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本編
勇者一行VS歴代勇者
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泰然と周囲を見渡しながら、勇者一行に淡々と歩みを進めていく勇者たち。
「ねぇ!」
アイシアの必死な訴えが、立ち尽くすウェストラを我に返し、疾くに右手で印を結ぶ。
「解!」
そんな涙ぐましい努力も虚しく、勇者たちの眼前には土石の壁が突如としてせり出し、一瞬にして無に帰した。
「流石は勇者。十八番の対策もあるんだな」
誰一人、口の効かぬ泥の人形さながらに、至る所がひび割れて厳然たる肉体を治癒し、それぞれの剣を虚無から生み出していった。
「……マズイな」
唯一の救世主である勇者に目を向けるも、未だ、我を忘れて、頗る息を切らしていた。
「おい!」
怒号を飛ばした瞬間、瞬く間に眼前へと迫った一人の勇者が右脚の踵に足を巡らせて、丹田に拳を繰り出す。
「ぶはっ!」
ウェストラはふわりと浮かび上がった所で、ようやっと魔導書の本扉を開くが、矢継ぎ早に放たれた回し蹴りに更なる高みへと吹っ飛ぶとともに、迫り出す一本の鈍色の鎖で宙に繋ぎ留められ、血飛沫を撒き散らした。
「正義を見失うか?お前は勇者だろう!?」
悠然と手を拱いていた幹部が檄を飛ばし、勇者は颯爽と鎖の勇者に迫り、拳を交える。
だが、片手間さながらにウェストラに注意を割いたまま、振るった拳を手軽くいなし、続く第二撃目を掌で受け止めて、印を結ぶ。
鎖を解き放つと同時に二人の術によって、ウェストラは豪炎なる大息に呑み込まれた。
「無じぃ……」
安否の確認さえも許さぬ勇者に、限りなく小振りな一打を振るうが、大蛇の如くその腕に巻き付いて、あらぬ方向へと捻じ曲げた。
肉を裂き、骨を粉々に砕いた鈍い音が響き渡って、僅かに苦痛に顔を歪めるとともに、脛に足を振り抜き、その場に跪かせ、異様な2本の針を口から放つ。
それは糸も容易く鎧諸共土手っ腹を貫き、流れるような手繰り寄せる動作によって、再び、勇者の体躯を往来し、二つは合わさり、剣となって既に振りかぶった手に終着する。
だが、疾くに丹田の土石の鎧に触れて、紫紺の魔法陣を生んで、間一髪の所で脱した。
跪く勇者は印を結び、剣を振るわんと忽然と現れた紫紺の陣に、足を乗せる鎖の勇者。
目にも止まらぬ速さで距離を詰める最中、勇者の前に忽爾と煌々たるアイシアが姿を現し、触れる寸前であった刃をピタリと止める。
「幻影です」
そして、その一言とともに勇者の耳元を通り過ぎてゆき、黄金を帯びた光の一矢が、幻影アイシアの胸ごと鎖の勇者を難なく貫く。
勇者を射抜き、光の弓を携えていたのは、紛うことなきアイシアであった。
徐に、侮蔑を含んだ鋭い眼差しを向ける。
それは勇者が、思わず息を呑むほどに。
次第に形が崩れていく中で、最後の力を振り絞って、剣を円を描いて宙に舞い上げた。
異様な黒雲なる色を帯びた剣は、緩やかに大地に突き刺さり、勇者の周りを覆い隠す。
汚濁な液体が渦を描くように、勇者の周りを幾度となく疾風の如く速さで廻っていく。
呆気に取られながらも疾くに立ち上がった瞬間、三つの刃が液体を裂いて同時に迫る。
喉笛を、胸部を、腱を、それぞれの刃は阿吽の呼吸で俄かに襲い掛かったが、怒号が響く。
「紅ッッ!!」
ウェストラの猛き咆哮が、致命傷になり得た勇者たちの剣を渋々退かせ、満身創痍の勇者は眼下に、眩い白き魔法陣を外へと引く。
風切り音が液体に覆い被さるとともに、煌々とした光に包まれ、その場から姿を消す。
3人はかろうじて合流を果たすが、延々と息を切らした2人は、既に風前の灯であった。
「ようやっと、一人目か」
「いいや?俺を殺さぬ限り……終わらんぞ」
台詞を吐き捨て、三者の勇者の手によって、再び、怪訝な形相を浮かべて、舞い戻った。
「はは、冗談だろ?」
苦笑に誘われ始めたウェストラの眼前に、異様に分厚き土石の槍が、立ち所に迫って、未だ、跪く勇者が疾くに盾が如く氷剣を翳す。
「チッ!……」
金属音を鳴り響かせて、優雅に宙に舞う。
その槍を手繰り寄せんと、掌を上に差し伸べながら、徐に天を仰ぐ。
「……ん?」
やがて、その石槍は人の形を成していく。
「偽装だ!注意しろっ!」
投擲。
双方の氷剣と氷槍が交差し、槍は大地に突き刺さり、剣は僅かにその土の身を裂いた。
外したかに思われていた氷槍は、次第に己の形を崩していき、地面に広がっていった。
周囲に注視する二人の足場を、薄氷さながらの姿となった氷槍が土石に成り代わって、文字を刻み始めていく。
勇者たちは顔面に目掛けた遠距離魔法を仕掛けるばかりで、一向に攻める気配がなく、ウェストラに猜疑心を植え付けつつあった。
その煩慮の念は類い稀なる直感を働かせ、緩やかに眼下へと視線を向けさせた。
「おいっ!?」
その驚嘆と焦燥を漂わせる一言が、勇者の目をも足元に釘付けにし、勇者は印を結ぶ。
魔法陣は既に完成間近であった。
「解」
不完全。
解の詠唱を発した途端に、その刻印は完全に進みゆく歩みを止め、再び、運び出した。
二人の終局へと。
そして、全ての陣が繋ぎ合わさって、偏狭にして堅牢無比なる黒き鳥籠が作り出された。
「チッ!」
「……解!」
一辺倒な勇者の言葉も無数の投擲によって虚しく終わりを遂げ、勇者たちの大技が今正に放たれんとしていた。
「エルフ!お前は一旦、身を隠してろ!!」
そんな二人の傍らに佇んでいながらも、不思議と無傷のアイシアに、怒号を飛ばした。
「で、でも!」
「こんな修羅場を潜り抜けることなんて造作もない!!お前は己の命を第一に考えろ!」
狐疑逡巡。
「分かった。でも、絶対だよ!!絶対に二人とも死なないでね!?」
「あぁ、当たり前だ」
ウェストラは静かに微笑んだ。
「二人だとさ」
勇者たちの数多の魔法が織り混ざりし、鳥籠を遥かに上回った、禍々しい渾身の一撃が
立ち尽くす二人に放たれた。
「……ウォール。シールド。アルマトゥーラ。英雄の末裔なる我らに今一度、光を見せよ」
「ったく、仕事が早ぇな」
「……アマテラスッッ!!」
燦々とした光の人影が徐に衣服らしき物を二人に包み込ませ、忽然とその姿を消した。
陽の光が降り注ぐ大雲の上に現れた二人。
「異邦人の技か、全て葬り去られたとばかり思っていたが、こんなのがまだあったのか」
「北大国の図書館にあった、古代の書物から参考にさせてもらった。それには数多の禁術が溢れていたぞ」
「へぇ。そりゃ是非、見てみたいね」
ボーボーと耳を劈く風切り音が絶え間なく襲い続ける中、傷を立ち所に治癒していき、二人は疾風の如く、降り立っていく。
「勝算はあるのか?」
「五分五分と言った所だな。注意を引いてさえくれれば、奴の……幹部の勝機はある!」
「毎度毎度、面倒な仕事押し付けやがって」
「何か言ったか!?」
ウェストラの愚痴を風切り音が断截し、僅かに離れた勇者の耳には届いていなかった。
「ハァ……承知したッ!と言ったんだ!!」
朦朧としていた大地が次第に姿を現して、二人は緩慢に着地体制に入っていく。
そして、囂々たる地響きを辺り一体に轟かせて、颯と勇者たちへと駆け出していった。
だが、当然、大地からせり出す無数の棘によって二人は離別し、一瞬にして囲まれる。
「おい!!見るな!」
鎖の勇者率いる六人の勇者を相手取って、かろうじて身を保っていたが、たった一人、たった一人の拳によって吹き飛ばされた。
「あの馬鹿っ!!」
それは、その姿は石碑に仁王立ちする勇者さながらに、黄金の短髪に白皚皚たる外套、煌々たる大剣を携え、徐に蒼き目を向ける。
再び、茫然自失。
ウェストラはとめどなく真っ赤な血反吐を零し続ける勇者に手を差し向けるが、その刹那の隙を勇者たちは見逃す筈も無かった。
「ぁ、チィィィッッ!!」
その腕が鮮血を飛沫上げて宙に舞う。
ウェストラは憤りの限界点を超え、疾くに魔導書の本扉を開き、立ち所に傷を癒やしていくとともに、紫紺を帯びた突風を放った。
周囲の勇者が忽ち、粉々に打ち砕かれて、遂に幹部が歩みを進めていく。
幾度となく振り撒かれた稚児の癇癪を収めるが如く、蠱毒を一滴の雫に凝縮したかのような禍々しさに包まれた一撃を前にして、幹部は悠然と闊歩する。
そして、無比なる咆哮を放つウェストラの魔導書を平然と燃やし尽くし、二指を弾く。
瞬く間に、煌々とした短剣が生み出され、ウェストラの喉笛に容赦なく突き刺した。
血飛沫が舞い、血反吐を零しながら、緩やかに我に返っていくのも束の間、未だ尚、親の怒りは治らんと言わんばかりに、幹部の矢継ぎ早の攻戦は止まる気配を知らずにいた。
みぞおちを紫紺の魔法陣が巡る掌で、捻りながら打ち込んで、丹田に鈍色の鎖を繋ぐ。
突き飛ばされても、一瞬にして返り咲き、再び、目にも留まらぬ速さの拳を振るった。
肋骨の粉砕音が鈍く響き渡るとともに、遥か上空へと吹き飛ばされていく。
先代との再会を果たした勇者は斯くも呆気なく、全身を絶え間なく切り裂かれ、跪く。
そして、パキッ!そんな音を立てて、大剣の装甲が、刃が、殻に亀裂が走った。
紫紺の長剣が垣間見え、毒を吐くが如く、禍々しい光の帯を放って。
「ねぇ!」
アイシアの必死な訴えが、立ち尽くすウェストラを我に返し、疾くに右手で印を結ぶ。
「解!」
そんな涙ぐましい努力も虚しく、勇者たちの眼前には土石の壁が突如としてせり出し、一瞬にして無に帰した。
「流石は勇者。十八番の対策もあるんだな」
誰一人、口の効かぬ泥の人形さながらに、至る所がひび割れて厳然たる肉体を治癒し、それぞれの剣を虚無から生み出していった。
「……マズイな」
唯一の救世主である勇者に目を向けるも、未だ、我を忘れて、頗る息を切らしていた。
「おい!」
怒号を飛ばした瞬間、瞬く間に眼前へと迫った一人の勇者が右脚の踵に足を巡らせて、丹田に拳を繰り出す。
「ぶはっ!」
ウェストラはふわりと浮かび上がった所で、ようやっと魔導書の本扉を開くが、矢継ぎ早に放たれた回し蹴りに更なる高みへと吹っ飛ぶとともに、迫り出す一本の鈍色の鎖で宙に繋ぎ留められ、血飛沫を撒き散らした。
「正義を見失うか?お前は勇者だろう!?」
悠然と手を拱いていた幹部が檄を飛ばし、勇者は颯爽と鎖の勇者に迫り、拳を交える。
だが、片手間さながらにウェストラに注意を割いたまま、振るった拳を手軽くいなし、続く第二撃目を掌で受け止めて、印を結ぶ。
鎖を解き放つと同時に二人の術によって、ウェストラは豪炎なる大息に呑み込まれた。
「無じぃ……」
安否の確認さえも許さぬ勇者に、限りなく小振りな一打を振るうが、大蛇の如くその腕に巻き付いて、あらぬ方向へと捻じ曲げた。
肉を裂き、骨を粉々に砕いた鈍い音が響き渡って、僅かに苦痛に顔を歪めるとともに、脛に足を振り抜き、その場に跪かせ、異様な2本の針を口から放つ。
それは糸も容易く鎧諸共土手っ腹を貫き、流れるような手繰り寄せる動作によって、再び、勇者の体躯を往来し、二つは合わさり、剣となって既に振りかぶった手に終着する。
だが、疾くに丹田の土石の鎧に触れて、紫紺の魔法陣を生んで、間一髪の所で脱した。
跪く勇者は印を結び、剣を振るわんと忽然と現れた紫紺の陣に、足を乗せる鎖の勇者。
目にも止まらぬ速さで距離を詰める最中、勇者の前に忽爾と煌々たるアイシアが姿を現し、触れる寸前であった刃をピタリと止める。
「幻影です」
そして、その一言とともに勇者の耳元を通り過ぎてゆき、黄金を帯びた光の一矢が、幻影アイシアの胸ごと鎖の勇者を難なく貫く。
勇者を射抜き、光の弓を携えていたのは、紛うことなきアイシアであった。
徐に、侮蔑を含んだ鋭い眼差しを向ける。
それは勇者が、思わず息を呑むほどに。
次第に形が崩れていく中で、最後の力を振り絞って、剣を円を描いて宙に舞い上げた。
異様な黒雲なる色を帯びた剣は、緩やかに大地に突き刺さり、勇者の周りを覆い隠す。
汚濁な液体が渦を描くように、勇者の周りを幾度となく疾風の如く速さで廻っていく。
呆気に取られながらも疾くに立ち上がった瞬間、三つの刃が液体を裂いて同時に迫る。
喉笛を、胸部を、腱を、それぞれの刃は阿吽の呼吸で俄かに襲い掛かったが、怒号が響く。
「紅ッッ!!」
ウェストラの猛き咆哮が、致命傷になり得た勇者たちの剣を渋々退かせ、満身創痍の勇者は眼下に、眩い白き魔法陣を外へと引く。
風切り音が液体に覆い被さるとともに、煌々とした光に包まれ、その場から姿を消す。
3人はかろうじて合流を果たすが、延々と息を切らした2人は、既に風前の灯であった。
「ようやっと、一人目か」
「いいや?俺を殺さぬ限り……終わらんぞ」
台詞を吐き捨て、三者の勇者の手によって、再び、怪訝な形相を浮かべて、舞い戻った。
「はは、冗談だろ?」
苦笑に誘われ始めたウェストラの眼前に、異様に分厚き土石の槍が、立ち所に迫って、未だ、跪く勇者が疾くに盾が如く氷剣を翳す。
「チッ!……」
金属音を鳴り響かせて、優雅に宙に舞う。
その槍を手繰り寄せんと、掌を上に差し伸べながら、徐に天を仰ぐ。
「……ん?」
やがて、その石槍は人の形を成していく。
「偽装だ!注意しろっ!」
投擲。
双方の氷剣と氷槍が交差し、槍は大地に突き刺さり、剣は僅かにその土の身を裂いた。
外したかに思われていた氷槍は、次第に己の形を崩していき、地面に広がっていった。
周囲に注視する二人の足場を、薄氷さながらの姿となった氷槍が土石に成り代わって、文字を刻み始めていく。
勇者たちは顔面に目掛けた遠距離魔法を仕掛けるばかりで、一向に攻める気配がなく、ウェストラに猜疑心を植え付けつつあった。
その煩慮の念は類い稀なる直感を働かせ、緩やかに眼下へと視線を向けさせた。
「おいっ!?」
その驚嘆と焦燥を漂わせる一言が、勇者の目をも足元に釘付けにし、勇者は印を結ぶ。
魔法陣は既に完成間近であった。
「解」
不完全。
解の詠唱を発した途端に、その刻印は完全に進みゆく歩みを止め、再び、運び出した。
二人の終局へと。
そして、全ての陣が繋ぎ合わさって、偏狭にして堅牢無比なる黒き鳥籠が作り出された。
「チッ!」
「……解!」
一辺倒な勇者の言葉も無数の投擲によって虚しく終わりを遂げ、勇者たちの大技が今正に放たれんとしていた。
「エルフ!お前は一旦、身を隠してろ!!」
そんな二人の傍らに佇んでいながらも、不思議と無傷のアイシアに、怒号を飛ばした。
「で、でも!」
「こんな修羅場を潜り抜けることなんて造作もない!!お前は己の命を第一に考えろ!」
狐疑逡巡。
「分かった。でも、絶対だよ!!絶対に二人とも死なないでね!?」
「あぁ、当たり前だ」
ウェストラは静かに微笑んだ。
「二人だとさ」
勇者たちの数多の魔法が織り混ざりし、鳥籠を遥かに上回った、禍々しい渾身の一撃が
立ち尽くす二人に放たれた。
「……ウォール。シールド。アルマトゥーラ。英雄の末裔なる我らに今一度、光を見せよ」
「ったく、仕事が早ぇな」
「……アマテラスッッ!!」
燦々とした光の人影が徐に衣服らしき物を二人に包み込ませ、忽然とその姿を消した。
陽の光が降り注ぐ大雲の上に現れた二人。
「異邦人の技か、全て葬り去られたとばかり思っていたが、こんなのがまだあったのか」
「北大国の図書館にあった、古代の書物から参考にさせてもらった。それには数多の禁術が溢れていたぞ」
「へぇ。そりゃ是非、見てみたいね」
ボーボーと耳を劈く風切り音が絶え間なく襲い続ける中、傷を立ち所に治癒していき、二人は疾風の如く、降り立っていく。
「勝算はあるのか?」
「五分五分と言った所だな。注意を引いてさえくれれば、奴の……幹部の勝機はある!」
「毎度毎度、面倒な仕事押し付けやがって」
「何か言ったか!?」
ウェストラの愚痴を風切り音が断截し、僅かに離れた勇者の耳には届いていなかった。
「ハァ……承知したッ!と言ったんだ!!」
朦朧としていた大地が次第に姿を現して、二人は緩慢に着地体制に入っていく。
そして、囂々たる地響きを辺り一体に轟かせて、颯と勇者たちへと駆け出していった。
だが、当然、大地からせり出す無数の棘によって二人は離別し、一瞬にして囲まれる。
「おい!!見るな!」
鎖の勇者率いる六人の勇者を相手取って、かろうじて身を保っていたが、たった一人、たった一人の拳によって吹き飛ばされた。
「あの馬鹿っ!!」
それは、その姿は石碑に仁王立ちする勇者さながらに、黄金の短髪に白皚皚たる外套、煌々たる大剣を携え、徐に蒼き目を向ける。
再び、茫然自失。
ウェストラはとめどなく真っ赤な血反吐を零し続ける勇者に手を差し向けるが、その刹那の隙を勇者たちは見逃す筈も無かった。
「ぁ、チィィィッッ!!」
その腕が鮮血を飛沫上げて宙に舞う。
ウェストラは憤りの限界点を超え、疾くに魔導書の本扉を開き、立ち所に傷を癒やしていくとともに、紫紺を帯びた突風を放った。
周囲の勇者が忽ち、粉々に打ち砕かれて、遂に幹部が歩みを進めていく。
幾度となく振り撒かれた稚児の癇癪を収めるが如く、蠱毒を一滴の雫に凝縮したかのような禍々しさに包まれた一撃を前にして、幹部は悠然と闊歩する。
そして、無比なる咆哮を放つウェストラの魔導書を平然と燃やし尽くし、二指を弾く。
瞬く間に、煌々とした短剣が生み出され、ウェストラの喉笛に容赦なく突き刺した。
血飛沫が舞い、血反吐を零しながら、緩やかに我に返っていくのも束の間、未だ尚、親の怒りは治らんと言わんばかりに、幹部の矢継ぎ早の攻戦は止まる気配を知らずにいた。
みぞおちを紫紺の魔法陣が巡る掌で、捻りながら打ち込んで、丹田に鈍色の鎖を繋ぐ。
突き飛ばされても、一瞬にして返り咲き、再び、目にも留まらぬ速さの拳を振るった。
肋骨の粉砕音が鈍く響き渡るとともに、遥か上空へと吹き飛ばされていく。
先代との再会を果たした勇者は斯くも呆気なく、全身を絶え間なく切り裂かれ、跪く。
そして、パキッ!そんな音を立てて、大剣の装甲が、刃が、殻に亀裂が走った。
紫紺の長剣が垣間見え、毒を吐くが如く、禍々しい光の帯を放って。
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