き渡る真っ只中にもかかわらず、淡々と進んでいく先代だけは静寂に包まれていた。

「ったく、うるせぇな」

「浮かれる気持ちもわかるよ、現に楽しかったし」

「こんなにはしゃぐ程かよ。ったく、どいつもこいつもまだ小学生気分が抜けてねぇのか?」

「そういう自分も、本当は楽しかったんでしょ?」

「別にぃ!」

「……ハハ」

「笑うな! ッチ――――そういや彼奴は?」

「さぁ、トイレにでも行ってるんじゃない」

「いっつも肝心な時に居ねぇよな」

「そんなに大事な局面じゃ無いでしょ、今」

「お前にとってはな」

「……?」

「よし、さっさと帰ろうぜ」

「先生が来てからだよ」

「こっちは帰ってから色々やらなきゃいけないことあんだし、早く済ませて欲しいもんだな」

「きっと先生も大変なんだから、仕方ないよ」

「さっさとしねぇと、夕飯が遅くなんだよ」

 そう言いながら、閑散とした教室の中へと入っていき、妙な僧侶の放つオーラの残滓は残っていなかったが、何処となく不穏な雰囲気を漂わせていた。

「……黙って、帰っちまうか」

「駄目だよ、この前もそれで先生に怒られてたし、後々面倒な目に合うんだからさ。今はじっと堪えてないと! きっと弟くんたちも分かってくれるよ」

「あぁ、はいはい」

 二つの意味で細やかな先代の忠告に雑な相槌を打ちつつ、そそくさと帰りの身支度を済ませていく。

「京介」

「……?」

「邪魔」

「ごめん」

 扉の前で茫然と立ち尽くしていた先代に舌剣を突き立てた一人の大柄な生徒が強引に横切っていく。

 一言で終えるに充分な筈の文字数を何故か、二度に分けて無駄な間を生じさせる、下から数えた方が早い顔立ちの少年は一番目の椅子に腰を下ろした。

「何だ? また揉めてんのか? 仲良いなお前ら」

 有う事か先代たちをせせら笑う愚かな挑戦者に、要らぬ親近感と同時に既視感を覚えてしまった。

「時間的にも早く帰りたいんだって」

「おい」

「あぁ、くだらねぇ」

「……」

 不用意に口走る阿呆が周囲の空気を酷く濁らせ、口を閉ざす彼は次第に険しい顔色に染まっていく。

「別にそれくらい待ってやれよ、忙しねぇ奴だな。そんなにお家が寂しいか? まだまだガキだな!」

 不逞の輩から放たれる余計な二言が、鮮血が噴き出すと言わんばかりに握りしめた拳を送り出し、徐々に口角の上がった不潔極まる頬に迫っていく。

 そんな最悪の形で幕を終えることを悟った先代が刹那に顔を青ざめていきながら駆け出していった。

 

 そして、そよ風でも吹き飛びそうな貧弱な身を最大限駆使し、かろうじて己の椅子に腰を下ろさせ、
ようやく巣に戻るホウコの雛のようにぞろぞろと集っていく生徒たちの後援によって矛は収められた。

 忽ち囂々たる喧騒賑わう、こちら側でも見慣れた秩序の乱れが極まる光景と化し、傍らに映り込む。

 駆ける教師。

「あっ、先生だ」

 先代の何気ない一言が皆を原点回帰に駆り立て、荒々しく焦燥感に苛まれる生徒達か交差していく。

 何の変哲もない記憶の欠片。風化を運良く逃れて生き延びた頭の片隅に留りしそれを、延々と見続けるのだろう。と、そう思っていた。次の瞬間――。

 床一面が忽然と煌々とした眩い白光に包まれた。

「っ⁉︎」

「な――」

 それは不意に漏れ出た言葉を吸い取っていき、視界を遮るとともに教室全体を覆い尽くしていった。

 微かな抵抗にも及ばぬ咄嗟の振り向きの先、其処には無骨そうで僅かに筋骨隆々とした少年がいた。

「京介!」

 強張った頬を浮かべながらも必死に差し伸べられた手。躊躇なく掴み取らんとした先代であったが、勇敢な少年の手首を地面からせり出した淀みきった光でも消えぬ影に掴まれ、一瞬で呑まれていった。

「あっ!」

 次々と席の順番を迎えたであろう生徒たちの体が謎の影によってむざむざと引き摺り込まれて暗闇に堕ちていき、中には逃げ惑っていく体を切り裂かれる者も居る中で、先代は英断にも自分の番が来るまで、足掻きもせずに祈りながら待つことを選んだ。

 一人、また一人と消えてゆき、視界に埋め尽くされていた人影が両手で数えるほどになった時――。

 残された全員《生徒》が地獄さながらに突き落とされた。

「――おぃ! おい!」

 いつの間にか閉ざしていた瞼を緩慢に開いた先、東大国の前――ルドベキア国王陛下の姿があった。
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