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王位継承戦編1日〜3日

第二十八話 王の行方

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「すまないが、また席を外す」

「だ、大丈夫ですか⁉︎ お腹を下しましたか?」

「いや、そんなんじゃないよ。ただ、ちょっとね」

「ハァ、そうですか。お気をつけて」

「ありがと。あぁ、お腹が空いたら好きなだけ食べていいから」

「本当ですか!」

「その代わり、絶対に其処を離れるなよ」

「……はい」

「大丈夫だ、嬢ちゃん。この俺が守ってやるよ」

「うっ……」

 次は王妃が仕事の山に埋もれているであろう王室へと気配を殺しながら、慎重に足を運んで行った。

 周囲には衛兵が多く配備されており、中にはそわそわと挙動不審な新兵であろう者まで駆り出して、余程、臆病なのか真昼時にも限らず、厳重警戒を怠らずにいた。

 そんな危険察知と警戒する視野範囲が前方にしか存在しない、連中を上から侮蔑を含んで見下ろし、先ずは偵察兼安全確認で第三の目を先に潜らせる。

 ふわふわと音も気配も存在も完全に死んだ操作が楽なラジコンを正面玄関から容易く忍ばせていき、案の定、慣れぬ業務に振り回されて机に齧り付く王妃を真っ先に視界に捉え、天井スレスレに上った。

【聴覚共有を発動 MP : 7を消費】

 たった一度の使用でなけなしの心の拠り所たるMPの約半数を容赦なく奪い取り、それは発動された。

「本来、私の為すべき作業でない事を理解した上で、この業務を一任なさっているのでしょうね?」

「ですが、ルクバト国王陛下は我が国と民と貴方の為、東大国との虹龍往来の退避連携締結に加えて、リベル冒険者集団による襲来を想定した迎撃体制、謎の異邦人による被害拡大を抑えんと奔走しているのです! 現在、貴女様がなさっていることなど、比べるのでさえ烏滸がましい程に及びません」

「あら、ウィリス。随分と生意気な口を叩けるようになったものね、その平民生まれの身分で……?」

 異邦人……か。既に情報が知れ渡っているのか、それとも臆病者の際限なく広がる情報網の賜物か。
その真相は定かではないが、秘書らしき者から饒舌に繰り出された言葉の数々で、王妃の痺れもしない面白味も感じない毒舌が霞んでしまってならない。

 兎にも角にも、先ずはあの秘書捕縛が第一目標だな。

「では、私にも仕事がありますので、失礼します」

「待ちなさい! まだ話は終わってなくてよ!」

 王妃は山積みにされた書類を宙に巻き上げても、強かに振り返る事無き秘書に手を差し伸べていた。

 その頃、遂に体を温め過ぎて小刻みな震えが完全に全身に伝播した第二王が舞台へと上がっていた。

 頼みますよ、王。貴方だけが、俺の救いなんですから。

 そう第三の目の模倣品から心に強く願いながら、怪しげな地下へと繋がる階段に周囲に目を凝らしながら、慣れたご様子で降りていく秘書の後に続く。

 カツコツとピンヒールさながらの耳障りな音ばかりが響き、谺する、仄暗いに満たされた螺旋階段。
己の足音に細心の注意を払いながら、付かず離れず草臥れて丸みを帯びた背中の綺麗なラインを眺め、その傍らでぎこちなく出鱈目な刃を虚無に振るい、相手スレスレの空を切っていく果敢だからこそ不憫過ぎる目も当てられない王に、思わず頭を抱えた。

 ハァ……。
 うっかりため息を零してしまいそうでならない。

 そして、相手の機敏にして華麗な連続蹴りをモロに喰らい、露骨に筋骨隆々なる丹田を抑えて怯む。

 そんなヒヤヒヤさせる試合の行く末に目が離せず、次第に足取りも音の響く駆け足へと変貌していく。

 第二陣の幾度となく大振りを当てんとする剣技を目で追わずに最小限の動きで、泰然と躱していく。

 俺は王関係者もさぞ肝を冷やしているだろうと、瑣末な想いに寄り掛かるまでになってゆき、遂に、螺旋階段を降り終えたとともに秘書が振り返った。

「誰⁉︎」

 己の鋭敏な勘を無理に否定するように微かに消え入りそうな虚無に訊ねるかの如く声で、問いただす。

 それに呼応し、流れるように【ポールナイフ】を召喚し、みぞおちを肘で食い込ませて小さく呻いたまま壁に頭を打ち付け、首に徐にナイフを添える。

「動くな」
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