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空気に蝕まれる世界
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扉の先は殺伐としていました。
人が全く見えません。それに家屋が崩壊しまくってるのです。コケまみれの家々には、到底人間が住んでいるとは思えません。
そして臭い。なんだこの匂いは。肉が腐った匂いがします。正直扉潜り直そうか迷いました。
しかし、こういうところには非常食が売ってる場合が多いのです。食事にありつけなくなる危険がある放浪者にとっての必須アイテム。買わねば。
匂いには目を瞑りながら、匂いを取り込まないようなるべく呼吸を最低限に抑え、街を探索します。キツイ。
商店らしい(ボロボロすぎてあまり分からない)建物に入ります。「ここかなー?」と柱に手を当てただけで手型のくぼみが出来るほどの脆さ。怖い。
その店には、本気で居ないのではないか?とも思っていた人間がいました。この店の長のような佇まいの彼は、眼鏡をかけ、不気味な笑みを浮かべています。
「いらっしゃい、なにか、お探しかな?」
笑みを崩さず、その人は語ります。
はっきり申し上げて不快でした。恐怖が全身をぞぞぞと。
「ほ、保存食を探してるんですが」というと、
「すいません。今、ちょうど作っているんですよ。あなた、ネズミはお好きですか?」彼はそんなことを言いながら着いてこいといわんばかりに立ち上がり、奥へと行くのです。
奥の扉を開けたそこには、部屋中びっしりの肉。干してるのでしょう。ネズミの干し肉、少し気になりますねぇじゅるり。
「いつ頃出来そうですかね?」
私が聞きます。彼は、
「そうですね、もう充分ですが、臭みを抜くためにあと1日欲しい気持ちもあります」と言いながら、更に頬を釣り上げて歯が見えるほどの笑みを浮かべます。
こんなところに泊まりたくはないのですが、食は追求したい。臭みがない方がいい。
迷っていると、「ならひとつ食べますか?大丈夫ですよそこまで誰も買いに来ないので」と、サービスしてくださいました。
若干の噛みごたえと独特の苦味塩味。そして謎の不快感。ハッキリ不味いと言える代物。しかし、臭みはなく、もうこれはネズミ肉の素材の味なのでしょう。
「もうこれでいいです。10枚下さい」
「かしこまりました」
結局あの後も街を巡ってみましたが、誰とも会うことはなく、帰ろうとしていた時のことです。
あの商店の前で、あの店主さんが人間の死体を解体している姿を見たのです。あの不気味な笑みは崩さず。なんなら鼻歌まで鳴らしながら。
本来なら無視して、最悪な世界だったで終わらせるところです。しかし、なぜか私の体はその光景を見てえもいえぬ幸福感に包まれたのです。
それと同時に、「あれに混ざりたい」という感情が私を襲ったのです。
店主まで残り数m。私の期待は欲望は願望はなにもかもが最高潮だったのです。
あれに混ざりたい。私もあのように何かを解体したい。ほら、そこにいい獲物がいるじゃないか。
私は気づいたら、狩猟用のナイフを取り出していました。
店主に刃をかける直前に意識が戻りました。そこで、店主が「チッ」と舌打ちをしながらこちらを振り向き、「ビビるな、やれよ」と途端に笑顔を辞め、真顔で言ってくるのです。
「あ……
あっっあっ……」
私はたじろいでしまいました。店主の変貌にではありません。理性を失っていた先程の私への恐怖です。
このままではマズイ。なにか、一線を超えてしまう。私は異界の扉へ向かい、全力で逃げました。
扉を開ける、開ける、なんで?別にこの世界でも良くない?
後ろから店主が来ているというのに……なのに私はここで急に思考が停止しました。
ダメだ。体が言うことを聞かない。
ここで死ぬのかと察した時、ようやく扉が開きました。
ギリギリのところで、私の体にとりついていた何かがすっと抜けたのです。
それからしばらくした後に知ったのですが、あの世界の大気には人の凶暴性を増幅させる成分が多く含まれているそう。
私は今でも思い出すとゾッとします。あの店主の笑みの正体。
危なかったです。彼は人を殺していたので欲求が満たされて満足していました。満足していなければ、確実にターゲットはうつり変わっていたでしょう。
例えば手頃な放浪者とか。
人が全く見えません。それに家屋が崩壊しまくってるのです。コケまみれの家々には、到底人間が住んでいるとは思えません。
そして臭い。なんだこの匂いは。肉が腐った匂いがします。正直扉潜り直そうか迷いました。
しかし、こういうところには非常食が売ってる場合が多いのです。食事にありつけなくなる危険がある放浪者にとっての必須アイテム。買わねば。
匂いには目を瞑りながら、匂いを取り込まないようなるべく呼吸を最低限に抑え、街を探索します。キツイ。
商店らしい(ボロボロすぎてあまり分からない)建物に入ります。「ここかなー?」と柱に手を当てただけで手型のくぼみが出来るほどの脆さ。怖い。
その店には、本気で居ないのではないか?とも思っていた人間がいました。この店の長のような佇まいの彼は、眼鏡をかけ、不気味な笑みを浮かべています。
「いらっしゃい、なにか、お探しかな?」
笑みを崩さず、その人は語ります。
はっきり申し上げて不快でした。恐怖が全身をぞぞぞと。
「ほ、保存食を探してるんですが」というと、
「すいません。今、ちょうど作っているんですよ。あなた、ネズミはお好きですか?」彼はそんなことを言いながら着いてこいといわんばかりに立ち上がり、奥へと行くのです。
奥の扉を開けたそこには、部屋中びっしりの肉。干してるのでしょう。ネズミの干し肉、少し気になりますねぇじゅるり。
「いつ頃出来そうですかね?」
私が聞きます。彼は、
「そうですね、もう充分ですが、臭みを抜くためにあと1日欲しい気持ちもあります」と言いながら、更に頬を釣り上げて歯が見えるほどの笑みを浮かべます。
こんなところに泊まりたくはないのですが、食は追求したい。臭みがない方がいい。
迷っていると、「ならひとつ食べますか?大丈夫ですよそこまで誰も買いに来ないので」と、サービスしてくださいました。
若干の噛みごたえと独特の苦味塩味。そして謎の不快感。ハッキリ不味いと言える代物。しかし、臭みはなく、もうこれはネズミ肉の素材の味なのでしょう。
「もうこれでいいです。10枚下さい」
「かしこまりました」
結局あの後も街を巡ってみましたが、誰とも会うことはなく、帰ろうとしていた時のことです。
あの商店の前で、あの店主さんが人間の死体を解体している姿を見たのです。あの不気味な笑みは崩さず。なんなら鼻歌まで鳴らしながら。
本来なら無視して、最悪な世界だったで終わらせるところです。しかし、なぜか私の体はその光景を見てえもいえぬ幸福感に包まれたのです。
それと同時に、「あれに混ざりたい」という感情が私を襲ったのです。
店主まで残り数m。私の期待は欲望は願望はなにもかもが最高潮だったのです。
あれに混ざりたい。私もあのように何かを解体したい。ほら、そこにいい獲物がいるじゃないか。
私は気づいたら、狩猟用のナイフを取り出していました。
店主に刃をかける直前に意識が戻りました。そこで、店主が「チッ」と舌打ちをしながらこちらを振り向き、「ビビるな、やれよ」と途端に笑顔を辞め、真顔で言ってくるのです。
「あ……
あっっあっ……」
私はたじろいでしまいました。店主の変貌にではありません。理性を失っていた先程の私への恐怖です。
このままではマズイ。なにか、一線を超えてしまう。私は異界の扉へ向かい、全力で逃げました。
扉を開ける、開ける、なんで?別にこの世界でも良くない?
後ろから店主が来ているというのに……なのに私はここで急に思考が停止しました。
ダメだ。体が言うことを聞かない。
ここで死ぬのかと察した時、ようやく扉が開きました。
ギリギリのところで、私の体にとりついていた何かがすっと抜けたのです。
それからしばらくした後に知ったのですが、あの世界の大気には人の凶暴性を増幅させる成分が多く含まれているそう。
私は今でも思い出すとゾッとします。あの店主の笑みの正体。
危なかったです。彼は人を殺していたので欲求が満たされて満足していました。満足していなければ、確実にターゲットはうつり変わっていたでしょう。
例えば手頃な放浪者とか。
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