【完結】ステータスブレイク〜レベル1でも勇者と真実の旅へ〜

緑川 つきあかり

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鎖国渡航編0日〜1日

第十一話 鎖国レグラへの上陸

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「とても素晴らしい生き様だったんですね」

「大抵の人間がそう云うが、俺はこの陽を見て欲しかったよ。決して楽しい事ばかりじゃないが、まだ見ぬ世界を体験出来た。だからこそ――安易に死を美化するべきじゃない」

 サッパリする塩の波打つ海には多くの魚が優雅に泳ぐ美しい姿を見通して、共に飛びゆく渡り鳥の囀りに延々と耳を傾けてしまう。

「貴方自身はかなりの長生きのようですね」

「そうでもない。今で丁度、あの人と同じくらいだ。ついでに言っておくが、見送る側は大切な形見が残るばかりなんだ。この命もその一つだからそう簡単には死ねないんだよ」

「不躾に軽率な判断を、申し訳ありません」

「構わないさ、いつものことだ」

「フッ」
ウォリアは侮蔑を含んだ眼差しを露骨に沈める気持ちに向けて、俯きながらせせら笑う。

「団長、浜が見えてきました」

 名も無き兵員によって皆が視線を向ける。桟橋はおろか浜辺にさえも誰の朧げな人影の無き、新たなる大地――鎖国・レグラへと。

「妙だな」

 手渡された借り物の双眼鏡で覗けども、当然、真冬のビーチしか見当たらないだろう。

「舟数が上に人影が見当たらない」

「どうやら手厚い歓迎のようだな」

「つまり――」

「隠居生活中の先代と当代未熟な勇者に加えて、国家転覆の恐れがある冒険者集団が徒党を組んで国境に踏み入れば、誰だって警戒するさ」

 俺は久々に窮屈な船から体を縦に伸ばし、いつからか愛好している準備体操を始めた。

此処のは余程、臆病と言いますか……。現状の大局を見据えることもできないんですかね」

「凡人が不相応な地位に就くなんて、多々あるさ。さぁて、こっからどうするかなーと」

 鎖国か、そういや日本はどうなってるかな。

「少し手荒な真似でもするか」

 前のめりに当代もその後に続く。

人死にを出すような行為は、見過ごせませんので」そう先輩に睨みを効かす。

 お前は本当に国をあ。いや、よそう。私情で判断を誤れば次に死ぬのは俺たちだからな。

「対策はあるんですか」

「新入りが口を出すんじゃねぇ」

「ネモ、お前はいずれオノルドフにも届く。だから、是非とも意見を聞かせて貰おうか」

「な」

「そうですね。鎖国なので、自国民に対する愛は他を凌駕がするものであるが故に甘く、籠城戦に長けた戦術系統を用いるでしょう」

「かなり良い点を突いてる」

「過大評価だ。及第点だろ」

「お前がさっき疑問に思った事を答えよう」

「……?」

 わざとか否か、先頭にも聞こえるように。

「人は彼を孤高の戦士と呼んだ」
最初に言い出したのは此奴だったがな。

「それは」

「やがて知る時が来るさ。今すべきは脅威の排除。――スゥーッッ……総員、来るぞッ‼︎」

「日頃の行いってのは大事だな」

 遥かなる空から幾千万の槍の雨が降り注ぐ。
人工的な荒々しい波風を立てて散開し「船を全体に広げるのは懸命か、あるいは愚行か」

「答えはいつの世も神のみぞ知る。ですね」

 優秀なリーダーの従事者たちは、全員が泰然と迷わず両の掌を大空に向け、仁王立ち。

 兵団全員が並外れた魔術も兼ね備えているのか。成長したな、騎士団も。リーダーも。

「専門分野はどれ程までに。末恐ろしいね」

 耳を切り裂くような回転混じりの粉砕音が鳴り響き、俺は傘たる庇護下に身を隠しつつ身に纏う必要以上に重い服を収納していく。

「隊長が居なくなられてから、私共も大変、成長しましたから‼︎」

「そうか! 前世の指導者がさぞ、優秀だったんだろうな! 最早、今では俺以上だな!」
言葉を掻き消されんと怒号を飛ばしながら、
「貴方方も当然、併せ持っているでしょう‼︎」

「まぁ、勇者ですから」

 そして、上裸で海へと颯爽と飛び込んだ。

 体に鋭く針を突き刺すが如く身震いのする冷たい風光明媚なる真っ青な水中では――。

「っ⁉︎ プク。ブク」

 雄々しき水棲馬ケルピーの群れが、慌ただしく逃げ惑う妖艶で美しき見た目とは恐ろしく違える数多の人魚を、喰らわんとする鯨さらながのケートスを執拗に追いかけ回して、額に生やした炯々と一条の光芒たる蒼きツノで貫く。

 不安定な足場を掬われた脱落者や体を無惨にも穿たれた者が、その身から真っ赤な鮮血を流しながら沈んでいき、そんな儚く憐れな屍の魂をどさくさ紛れに誘う、狂気に満ちた絹を裂くような不気味な笑い声を上げる人魚らが、人間の槍に貫かれて共に落ちていく。

 そんな混沌と化した死線を掻い潜っていく最中、深淵にはキラリと何かが輝いていた。

 決して振り返らず、泳ぐ手足を止める事なく、ただ前だけに目を向け、息継ぎも忘れて

「ック――‼︎」

 進んでいく。

 

 おれは。俺たちは。

 今日の運を使い切り、大地に足を踏めた。

 五体満足のまま浜辺へと辿り着き、慎重に海から顔を覗かせ、周囲の状況を見渡した。

 側から見れば幻影魔術で身を隠していた数十人の兵が、傍では物騒な魔法をぶつぶつと小さく延々と詠唱する姿を露わにし、未だ矢継ぎ早に最高峰の攻撃の手を止めずにいた。

 無尽蔵だな。何処かに魔石でもあるのか?

 それにしても勇者と解っていながらのこの仕打ちか? 誰も彼も最悪な出迎え。過去の栄光に縋ろうとしないその姿勢は結構だが、これじゃあ目的の地が遠のいていく一方だ。

 アイテムボックスから【巾着袋】を召喚し、彷徨う船が揺らぐ程度の荒波の浅瀬に、攻撃に必死で目もくれずにいた一人の魔法使いへと、息を殺して密かに忍び寄っていく。

【ポールナイフを召喚】手にし、その身の全てを上がるとともに不安定な足場に紫紺の魔法陣を張り巡らせて、勢いよく踏み抜いた。

 そのまま、鳩が豆鉄砲食らった新人魔法使いの喉元に容赦なく刃を添えて、突き進む。

 巾着袋から大量の絢爛豪華な勲章を撮り放題さながら鷲掴みにしこれ見よがしに翻し、丹田に力を込めて怒号を飛ばす。

 ご立派な名誉勲章授与者を背負う兵へと。

「最高責任者はおられるか‼︎ 我々は対話を希望して馳せ参じた所存である。矛を抜くのであれば、相応の応酬を覚悟して頂きたい!」

「リア・イースト様であられるか!」

 まんまと乗ってくれた。

「あぁ、見ての通り」

「斯様な異常事態について、王代理が至急、お呼びである。単身でご同行を願いたい‼︎」

 王代理だと?

「承知した。他の者を待機させるよう指示をする故――即座に戦闘の停止を要求したい」

「全員、撃ち方止め! 先代勇者のリア・イースト様が来訪なさった。全員、直ちに戦闘を中止ッ。貴様らは王宮までの道を開け!」

 そんな耳障りを更なる轟音で応え、次々と殺伐とした兵共を退かせ、道を切り開いた。

 俺は二つの意味で身の丈に合わぬ真っ黒なローブの襟を握りしめてその面構えに覆し、

「ふっ、な、何が欲しいんですか」
まるで産まれたての羊のように身を震わせ、荒々しく呼吸を乱した童顔の青年を盾にし、
持ち物便利箱アイテムボックスから楕円の【蒼き結晶を召喚】

「――ッッ‼︎」

 するとそれは全体に亀裂が走っていき、漸く繭たる殻を自ら割って中身が飛び出した。

「久しぶりだな」

「ゥァー!」

 と、同時に人質を雑に大地に振り払った。

 窮屈な場所に随分と長いこと、眠りにつかせてしまっていたせいか――嫌味を乗せて体を伸び伸びと開放的に広げて、神々しく輝く身を濃い緑を帯びた若葉に包まれた、掌に収まるほど小さな精霊が久々に産声を上げる。

「起きて早々、こんなこと頼むのは悪いんだが、ちょっと仕事を頼まれてくれないか?」

【脳内文字記載 MP : 4を消費】し、手紙に記す。

 周囲が騒然とする中で俺は構わず、不機嫌に小さな頬を膨らます精霊を宥めつつ、ほんの軽い任務を熟してくれるように願い続けた。

「真っ黒なローブを羽織った頬に傷のある奴に、この手紙を渡して欲しいんだ」

 文を手を後ろに回して知らんぷりする強情な精霊の膝の上に置き、小さく頭を下げる。

 すると怒りが治ったのか、徐に目を細めながら窺い、配送品を抱きしめ、純粋無垢な笑みを浮かべて羽撃き、飛び上がっていった。

「ありがと」

 眩い鱗粉の類似品を飛ばし、いつの間にか傷塗れになっていた掌に舞い降りて、一刹那に淡い緑光を発して、傷口を癒してくれた。

 俺は踵を廻り、待ち侘びたと言わんばかりに厳かな面持ちの兵の背に向かっていった。
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