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蛇行する王位継承戦編1日〜3日
第十七話 夜明け
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そんな悲痛な過去を淡々と語っていく中、片手間でスノーウルフよりも低い視線にそっと手を差し出す。
最初は幾度となく10代目と手を交互に目を泳がせていたが、段々と纏わりついた恐怖の象徴たる身震いが治っていく。
「……」
土壇場になると何を言えばいいのか解らず、ただ酷く淀んだ虚ろな蒼き瞳だけをじっと見つめていた。
「殉職の報せが届いてからも不幸は続き、大国に不満を持っていた北諸国によって王都の反乱を招き、かろうじて一部に留まっていた暴動は激化し、我々、ノース家にも及ぶことに。父は今回の暴動の主犯格によって相打ちに、母は身籠ったまま惨殺。多くの兄弟が暴徒によって嬲り殺しにされました。その中には、まだ齢5にも満たない無垢な少女も」
次第に凄惨言い表せない程の悍ましい光景がありありと目に浮かび、頻りに胃中を突く吐き気を催す。
スノーウルフは恐る恐るではあるものの差し出された掌を籠手越しに匂いを嗅ぎ始め、少しでも指先が動けば、慌ただしく数メートルと後ずさっていくが、直ぐにまた舞い戻って来ては、周りの物などにも匂いを嗅ぐ。
「抵抗も虚しく犯される者、奴隷とされる若き者、手足を切り落とされ、見せ物になる者も居ました。悉く、奴等の行動は自由の意志に反していますが、所詮は自らの欲にも抗えない家畜以下の存在――。そう何度も己に言い聞かせ、反旗を翻した者は、女だろうが子供だろうが見境無く皆殺しにしました」
次第に10代目の抑揚さえも深き闇に沈んでいく。
そんな通夜にも等しい真っ暗な雰囲気を漂わせ、地獄に繋がる泥濘に嵌ったかの如く死んだ表情に、ウルフ側が気に掛け、ゆっくりと歩み寄っていく。
「そして、大国の精鋭部隊の強硬的な派遣により、たった一夜にして、無事に暴動は鎮圧しましたが、失われた犠牲は計り知れないものでした。夥しい数の屍に群がる蝿に、屍肉を啄む鳥類、匂いに誘われて壁を乗り越えてくる無数の魔物、その場は一時、完全な混沌と化し、皆が皆、この世には救いの神がいないのだと、認識する最悪の日だったでしょう」
そして、限りなく緩慢に猛禽たる双眸が俺を凝視する。それと同時に柔らかな総総たる真っ白な毛を、10代目の膝の上にそっと乗せて、舌を出した。それに気が付いたのか、蝶よりも花よりも優しく、まるで昔から慣れているような手つきで愛撫する。
「キュ、ワウッ!」
耳に響く笛吹き声で軽く鳴くと、嬉しさをアピールするかの如く力の籠っていない声で小さく吠えた。
「家族は誰一人として生き残っていませんでした。帰る家も失い、あったのはただ憎しみだけ。それから俺は主犯格であった異邦人殲滅を心に固く誓い、数年間、何千回の生死を彷徨う過酷な修練に励み、第一目標であった10代目勇者となりました。……」
10代目は氷灼の双剣を肩に添えて、抱きしめる。
最悪な形で郷愁に駆られたのか……あるいは――。
「それから、どうなったんだ?」
「戴冠式直後であった為、雑用にも等しいゴタゴタに巻き込まれましたが、第10回虹龍討伐作戦にも赴き、数千人の討伐隊の内、数人と共に敢えなく帰還。祖国に帰ってから一番最初に下された命令は、俺が心の底から待ち望んでいた異邦人殲滅でした」
「そう、だったんだな」
「えぇ、そして、今も俺の目的は変わりません」
「なら――」
「ですが、最近では、まるで亡霊を追っているような気分です」
静寂。
「……」
「……」
視線がぶつかり合う。
俺は徐に武器を探し、10代目は柄を握りしめる。
「んんっ! あぁ~!」
傍らでただ一人、安らぎに身を投じていた少女が伸び伸びと体を限界まで伸ばし、起床の挨拶をし、微睡んだ目を白皙なる手でゴシゴシと擦り始めた。
「もう夜明けですね」
「そうだな」
「そろそろ行きましょう」
「あぁ、身支度を済ませるよ」
黒き影に覆い尽くされた、決して視線の離さぬ俺たちに次第に昇りゆく朝日が燦々と照らしていく。
最初は幾度となく10代目と手を交互に目を泳がせていたが、段々と纏わりついた恐怖の象徴たる身震いが治っていく。
「……」
土壇場になると何を言えばいいのか解らず、ただ酷く淀んだ虚ろな蒼き瞳だけをじっと見つめていた。
「殉職の報せが届いてからも不幸は続き、大国に不満を持っていた北諸国によって王都の反乱を招き、かろうじて一部に留まっていた暴動は激化し、我々、ノース家にも及ぶことに。父は今回の暴動の主犯格によって相打ちに、母は身籠ったまま惨殺。多くの兄弟が暴徒によって嬲り殺しにされました。その中には、まだ齢5にも満たない無垢な少女も」
次第に凄惨言い表せない程の悍ましい光景がありありと目に浮かび、頻りに胃中を突く吐き気を催す。
スノーウルフは恐る恐るではあるものの差し出された掌を籠手越しに匂いを嗅ぎ始め、少しでも指先が動けば、慌ただしく数メートルと後ずさっていくが、直ぐにまた舞い戻って来ては、周りの物などにも匂いを嗅ぐ。
「抵抗も虚しく犯される者、奴隷とされる若き者、手足を切り落とされ、見せ物になる者も居ました。悉く、奴等の行動は自由の意志に反していますが、所詮は自らの欲にも抗えない家畜以下の存在――。そう何度も己に言い聞かせ、反旗を翻した者は、女だろうが子供だろうが見境無く皆殺しにしました」
次第に10代目の抑揚さえも深き闇に沈んでいく。
そんな通夜にも等しい真っ暗な雰囲気を漂わせ、地獄に繋がる泥濘に嵌ったかの如く死んだ表情に、ウルフ側が気に掛け、ゆっくりと歩み寄っていく。
「そして、大国の精鋭部隊の強硬的な派遣により、たった一夜にして、無事に暴動は鎮圧しましたが、失われた犠牲は計り知れないものでした。夥しい数の屍に群がる蝿に、屍肉を啄む鳥類、匂いに誘われて壁を乗り越えてくる無数の魔物、その場は一時、完全な混沌と化し、皆が皆、この世には救いの神がいないのだと、認識する最悪の日だったでしょう」
そして、限りなく緩慢に猛禽たる双眸が俺を凝視する。それと同時に柔らかな総総たる真っ白な毛を、10代目の膝の上にそっと乗せて、舌を出した。それに気が付いたのか、蝶よりも花よりも優しく、まるで昔から慣れているような手つきで愛撫する。
「キュ、ワウッ!」
耳に響く笛吹き声で軽く鳴くと、嬉しさをアピールするかの如く力の籠っていない声で小さく吠えた。
「家族は誰一人として生き残っていませんでした。帰る家も失い、あったのはただ憎しみだけ。それから俺は主犯格であった異邦人殲滅を心に固く誓い、数年間、何千回の生死を彷徨う過酷な修練に励み、第一目標であった10代目勇者となりました。……」
10代目は氷灼の双剣を肩に添えて、抱きしめる。
最悪な形で郷愁に駆られたのか……あるいは――。
「それから、どうなったんだ?」
「戴冠式直後であった為、雑用にも等しいゴタゴタに巻き込まれましたが、第10回虹龍討伐作戦にも赴き、数千人の討伐隊の内、数人と共に敢えなく帰還。祖国に帰ってから一番最初に下された命令は、俺が心の底から待ち望んでいた異邦人殲滅でした」
「そう、だったんだな」
「えぇ、そして、今も俺の目的は変わりません」
「なら――」
「ですが、最近では、まるで亡霊を追っているような気分です」
静寂。
「……」
「……」
視線がぶつかり合う。
俺は徐に武器を探し、10代目は柄を握りしめる。
「んんっ! あぁ~!」
傍らでただ一人、安らぎに身を投じていた少女が伸び伸びと体を限界まで伸ばし、起床の挨拶をし、微睡んだ目を白皙なる手でゴシゴシと擦り始めた。
「もう夜明けですね」
「そうだな」
「そろそろ行きましょう」
「あぁ、身支度を済ませるよ」
黒き影に覆い尽くされた、決して視線の離さぬ俺たちに次第に昇りゆく朝日が燦々と照らしていく。
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