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本編
勇者VS幹部
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「アーサー・ノースドラゴン。勇者だ」
勇者の唐突な自己紹介にも幹部は微動だにせず、それぞれの刃は交差する。
双方の間に生んだ無数の火花が、自然とカースを必要以上に退かせた。
その頃、ウェストラは兵士達の雑踏に息を潜めて紛れ込み、虎視眈々と状況を窺っていた。
縦横無尽に飛び回る傀儡の光景を。
「全員でサポートするぞ!」
前衛に鎧を纏いし者たちが、背を庇護する盾のように陣形を組んだ。
「あれは何なんだ!?」
「味方!?それとも敵なの?」
兵士たちの間で不安が飛び交った。
「案ずるな!勇者様の作り出したゴーレムだ!!」
舞い戻ったアルベルトの一言が、過ちの道に誘われた、負の伝播の歩みを断ち切った。
「ゴーレム!?あれが?」
「へぇ、面白いな」
ウェストラは不敵な笑みを浮かべ、人混みを押し除けるように払い除け、前線に進む。
「足手纏いは不要だ。お前らの面倒まで見ていられる保証は無いぞ!実力のない者、又、自らの実力を無さを自負する者は、国の警護に当たってくれ!」
アルベルトの警告に数名の兵士たちが、不安げに周囲の者たちに目を泳がせた。
「承知した。全員、命令通り行くぞ!!」
「リーダシップ様々だな。ありがたい限りだ」
兵士たちは、むざむざと退いていく。
着々と殺伐とした兵団員たちが集まり始め、既に、数十のゴーレムを大地に跪かせていた。
「ゴーレムの内部に魔物がいると言っていたが、実際の所、どうなんだ?」
「さぁな。開けてみるまでは分からねぇよ」
「なら……」
「あぁ、ゴーレムごと木っ端微塵にする」
「土竜《ダートドラゴン》」
「土竜《ダートドラゴン》」
疾くに印を結ぶ双方の眼下の荒涼たる大地が掘り出されるように盛り上がり、大口開けた土竜が地に突っ伏すゴーレムへと襲い掛かった。
「リターン」
氷の破片たる刃が周囲を縦横無尽に行き交い、避けるばかりの幹部に微かながらも、確実に傷を与えていった。
一片の刃が頬を掠め、紅き鮮血が滴る。
幹部に傷を与えて行く度に、勇者の表情はまるでその行為を拒むかように、憐れみに、怒りに、苦しみに、顔を酷く歪めていた。
それでも、その刃が地に臥すことはない。
決して。
純白の外套を靡かせ、広々とした背を向ける勇者に、僅かながらに不思議な感情を抱いていた。
そのカースの心情の変化には、肉体的にも著しく影響を及ぼしていた。
ただ手を拱くばかりで、傍観者さながらの己の立場に腑が煮え繰り返ったように、体の内部は地表を焼くほどの高熱を帯びていた。
そして、カースの力は開花する。
両の手を大地に当てがい、鱗が土竜の如く花を土を石を容易く抉っていた。
それは、避ける間も無くコンマ数秒に、魔王幹部に喰らいつく大蛇となって、両足に螺旋を描きながら巻き付いた。
それと同時に、勇者は低空に飛んだ。
だが、カースの開花は勇者の仇となった。
草花に覆い隠されし大地に刻まれた魔法陣が、大きく踏み出した勇者の足が乗り、煌々たる光を発し、瞬く間に位置が入れ替わる。
勇者が突然の出来事に瞠目するとともに、幹部は少女の元へと一心不乱に飛び込んだ。
「リター…!?……チッッ!!」
少女の顔が恐怖に染まっていく様を、ただ茫然と注視することしかできなかった。
だが、
カースが拳を振るうよりも、幹部が刃を振り終えるよりも、僅かに早く、勇者は携えた氷剣を己の胸に突き刺した。
清澄なる氷に真っ赤な雫が滴り落ちていく。
「身を切り裂いて、己を成せ。自らの血肉を持って奴を喰らい殺せ。貪骸の獣よ」
その詠唱が血溜まりを魚のように大地を泳がせ、瞬く間に体躯を緋色の魚が拘束した。
何かを悟ったのも束の間、勇者は淡々と歩み寄り、斯くも呆気なく幹部の首を刎ねた。
まるで飽くほどに見慣れた術を真似るように、不可思議な力を模倣し、勝ちを掴んだ。
それなのに、勇者の顔は浮かなかった。
幹部が背から倒れてゆく最中に、自らの体を治癒もせず、カースの安否を尋ねる訳でもなく、ただ只管に彼女の元へと向かっていた。
血反吐を零し、とめどなく緋色の鮮血を流しながらも、花畑に背中が堕ちる瞬間、両腕で支えるように抱き抱えた。
そして、彼女の顔を見て、静かに囁いた。
「……おやすみ」
だが、二つに割れた金の楕円の札が地に落ちる。サクス・ミリテリアスと刻まれた黄金色の札を。
勇者の唐突な自己紹介にも幹部は微動だにせず、それぞれの刃は交差する。
双方の間に生んだ無数の火花が、自然とカースを必要以上に退かせた。
その頃、ウェストラは兵士達の雑踏に息を潜めて紛れ込み、虎視眈々と状況を窺っていた。
縦横無尽に飛び回る傀儡の光景を。
「全員でサポートするぞ!」
前衛に鎧を纏いし者たちが、背を庇護する盾のように陣形を組んだ。
「あれは何なんだ!?」
「味方!?それとも敵なの?」
兵士たちの間で不安が飛び交った。
「案ずるな!勇者様の作り出したゴーレムだ!!」
舞い戻ったアルベルトの一言が、過ちの道に誘われた、負の伝播の歩みを断ち切った。
「ゴーレム!?あれが?」
「へぇ、面白いな」
ウェストラは不敵な笑みを浮かべ、人混みを押し除けるように払い除け、前線に進む。
「足手纏いは不要だ。お前らの面倒まで見ていられる保証は無いぞ!実力のない者、又、自らの実力を無さを自負する者は、国の警護に当たってくれ!」
アルベルトの警告に数名の兵士たちが、不安げに周囲の者たちに目を泳がせた。
「承知した。全員、命令通り行くぞ!!」
「リーダシップ様々だな。ありがたい限りだ」
兵士たちは、むざむざと退いていく。
着々と殺伐とした兵団員たちが集まり始め、既に、数十のゴーレムを大地に跪かせていた。
「ゴーレムの内部に魔物がいると言っていたが、実際の所、どうなんだ?」
「さぁな。開けてみるまでは分からねぇよ」
「なら……」
「あぁ、ゴーレムごと木っ端微塵にする」
「土竜《ダートドラゴン》」
「土竜《ダートドラゴン》」
疾くに印を結ぶ双方の眼下の荒涼たる大地が掘り出されるように盛り上がり、大口開けた土竜が地に突っ伏すゴーレムへと襲い掛かった。
「リターン」
氷の破片たる刃が周囲を縦横無尽に行き交い、避けるばかりの幹部に微かながらも、確実に傷を与えていった。
一片の刃が頬を掠め、紅き鮮血が滴る。
幹部に傷を与えて行く度に、勇者の表情はまるでその行為を拒むかように、憐れみに、怒りに、苦しみに、顔を酷く歪めていた。
それでも、その刃が地に臥すことはない。
決して。
純白の外套を靡かせ、広々とした背を向ける勇者に、僅かながらに不思議な感情を抱いていた。
そのカースの心情の変化には、肉体的にも著しく影響を及ぼしていた。
ただ手を拱くばかりで、傍観者さながらの己の立場に腑が煮え繰り返ったように、体の内部は地表を焼くほどの高熱を帯びていた。
そして、カースの力は開花する。
両の手を大地に当てがい、鱗が土竜の如く花を土を石を容易く抉っていた。
それは、避ける間も無くコンマ数秒に、魔王幹部に喰らいつく大蛇となって、両足に螺旋を描きながら巻き付いた。
それと同時に、勇者は低空に飛んだ。
だが、カースの開花は勇者の仇となった。
草花に覆い隠されし大地に刻まれた魔法陣が、大きく踏み出した勇者の足が乗り、煌々たる光を発し、瞬く間に位置が入れ替わる。
勇者が突然の出来事に瞠目するとともに、幹部は少女の元へと一心不乱に飛び込んだ。
「リター…!?……チッッ!!」
少女の顔が恐怖に染まっていく様を、ただ茫然と注視することしかできなかった。
だが、
カースが拳を振るうよりも、幹部が刃を振り終えるよりも、僅かに早く、勇者は携えた氷剣を己の胸に突き刺した。
清澄なる氷に真っ赤な雫が滴り落ちていく。
「身を切り裂いて、己を成せ。自らの血肉を持って奴を喰らい殺せ。貪骸の獣よ」
その詠唱が血溜まりを魚のように大地を泳がせ、瞬く間に体躯を緋色の魚が拘束した。
何かを悟ったのも束の間、勇者は淡々と歩み寄り、斯くも呆気なく幹部の首を刎ねた。
まるで飽くほどに見慣れた術を真似るように、不可思議な力を模倣し、勝ちを掴んだ。
それなのに、勇者の顔は浮かなかった。
幹部が背から倒れてゆく最中に、自らの体を治癒もせず、カースの安否を尋ねる訳でもなく、ただ只管に彼女の元へと向かっていた。
血反吐を零し、とめどなく緋色の鮮血を流しながらも、花畑に背中が堕ちる瞬間、両腕で支えるように抱き抱えた。
そして、彼女の顔を見て、静かに囁いた。
「……おやすみ」
だが、二つに割れた金の楕円の札が地に落ちる。サクス・ミリテリアスと刻まれた黄金色の札を。
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