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王位継承戦編1日〜3日

第二十話 サザンダイング王国

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 透き通った水縹を帯びた川のせせらぎのような色合いの短髪に、仄かな薄紅色の双眸が掛かり、純白を激しく誇示する真っ白な軍服を身に纏っていた。

「我々は10代目と9代目の勇者です。現在、急を要する重大な旅の道すがら――この国の王女を発見し、命の危険性があるとし、その身柄を保護しました」

「おお! そのような事態にまでなっていたとは、誉高き旅路の道中に要らぬ手間を掛けてしまい、大変申し訳ありません! この件に関しては我々が、誠心誠意を持って購っていくつもりであります故」

 そう言いながら、アル兄様は深々と首を垂れて、眼下に紫紺の魔法陣を密かに張り巡らせていく。

「誤解なき様、順を追って説明したいのですが――」

「その必要はありません」

 だろうな。

 剣を大地から抜き去るとともに足元の陣を刹那に踏み抜き、刃を振るい上げながら眼前へと迫った。

「正義の象徴に身を窶す獣よ、その愚行――万死に値するッッ‼︎」

 颯と雑に差し伸べた10代目の刃が手軽く鋭い攻撃を防ぎ、その刃の間に高らかなる金属音が鳴り響く。

「落ち着いてください」

「チッ」

 その舌打ちは今も大地に臥さずに居る俺に対してではないことを切に願って、数歩後ずさっていく。

「よく喋るな!」

「我々に敵意はありません、矛をお収めください」

 あれば、ガラ空きの厳かな顔面に刃を突き立てているのだから、間違いなく善人なのに違いないが、当然激昂するアル兄様の鼓膜に届きはしなかった。

 大地に紫紺の魔法陣を巡らせ、遥か奥へと飛ばす。

「うっ!」

「さて、一発くらいならお許しになられるご寛容な御心の持ち主か、否か。もし違ったら俺たち全員、継承戦じゃなくて処刑を味合うことになるんだが」

「なるべく傷を付けずに抑えましょう、拘束系の魔法は何か使えますか?」

「全部駄目。それに発動までが長いだろ、あれって」

「そうですね、私は詠唱が長いです」

「フッ、貴様らは未だに詠唱などに縋っているのか」

「えぇ、魔術に於いての要ですから」

「魔法使いにとっては舌が切られることは、死と同義」

「無詠唱魔術を用いれば、貴様ら何ぞ赤子を捻るよりも容易く葬れる」

「ハッ」

 思わず笑みを零し、傍らの勇者と目が合ってしまう程であった。

「何世紀前の話をしているんでしょうかね」

「そんなに言うのでしたら、ご自由にどうぞ。ですが、一つだけアドバイスを伝授させて頂きますと、無詠唱魔術には致命的な弱点が存在します」

 現地人にとっては、特にね。

「それは……」

 燎原たる赫赫な火球が瞬く間に眼前へと迫って、徐に掌を差し伸べれば、それは敢えなく霧散する。

「なっ⁉︎」

「それは著しく威力が弱ることにあります。故に一般的には暗殺向きとされていますが、これじゃ、目覚ましにもなりませんね」

「っ!」

 瞠目したまま一驚を喫するアル兄様は、忸怩たる想いを胸を握りしめ、不服そうに鋭く睨みつける。

「さてどうされますか? 第二王子」

「……」

 ようやく冷静さを取り戻したのか馬車に一瞥し、緩慢にアル兄様には宝の持ち腐れな刃を渋々収め、目配せをしながら、ウザい動作で王女様を手招く。

「一度、確認を取らせて頂きます」

「どうぞ、お好きに」

 用心深く幻影解除の魔法を体を覆うように施し、頻りにこちらに目を泳がせながら幾度となく頷く。

 そして、ようやっと身の潔白を証明したのか、まん丸に見開かせた目をゆっくりとこちらに向けて、柄を添える手をそっと離して、歩み寄っていく。

「勇者殿、今回の件、心からお詫び申し上げます‼︎ 何分、先日の暗殺騒動で我々も殺気立っておりまして、身を窶した盗賊と勘違いしてしまいました。全てを片付け終えた後、甘んじて罰を受け入れます」

「お気になさらず、我々にも仕事がありますので」

「では、せめて何か……」

「だったら、さっさと国境を越えた――」
「我々の王位継承戦のトーナメント参加権の譲渡を!」

「なんで、そうなるかな」

「万が一、今回の継承戦でどちらかの勇者が勝ってしまった場合、どうなさるおつもりですか?」

「その点は、ご心配なく。我々にも意地がありますから」

「気持ちだけでは到底、覆せない実力差があれば? 王位など手にしても何も得が無いんですが」

「兎にも角にも一度、国に入りたいんですが……」

「でしたらご案内を」

「結構、貴方にも課された命があるでしょうから」

「そうですね……では、どうかお気をつけて」

「そのつもりです」

「では、行きましょうか」

 そして利口な白馬の無人な行進によって数多の物見遊山な人々によって分厚き人垣の生み出された、狭き王宮へと繋がりし一本道を緩慢に進んでいく。

 空を破るような囂々たる声援に已む無く嬉々とした振る舞いで応えながら、10代目と言葉を交わす。

「ったく、いつの間に」

「我々の姿を遠目から見ていたんでしょうね」

「このままじゃ、本当に参加させられる羽目になるぞ」

「国の繁栄への助力とはいえ、困りものですね」

「ま、どうにかするさ。何せ、天下無双の勇者ですから」

 遂に行き着く、望まぬ王宮の謁見の間へと。

 厳格な面持ちに仄かな黄金色を帯びた長髪を後頭部で纏めた皺の際立つ王妃が虚ろな玉座の傍らで、剣を突き立てて跪く俺達を冷徹な眼差しで凝視し、白皙で血管の浮き出る両手を紺色の無駄に高そうなドレスらしき物の膝の上に重ねながら、口にする。

「この祝いの時に我が国に参じて頂き、光栄の限りです」

「いえ私の方こそ、慎ましく豊かな国民と活気溢れるこの街並みに思わず心を躍らせてしまいました。離れ難い至福の時間ではありますが、こちらも急ぎ要があります故、あまり長居はできませんが……」

「そうだったのですね、でしたらそれまでの間、私共が手配した宿屋にあらゆるものが完備されておりますので、もし宜しければご使用なさって下さい」

「何から何まで、世話を焼かせてしまって辱い限りです」

「こちらも十二分に利益を得ていますからご心配なく」

 だろうな。

「では、失礼致します」

 俺達は踵を廻らせ、王妃らに背を向け、ずらっと露店が立ち並んでいた街道へと歩みを進めていった。
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