【完結】ステータスブレイク〜レベル1でも勇者と真実の旅へ〜

緑川 つきあかり

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蛇行する王位継承戦編1日〜3日

第四十話 墓参りと無邪気な子供たち

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 ……こんな場所があったのか。

 咽せ返るような鬱蒼とした木々と鋭利な刃先を携えた草の根を掻き分けて、急に視界が開けた瞬間。
辺り一面に彩りの華やぐ花畑が広がっていた。

 そして、その中心にはアルメリア王が仁王立ち。
物憂げな表情で地に俯く姿に、躊躇いながらも手を差し伸べるとともに声を掛けようとした時、傍らの草をサクッと踏みしめた誰かが肩に何かが触れる。

 徐に振り向けば、やけに妙な色気を漂わせる私服姿のクローディア王が、愛重を帯びて佇んでいた。

「クローディア王」

「奴の日課だ。邪魔してやるな」

「そう、だったんですか。……失礼ですが、理由をお聞きしても?」

 悲しげな顔つきはより一層、影を伸ばしていく。

「簡単に言えば、墓参りだ。それも、異邦人のな」

「っ!」

 俺は息を呑む。
 決して王から目を離さずに瞬く事なく後ずさり、アイテムボックスから適当な武器を選定していく。

「――詳しくは知らないのですか」

 けれど、限りなく平静を保ち、表情を崩さない。

「過去に人質にされた異邦人と現地人の少女を、彼奴が誤って殺してしまった。それ以来、王位継承戦の開始日が告げられるまでの数年間、一切剣を振るっていなかった。ただそれだけの事だ」

 ほんの一瞬目を離して、別の王に視線を向ける。

 俺は無意識のうちに目を凝らし、刹那にその全貌と周囲の光景は鮮明なるものへと変化していった。

 仰々しく黒を基調とした軍服紛いを身に纏い、腰に携えた大剣を握りしめる片手は酷く震わせて、ぽつんと寂しげに建てられた慰霊碑を注視していた。

 そして、青紫の色を帯びた花束をそっと慰霊碑に手向けて、ただ茫然と一転を眺め続ける王の足元には幾重にも重なりし淡い緑の葉に囲まれた、木苺《ラズベリー》のような真っ赤に熟れた実を付けた花が咲いていた。

「クローディア王」

「ユリアスでいい」

「クローディア王――」

「貴様、友はいるか?」

「貴方の想いは変わられましたか?」

 僅かに眉根を寄せるクローディア王を凝視した。

「私の想いは変わらない。……祖国の平和、それだけだ」

 どうやら物事はそう上手くいかないらしい。

【毒蛇のナイフを召喚しますか?】

 あ――。

「だが、奴の道を蔑ろにする気は無い」

 そう吐き捨てて、王は首から下げていたやや錆びた黄金色のロケットペンダントを徐に握りしめる。

 その艶やかな髪を靡かせる姿は、さながら淡く重き想いを胸に秘めたままの、儚い少女を思わせた。

「……そう、ですか」

 いや、召喚は辞めだ。

「貴様はどうなんだ?」

「え?」

「当代と共に不可思議な旅路を歩んでいるそうだが、良好な関係とも思えぬし、何か人に話せぬ訳があるのだろう?」

「えぇ、まぁ、はい。そうですね」

「話したくないのなら……無理に語る必要は無い。ただ――想いを踏み躙れば、残るのは後悔だけだ」

「重々承知しております故、御安心を。俺にも色々と考えがありますから、きっと何とかなりますよ」

「そんな先行きの見えぬ道を進むとは、私には到底真似出来んな」

「これでも元、勇者ですから」

「そう、だったな」

「では、私はこれで」

 俺は立つ鳥跡を濁さずこの重苦しき場から早々に立ち去ろうとするも、茂みの奥から兵士が現れた。

 それは、あの臆病で凄惨な死を遂げた兵士が突き刺された現場に居合わせ、俺を視界に捉えた青年。奇しくも、そう歳も変わらない姿をしていていた。

 そして、どうやら相手も俺の事を鮮明に記憶しているようで、別件であろう筈が視界に入れた途端、「貴様ッ⁉︎ よくもっ‼︎」と、迷いなく一直線に眼前へと迫ってゆき、躊躇い無く槍の鋒を差し向ける。

 刃が喉元に触れる間際、その揺らぎ無き動きを、あっさりと素手で受け止め、刃を掴み取っていた。
 目を見開かせたまま開いた口が塞がらずにいて、次第に産声を上げていく動揺が身体中に広がってゆき、槍に怒気を含んで全てを注ぐ力が緩んでいく。

「あっ、あっ、わ、私は……なんてことを!」

 そんな狼狽える姿とは対照的に、王は泰然とした振る舞いを依然として保ち続けて、槍を握りしめ、肉を割く不快感を掻き立てる音を立てて、押し込まれた掌から真っ赤な鮮血が鋼色の刃に滴っていく。

「来客だ、丁重におもてなししろ」

 俺は戦慄く兵士を眼中にさえ入れず、そそくさとアイテムボックスから【未使用の手拭いを召喚】し、そっと王から槍を手放しながら、傷口を圧迫する。

 純白な手拭いは次第に赤く滲んでいく。そして、その手は柔くか細く至る所に傷痕が刻まれていた。

「許可を頂ければ、ヒールを」

「いいや、必要無い。この程度の痛みもう慣れた。――――貴様、急ぎの要があったのではないか?」

 いつまでもメソメソとした兵士を鋭く一瞥する。

「あっ、こ、国王陛下がお戻りになられたことをご報告しに馳せ参じた所存であります! このような不遜なる愚行、どんな罰でも甘んじて受け入れる覚悟でありますので、どうか、どうか家族には何も」

「ならば、彼奴にも、時期王にも告げてやれ。でないと、明日の朝まであの場に留まり続けるだろう」

「ハッ!」

 思いがけぬ展開、意外にも寛容な精神を持ち合わせていた凛々しきクローディア王によって直様、立て直された兵士は憮然たる面持ちを浮かべて、頻りりに俺に目に泳がせながらも、足を運んでいった。

 腑に落ちないのはお互い様だ。

 そう告げてやりたがったが、忽然と背後に現れし殺気立つ気配を漂わせる存在に瞬く間に振り返る。

「⁉︎」

 王の傍らに何処からともなく影の如く黒きローブを身に纏いし既視感をチラつかせる王の従者……。

「国王陛下がご帰還なられました。間も無く戴冠式が始まりますので、お早めお戻りください」

 僅かに怒気が籠りし一言一句を緩慢に告げゆく最中、決して鋭い眼光が俺から離れる事は無かった。

「承知した。……貴方様も招かれる客であろう? 決して遅れぬようにな」

「えぇ、解っております」

【毒蛇のナイフを召喚しますか?】
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