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第二章:ゲヘゲラーデン、責任を感じてビダーヤ村を去り旅路に着くのこと。

第十二節:クヴィェチナ、父の違和感に気付きゼスの家に避難するのこと。

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 午後のことである。クヴィェチナがゼスとの話し合いの後に家から帰って来たら家の中の空気が妙に甘ったるかった。よく見れば、いくら閑古鳥が鳴いているとはいえいつも宿を整備しているはずの父がいない。部屋も妙に乱雑している。クヴィェチナは訝しんだ。彼女も幼いとはいえ女性である。女の勘、というものが働いていた。と、そんな時である。
「あら、おかえりなさい」
「ッ!?」
 慌てて飛びのくクヴィェチナ。背後には……。
「あらあら、驚かせてしまったみたいね」
 ……レイ・チンが居た。
「ああ、はい、ごめんなさい」
 慌てて謝るクヴィェチナ。いくら彼女がレイ・チンを訝しんでいたとはいえ、父が泊めている客人である、粗相は許されなかった。
「いえいえ、そんなことより、お父様のことなのだけれど……」
「ああ、はい、今父はいないみたいですが……」
「お父様ならば、ベランダにいたわよ?」
「あ、ありがとうございます」
 妙な虫の知らせを感じたのか、ベランダへ駆け上がるクヴィェチナ。一方でレイ・チンは。
「くすくすくすくす、あの女の子、今の「お父様」の状態を知ったらどう思うかしら」
 ……ただ、嗤うのみであった。


「パパっ!?」
 ベランダに飛び込むクヴィェチナ。そこにいた者は……。
「おお、クヴィェチナか。ドうしタ、そんなに息ヲ切らせて」
 ……クヴィェチナの目から見ても、明らかに父親はいつもの様子ではなかった。それは、客人の色香に惑わされるというレベルの問題ではなかった。
「……ああ、よかった。部屋が変に散らかっててパパがいないからどうしたのかな、って思って」
 つとめて、平静さを装うクヴィェチナ。父親を一目見て手遅れだと見抜いたのか、あるいは父の目を通して先ほどの妖女が自分を見ているのではないかと勘づいたのか、いつも通りの会話を行うことをつとめていた。
「ああ、それナら大丈夫だヨ。ちょっとシばらく洗濯しテいないシーツとかをまとめテ洗っていてネ」
 それは、一応事実ではあったのだが、明らかにその洗い方は人間とは言い難い動きであった。
「なぁんだ、それなら私はちょっと外で部屋を使う人がいないかどうか見てくるわね」
 そして、クヴィェチナはひとまず妖女の手を逃れるために父親から離れることにした。
「ああ、ワかったよ」

「……」
「どうだった?お父様は」
 くすくすと笑いながら問いかけるレイ・チン。一方でクヴィェチナは笑いながら、
「いえ、しばらく宿を使っていなかったこともあって洗濯物が溜まっていただけのようです、心配かけてすみません」
とレイ・チンに謝し、
「いえいえ♪」
「それじゃ、私は外に行ってきますから」
ひとまず外へと出かけるのだった。
「ええ★」

「……妙ね。勘づかないほどお子ちゃまなのかしら。それとも……」
 考え込むレイ・チン。いくら何でも年頃の娘が勘づかないはずがないと思いながらも、その平静さにある種の疑念を生じた。一方で。
「…………ゼスに、知らせないと……」
 ……しばらく、すたすたと歩いたかと思うと、甘い臭いがまとわりつかなくなったことを感づくや、全速力で駆け抜けるクヴィェチナ。目指すは竹馬の友である、ゼスの家である。
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