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鎖国渡航編0日〜1日
第十話 先々代との思い出Part2
しおりを挟む「それから何があったんですか?」
「気になるか? そんなに」
嫌味を返すと僅かに眉根を寄せて、小さく頷く。
「フッ。――――それからというもの、俺は先々代と同程度にまで鍛え上げることを目標に掲げられ、地獄の日々が待っていた。早朝から深夜に至るまで、一切の自由時間を許されず、基礎トレーニングを主に、先ずは起きて早々、異世界側の歴史を学び、質素な朝食を摂り終えれば、魔術を剣術、体術と、身体中にアザができるほど扱かれ、もう一歩も立て無くなるまで疲れ切った皆が寝静まる深夜には、半径数キロに及ぶ、孤児院全体の掃除をさせられた」
「いよいよ遠回しの拷問が始まったと気付いたのも束の間、俺はその日の内に逃げ出す用意を済ませて、悲しいけれど別れを誰にも告げることなく、一歩、外へと踏み出せば、先々代らに周囲を覆い囲まれ、罰として何千回もの素振りを朝までさせられたよ」
「でも、次第にそんな拷問にも体が慣れ始めたのか、死に物狂いで全ての仕事を終わらせても、死の淵に立たされているような疲労感を感じなかったんだ。正直、ちょっとワクワクしたよ。このまま自分は地獄の努力を続ければ、何処まで行くんだろうとね」
「時が経てば、周りとの大きな蟠りも解けてきてね、寧ろみんなの方から俺の周りに集まってくるようにさえなっていた。最初の頃に比べれば、本当に天と地の差だ。まぁ――地獄の訓練を除けばだけどね」
「それから一年間、修行の日々に明け暮れていたら、遂に特に変わった指示も無く、ずっと黙り込んでいた先々代が、ようやく口を開いたんだ。『もう十分だろう、お前はこれから一ヶ月の間に金等級の冒険者に昇格した後、最高峰の魔物を狩ってもらう。』そう云った」
「最初、言っていることがさっぱりだった。それはこっちの知識が浅かったからじゃない。一ヶ月、金等級、最高峰の魔物、これは……ただの素人が一年や二年の鍛錬で成し得るものじゃない。ようやっと地獄から解放されたと思えばこの始末、あぁ、裏切られたなと思ったよ」
「今でもそう思う程だ。あまりの惨さに周りが先々代を説得するくらいだったからね、先ず命は無いと思った。俺もちょっとは強くなったし、この力で皆から逃げれるくらいはもう造作もないだろうと」
「そう考えていた……。でも、先々代は俺にこう云ったよ。『己に可能性に限界を見出すな、誰にも成し得なかった前代未到の未来が、あと少し手を差し伸べれば、直ぐ其処にある。此処まで多くの地獄を経験し、培ってきたお前なら、もう道は一つしかないだろう』今でもよく覚えてる。もう声はうろ覚えだけどね。……初めて、奮い立ったよ」
「高揚した、ワクワクした。全てが嫌で逃げ出したこんな俺に、誰にも達成することのできなかった称号が、名誉が、希望が与えられる。と、そして、まんまと先々代の口車に乗せられてしまい、俺は逃げた東大国、パクスへと舞い戻った」
「そして、そのギルドで最も最高難易度のキメラの巣の依頼を意気揚々と受けた。つもりだったんだが、どうにもパーティメンバーが複数人も必要との条件を提示してきてな、酒場で何時間も悶々としたよ」
「何せ、ギルドはとても気さくに話しかけていいような雰囲気じゃない上に、殺伐とした連中ばかりで、いつイチャモンを付けられたっておかしくないと、せっかく鍛えた体なのに酒場の隅で怯えていたら、奇しくも東諸国でも有名な騎士団が訪れたおかげで、紆余曲折ありながらも同行することとなった」
「そして、ようやっと修行を終えた俺の初陣、晴れ舞台に胸を踊らせながら戦場へと向かっていた矢先、大量の土によって隠されていた洞穴から現れた魔物に、多くの騎士団連中が死に、俺も喉を潰された。まだ治癒魔法を詠唱しなければ、発動できなかった俺にとっては、命を脅かす最悪の出来事だったよ」
「他に治癒魔法に長けた者も既に魔物に殺されて居なかったし、心許ない応急手当てが関の山だったが、先々代との約束と自分のプライドに、死んだ騎士たちにも懸けて、途中で任務を放棄する訳にもいかず、肉体は限界を疾うに過ぎ、精神も限りなくすり減らされていながらも、残された僅かな戦力で作戦を立てる事となった」
「そして、周囲の魔物の駆除と突破口、巣の爆破、多種族の魔物の配下を統べる王の討伐、その全ての大役を俺が背負わされてしまった。うだうだと文句を垂れていても無駄に体力を消費すると、眉を顰めながら作戦実行まで仮眠を取って、遂に始まった」
「眩い閃光弾で魔物の注意を割いて、金等級の錚々たる実力者揃いが突破口を切り開き、何人もの人間が死んでいく戦場の最前線へと駆けていき、潜伏と魔法を得意とする精鋭が巣を爆破し、心の底では全く望んでいなかった王との対面を果たした」
「未だ覚悟が決まっていなかった俺とは裏腹に邂逅数秒で、王が即座に勘付き、戦闘が始まった。様子見の一挙手一投足が決定打に至る程の攻撃で、正直、間一髪で躱すのが限界だったよ。それでも、こんな所で志半ば、負ける訳にもいかないし、何よりあの人を見返してやりたかった一心で向かった。死の恐怖を捨てて死戦を潜り抜け、王の喉元へと」
「その時のことだけはあまり覚えていないんだが、気付けば、何故か大地に臥した王の上に立っていた。無事、謝礼などや報酬だとか諸々を終え、不必要な勲章と望んだ金等級の身分証と共に孤児院へと満身創痍で帰還したら、先々代が一番に迎えてくれた。再会した瞬間、張り詰めていた緊張が一気に解れたせいか倒れてしまい、先々代の暖かな胸に包まれ、そのまま眠りついた」
「その時に見た夢は先々代が微笑みながらボロボロの俺の体を扱く、今まで魘された中でも最悪のものだった。そんな生死を彷徨いながらも無事に目を覚ませば、真っ先に視界に入ったのは、手を握りしめて側にいた先々代の姿だった」
「先々代を目にした時から、いつの間にかたった一回の任務で成し遂げた悲劇の全貌を嬉々として語り、それを一言一句漏らす事なく聞き尽くし終えて、満面の笑みを浮かべながら、こう云った。『お帰り』と、俺は此処に来てから初めて心の底から笑って、どんな瞬間よりも喜んだ気がしたよ。ようやっと俺はこの人に認められたんだと、……そう感じてね」
「それから暫くは、特に猛特訓に苛まれる事もなく、子供たちや先々代と共に幸せな日々を送っていた。でも、そんな幸福な時間は長続きしない。改めて、そう感じさせられた瞬間だったよ」
「それは何の前触れもなく、先々代勇者を王都へと召集するべく訪れた東大国の兵のから始まった。その理由は、13年の周期で誕生する魔王を異邦人の成り変わりとして、単騎での討伐を命じる旨であった。先々代は必死に引き留める俺たちにこう云ったよ。『ただ目の前の任務だけに全てを尽くし、命に換えても完遂する』そんな座右の銘を掲げて、魔王城へと独りで赴き、そのまま俺との約束を破って、帰らぬ人となった」
この言葉でウォリアが微笑む。
「……」
「俺は才ある師の弟子として王連中に認められ、第9代目の勇者として選定し、無事に魔王を討伐した。そして、新たなる王と共に東大国を復興に貢献し、東諸国の民から絶大な人気を得て、数多の気高き勲章を手にして、銅像を建てられるほどとなったが、全てをやり遂げた後、俺は王の命により辺境の地に数年の間、現地人として身を潜めることとなった」
ふとシオンに視線を移せば、眉を顰めていた。
「そうだったんですね」
「あぁ、まぁその大半がまだ語り尽くしきれてないけどな」
「先々代の死にはどう思われたんですか?」
長く口を閉ざしていたネモが、ようやっと口を開く。
「どういう意味だ?」
「貴方は、その世にとっては名誉な死にどう思いましたか? と、思って言ったんです」
「そうだな……俺はただ、あの人と共に生きてきた日々が何よりも変え難いものだった。だから、仮に平和を、国を、自分自身を裏切ることになっても、醜く生き存えて欲しかったと、今でも強く思うよ」
国に全てを捧げて、何もかも失い、誰よりも哀れで雄々しく誉高い死を遂げた最高の勇者であった。
もう一度、出会いたい。
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