47 / 52
本編
大地に縛られし英雄
しおりを挟む
「エルフの回収は必要無いのか?」
「あれは俺の仕事じゃありませんよ」
二人は道すがらに、淡白なる言葉を交わす。
「ならば、何故、お前は彼処にいた?」
「まぁ、ちょっとしたフライングですかね」
「そうか」
唐突に静寂が訪れる。
「ちょっとの間、何か語ってくれません?」
「これ以上、俺に何を求める?」
「別になんも。むしろ俺に何を求めてるんです?」
「……」
「……」
「…」
「は。はは。あぁ、ここ最近、何度も過去語りをせがまれるな。俺は、俺はな、ただ…」
「はい」
「己の在り方さえ理解できぬ幼き頃に、兄にアーサー・ノースドラゴンという名の勇者に命を救われた。あの時の温もりが忘れられなかった。兄の築き上げた道を、栄光を、国を、壊したく無かった。その為に大勢殺してきた。けど、俺は、俺は……何も守れなかった」
案内人が膝から崩れ落ちて顔を覆い隠した勇者の肩に手を添えんと、徐に腕を伸ばす。
だが。
「いつまで隠れているつもりだ!!さっさと出てきたらどうだ!?」
怒気の籠った一言が、その歩みを止める。
ようやっと、彼等の前に私は姿を現す。
「すまない、盗み聞きをするつもりは無かったんだ」
フードで隠れていても尚、不満げな様子を頻りに感じさせる案内人と、狂気を孕んだ突き刺すような眼差しを向ける勇者であった。
「自己紹介が遅れてしまったね。私は、大賢者の使者の末裔……」
「訊いてないんで、大丈夫ですよ。つーか、俺たちの動向を逐一、確認なさっていたんですか?」
「あぁ、水晶でね」
「へー」
「君に、勇者に用があってね」
「消えろ!もうこれ以上、俺に関わるな」
「そういう訳にも行かないんだ。……君の選択によっては、魔王も救えるかもしれない」
「は?」
「随分と夢物語を恥ずかしげもなく仰いますね。でも、もう壊れかけのヒスロア様に突きつけるのは、意外と親切心に欠けてるんじゃないんですか?」
「訳あって、私はこの地に縛られていてね。思うように君たちに接触する事が叶わなかったんだ」
「……その理由をお訊ねしても?」
「この大地の呪いに縛られてね、魔王城付近以外の場所に立ち入ると、強制的に呪いが発動する」
「それは13年前からですか?」
「……」
「……」
「さぁ、どうだったかなぁ」
「俺はてっきり、正義面した馬鹿が、四大国の王の御前で、世界救出だ何だと宣って、あっさり投獄された脱獄犯かと思いましたよ」
「そのような同志が居たのか」
「類は友を呼ぶと言いますからね。もしかして、あんた一人じゃないんじゃないですか?」
「いいや、私一人だけだが?」
「周囲に視線を感じるような気がしますけどね?」
「……。それは恐らく、私の分身だろう」
「へぇ。分身ですか、そりゃ凄い」
周囲に配備していた数体の傀儡を容易に見抜き、剰え、その本質さえも勘付くとは、この案内人、慧眼の持ち主のようだ。
「……私の施設まで案内しよう」
「えぇ、そりゃどうも。さぁ、立ってくださいヒスロア様、小汚い牢獄に案内してくださるそうですよ」
「……」
勇者は案内人に肩を支えてもらいながら、渋々、その牛歩の如く歩みを進めていった。
「で、その魔王を救う方法ってのは何なんです?」
「詳しくは、追々説明するつもりだが、そうだな…簡単に言えば、体内に循環する強大な毒の魔力を浄化し、肉体を完全に生前の姿に戻す。これが第一段階だ」
「その第一段階もまだ終えていないってことは、ヒスロア様を待っていたみたいですね」
「先代と接点のある彼の方がその確率が上がると思ってね。加えて、私にできるのはあくまで救出の補助であって、その仲介の域を出ない」
「結局、一人じゃ何一つ成すことのできぬ、憐れな末裔様って解釈で合ってますかな?」
「あぁ、好きに捉えてもらって構わない」
案内人の毒舌をあしらい続け、ようやっと辿り着く。
「やっぱ、ボロい」
「あれは俺の仕事じゃありませんよ」
二人は道すがらに、淡白なる言葉を交わす。
「ならば、何故、お前は彼処にいた?」
「まぁ、ちょっとしたフライングですかね」
「そうか」
唐突に静寂が訪れる。
「ちょっとの間、何か語ってくれません?」
「これ以上、俺に何を求める?」
「別になんも。むしろ俺に何を求めてるんです?」
「……」
「……」
「…」
「は。はは。あぁ、ここ最近、何度も過去語りをせがまれるな。俺は、俺はな、ただ…」
「はい」
「己の在り方さえ理解できぬ幼き頃に、兄にアーサー・ノースドラゴンという名の勇者に命を救われた。あの時の温もりが忘れられなかった。兄の築き上げた道を、栄光を、国を、壊したく無かった。その為に大勢殺してきた。けど、俺は、俺は……何も守れなかった」
案内人が膝から崩れ落ちて顔を覆い隠した勇者の肩に手を添えんと、徐に腕を伸ばす。
だが。
「いつまで隠れているつもりだ!!さっさと出てきたらどうだ!?」
怒気の籠った一言が、その歩みを止める。
ようやっと、彼等の前に私は姿を現す。
「すまない、盗み聞きをするつもりは無かったんだ」
フードで隠れていても尚、不満げな様子を頻りに感じさせる案内人と、狂気を孕んだ突き刺すような眼差しを向ける勇者であった。
「自己紹介が遅れてしまったね。私は、大賢者の使者の末裔……」
「訊いてないんで、大丈夫ですよ。つーか、俺たちの動向を逐一、確認なさっていたんですか?」
「あぁ、水晶でね」
「へー」
「君に、勇者に用があってね」
「消えろ!もうこれ以上、俺に関わるな」
「そういう訳にも行かないんだ。……君の選択によっては、魔王も救えるかもしれない」
「は?」
「随分と夢物語を恥ずかしげもなく仰いますね。でも、もう壊れかけのヒスロア様に突きつけるのは、意外と親切心に欠けてるんじゃないんですか?」
「訳あって、私はこの地に縛られていてね。思うように君たちに接触する事が叶わなかったんだ」
「……その理由をお訊ねしても?」
「この大地の呪いに縛られてね、魔王城付近以外の場所に立ち入ると、強制的に呪いが発動する」
「それは13年前からですか?」
「……」
「……」
「さぁ、どうだったかなぁ」
「俺はてっきり、正義面した馬鹿が、四大国の王の御前で、世界救出だ何だと宣って、あっさり投獄された脱獄犯かと思いましたよ」
「そのような同志が居たのか」
「類は友を呼ぶと言いますからね。もしかして、あんた一人じゃないんじゃないですか?」
「いいや、私一人だけだが?」
「周囲に視線を感じるような気がしますけどね?」
「……。それは恐らく、私の分身だろう」
「へぇ。分身ですか、そりゃ凄い」
周囲に配備していた数体の傀儡を容易に見抜き、剰え、その本質さえも勘付くとは、この案内人、慧眼の持ち主のようだ。
「……私の施設まで案内しよう」
「えぇ、そりゃどうも。さぁ、立ってくださいヒスロア様、小汚い牢獄に案内してくださるそうですよ」
「……」
勇者は案内人に肩を支えてもらいながら、渋々、その牛歩の如く歩みを進めていった。
「で、その魔王を救う方法ってのは何なんです?」
「詳しくは、追々説明するつもりだが、そうだな…簡単に言えば、体内に循環する強大な毒の魔力を浄化し、肉体を完全に生前の姿に戻す。これが第一段階だ」
「その第一段階もまだ終えていないってことは、ヒスロア様を待っていたみたいですね」
「先代と接点のある彼の方がその確率が上がると思ってね。加えて、私にできるのはあくまで救出の補助であって、その仲介の域を出ない」
「結局、一人じゃ何一つ成すことのできぬ、憐れな末裔様って解釈で合ってますかな?」
「あぁ、好きに捉えてもらって構わない」
案内人の毒舌をあしらい続け、ようやっと辿り着く。
「やっぱ、ボロい」
10
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる