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蛇行する王位継承戦編1日〜3日
第十九話 思惑の衝突
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☆
淡く仄かに白黄色がかった黄金色の艶やかな長髪が身に纏った朱色が主体のドレスの背中に掛かり、隅の端っこでたった一言さえ口にせずとも重鎮たる厳かにしてお淑やかで慎ましい立ち振る舞いをし、小汚い真っ当な椅子無き、酔いそうな揺らぐ馬車の中でも気品ある上品な座り方する悠然とした姿は、思わずベリルが真似てしまうほどであった。
そんなベリルを不思議そうに小首を傾げるコルマットと「次の国ですが、八百長問題は事実なんでしょうか?」ところ構わず恥ずかしげもなく語り出す、デリカシーの欠片も持たぬ紳士に不相応な10代目。
その傍若無人な一言で、色白な眉間に皺が寄る。
「迷信だろ」
「煙の無い所に火は立ちませんから」
「王位継承戦とは名ばかりの八百長ねぇ。まぁ、無きにしも非ずといったところかな……」
実際は十中八九、黒だがな。
「定期的に開催する闘技場はかなり盛況のようで、国の繁栄に大きく貢献しているそうですよ」
「王位なんて玩具の景品じゃあるまいし、簡単に手に入るなんて思うかね、普通。確か一般人も許可さえあれば、参加できるんだろ? あれ」
「えぇ、ですから必要な内部の人間を予め忍ばせ、実力の伴わない者達で程よく応募者達を納得させ、本命である王同士の対決で観客たちを盛り上げる」
「そりゃ良くできた話だ」
「ですが、最近では不相応な者が王位を狙う者達の工作員騒動が日に日に問題視され始めていて、今回は中止になりそうな兆しを見せていますね」
「あっそう、そりゃ残念だったね」
更には膝に重ねて乗せていた両手を握りしめる。
「サザンダイングという国はパクスに反旗を翻すのではと、大国でも現在進行形で警戒中でして……」
「物騒な話だね。東諸国って括りになってるのに、大して統一できてる訳でもないってのは、なんだかな」
「所詮、祖国を滅ぼす恐れのある大国は、弱小国からすればただの脅威の象徴でしかありませんから」
「まぁそうだよね、あーやだやだ弱小国ってー」
遂に痺れを切らした彼女が勢いよく立ち上がり、鋭く突き刺すような視線を見下ろしながら熱く注ぐ。
「貴方達、不敬ですよ! 我が国、サザンダイングに対する暴言の数々、真偽も定かではない陰謀論、あまつさえ国の意志に背く反乱分子! この件に関しては、追って沙汰を下しますから覚悟して――」
「そんなにいきり立たないでください、王女様」
「な、何故、それを!」
「見た目でわかりますよ、それくらい」
「まさか私を誘拐し、我が国に多額の身代金を⁉︎」
「少し落ち着かれてはどうですか? この中の状況を一度、見渡してからお心にお変わりがなければ、もう一度その発言をなさってください」
「……!」
周囲を緩慢に見回す。
モフモフとしたコルマットを優しく愛撫する10代目に、爽やかな精霊と仲睦まじく戯れるベリルと、馬車の手綱を握りしめて、最悪の国へと向かう俺。
「失礼致しました。先程の誤った発言を取り消せてもらいます」
「それは何よりです。もし可能でしたら、何故あのような事態を招いてしまったのか、事のあらましを説明して頂けますか?」
「はい……あれは――」
長くなりそうだ。
「最初に身分と名前から教えておきますね。私は、シルディア・フィレスト・カーネリアン。貴方方が向かう先の国、サザンダイング王国の第二王女です」
第二……か。
「始まりは王位継承戦開催の数日前まで遡ります。私たちの家系では代々、親も子も血の繋がる者は必ず食事を共にするという不思議な風習がありまして、普段から険悪な方々との食事を苦としていました。日々、己の意志に背く姿勢に対して良好な関係を築くことを名目に、自らの考えを正義とするあまり他者の意志に曲解を与えんとする場に強引に赴かせ、無理やりに考えをねじ曲げようとする人でして――度重なる侮蔑に堪え兼ねて、遂に先日の食事の場で、宣戦布告にも等しい発言をしてしまったんです!」
自らの意志が正義で他者の意志をねじ曲げるね。随分と自分の思うままに話を進めていく人だな。
「次期国王と成られるお方――第一王子、クローディア・ユリアス・カーネリアンに。私の兄にして、現第二王子、アルメリア・バラスラ・カーネリアン。それらは現在も派閥を生み出して対立関係にあり、今朝遂に王国へと向かう道中に名目上、アルメリア兄様の派閥に属する私にまで魔の手が及びました」
「……」
「その理由は一体、何なんでしょうか?」
「……それはい――」
視界に収まりきらぬサザン国の姿が露わとなったと同時に正門前には一人の男が悠然と仁王立ちし、大地に剣を突き立てながら何かを待ち侘びていた。
このまま轢き殺してしまおうかととんでもない思考が一瞬ばかり脳裏を馳せるが、目的地まで執念だけで突き進んでいかんとする馬たちの歩みを止め、利己的な意志を大義と主張する王女様に問いただす。
「お知り合いですか?」
「先程、話していた私の兄です」
「それはどっちの? というか純正の兄弟なんでしょうか?」
「彼はアルメリア兄様です、そして残念ながらクローディア兄とも歴とした血の繋がりを持っています」
「そうですか、ですが、随分とあのお方はお怒りのようですが……」
「恐らく盗賊と勘違いしているのかも知れません」
「ハァ……10代目、お前も一緒に来い」
「承知致しました、念の為、馬車周辺の警護にどちらかの分身を投じますか」
「不用意に敵意を見せると誤解が生じる場合がある。こういうのは大抵、先に手を出した方の負けだ」
「だと、良いんですが」
もう何度も目的の場所以外で馬車の外へと引き摺り出されているような気がするが、嫌々足を運ぶ。
淡く仄かに白黄色がかった黄金色の艶やかな長髪が身に纏った朱色が主体のドレスの背中に掛かり、隅の端っこでたった一言さえ口にせずとも重鎮たる厳かにしてお淑やかで慎ましい立ち振る舞いをし、小汚い真っ当な椅子無き、酔いそうな揺らぐ馬車の中でも気品ある上品な座り方する悠然とした姿は、思わずベリルが真似てしまうほどであった。
そんなベリルを不思議そうに小首を傾げるコルマットと「次の国ですが、八百長問題は事実なんでしょうか?」ところ構わず恥ずかしげもなく語り出す、デリカシーの欠片も持たぬ紳士に不相応な10代目。
その傍若無人な一言で、色白な眉間に皺が寄る。
「迷信だろ」
「煙の無い所に火は立ちませんから」
「王位継承戦とは名ばかりの八百長ねぇ。まぁ、無きにしも非ずといったところかな……」
実際は十中八九、黒だがな。
「定期的に開催する闘技場はかなり盛況のようで、国の繁栄に大きく貢献しているそうですよ」
「王位なんて玩具の景品じゃあるまいし、簡単に手に入るなんて思うかね、普通。確か一般人も許可さえあれば、参加できるんだろ? あれ」
「えぇ、ですから必要な内部の人間を予め忍ばせ、実力の伴わない者達で程よく応募者達を納得させ、本命である王同士の対決で観客たちを盛り上げる」
「そりゃ良くできた話だ」
「ですが、最近では不相応な者が王位を狙う者達の工作員騒動が日に日に問題視され始めていて、今回は中止になりそうな兆しを見せていますね」
「あっそう、そりゃ残念だったね」
更には膝に重ねて乗せていた両手を握りしめる。
「サザンダイングという国はパクスに反旗を翻すのではと、大国でも現在進行形で警戒中でして……」
「物騒な話だね。東諸国って括りになってるのに、大して統一できてる訳でもないってのは、なんだかな」
「所詮、祖国を滅ぼす恐れのある大国は、弱小国からすればただの脅威の象徴でしかありませんから」
「まぁそうだよね、あーやだやだ弱小国ってー」
遂に痺れを切らした彼女が勢いよく立ち上がり、鋭く突き刺すような視線を見下ろしながら熱く注ぐ。
「貴方達、不敬ですよ! 我が国、サザンダイングに対する暴言の数々、真偽も定かではない陰謀論、あまつさえ国の意志に背く反乱分子! この件に関しては、追って沙汰を下しますから覚悟して――」
「そんなにいきり立たないでください、王女様」
「な、何故、それを!」
「見た目でわかりますよ、それくらい」
「まさか私を誘拐し、我が国に多額の身代金を⁉︎」
「少し落ち着かれてはどうですか? この中の状況を一度、見渡してからお心にお変わりがなければ、もう一度その発言をなさってください」
「……!」
周囲を緩慢に見回す。
モフモフとしたコルマットを優しく愛撫する10代目に、爽やかな精霊と仲睦まじく戯れるベリルと、馬車の手綱を握りしめて、最悪の国へと向かう俺。
「失礼致しました。先程の誤った発言を取り消せてもらいます」
「それは何よりです。もし可能でしたら、何故あのような事態を招いてしまったのか、事のあらましを説明して頂けますか?」
「はい……あれは――」
長くなりそうだ。
「最初に身分と名前から教えておきますね。私は、シルディア・フィレスト・カーネリアン。貴方方が向かう先の国、サザンダイング王国の第二王女です」
第二……か。
「始まりは王位継承戦開催の数日前まで遡ります。私たちの家系では代々、親も子も血の繋がる者は必ず食事を共にするという不思議な風習がありまして、普段から険悪な方々との食事を苦としていました。日々、己の意志に背く姿勢に対して良好な関係を築くことを名目に、自らの考えを正義とするあまり他者の意志に曲解を与えんとする場に強引に赴かせ、無理やりに考えをねじ曲げようとする人でして――度重なる侮蔑に堪え兼ねて、遂に先日の食事の場で、宣戦布告にも等しい発言をしてしまったんです!」
自らの意志が正義で他者の意志をねじ曲げるね。随分と自分の思うままに話を進めていく人だな。
「次期国王と成られるお方――第一王子、クローディア・ユリアス・カーネリアンに。私の兄にして、現第二王子、アルメリア・バラスラ・カーネリアン。それらは現在も派閥を生み出して対立関係にあり、今朝遂に王国へと向かう道中に名目上、アルメリア兄様の派閥に属する私にまで魔の手が及びました」
「……」
「その理由は一体、何なんでしょうか?」
「……それはい――」
視界に収まりきらぬサザン国の姿が露わとなったと同時に正門前には一人の男が悠然と仁王立ちし、大地に剣を突き立てながら何かを待ち侘びていた。
このまま轢き殺してしまおうかととんでもない思考が一瞬ばかり脳裏を馳せるが、目的地まで執念だけで突き進んでいかんとする馬たちの歩みを止め、利己的な意志を大義と主張する王女様に問いただす。
「お知り合いですか?」
「先程、話していた私の兄です」
「それはどっちの? というか純正の兄弟なんでしょうか?」
「彼はアルメリア兄様です、そして残念ながらクローディア兄とも歴とした血の繋がりを持っています」
「そうですか、ですが、随分とあのお方はお怒りのようですが……」
「恐らく盗賊と勘違いしているのかも知れません」
「ハァ……10代目、お前も一緒に来い」
「承知致しました、念の為、馬車周辺の警護にどちらかの分身を投じますか」
「不用意に敵意を見せると誤解が生じる場合がある。こういうのは大抵、先に手を出した方の負けだ」
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