上 下
2 / 2

高嶺

しおりを挟む
 オタクなら、いや、オタクじゃなくても、ときどき「高嶺の花」なんて言葉を耳にする。
 手の届かないほど高いランクにある人物。
 特に、ラブコメ作品におけるヒロインの高嶺の花率は異常だ。主人公とはどう考えても不釣り合いな高嶺の花と付き合う様を読者に見せびらかし、読者は現実で経験することができなかった幸せを感じられる……つまり儲かる!Win-Winだし、商売として素晴らしいと思う。
 
 いやまぁそうは言っても、僕はときどきこう思ってしまうのだ。
「いや、流石にこいつとこいつが結ばれるのは無理あるだろ……」
「こいつとこいつ……って何?」
「うわぁ!?なんだバケモノかと思っ……ごほんごほん」

 あぁ、高嶺の花と付き合いたいとは言わない……。せめて、ちゃんとした高嶺の花を見てみたかった……。
 目の前の彼女は、間違いなく【高嶺】ではあっても【花】では無い。
 
「あっ、甘衣さん……なんでもないよ。僕の独り言」
「そう?ていうか、休み時間くらいは、そんなの読んでないで友達とかと話したらどう?」
 甘衣さんは純真無垢な目線で僕に話しかける。あぁ、眩しい!そして悪意がないからこそ心の孤独な部分に染みる!
 僕の友達、全員他の奴と過ごしてます……。

「甘衣さんも酷だよねー……」
「何が!?私、酷いこと言っちゃった!?ごめん!!!」
「いや、いいんだ……」
 顔の前で手刀を作る甘衣さん。非常に可愛らしい……のだが、『ごめん』の声で台無しだ。

 教室の片隅、窓際。僕1人なら誰にも見向きされない場所。だけれど、隣に甘衣さんが居るとなると話は変わる。
 生徒からの、特に男子からの熱い視線が注がれるのだ。ダメだ、僕には耐性がないんだ!気絶しちゃう!

「ねぇ!」
 僕がラノベ本に落とした視線に、何とか移ろうとしゃがみこむ甘衣さん。
 甘衣さんの茶色い髪が宙に舞う様に、思わず見惚れてしまった。あぁ……黙れば可愛いんだよな……。
「どうしたの甘衣さん?今日はよく話しかけてくるね……?」
「いや?住谷君が可哀想だな~って」
「じゃあほっといてくれると嬉しいかな」
「ええええ!?話そうよ!?」
 やめてよ!話してるとどうしても笑いそうになるんだよ!
「図書室でも行こうかなぁ……誰かさんに話しかけられなくなりそう……」
「ひっど!!!」
 甘衣さんが手脚をばたつかせるのを横目に、席を立つ。
「え!?ほんとに行っちゃうの!?」
「それじゃ~」

 甘衣さんは可愛い。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、という言葉が良く似合う。
 だけど……声はラフレシア。食虫植物の方がまだマシかもしれない。
「なぁなぁ!」
 昼休憩、男子学生の声が廊下にも響く。
「甘衣さん見にいかね!?」
「やめとけよ……甘衣さんは写真じゃないと輝かない……」
 高嶺の花……と言われるポジションの彼女は、まぁ残念な呼び名が付いている……。
 
「あーあ、ほんと甘衣さんって『高嶺の草』って感じだよね」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...