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第三章:ン・キリ王国、モンスターの大攻勢を受けるのこと。
第一節:近衛隊長ロベンテ・トゥオーノ、新米神官ルーチェを通して神殿に取引を持ち掛けるのこと。
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時はさかのぼって、レイ・チンが宿に泊まっている頃、すなわち王宮に魔物が襲ってくる前の話である。
「ルーチェちゃん、次これお願い」
「はーいっ!」
王宮では、あの後書館付書記官から正式に神官に登用されたルーチェは、相変わらず書類整理にいそしんでいた。元々気弱なところもあった彼女は、書類相手ならば特に書類がしゃべってくることもないので、安心して働いており、そのおかげか仕事の回転率も速く、出世も割と短期間でステップアップしていたようだ。12歳の誕生日を王宮で祝ってもらった時には、涙を流していたらしく、周囲の嫉妬も特にないという意味ではかなり可愛がられていた様子である。
「ふぅ……」
書類を本日も百枚単位で片づけていた彼女は、三百枚目の書類処理を終えてため息をついた。と、そんな折に。
「よお、疲れているみたいだな」
ルーチェの机が置いてある隣に立っている柱にロベンテ・トゥオーノが寄りかかっていた。
「あっ、隊長さん!」
「非番の時くらい隊長さんはよせ、……この後、仕事が終わり次第食事にでも行くか?おごるぞ」
「えっ、ですが……」
一応、ルーチェも給金取りである。とはいえ、トゥオーノの給金に比べたら、さすがに新米神官の給金事情はお世辞にも良いとは言えなかった。一応、その辺の人間の給金に比べたらかなり潤ってはいたのだが。
「遠慮はするなよ?懐事情を分かったうえで聞いている」
「……それでは、お言葉に甘えて……」
僅かに頬を染め、頷くルーチェ。だが、トゥオーノはそれに気づいていないのか、
「おう、それで、用件はもう一つあってな……」
「?」
と、用件を持ち掛けた。
「大口の注文?」
大口の注文を神官に頼む、本来ならば神官の所属する神殿は国家とは別に独立して存在しており、国の祈祷室に駐在する神官はそこから派遣されてくる存在であった。この「大口の注文」、今回の場合は魔力回復薬である「チワカス」の売却注文なのだが、つまりはン・キリ王国と神殿の取引が円滑に行われることはトゥオーノとルーチェが現状の仲だからこそ成り立つ部分も存在した。
「ああ、この前チワカスの密売人を逮捕したんだが、流通ルートが判明してな。ただ潰すだけでは葉をちぎるのと同じだから、一つ密売組織そのものを根絶するために罠にかけようって話になった」
と、こともなげに無理難題を解決したことを、特に誇るわけでもなくルーチェに語るトゥオーノ。だが、それは歴戦の戦士である近衛隊長だからこそできる荒事であった。一方で、
「……いいんでしょうか……」
神官と近衛兵の所属が違うことを知っているのか、憂うルーチェ。とはいえ、一国の近衛隊長とは非常に高度な政治的判断も兼ね備えた人物である。ただの部隊の長ではなかった。
「大丈夫だ、俺が動いている以上はな。無論、神官長の名前を使うのが拙いわけで、お前の上役に話を通そうと思ってな。案内してくれ」
とはいえ、チワカスほどの品が動くとあっては正規の政治関係の場合なら近衛隊長では格が足りず、神官長と国王との話し合いとなると国際取引となるので、ルーチェの上司にひとまずは話を通そうとするトゥオーノ。それに対してルーチェは、
「は、はいっ!」
と、少し慌てながらも返事をしたのだった。
「ルーチェちゃん、次これお願い」
「はーいっ!」
王宮では、あの後書館付書記官から正式に神官に登用されたルーチェは、相変わらず書類整理にいそしんでいた。元々気弱なところもあった彼女は、書類相手ならば特に書類がしゃべってくることもないので、安心して働いており、そのおかげか仕事の回転率も速く、出世も割と短期間でステップアップしていたようだ。12歳の誕生日を王宮で祝ってもらった時には、涙を流していたらしく、周囲の嫉妬も特にないという意味ではかなり可愛がられていた様子である。
「ふぅ……」
書類を本日も百枚単位で片づけていた彼女は、三百枚目の書類処理を終えてため息をついた。と、そんな折に。
「よお、疲れているみたいだな」
ルーチェの机が置いてある隣に立っている柱にロベンテ・トゥオーノが寄りかかっていた。
「あっ、隊長さん!」
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「えっ、ですが……」
一応、ルーチェも給金取りである。とはいえ、トゥオーノの給金に比べたら、さすがに新米神官の給金事情はお世辞にも良いとは言えなかった。一応、その辺の人間の給金に比べたらかなり潤ってはいたのだが。
「遠慮はするなよ?懐事情を分かったうえで聞いている」
「……それでは、お言葉に甘えて……」
僅かに頬を染め、頷くルーチェ。だが、トゥオーノはそれに気づいていないのか、
「おう、それで、用件はもう一つあってな……」
「?」
と、用件を持ち掛けた。
「大口の注文?」
大口の注文を神官に頼む、本来ならば神官の所属する神殿は国家とは別に独立して存在しており、国の祈祷室に駐在する神官はそこから派遣されてくる存在であった。この「大口の注文」、今回の場合は魔力回復薬である「チワカス」の売却注文なのだが、つまりはン・キリ王国と神殿の取引が円滑に行われることはトゥオーノとルーチェが現状の仲だからこそ成り立つ部分も存在した。
「ああ、この前チワカスの密売人を逮捕したんだが、流通ルートが判明してな。ただ潰すだけでは葉をちぎるのと同じだから、一つ密売組織そのものを根絶するために罠にかけようって話になった」
と、こともなげに無理難題を解決したことを、特に誇るわけでもなくルーチェに語るトゥオーノ。だが、それは歴戦の戦士である近衛隊長だからこそできる荒事であった。一方で、
「……いいんでしょうか……」
神官と近衛兵の所属が違うことを知っているのか、憂うルーチェ。とはいえ、一国の近衛隊長とは非常に高度な政治的判断も兼ね備えた人物である。ただの部隊の長ではなかった。
「大丈夫だ、俺が動いている以上はな。無論、神官長の名前を使うのが拙いわけで、お前の上役に話を通そうと思ってな。案内してくれ」
とはいえ、チワカスほどの品が動くとあっては正規の政治関係の場合なら近衛隊長では格が足りず、神官長と国王との話し合いとなると国際取引となるので、ルーチェの上司にひとまずは話を通そうとするトゥオーノ。それに対してルーチェは、
「は、はいっ!」
と、少し慌てながらも返事をしたのだった。
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