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霧の世界
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私は、景色を知りません。
突然かもしれませんが、この日記を書く上で必要だと思ったので。私の生まれた世界について記しておきます。もっとも、私以外がこの日記を読むことはないと思いますが。
すごく信頼できる人に、私が日記を付けている、ということを知られることですら恥ずかしいのですから。
私の生まれた世界は、建物の中から外まで、とても濃い霧に包まれているため、何も見ることができません。そのため、センサーや超音波機能などを利用したメガネを装着して物体を見ています。
しかしそのメガネの特性上、この世界の人達はみな、色を知らないのです。
聞いても、みな口を揃えて「色なんてあるはずがない」と言います。
そしてそれと同時にモノクロなこの世界に、人生に対しての楽しさや素晴らしさを見失っていたのです。
「色ってさ、絶対あると思うのよ」
私が家族との食事中こう言うと、両親は必ず「ばかおっしゃい」弟は「じゃあ見せてよ!」と言います。
「いーや、絶対にある!確実にある!だってさ?霧が発生するまではこんなメガネとか使わなくっても良かったじゃん?その頃のゴーグルを付けてない世界もモノクロだったなんて想像できないや」
「あんたそんなこと言ってると、ハンバーグ冷めちゃうわよ」
「食べるすぐ食べる」
こんな会話がほとんど毎日のように繰り広げられています。私の主張は、私の食欲によってかき消されていくのです……
しかし、今日は違いました。
「あ、そういや最近この世界にも『放浪者』が来たって話題になっとったな」
母がそういったのです。聞き間違いかと思いました。
「え、まじ!?」
私は衝撃を隠しきれませんでした。ありえないと思っていたのですから。
「大マジや。そんなに色があるって言うんならその人に聞いて見ればええやろ」
「わかった!ありがと!」
私はハンバーグをたいらげ、ついでにおかわりを頼み、それも綺麗に食べ終えると直ぐに寝床へ行きました。
食べすぎでよく眠れませんでした。お腹痛かった……
放浪者。異世界を旅して回る人達のことです。
私が生まれるずっと前からあったらしい、異界の扉。なんとも胡散臭いものですが、本物です。
この扉をくぐると、無数に存在する世界からランダムで選ばれた異世界の異界の扉へ繋がります。
もちろん、一度故郷を抜けたら故郷に戻ることも困難になります。
世界一有名な放浪者日記「未だ執筆中」に憧れて放浪者になった人は多いです。しかし逆に放浪者になることを諦めた人も多いです。
その理由がこの部分に詰まっています。
「1度出会った放浪者と再会することは不可能では無い。常に異世界をめぐり続ける友とは、10年ほどで再会出来る。
しかし、1度訪れた世界へ戻ることは不可能に近い。それは例え、生まれの地においてもだ。放浪者は、二度と実家へ帰らない覚悟を持ったものにしか務まらない」
「放浪者さーん!ごめんくださーい!」
昼過ぎの公園で、私はラジオの取材を受ける放浪者さんにめいっぱいのアプローチをしました。
そんな私に気づいた放浪者さんは、時々頬を緩ませたり、笑ってるような反応をしていました。
私の何が面白いというのやら、失礼では?とも思いましたが、よくよく考えたら放浪者さんのストーカーをしたのち、こんな所で注目されるよう頑張っている私のほうが悪いですね。
ラジオの取材が終わったのか、放浪者さんが私の元へやってきました。
整った顔立ちの男性でしたが、残念ながらタイプからは少し外れていました。
「放浪者さん!単刀直入に、聞きたいことがあります!」
私が緊張しながら声をなるべくはりあげて言うと、
「あはは、そんなかしこまらなくても」
と、なだめてくれる放浪者さん。優しい。タイプかも。
「はい、あのぉ、えっと」
冷静に考えたら、『色ってありますか?』なんて質問幼稚すぎて……恥ずかしくなってきたのです……
「あ、ちょっと待って当てさせて……色…でしょ?」なぜわかった
「沢山聞かれたんだよ……特に子供たちにね。でも不思議だ……君くらいの年齢、16歳くらいかな?そんな歳でこんなこと聞いてくるなんて、君変わってるね」
舐められてるのでは?それに質問の答え言ってないし。
「あの、結局、色って言うのは存在するんですか?」
すると放浪者さんは
「あぁ、するよ。色って言うのはね、心を豊かにしてくれるんだ。まぁ、残念ながら、この世界ではそんな素敵な色が楽しめないようだけれど」
と、楽しそうに語りました。
こんなに楽しそうに映像の話をするなんて……
「というか、こんな世界でよく滞在しようと思いましたね」
わたしが興味本位で聞くと、放浪者さんは答えたのです。
「当たり前だろ?国があったら、人が住んでいたら、どんな世界だろうと滞在する。それが好きで放浪者なんていう変わったことをやってるんだから。その世界、その国、その人全てにエピソードがあって、それが美しいから、僕はここも、素敵だと思うんだ」
そのとき、なりたい、と。心から放浪者になりたいと思ったのです。
あれから2年が経ち……
「じゃあ、行ってきます!お母さん!」
「ほんとに行っちゃうんだねぇ、もう会えないかもって思うと寂しいねぇ」
お母さんは目に涙を浮かべています。
「いやぁでも楽しそうじゃないか。放浪生活」
父はなんで娘との永遠の別れを楽しそうに語れるの?
「姉ちゃんばいばーい」
弟よ、お前もか。
私はそんな愉快な家族に手を振り異界の扉へ手をかけたのです。
今からでも引き返したら、これからも家族と何気ない日常を過ごすことができる。
それでも、私は。
人生は、人生という名の最上級のエンタメ。そんなエンタメをもっと色付けていかないと。
深呼吸をひとつ。家族、この霧まみれの世界との別れに対してか、ポツリと1粒涙が落ちました。でも、心配かけまいと涙を拭い、精一杯の笑顔を家族に見せました。
家族の表情は景色が歪んでいたので見えませんでした。多分、涙では無いです。そう信じます。
扉に向き合い、私はそれを開きました。直後、強い風が吹いてきたのです。目の前に広がったのは、真っ青な空。
初めて目にする色に、私の涙は、悲しみの涙から感動の涙へと変わっていました。
涙をこらえることもやめていました
突然かもしれませんが、この日記を書く上で必要だと思ったので。私の生まれた世界について記しておきます。もっとも、私以外がこの日記を読むことはないと思いますが。
すごく信頼できる人に、私が日記を付けている、ということを知られることですら恥ずかしいのですから。
私の生まれた世界は、建物の中から外まで、とても濃い霧に包まれているため、何も見ることができません。そのため、センサーや超音波機能などを利用したメガネを装着して物体を見ています。
しかしそのメガネの特性上、この世界の人達はみな、色を知らないのです。
聞いても、みな口を揃えて「色なんてあるはずがない」と言います。
そしてそれと同時にモノクロなこの世界に、人生に対しての楽しさや素晴らしさを見失っていたのです。
「色ってさ、絶対あると思うのよ」
私が家族との食事中こう言うと、両親は必ず「ばかおっしゃい」弟は「じゃあ見せてよ!」と言います。
「いーや、絶対にある!確実にある!だってさ?霧が発生するまではこんなメガネとか使わなくっても良かったじゃん?その頃のゴーグルを付けてない世界もモノクロだったなんて想像できないや」
「あんたそんなこと言ってると、ハンバーグ冷めちゃうわよ」
「食べるすぐ食べる」
こんな会話がほとんど毎日のように繰り広げられています。私の主張は、私の食欲によってかき消されていくのです……
しかし、今日は違いました。
「あ、そういや最近この世界にも『放浪者』が来たって話題になっとったな」
母がそういったのです。聞き間違いかと思いました。
「え、まじ!?」
私は衝撃を隠しきれませんでした。ありえないと思っていたのですから。
「大マジや。そんなに色があるって言うんならその人に聞いて見ればええやろ」
「わかった!ありがと!」
私はハンバーグをたいらげ、ついでにおかわりを頼み、それも綺麗に食べ終えると直ぐに寝床へ行きました。
食べすぎでよく眠れませんでした。お腹痛かった……
放浪者。異世界を旅して回る人達のことです。
私が生まれるずっと前からあったらしい、異界の扉。なんとも胡散臭いものですが、本物です。
この扉をくぐると、無数に存在する世界からランダムで選ばれた異世界の異界の扉へ繋がります。
もちろん、一度故郷を抜けたら故郷に戻ることも困難になります。
世界一有名な放浪者日記「未だ執筆中」に憧れて放浪者になった人は多いです。しかし逆に放浪者になることを諦めた人も多いです。
その理由がこの部分に詰まっています。
「1度出会った放浪者と再会することは不可能では無い。常に異世界をめぐり続ける友とは、10年ほどで再会出来る。
しかし、1度訪れた世界へ戻ることは不可能に近い。それは例え、生まれの地においてもだ。放浪者は、二度と実家へ帰らない覚悟を持ったものにしか務まらない」
「放浪者さーん!ごめんくださーい!」
昼過ぎの公園で、私はラジオの取材を受ける放浪者さんにめいっぱいのアプローチをしました。
そんな私に気づいた放浪者さんは、時々頬を緩ませたり、笑ってるような反応をしていました。
私の何が面白いというのやら、失礼では?とも思いましたが、よくよく考えたら放浪者さんのストーカーをしたのち、こんな所で注目されるよう頑張っている私のほうが悪いですね。
ラジオの取材が終わったのか、放浪者さんが私の元へやってきました。
整った顔立ちの男性でしたが、残念ながらタイプからは少し外れていました。
「放浪者さん!単刀直入に、聞きたいことがあります!」
私が緊張しながら声をなるべくはりあげて言うと、
「あはは、そんなかしこまらなくても」
と、なだめてくれる放浪者さん。優しい。タイプかも。
「はい、あのぉ、えっと」
冷静に考えたら、『色ってありますか?』なんて質問幼稚すぎて……恥ずかしくなってきたのです……
「あ、ちょっと待って当てさせて……色…でしょ?」なぜわかった
「沢山聞かれたんだよ……特に子供たちにね。でも不思議だ……君くらいの年齢、16歳くらいかな?そんな歳でこんなこと聞いてくるなんて、君変わってるね」
舐められてるのでは?それに質問の答え言ってないし。
「あの、結局、色って言うのは存在するんですか?」
すると放浪者さんは
「あぁ、するよ。色って言うのはね、心を豊かにしてくれるんだ。まぁ、残念ながら、この世界ではそんな素敵な色が楽しめないようだけれど」
と、楽しそうに語りました。
こんなに楽しそうに映像の話をするなんて……
「というか、こんな世界でよく滞在しようと思いましたね」
わたしが興味本位で聞くと、放浪者さんは答えたのです。
「当たり前だろ?国があったら、人が住んでいたら、どんな世界だろうと滞在する。それが好きで放浪者なんていう変わったことをやってるんだから。その世界、その国、その人全てにエピソードがあって、それが美しいから、僕はここも、素敵だと思うんだ」
そのとき、なりたい、と。心から放浪者になりたいと思ったのです。
あれから2年が経ち……
「じゃあ、行ってきます!お母さん!」
「ほんとに行っちゃうんだねぇ、もう会えないかもって思うと寂しいねぇ」
お母さんは目に涙を浮かべています。
「いやぁでも楽しそうじゃないか。放浪生活」
父はなんで娘との永遠の別れを楽しそうに語れるの?
「姉ちゃんばいばーい」
弟よ、お前もか。
私はそんな愉快な家族に手を振り異界の扉へ手をかけたのです。
今からでも引き返したら、これからも家族と何気ない日常を過ごすことができる。
それでも、私は。
人生は、人生という名の最上級のエンタメ。そんなエンタメをもっと色付けていかないと。
深呼吸をひとつ。家族、この霧まみれの世界との別れに対してか、ポツリと1粒涙が落ちました。でも、心配かけまいと涙を拭い、精一杯の笑顔を家族に見せました。
家族の表情は景色が歪んでいたので見えませんでした。多分、涙では無いです。そう信じます。
扉に向き合い、私はそれを開きました。直後、強い風が吹いてきたのです。目の前に広がったのは、真っ青な空。
初めて目にする色に、私の涙は、悲しみの涙から感動の涙へと変わっていました。
涙をこらえることもやめていました
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