異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第六章 ヒュドラ教国編

第176話 真の神族

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メリア夫人を治療し、ラマさんをドレイモンから解放した翌日、俺はランデル夫妻の乗る馬車に同乗してシュンドラへ向かっていた。
俺は夫妻の向かい合わせの席に座っている。
俺の隣にはレイシアが座っている。
手術後レイシアを自宅まで送ろうとしたところ

「いつでも帰れるなら、もう少し姉と一緒にいたい。」

とのことで、ゲラニに待機しているレイシアの護衛兵を説得してから再びこちら側に帰ってきたのだ。

レイシアが残ることを知ったイツキは、やけに嬉しそうだった。


「シン殿。」

「はい。」

「貴方には口では言い表せないほど感謝している。ラマ以外、他にも何かお礼をしたいのだが何か望みはないだろうか?」

「そうですわ。私、このまま一生日陰の生活を送るはずでした。それがこうして人前に堂々と出ることができるんですもの。こんな喜びは他にありませんわ。どうかなんなりとおっしゃってください。」

「はい。それでは一つだけ。」

「うむ。何でも言ってくれ。」

「ランデル様が出席なさいます、ヒュドラ教の儀式。私もお供させていただけませんでしょうか?」

ヒュドラ教の春の大祭、今年の大祭は例年と違って大きな催しがあると聞いていた。
その催しは「復活の儀」と呼ばれるものでヒュドラ教の教祖「ヒュドラ」の復活を試みる儀式だと。

その儀式のために全世界からヒュドラ教信者がヒュドラ教国に集められているらしい。
その集められた信者の中でも高貴な者は儀式の会場へ入れるということを事前に情報収集していた。

「復活の儀」が言葉通りならヒュドラの蘇生を図る儀式だろう。
となれば「蘇生」のスキルを持つヒナがその場に現れる可能性は高い。

「それは造作も無いこと。私の従者という形をとるが、それでも良いのなら、一緒にまいろう。」

メリア夫人が身を乗り出す。

「そんなことでよろしいのですか?」

「ええ、私にとっては、とても重要なことです。」

「まぁ、シン様は信心深いのですね。」

逆だ。
俺はヒュドラ教を恨んでいる。
俺を奴隷にして苦しめ、クチル島で親切にしてくれたピンター一家を離別させ、仲間を殺され、離ればなれになっているのも、全てヒュドラ教のせいなのだ。
だが、今はそんなことはおくびにも出せない。

「ええ。ヒュドラ様の復活が本当に起きるのならば、この目で見てみたいのです。」

ランデル伯が口を挟む。

「まぁ、本当に復活することはないだろうが、ヒュドラ様の元、世界が一つになり、平和になることを願うのがヒュドラ教だからね。儀式に参加したいというシン殿の気持ちはよくわかるよ。」

俺は、ランデル伯に何の悪意も持っていないが、「ヒュドラ教は世界平和の為」などと言う言葉を聞いて反吐が出そうだった。

ヒュドラ教の宣教という名の下にどれだけ多くの人が亡くなり、今も苦労をしているかと思うと、やるせない。

(お前馬鹿だろう)

言葉に出したいくらいだ。

その日の夕方俺達はヒュドラ教国首都、シュンドラに到着した。
シュンドラは人口約35万、この世界のどの都市にもある外壁に囲まれているが、町並みは綺麗だ。

レンガと漆喰で作られた家並みが外壁の門から町の中央にある教会本部まで続く。
道路は舗装されていてゴミ一つ落ちていない。

いずれの建物の屋根にもヒュドラのシンボルが掲げられているのが印象的だ。
人通りは多く活気に溢れている。

おそらく春の大祭のために全世界から信者が集まっているからだろう。
遠くに見えるヒュドラ教会本部は元の世界で言えばサクラダファミリアのような外観だ。

建物の基部は日本の国会議事堂ほどの大きさで放射線状のアーチや鐘楼、様々な彫刻で装飾されている。

その基部から高さの異なる円錐形の塔が10本ほど立っている。
この塔も様々な彫刻が施されているが遠目なので何の彫刻なのかは定かではない。
おそらくヒュドラに関する彫刻が施されているのだろう。

一番目をひくのは建物中央に他の塔を見下ろすようにそびえ立つ円錐形の塔で、高さは30メートル以上有りそうだ。

魔力を伸ばしたわけではないが、その塔からは何かしら異様な圧力を感じる。
馬車内で窓に顔くっつけるようにしてレイシアが言った。

「すごく綺麗。私初めて見ましたわ。」


メリア夫人が、その姿を見て笑いながら言った。

「レイシアは、まだまだ子供ね。うふふ」

レイシアが振り向く。

「あら、お姉様。私のどこが子供なのかしら?」

「うふふ。ごめんなさい。からかったわけでは無いのよ。昔と変わらず好奇心旺盛で、何かを見て目を輝かせる姿が懐かしく思えただけ。」

姉妹の会話を前にランデル伯が微笑んでいる。

「こうして姉妹仲良く一緒にいられるのも、全てシン殿のおかげだな。」

俺はメリア姉妹の様子を見てなぜだかヒナを思い出していた。
俺とヒナは幼なじみ。
どちらかと言えばヒナが姉のような存在だ。

いつもドジな俺をヒナが庇ってくれていた。

(今度は俺がヒナを助ける番だ。)

窓の外の教会本部を見ながら、そう思った。


教会本部の中央、一番高い塔の下に教皇が居た。
教皇は塔へ向かう階段をゆっくりと上る。
教皇の後ろにはラグニア他教会幹部が控えている。
その数はラグニアを含めて12人だ。

教皇が階段最上部の塔の入り口に到達した時にラグニア達がその場にかしずいた。

教皇が振り返りラグニア達を見下ろす。

「いよいよ明後日、ヒュドラ様が復活されます。その前に貴方達にもヒュドラ様に祈りを捧げる機会を与えます。謹んで礼拝しなさい。」

ラグニア達はかしずいたまま頭を下げた。

「ところで、これから先には真の神族しか入れないのはご存じですよね。」

ラグニアが頭を上げた。

「はい。」

「用意なさい。」

ラグニア達は上着を脱ぎ上半身裸になった。
ラグニア達はヒュドラ教の祈りを捧げる姿勢を取り、何かを念じている。

数秒後、ラグニア達に変化があった。
祈りの姿勢を保ったまま何かを念じたところ、ラグニアの背中が隆起した。

両方の肩甲骨の背骨側が隆起しながら亀裂が入った。
まるで蝉の幼虫が羽化するように亀裂から白い何かが出てきた。
その白い何かは徐々に広がり最終的には翼になった。
ラグニアは、まるで白鳥が羽ばたくときのように翼を広げて2~3度羽ばたいた後羽を折りたたんだ。

ラグニアの体は淡い光に包まれている。
神々しいとも言える。

ラグニア他の幹部もラグニア同様背中に羽が生えている。
その光景は天使の集団が教皇にかしずいているようにも見える。

塔の入り口には門番が4名いるが4名共に極度に緊張している様子だ。
その門番の内、塔の入り口右側に居る門番の前に教皇が歩み寄る。

「そこをどきなさい。」

「は、はい。」

門番が移動すると門番が背にしていた塔の壁にはB4サイズほどの白い板があった。
その板は壁の色や形に同化している。

ガンドール遺跡の入り口にあった認識板によく似ている。

教皇がその認識板に手をかざすと、塔正面の何も無かった壁が音も無く開いた。
壁が開いた場所には半透明の光の幕が広がっている。

門番達が驚いている。

門番達は何を守るのか知らされておらず、ただここに人を近づけるなとだけ命令されていたようだ。

「さ、行きますよ。」

教皇は一度振り向いてから光の幕の中へ消えた。
教皇を追って翼を生やした12人の教会幹部が光の幕の中へ入る。

塔に向かって左側にいる二人の門番はすぐに正面を向き、立ち番の姿勢に戻った。
右側の門番のうち一人が光の幕の中をのぞき込んでいる。
右側の門番の相方が手を伸ばしてその門番をたしなめるが、好奇心旺盛な門番は立ち番の姿勢に戻ろうとしない。

その門番は幕の中を覗きながら、自分の右手を光の幕の中へ一度突っ込んでから引き抜いた。

「ギャー!!!」

悲鳴をあげる。

その悲鳴の主を見て他の門番が驚いた。
光の幕に腕を突っ込んだ門番の右腕、肘から先が消失していた。

光の幕の中に入った教皇達は、塔の内部に似つかわしくない場所にいた。
その場所は明るい照明に照らされ、無機質な壁に囲まれた一室、病院内のクリーンルームといったような感じの場所だ。

壁の周囲にはいろいろな装置が並べられ小さな光が明滅している。
キューブの地下室にも似ている。

教皇はその機械のいくつかを操作している。
12人の教会幹部は教皇の作業を見守っている。

教皇が何秒か操作をしたところ、壁に塔の入り口と同じような光の幕が現れ、そこからソウの持つメディと同じような機械がせり出してきた。

メディらしき物の上部はシールドで覆われている。

「貴方達は、初めてね。この中に居るのがヒュドラ様よ。」

教皇のその言葉を聞いて12人が一斉に跪き祈りの姿勢を取った。
教皇はメディカルマシーンの認証板に手を宛てて言った。

「メディカルマシーン、シールドの上部だけ、透明化して。」

『了解しました。』

メディカルマシーンに寝ている人物の上半身部分が透明化した。
透明化した部分からメディカルマシーンに寝ている人物の上半身が透けて見える。
その人物は、どこのヒュドラ教会にもある彫像と全く同じ顔つきだった。

全身は見えないが上半身から察するに、ずんぐりむっくりの体型。
髪の毛は金色で昔地球で流行ったマッシュルームカット。
目は閉じているがマツゲは長い。
鼻は、いわゆる団子っ鼻。
唇は分厚く顎髭を蓄えている。

日本人が、この人物を見ればクシャミがきっかけで壺から出てくる魔神のアニメを思い出すかも知れない。

ラグニアが跪いたまま言葉を発する。

「教皇様、ヒュドラ様のご尊顔を拝見してもよろしゅうございますか?」

「いいわよ。」

教皇が左に移動する。
ラグニアが教皇の居た位置へ来て胸に手を宛てながらメディカルマシーンをのぞき込む。
一礼して後ろに下がると、それに残りの11人が続いた。
全員がヒュドラの顔を見た後、教皇がヒュドラの前に跪いた。
それにならって12人も教皇の後ろで跪く。
教皇は

「皆の者、ヒュドラ様の復活を願い。祈りを捧げるのです。この世界では・・」
と言いかけて一度言葉を飲み込んだ。

「我々の願いはその願いをかなえたいと思えば思うほど実現します。ヒュドラ様の復活は我々使徒と信者の願いの大きさに比例します。だから自分の命と引き換えにしてでも復活を願うのです。」

「「「「ははっ」」」」

その場の全員が頭を垂れ胸に手を宛てて祈った。
ヒュドラの復活を。

ヒュドラの亡骸が青白く光った。

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