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小説家の、成れの果て。
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私が今これを書いていることを、私は知らない。いや、確証が持てない、と言った方が正しい。
なぜこうなってしまったのか、ここにゴミ貯めとして綴ろうと思う。
私が、やっとの思いで小説家としてデビューして1年。売れないことはない。ヒットを打つ訳でもない。そこそこな新人、といった立ち位置だ。
しかし、私はこんな短期間の間に小説家として相当なストレスを抱えてしまった。常に執筆作業に追われ、ネタ出しに全神経を注ぎ、それでも知名度は中の下。
「小説」という言葉に鳥肌を覚えるようになったのはいつだったか。もう忘れてしまった。
こんなときにも、私という人間の欲は募りに募り、そして爆発する。
ふと、締切の1週間前に鹿児島に行きたくなったことがある。桜の花が散るのを見ていると、昔訪れた桜島が頭をよぎったのだ。共通点は名前しかないというのに。
桜島がひとたび頭に浮かぶと、そのことしか考えられなくなる。
気づけば、原稿用紙びっしりに「桜島」と書かれており、流石にこれはまずいと悟った私は鹿児島へ行くことにした。
1泊2日の旅行のため、宿はうんと高いものをとりたい。結果、いいお屋敷の旅館に泊まることにした。
桜島の噴煙を眺めていると、心の中が洗われたような気分になる。それでも、旅館で人と会話をした瞬間、小説が頭によぎり、私の心が現実に戻された。
布団で横になっていると、何やら廊下が騒がしい。こちらは高い金を支払っているのだ、何事だ?と、おもった私は、少し戸を開け覗いて見た。
どうやら声の主は酔っぱらいのようだ。辺り1面を汚しながら千鳥足で歩いていく。私はそれを見て苛立ちを隠せなかった。
「すいません。もう夜も遅いことですし、静かにしていただけませんか?」
「うるせぇ!じゃあ俺を運んでくれよ」
酔っぱらいはにやけながらそう私に抵抗する。私の中で、何かが切れる音がした。
「でしたら、運びますよ」私は、酔っぱらいの肩を組み、私の部屋まで向かった。
「なんだぁ??この部屋、ちょっと違うぞ……」
「少し遠かったので、私の部屋までですが、お気に召しませんでしたか?」
すると酔っぱらいは笑顔で
「いや、寝れればいいさ。寝れればな」と答えた。
「なら良かったです」
私は、そう言いながら笑顔で荷物置きへ向かった。確か、入れていたはずだ。
夜遅く、酔っぱらいの寝息が部屋中に響く。到底眠れるわけが無いが、生憎寝るつもりも「まだ」ない。
酔っぱらいが完全に寝たことを確認した私は、彼の首元にカッターを入れる。
部屋中に満ちる声が、寝息から悲鳴に変わる。
この感覚を私は一生忘れることがないだろう。スリル、恐怖、罪悪感。そして、私は部屋に人が入ってくる前に、窓から外へ逃げ出した。
人と関わるとき、人それぞれに別の偽名を使っていたのがここで幸運に働いた。ホテル側が宿泊者の名前から犯人を特定できなかったためか、私はその後も何不自由なく生活ができた。
あの事件以来、私には殺人欲求というものが芽ばえるようになってしまった。一度思い浮かぶと、誰かを殺すまで何も手につかなくなる。
そして気づけば目の前に死体が転がっている。
母が転がっていた時にはさすがに驚いた。
ある日、私が小説を書き切り、満足して顔を上げると、死体と思しき何かが転がっていた。
脳の整理が追いつかなくなるのがわかった。今、何が起こった?私は小説を書いていたはずなのに……
ペンだと思っていたものはどうやらナイフのようだ。ナイフで文字を書くように刺したのだろう、目の前の死体は、人の形かどうか認識することすら難しい状態だった。
だというのに、まだ殺人欲求が残っている。私は恐怖を抱えたまま人を殺した。そして顔を下ろすと、小説が出来上がっていた。傑作だった。
後に、私初のヒットとなる作品である。
このときも、私は恐怖を感じた。私は、小説家としての苦しみと、人を殺す時の快感にも近い苦しみとが同義に感じるようだ。
そして、いつしかこのふたつの違いを認識できなくなった。
これがまぁ厄介なもので、小説を書きたいからと人を殺すが、5割の確率で人が死んでいるだけ。人を殺したい時もしかり。小説を書くも、5割の確率で普通に小説が出来上がっている。
結局、私は小説家を引退することにした。殺人も辞めることにした。しかし、私の欲求として現れるそれをいつしか無意識のうちに行うようになっていたのだ。
今書いているこれも、私は無意識のうちに行っている。違いを認識できないため、実は今、人を殺しているのかもしれないとも思っている。
息をすることも怖い。死んでしまおうかと思う時もあるのだが、死ぬことも怖い。
私は一生、このふたつの苦しみと共に人生を過ごすのだろう。
なぜこうなってしまったのか、ここにゴミ貯めとして綴ろうと思う。
私が、やっとの思いで小説家としてデビューして1年。売れないことはない。ヒットを打つ訳でもない。そこそこな新人、といった立ち位置だ。
しかし、私はこんな短期間の間に小説家として相当なストレスを抱えてしまった。常に執筆作業に追われ、ネタ出しに全神経を注ぎ、それでも知名度は中の下。
「小説」という言葉に鳥肌を覚えるようになったのはいつだったか。もう忘れてしまった。
こんなときにも、私という人間の欲は募りに募り、そして爆発する。
ふと、締切の1週間前に鹿児島に行きたくなったことがある。桜の花が散るのを見ていると、昔訪れた桜島が頭をよぎったのだ。共通点は名前しかないというのに。
桜島がひとたび頭に浮かぶと、そのことしか考えられなくなる。
気づけば、原稿用紙びっしりに「桜島」と書かれており、流石にこれはまずいと悟った私は鹿児島へ行くことにした。
1泊2日の旅行のため、宿はうんと高いものをとりたい。結果、いいお屋敷の旅館に泊まることにした。
桜島の噴煙を眺めていると、心の中が洗われたような気分になる。それでも、旅館で人と会話をした瞬間、小説が頭によぎり、私の心が現実に戻された。
布団で横になっていると、何やら廊下が騒がしい。こちらは高い金を支払っているのだ、何事だ?と、おもった私は、少し戸を開け覗いて見た。
どうやら声の主は酔っぱらいのようだ。辺り1面を汚しながら千鳥足で歩いていく。私はそれを見て苛立ちを隠せなかった。
「すいません。もう夜も遅いことですし、静かにしていただけませんか?」
「うるせぇ!じゃあ俺を運んでくれよ」
酔っぱらいはにやけながらそう私に抵抗する。私の中で、何かが切れる音がした。
「でしたら、運びますよ」私は、酔っぱらいの肩を組み、私の部屋まで向かった。
「なんだぁ??この部屋、ちょっと違うぞ……」
「少し遠かったので、私の部屋までですが、お気に召しませんでしたか?」
すると酔っぱらいは笑顔で
「いや、寝れればいいさ。寝れればな」と答えた。
「なら良かったです」
私は、そう言いながら笑顔で荷物置きへ向かった。確か、入れていたはずだ。
夜遅く、酔っぱらいの寝息が部屋中に響く。到底眠れるわけが無いが、生憎寝るつもりも「まだ」ない。
酔っぱらいが完全に寝たことを確認した私は、彼の首元にカッターを入れる。
部屋中に満ちる声が、寝息から悲鳴に変わる。
この感覚を私は一生忘れることがないだろう。スリル、恐怖、罪悪感。そして、私は部屋に人が入ってくる前に、窓から外へ逃げ出した。
人と関わるとき、人それぞれに別の偽名を使っていたのがここで幸運に働いた。ホテル側が宿泊者の名前から犯人を特定できなかったためか、私はその後も何不自由なく生活ができた。
あの事件以来、私には殺人欲求というものが芽ばえるようになってしまった。一度思い浮かぶと、誰かを殺すまで何も手につかなくなる。
そして気づけば目の前に死体が転がっている。
母が転がっていた時にはさすがに驚いた。
ある日、私が小説を書き切り、満足して顔を上げると、死体と思しき何かが転がっていた。
脳の整理が追いつかなくなるのがわかった。今、何が起こった?私は小説を書いていたはずなのに……
ペンだと思っていたものはどうやらナイフのようだ。ナイフで文字を書くように刺したのだろう、目の前の死体は、人の形かどうか認識することすら難しい状態だった。
だというのに、まだ殺人欲求が残っている。私は恐怖を抱えたまま人を殺した。そして顔を下ろすと、小説が出来上がっていた。傑作だった。
後に、私初のヒットとなる作品である。
このときも、私は恐怖を感じた。私は、小説家としての苦しみと、人を殺す時の快感にも近い苦しみとが同義に感じるようだ。
そして、いつしかこのふたつの違いを認識できなくなった。
これがまぁ厄介なもので、小説を書きたいからと人を殺すが、5割の確率で人が死んでいるだけ。人を殺したい時もしかり。小説を書くも、5割の確率で普通に小説が出来上がっている。
結局、私は小説家を引退することにした。殺人も辞めることにした。しかし、私の欲求として現れるそれをいつしか無意識のうちに行うようになっていたのだ。
今書いているこれも、私は無意識のうちに行っている。違いを認識できないため、実は今、人を殺しているのかもしれないとも思っている。
息をすることも怖い。死んでしまおうかと思う時もあるのだが、死ぬことも怖い。
私は一生、このふたつの苦しみと共に人生を過ごすのだろう。
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