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第六章 ヒュドラ教国編
第177話 ドラゴンの塔
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ソウが作り上げた街「オオカミ」は、フォナシス火山の南側にある。
西は標高2千メートル級の山並みが連なるレニア山脈、東と南には広大な草原が広がっている。
その草原の中を獣と戦いながら北へと歩を進める一人の男が居た。
髪の毛と瞳は黒色、引き締まった体つきで身長175センチくらい。
衣服も素肌もほこりにまみれている。
その男を狙って一匹のトラが茂みから飛び出した。
その男はトラに襲われても慌てること無く右手の平をトラに向けた。
トラがその男に飛びかかった瞬間、男の掌から青白い火の玉が発射された。
トラは悲鳴をあげる間もなくその場に崩れ落ちた。
男が放った火の玉はトラの首から上を消滅させていた。
男は手に持ったショートソードでトラの後ろ足を切り落とし、皮を剥いで自ら作り出した炎であぶった。
「まずっ」
男が発した言葉は日本語だった。
「なんで僕がこんなめにあわなきゃならないの。全部あのヤロウ、ホンダのせいだ。」
アキトはオオカミでドランゴを殺害した後、ドルムを恐れてオオカミから逃げ出した。
オオカミから逃げ出したものの、自分の現在地が全くわからない。
草原の中にあった小高い丘に登り周囲を見渡したところ北に火山、はるか東に海が見えた。
(あれはたぶんフォナシス火山だな。するとここはレニア山脈の東側ということになる。)
その時、レニア山脈を越えフォナシス火山方面に飛行するドラゴンを見つけた。
おそらくブラックドラゴンだ。
(あのドラゴンがエレイナさんのドラゴンなら、向かう先はラーシャだな。)
アキトは敗軍の将だ。
ゲランとジュベルの戦争は、ソウの参戦によりジュベルの一方的な勝利に終わったと言って良い。
アキトはゲラニまで帰ることも考えたが、現在地からはゲラニよりもラーシャの方が近い。
ゲラニに帰ったところで敗軍の将を待っているのは叱責だろう。
下手をすれば敗戦の責任をも問われかねない。
それならばと、エレイナを追いかけてラーシャへ行ってみることにしたのだ。
あれから3日、草原は果てしなく続く、獣の肉にも飽き飽きしてきた頃、目の前が開けた。
バリーツ大河だ。
大河の向こうには集落も見える。
集落には少数の人族が居た。
集落で情報収集したところ、現在地はラーシャの南、ラーシャの首都ズーラまで馬で一週間の場所だとわかった。
疲れ切ったアキトの姿をみた農夫が、アキトに食事とベッドを提供してくれた。
アキトは、その農夫の馬小屋で馬を奪った。
馬小屋から馬を盗み出す時、農夫に見つかってしまったが、躊躇することなく農夫を馬小屋ごと消し炭にしてしまった。
アキトは自分でも不思議に思った。
(罪悪感が無いや、ハハ)
アキトは戦争に参加して獣人を殺すうち、心の奥に隠していたドス黒い心が表面にでてきているのを自覚していた。
日本に居るときには、そのどす黒い心を表に出せば、自分が不利になることを十分自覚していたので心の奥にしまっていたが、この世界に来てからは徐々に本来の心が浮かび上がってきたのだ。
アキトはラーシャ国の首都、ズーラにたどり着いた。
ズーラは、元の世界で言えば中近東の雰囲気に似ている。
町並みは赤いレンガ造り、道路は未舗装でほこりだらけ、あちこちにボロを着た物乞いが居る。
印象的なのは荷車や人の乗る車を引くのがイノシシを大きくしたような獣だ。
ライベルの戦場でも見たことがある。
そのイノシシに鞍をかけて馬のように使役している人も居る。
人々は毛皮を身にまとい獣の悪臭が街全体を覆っている。
アキトはジュベル国のいくつかの村を「宣教」という名目で襲っている。
ゲラニではジュベル国は、獣の国で文化程度も低く、それを救済するために「宣教」するのだ。
というヒュドラ教の教えを何度か聞いたが、ここラーシャに比べればジュベル国の住人の方が、よほど文化的で清潔な暮らしをしている。
街ゆく人に声をかけてエレイナ達のことを聞こうとしたが言葉が通じない。
馬を奪った村では通じていたゲラン語を理解できる人が居ないのだ。
仕方ないので一端は宿を取ることにした。
ズーラに来るまでに立ち寄ったいくつかの村落で金品を強奪していたので宿泊費に困ることは無かった。
アキトは香辛料が大量に入った辛いだけの食事を終えると街に出て付近を散策した。
散策の目的はヒュドラ教会を探すことだった。
ここラーシャはゲラン国の同盟国で、ヒュドラ教もあるていど浸透していると聞いていた。
ならば教会を探せば、頼りとするエレイナをみつけだすことが出来るかも知れない。
宿屋のある場所は、この街の繁華街のようで、獣の匂いと酒のすえた匂いの中、よっぱらいや客引きがうろついている。
飾り窓のある店舗からは厚化粧の女がアキトを呼び止めるが、アキトは興味を示さない。
繁華街を離れて住宅街を過ぎた時、見覚えのある建物が見えた。
この街では珍しい白い建物だ。
漆喰で塗り固められた建物の上にはヒュドラ教のシンボルが据えられている。
門番はいないが建物の中には灯りが灯っている。
「こんばんは~」
ゲラン語で呼びかけてみた。
反応が無い。
「Hollo」
試しに英語で呼びかけてみた。
すると建物の奥から足音が聞こえた。
扉が開いて中から金髪の男が出てきた。
「誰ですか?」
ゲラン語だ。
「えっと。ゲラン国将校アキトと言います。ヘレナ大司教かエレイナさんを探しています。ご存じないですか?」
「ヘレナ大司教という方は存じ上げませんが、エレイナ様なら、今日は城にいるはずです。」
「城というのは?」
金髪の男は遙か遠くの小高い丘を指さした。
その丘の上には暗闇の中、いくつかの灯りが灯った建造物がうっすらと見える。
「ズーラ城です。今日エレイナ様に会うのは無理でしょう。しばらくは城に滞在なされるはずです。」
金髪の男の話によれば、エレイナは傷ついたブラックドラゴンの手当をするために城内にあるドラゴンの厩舎で寝泊まりしているそうだ。
アキトはズーラ城へ向かった。
今日、会うのは無理だと言われても自分で確かめたかったのだ。
ズーラ城は西洋風の城で小高い丘の上に建ち、周囲には堀がある。
堀を越えて場内へ入るには正面の跳ね橋を通るしか無い。
一応門番に声をかけてみたがけんもほろろに拒絶された。
今のアキトの身なりではゲラン軍将校だと言っても信じてもらえないのだ。
身なりを整えて出直すことも考えたが、面倒だった。
城に無断で侵入すればトラブルになるのはあきらかだが、万が一トラブルになっても逃げ出すことは容易だったし、ゲランとラーシャの関係が悪くなってもアキトには関係の無いことだった。
ゲラニへ帰らずここまで来た以上は、一刻も早くヘレナやエレイナに会って自分の身の振り方を決めたかったのだ。
アキトは城の裏側にまわり堀を飛び越して城の城壁にしがみついた。
城壁の上までよじ登り、城内を見渡した。
城は広大な敷地の中、周囲を城壁に囲まれていて複数の建築物が見える。
兵舎のような建物がいくつかと、中央に高くそびえる城がある。
アキトはドラゴン厩舎というものを見たことが無かった。
城の周囲の建物をいくつか見て回ったが、いずれも兵舎やイノシシの厩舎で、ドラゴンが入れる程の建物は地上になかった。
となると残るのは城本体だ。
改めて城を眺めると、基部はレンガ造りで相当広いが屋根が低く、ドラゴンを収容できるとは思えない。
城にはいくつかの巨大な塔があって、その塔を眺めたところ、一つの塔の上部、地上から20メートルくらいの部分が大きく開いていた。
開いた部分からドラゴンでも着地できるほどのテラスが突き出ている。
アキトは、厩舎と言うから馬小屋のような造りを想像していたが、ドラゴンは空を飛ぶ。
建物の上部から建物に出入りしてもおかしくはない。
(あそこかも知れないな。)
塔の上部へ行くには一度城の基部へ入らなければならないが、それではまず見つかってしまう。
あえて危険を呼び寄せることもないと考え、城の城壁から城の基部の屋根に飛び移り、塔をよじ登ることにした。
塔はレンガ造りなので多少の出っ張りはある。
出っ張りと言ってもわずか数ミリの凹凸なので常人が登ることは不可能だ。
しかしアキトにとっては数ミリの凹凸があれば十分だった。
なんなく塔をよじ登って、ドラゴンが着地するであろうテラスまでたどり着いた。
塔の中から強烈な獣臭がする。
以前にも嗅いだことの有る匂い。
ドラゴンの匂いだ。
(やっぱ、ここだったね。)
暗闇に目をこらして塔の内部を見た。
ドラゴンの匂いに混じって獣の死臭がする。
あちこちに牛や鹿の骨がある。
ドラゴンの餌の残骸なのだろう。
足音を消しながら塔の奥へ進むが不注意にも獣の骨にけつまずいた。
暗闇の中に大きな瞳が二つ浮かび上がった。
瞳は蛇の目のように縦に割れている。
瞳の下の口元から青い炎が漏れた。
(まずい!!)
その時、見開かれた瞳の向こうから声がした。
「誰!!」
エレイナの声だ。
「あ、僕です。アキトです。」
エレイナがドラゴンの頭をなでるとドラゴンは再び目をつぶった。
「なんなの?こんな所まで来て。衛兵に見つかったら大事よ。」
「みつかったら、見つかった時のことで・・・」
「あんたなら、捕まることはないでしょうけど、迷惑するのはこっちよ。ちょっとは考えてよね。」
「・・・はい。」
「それで何の用なの?」
「戦争に負けて、行く当てもないし、ヘレナさんを頼ろうかと。」
「ヘレナは、ここにはいないわよ。目的を達成したから教国へ帰ったわ。」
「目的って?」
「あんたも知っているでしょ?神石の収集よ。けっこう集まったみたいね。」
「そうなの。じゃ僕も教国へ行こうかな。・・・」
「行っても良いけど、自分の足で行ってね。送ったりしないわよ。」
(ヒュドラまでは遠いなぁ・・)
「そんなこと言わずドラゴンに乗っけてくださいよ。いずれエレイナさんも帰るんでしょ?」
「・・・・まぁね。ドラゴンに乗せていってもいいけど、条件次第ね。」
「何です?条件って。」
「近々ジュベル国が、ここラーシャへ攻めてくると思うの。ここはヒュドラ教国にとっても重要な国だから、負けるわけにはいかないわ。だからあんたの戦闘能力、一時私に預けなさいよ。」
「また獣と戦えって事?・・・いいですよ。猫狩りくらい・・」
「そう。じゃ、契約成立ね。ジュベルが攻めてきたら好きなだけ猫を殺しても良いわよ。」
「いいですよ。でも意外ですね。」
「何が?」
「猫たちがラーシャまで攻めてくるなんて。守りに徹するのかと思っていましたよ。」
「まぁね。あいつらには復讐以外に目的が有るのよ。」
「何です?」
「こっち来て」
アキトはエレイナに促されて塔の奥へ進んだ。
ドラゴンを通り越して塔内のドアを開けると、牢獄があった。
「こいつらよ。」
牢獄の中には3名の美しい女性がいた。
3人は、エレイナを見ると怯えるように牢獄の隅で一塊になった。
一塊になると共に体と耳を震わせた。
震える耳にはふさふさと毛が生えている。
「この人達、何です?」
「ジュベル国の王族よ。」
西は標高2千メートル級の山並みが連なるレニア山脈、東と南には広大な草原が広がっている。
その草原の中を獣と戦いながら北へと歩を進める一人の男が居た。
髪の毛と瞳は黒色、引き締まった体つきで身長175センチくらい。
衣服も素肌もほこりにまみれている。
その男を狙って一匹のトラが茂みから飛び出した。
その男はトラに襲われても慌てること無く右手の平をトラに向けた。
トラがその男に飛びかかった瞬間、男の掌から青白い火の玉が発射された。
トラは悲鳴をあげる間もなくその場に崩れ落ちた。
男が放った火の玉はトラの首から上を消滅させていた。
男は手に持ったショートソードでトラの後ろ足を切り落とし、皮を剥いで自ら作り出した炎であぶった。
「まずっ」
男が発した言葉は日本語だった。
「なんで僕がこんなめにあわなきゃならないの。全部あのヤロウ、ホンダのせいだ。」
アキトはオオカミでドランゴを殺害した後、ドルムを恐れてオオカミから逃げ出した。
オオカミから逃げ出したものの、自分の現在地が全くわからない。
草原の中にあった小高い丘に登り周囲を見渡したところ北に火山、はるか東に海が見えた。
(あれはたぶんフォナシス火山だな。するとここはレニア山脈の東側ということになる。)
その時、レニア山脈を越えフォナシス火山方面に飛行するドラゴンを見つけた。
おそらくブラックドラゴンだ。
(あのドラゴンがエレイナさんのドラゴンなら、向かう先はラーシャだな。)
アキトは敗軍の将だ。
ゲランとジュベルの戦争は、ソウの参戦によりジュベルの一方的な勝利に終わったと言って良い。
アキトはゲラニまで帰ることも考えたが、現在地からはゲラニよりもラーシャの方が近い。
ゲラニに帰ったところで敗軍の将を待っているのは叱責だろう。
下手をすれば敗戦の責任をも問われかねない。
それならばと、エレイナを追いかけてラーシャへ行ってみることにしたのだ。
あれから3日、草原は果てしなく続く、獣の肉にも飽き飽きしてきた頃、目の前が開けた。
バリーツ大河だ。
大河の向こうには集落も見える。
集落には少数の人族が居た。
集落で情報収集したところ、現在地はラーシャの南、ラーシャの首都ズーラまで馬で一週間の場所だとわかった。
疲れ切ったアキトの姿をみた農夫が、アキトに食事とベッドを提供してくれた。
アキトは、その農夫の馬小屋で馬を奪った。
馬小屋から馬を盗み出す時、農夫に見つかってしまったが、躊躇することなく農夫を馬小屋ごと消し炭にしてしまった。
アキトは自分でも不思議に思った。
(罪悪感が無いや、ハハ)
アキトは戦争に参加して獣人を殺すうち、心の奥に隠していたドス黒い心が表面にでてきているのを自覚していた。
日本に居るときには、そのどす黒い心を表に出せば、自分が不利になることを十分自覚していたので心の奥にしまっていたが、この世界に来てからは徐々に本来の心が浮かび上がってきたのだ。
アキトはラーシャ国の首都、ズーラにたどり着いた。
ズーラは、元の世界で言えば中近東の雰囲気に似ている。
町並みは赤いレンガ造り、道路は未舗装でほこりだらけ、あちこちにボロを着た物乞いが居る。
印象的なのは荷車や人の乗る車を引くのがイノシシを大きくしたような獣だ。
ライベルの戦場でも見たことがある。
そのイノシシに鞍をかけて馬のように使役している人も居る。
人々は毛皮を身にまとい獣の悪臭が街全体を覆っている。
アキトはジュベル国のいくつかの村を「宣教」という名目で襲っている。
ゲラニではジュベル国は、獣の国で文化程度も低く、それを救済するために「宣教」するのだ。
というヒュドラ教の教えを何度か聞いたが、ここラーシャに比べればジュベル国の住人の方が、よほど文化的で清潔な暮らしをしている。
街ゆく人に声をかけてエレイナ達のことを聞こうとしたが言葉が通じない。
馬を奪った村では通じていたゲラン語を理解できる人が居ないのだ。
仕方ないので一端は宿を取ることにした。
ズーラに来るまでに立ち寄ったいくつかの村落で金品を強奪していたので宿泊費に困ることは無かった。
アキトは香辛料が大量に入った辛いだけの食事を終えると街に出て付近を散策した。
散策の目的はヒュドラ教会を探すことだった。
ここラーシャはゲラン国の同盟国で、ヒュドラ教もあるていど浸透していると聞いていた。
ならば教会を探せば、頼りとするエレイナをみつけだすことが出来るかも知れない。
宿屋のある場所は、この街の繁華街のようで、獣の匂いと酒のすえた匂いの中、よっぱらいや客引きがうろついている。
飾り窓のある店舗からは厚化粧の女がアキトを呼び止めるが、アキトは興味を示さない。
繁華街を離れて住宅街を過ぎた時、見覚えのある建物が見えた。
この街では珍しい白い建物だ。
漆喰で塗り固められた建物の上にはヒュドラ教のシンボルが据えられている。
門番はいないが建物の中には灯りが灯っている。
「こんばんは~」
ゲラン語で呼びかけてみた。
反応が無い。
「Hollo」
試しに英語で呼びかけてみた。
すると建物の奥から足音が聞こえた。
扉が開いて中から金髪の男が出てきた。
「誰ですか?」
ゲラン語だ。
「えっと。ゲラン国将校アキトと言います。ヘレナ大司教かエレイナさんを探しています。ご存じないですか?」
「ヘレナ大司教という方は存じ上げませんが、エレイナ様なら、今日は城にいるはずです。」
「城というのは?」
金髪の男は遙か遠くの小高い丘を指さした。
その丘の上には暗闇の中、いくつかの灯りが灯った建造物がうっすらと見える。
「ズーラ城です。今日エレイナ様に会うのは無理でしょう。しばらくは城に滞在なされるはずです。」
金髪の男の話によれば、エレイナは傷ついたブラックドラゴンの手当をするために城内にあるドラゴンの厩舎で寝泊まりしているそうだ。
アキトはズーラ城へ向かった。
今日、会うのは無理だと言われても自分で確かめたかったのだ。
ズーラ城は西洋風の城で小高い丘の上に建ち、周囲には堀がある。
堀を越えて場内へ入るには正面の跳ね橋を通るしか無い。
一応門番に声をかけてみたがけんもほろろに拒絶された。
今のアキトの身なりではゲラン軍将校だと言っても信じてもらえないのだ。
身なりを整えて出直すことも考えたが、面倒だった。
城に無断で侵入すればトラブルになるのはあきらかだが、万が一トラブルになっても逃げ出すことは容易だったし、ゲランとラーシャの関係が悪くなってもアキトには関係の無いことだった。
ゲラニへ帰らずここまで来た以上は、一刻も早くヘレナやエレイナに会って自分の身の振り方を決めたかったのだ。
アキトは城の裏側にまわり堀を飛び越して城の城壁にしがみついた。
城壁の上までよじ登り、城内を見渡した。
城は広大な敷地の中、周囲を城壁に囲まれていて複数の建築物が見える。
兵舎のような建物がいくつかと、中央に高くそびえる城がある。
アキトはドラゴン厩舎というものを見たことが無かった。
城の周囲の建物をいくつか見て回ったが、いずれも兵舎やイノシシの厩舎で、ドラゴンが入れる程の建物は地上になかった。
となると残るのは城本体だ。
改めて城を眺めると、基部はレンガ造りで相当広いが屋根が低く、ドラゴンを収容できるとは思えない。
城にはいくつかの巨大な塔があって、その塔を眺めたところ、一つの塔の上部、地上から20メートルくらいの部分が大きく開いていた。
開いた部分からドラゴンでも着地できるほどのテラスが突き出ている。
アキトは、厩舎と言うから馬小屋のような造りを想像していたが、ドラゴンは空を飛ぶ。
建物の上部から建物に出入りしてもおかしくはない。
(あそこかも知れないな。)
塔の上部へ行くには一度城の基部へ入らなければならないが、それではまず見つかってしまう。
あえて危険を呼び寄せることもないと考え、城の城壁から城の基部の屋根に飛び移り、塔をよじ登ることにした。
塔はレンガ造りなので多少の出っ張りはある。
出っ張りと言ってもわずか数ミリの凹凸なので常人が登ることは不可能だ。
しかしアキトにとっては数ミリの凹凸があれば十分だった。
なんなく塔をよじ登って、ドラゴンが着地するであろうテラスまでたどり着いた。
塔の中から強烈な獣臭がする。
以前にも嗅いだことの有る匂い。
ドラゴンの匂いだ。
(やっぱ、ここだったね。)
暗闇に目をこらして塔の内部を見た。
ドラゴンの匂いに混じって獣の死臭がする。
あちこちに牛や鹿の骨がある。
ドラゴンの餌の残骸なのだろう。
足音を消しながら塔の奥へ進むが不注意にも獣の骨にけつまずいた。
暗闇の中に大きな瞳が二つ浮かび上がった。
瞳は蛇の目のように縦に割れている。
瞳の下の口元から青い炎が漏れた。
(まずい!!)
その時、見開かれた瞳の向こうから声がした。
「誰!!」
エレイナの声だ。
「あ、僕です。アキトです。」
エレイナがドラゴンの頭をなでるとドラゴンは再び目をつぶった。
「なんなの?こんな所まで来て。衛兵に見つかったら大事よ。」
「みつかったら、見つかった時のことで・・・」
「あんたなら、捕まることはないでしょうけど、迷惑するのはこっちよ。ちょっとは考えてよね。」
「・・・はい。」
「それで何の用なの?」
「戦争に負けて、行く当てもないし、ヘレナさんを頼ろうかと。」
「ヘレナは、ここにはいないわよ。目的を達成したから教国へ帰ったわ。」
「目的って?」
「あんたも知っているでしょ?神石の収集よ。けっこう集まったみたいね。」
「そうなの。じゃ僕も教国へ行こうかな。・・・」
「行っても良いけど、自分の足で行ってね。送ったりしないわよ。」
(ヒュドラまでは遠いなぁ・・)
「そんなこと言わずドラゴンに乗っけてくださいよ。いずれエレイナさんも帰るんでしょ?」
「・・・・まぁね。ドラゴンに乗せていってもいいけど、条件次第ね。」
「何です?条件って。」
「近々ジュベル国が、ここラーシャへ攻めてくると思うの。ここはヒュドラ教国にとっても重要な国だから、負けるわけにはいかないわ。だからあんたの戦闘能力、一時私に預けなさいよ。」
「また獣と戦えって事?・・・いいですよ。猫狩りくらい・・」
「そう。じゃ、契約成立ね。ジュベルが攻めてきたら好きなだけ猫を殺しても良いわよ。」
「いいですよ。でも意外ですね。」
「何が?」
「猫たちがラーシャまで攻めてくるなんて。守りに徹するのかと思っていましたよ。」
「まぁね。あいつらには復讐以外に目的が有るのよ。」
「何です?」
「こっち来て」
アキトはエレイナに促されて塔の奥へ進んだ。
ドラゴンを通り越して塔内のドアを開けると、牢獄があった。
「こいつらよ。」
牢獄の中には3名の美しい女性がいた。
3人は、エレイナを見ると怯えるように牢獄の隅で一塊になった。
一塊になると共に体と耳を震わせた。
震える耳にはふさふさと毛が生えている。
「この人達、何です?」
「ジュベル国の王族よ。」
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以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
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そっかぁ、ヒナ辛かったねぇ、流されただけだものね・・・でもねやったことは消えないの・・・
時間は巻き戻らないし、ヒナが選択したことでソウをとことんまで追い詰めたことは変わらないの・・・
だから「自己弁護」だけはしないでね、読者として死んでほしいキャラになるから。
更新頑張ってください。
いつも感想をくださって、ありがとうございます。
ヒナに限らず、登場人物には、それぞれ大きな試練が待ち構えています。
それぞれの苦悩と成長を見守ってあげて下さい。
感想はとても励みになります。
ものすごく悠長なヒナがある意味ものすごく不気味に見える。
ゆっくり話を聞いてみよう?
ソウを殺す算段をしてる時に平和ボケしてるなぁ・・・
更新頑張ってください。
感想ありがとうございます。
主人公以外の登場人物は、未だに高校生気分が抜けていないようです。
これから大きな運命の波に飲み込まれるかもしれません。
皆、泳ぎ切ることができると良いのですが。
ヒナのこの行動が主人公を追い詰める・・・
そしてこれからずっと、あのときなぜって後悔を続けるんだよなぁ・・・
その負い目を利用され落ちていくのかな?
更新頑張ってください、でもちょっと重いです(笑)
いつも感謝ありがとうございます。
ヒナは真面目すぎるし正直すぎるんですよね。w
それが、かえってヒナや主人公を追い詰める。
これから、どうなることやら。
お楽しみに。