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第六章 ヒュドラ教国編
第175話 ラマさんを迎えに行くぞ
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「ラマさんを迎えに行くぞ」
俺の言葉にピンターとブルナが目を丸くした。
「兄ちゃん!母ちゃん見つけたの?どこにいるの?元気なの?」
ピンターが、矢継ぎ早に質問する。
「ソウ様。本当ですか?母が居たのですか?」
いつもは冷静で物静かなブルナも興奮が隠せないようだ。
「ああ、見つけたぞ。お前達の母ちゃん、ラマさんをな。」
俺の表情も緩む。
「どこ?どこ?母ちゃんどこ?」
ピンターが俺の周りを子犬のように、ぐるぐる回る。
「ラマさんはヒュドラの巡礼の中に居た。今はヒュドラ教国だ。今からお前達を連れていく。」
ブルナは涙ぐんでいる。
「母は、無事ですか?健康ですか?」
「ラマさんは健康だ。しかしドレイモンの影響で心を閉ざしている。俺の呼びかけにも反応が薄い。」
「そうですか・・それでもソウ様ならドレイモンを解除出来ますよね?私を解放したように。」
「ああ、そのつもりだが、ラマさんにかけられたドレイモンはかなり強い。俺だけの力では解除できないみたいだ。」
ピンターの表情が曇る。
「それじゃぁ母ちゃんは・・・」
「心配するなピンター。ドレイモンは必ず解除する。そのためにはお前達二人の力が必要だ。だから呼びに来たんだ。」
俺はピンターとブルナを連れてラマさんのいる部屋へ戻った。
「母ちゃん!!!」
ラマさんを見たピンターがラマさんに駆け寄り抱きつく。
しかしラマさんは無表情だ。
「お母さん・・」
ブルナもピンターの横から母親に抱きつく。
やはりラマさんは無表情だ。
「ラマさん。あんたの子供達だ。それはわかるよね?」
ラマさんは無表情のまま答える。
「はい。私の子、ブルナとピンターです。ご主人様。」
ラマさんにピンター達を見せれば少しは凍った心も解けるかと思ったが、状況は思ったより厳しいようだ。
ピンターは、ラマさんに抱きついたままラマさんの顔を見上げる。
「母ちゃん・・・どうしたの?嬉しくないの?」
ラマさんは返答をせず、じっと立っている。
ここに居るのはピンターの母親ではなく、奴隷のラマさんだ。
本当のラマさんは、あの檻の中に居る。
少し乱れたラマさんの髪の毛をブルナが整える。
「母さん。苦労をしたのよね。わかるわ。でももう安心して良いのよ。私もピンターも母さんの側を離れないから。それにソウ様も一緒にいてくれるわ。」
ブルナの視線が俺を向く。
俺は頷いた。
俺はブルナの右手とピンターの左手を握った。
「ブルナ、ピンター。ラマさんの手を握れ、今からラマさんを助けに行くぞ。」
「うん。」
「はい。」
ブルナはラマさんの右手、ピンターはラマさんの左手を握った。
ラマさんピンター、俺、ブルナが手を取り合って一つながりになった。
俺は魔力の触手を伸ばした。
まず、ラマさんへ、次にブルナ、最後にピンターの順で。
触手を伸ばしたままラマさんの心の中にある檻の前に立った。
今度は俺だけで無く、ブルナとピンターも一緒だ。
ラマさんは堅固な檻の中で相変わらず丸まっている。
「ラマさん。ラマさん。こっちを見て。ラマさん。」
俺が呼びかけてもラマさんは反応しない。
「母ちゃん!!母ちゃん!!オイラだ、ピンターだよ。」
「お母さん!!お母さん!!」
ラマさんの耳がピクリと動いたように見えた。
「ピンター、ブルナ、もっとだ。もっと一所懸命呼びかけろ。心から願え。ラマさんのことを。心から想え母親のことを。ここでラマさんが帰らなければ一生会えないぞ。頑張れ。」
ブルナが檻に手をかける。
「お母さん!!お母さん!!出てきても大丈夫よ。檻から出てもお母さんをいじめる人はいないわ。もしいてもソウ様が守ってくれる。私もピンターもソウ様に守られているの。何の心配もいらないわ。出てきて一緒にお父さんを探しましょうよ!!」
ラマさんがブルナの声に反応した。
檻の中で座ったままだが、顔をブルナ達に向けた。
「母ちゃん!!!母ちゃん。島へ一緒に帰ろう。島であのスープを作って。みんなで食べよう。だから、だから帰ってきて。お願い母ちゃん。」
ラマさんがゆっくりと体をこちらに向け、ピンターを見つめたまま這い寄って来た。
「母ちゃん!!」
「お母さん!!」
格子の隙間からピンターとブルナがラマさんに手を差し伸べる。
ラマさんがおそるおそる、ピンターとブルナの手を握った。
「ラマさん。そこから出てピンターとブルナを抱きしめてやって。そこにいるのは貴方の全てだ。心の中で強く思うんだ。『我が子を抱きしめたい』と」
ラマさんは目尻から涙をこぼしながら頷き二人の手を握りしめた。
その時、俺は牢獄に繋がっているケーブルを切り、牢獄を破壊した。
現実に戻った。
ラマさんはピンターとブルナを力強く抱きしめている。
「ブルナ・・ピンター・・ごめんね。心配かけたわね。」
ラマさんの表情は明るい。
クチル島で俺の面倒を見てくれた時のラマさんだ。
「母ちゃん!!母ちゃん!!」
「お母さん。帰ってきたのね・・お母さん。」
「お帰りなさい、ラマさん。もう大丈夫だ。」
側で見ていたレンとイツキが小さく拍手をしている。
「よかったです。」
「よかったな。オイ」
ピンターは、ひとしきりラマさんに甘えた後、駆け寄ってきて俺に飛びついた。
「兄ちゃん。ありがとう。やっぱ兄ちゃんだ。」
俺はピンターの頭をなでた。
「約束だからな。」
ブルナとラマさんも俺に近寄る。
「ソウ様。ありがとうございます。ソウ様のおかげで・・・母には二度と会えないかと思っていました。」
ラマさんが頭を下げる。
「ソウさんが二人の面倒を見ていてくれたのですね。あの時、島に貴方がいたことは私達にとって不幸中の幸いです。ほんとうにありがとう。」
「いいんですよラマさん。そういう運命だ。跡はブラニさんを探すだけだ。」
「兄ちゃん。お願いね。」
「ああ、まかせておけ。」
ピンター達が再会を喜んでいる時、ヒュドラ教会本部、教皇の間に一人の男が教皇を前にして、かしずいていた。
「教皇様」
「何?ラグニア」
「先ほど、私のドレイモンが何者かによって破られました。」
「それがどうしたの?」
「おそれながら・・私のドレイモンはヒュドラ教会内部では一番強固なもの、それを破るということは、私以上の力を持つ者が出現したということにござりまする。」
教皇は椅子から立ち上がり跪くラグニアに近づく。
「表をあげてもよろしい。」
「はは」
ラグニアは跪いたまま自分の顔を教皇に向けた。
「ヒミコ様、また時間遡行をなされたのですか?ずいぶんとお若い。」
教皇ヒミコはその姿に似合わぬ低くしわがれた声で言った。
「ラグニア」
「はい。」
「私を本名で呼ぶこと、いつ許可しましたか?」
ラグニアはその言葉を聞いてあわてて両手を地面につき平伏した。
「申し訳ございません。つい・・・誠に申し訳ございませんでした。聖なる教皇様。」
「まぁいいわ。それで、枢機卿のお前が自らドレイモンを施すなんて、そんなに重要な人物だったの?その奴隷。」
「いいえ、ヘレナ不在の時にランデル領の領主に頼まれてドレイモンを施しただけです。奴隷そのものは、どこかの田舎女です。価値はありません。重要なのは私の術を破った者が近くに居るとうことです。まもなくヒュドラ様の「復活の儀」用心にこしたことはございません。」
「そうね。用心に越したことは無いわ。お前の術を破ったのは何者?どこにいるの?」
「それが、その者は神族でも人間でも獣人でもございませんでした。どちらかといえば教皇様に近い力を感じました。私の魔力糸が切られた場所・・術が破られた場所は、ここからさほど遠くない場所。おそらくシュンドラ西の原野です。」
「わかったわ。例の場所の警戒を厳重にして。3日後には儀式を始めるから、それまで誰も近づけないで。」
「はい。かしこまりました。それでは失礼致します。聖なる教皇様。」
「うん。行っていいわよ。」
いつの間にか教皇の声が幼いヒミコの声に戻っていた。
「衛兵」
教皇の声にすぐさま衛兵が反応した。
「はっ」
「ヒナちゃんを連れてきて。それに、お茶とお菓子。」
「ははっ」
数分後、教皇の間にヒナが現れた。
ヒナはヒミコの前でかしずく。
「ヒナちゃん。ここに居るときは友達だって言っているでしょ。そんな挨拶はやめてよ。」
「はい。ヒミコ様」
ヒミコがヒナを手招きしてテーブル前の椅子に座らせる。
ヒナが着席すると同時に湯気の立つコーヒーカップとイチゴのショートケーキが置かれた。
「まずは、お茶を楽しみましょ。今日のケーキも美味しそうよ。」
「はい。」
ヒミコがコーヒーカップを取り上げるのを見てからヒナもカップに手を伸ばした。
ヒミコが視線をヒナに向ける。
「ヒナちゃん。成功率アップしてるんだって?3日前に死んだ人を蘇生させたそうね。」
「はい。ラナガ様からいただいた神石の中に、とても強い球がありまして、その球を使った直後に蘇生が成功しました。それと遺族の中に強い魔力を持った者が居たようで、外からの強い力、祈りのようなものを感じました。」
ヒミコは、ほんの少しの間、沈黙した後独り言のようにつぶやいた。
「やっぱりね。思った通りだわ。蘇生には強い力と強い祈りが必要なんだわ。」
ヒナがヒミコを見つめる。
ヒミコがヒナの視線に気づく。
「あ、ごめん。ごめん。独り言みたいになっちゃたわね。」
「いえ。かまいません。」
「ヒナちゃん。」
「はい。」
「こないだも言ったとおり、三日後に、おっちゃんの蘇生を行うわよ。蘇生の準備はまもなく整うわ。ヒュドラ教全信者が三日後の正午、一斉に祈りを捧げるの。おっちゃんの蘇生を願う祈りを。ヒナちゃんはそれに合わせて「蘇生」を発動させて。おっちゃんが生き返れば、私達、帰れるかもよ、日本へ。」
「はい。私も帰りたいです。日本へ。」
俺の言葉にピンターとブルナが目を丸くした。
「兄ちゃん!母ちゃん見つけたの?どこにいるの?元気なの?」
ピンターが、矢継ぎ早に質問する。
「ソウ様。本当ですか?母が居たのですか?」
いつもは冷静で物静かなブルナも興奮が隠せないようだ。
「ああ、見つけたぞ。お前達の母ちゃん、ラマさんをな。」
俺の表情も緩む。
「どこ?どこ?母ちゃんどこ?」
ピンターが俺の周りを子犬のように、ぐるぐる回る。
「ラマさんはヒュドラの巡礼の中に居た。今はヒュドラ教国だ。今からお前達を連れていく。」
ブルナは涙ぐんでいる。
「母は、無事ですか?健康ですか?」
「ラマさんは健康だ。しかしドレイモンの影響で心を閉ざしている。俺の呼びかけにも反応が薄い。」
「そうですか・・それでもソウ様ならドレイモンを解除出来ますよね?私を解放したように。」
「ああ、そのつもりだが、ラマさんにかけられたドレイモンはかなり強い。俺だけの力では解除できないみたいだ。」
ピンターの表情が曇る。
「それじゃぁ母ちゃんは・・・」
「心配するなピンター。ドレイモンは必ず解除する。そのためにはお前達二人の力が必要だ。だから呼びに来たんだ。」
俺はピンターとブルナを連れてラマさんのいる部屋へ戻った。
「母ちゃん!!!」
ラマさんを見たピンターがラマさんに駆け寄り抱きつく。
しかしラマさんは無表情だ。
「お母さん・・」
ブルナもピンターの横から母親に抱きつく。
やはりラマさんは無表情だ。
「ラマさん。あんたの子供達だ。それはわかるよね?」
ラマさんは無表情のまま答える。
「はい。私の子、ブルナとピンターです。ご主人様。」
ラマさんにピンター達を見せれば少しは凍った心も解けるかと思ったが、状況は思ったより厳しいようだ。
ピンターは、ラマさんに抱きついたままラマさんの顔を見上げる。
「母ちゃん・・・どうしたの?嬉しくないの?」
ラマさんは返答をせず、じっと立っている。
ここに居るのはピンターの母親ではなく、奴隷のラマさんだ。
本当のラマさんは、あの檻の中に居る。
少し乱れたラマさんの髪の毛をブルナが整える。
「母さん。苦労をしたのよね。わかるわ。でももう安心して良いのよ。私もピンターも母さんの側を離れないから。それにソウ様も一緒にいてくれるわ。」
ブルナの視線が俺を向く。
俺は頷いた。
俺はブルナの右手とピンターの左手を握った。
「ブルナ、ピンター。ラマさんの手を握れ、今からラマさんを助けに行くぞ。」
「うん。」
「はい。」
ブルナはラマさんの右手、ピンターはラマさんの左手を握った。
ラマさんピンター、俺、ブルナが手を取り合って一つながりになった。
俺は魔力の触手を伸ばした。
まず、ラマさんへ、次にブルナ、最後にピンターの順で。
触手を伸ばしたままラマさんの心の中にある檻の前に立った。
今度は俺だけで無く、ブルナとピンターも一緒だ。
ラマさんは堅固な檻の中で相変わらず丸まっている。
「ラマさん。ラマさん。こっちを見て。ラマさん。」
俺が呼びかけてもラマさんは反応しない。
「母ちゃん!!母ちゃん!!オイラだ、ピンターだよ。」
「お母さん!!お母さん!!」
ラマさんの耳がピクリと動いたように見えた。
「ピンター、ブルナ、もっとだ。もっと一所懸命呼びかけろ。心から願え。ラマさんのことを。心から想え母親のことを。ここでラマさんが帰らなければ一生会えないぞ。頑張れ。」
ブルナが檻に手をかける。
「お母さん!!お母さん!!出てきても大丈夫よ。檻から出てもお母さんをいじめる人はいないわ。もしいてもソウ様が守ってくれる。私もピンターもソウ様に守られているの。何の心配もいらないわ。出てきて一緒にお父さんを探しましょうよ!!」
ラマさんがブルナの声に反応した。
檻の中で座ったままだが、顔をブルナ達に向けた。
「母ちゃん!!!母ちゃん。島へ一緒に帰ろう。島であのスープを作って。みんなで食べよう。だから、だから帰ってきて。お願い母ちゃん。」
ラマさんがゆっくりと体をこちらに向け、ピンターを見つめたまま這い寄って来た。
「母ちゃん!!」
「お母さん!!」
格子の隙間からピンターとブルナがラマさんに手を差し伸べる。
ラマさんがおそるおそる、ピンターとブルナの手を握った。
「ラマさん。そこから出てピンターとブルナを抱きしめてやって。そこにいるのは貴方の全てだ。心の中で強く思うんだ。『我が子を抱きしめたい』と」
ラマさんは目尻から涙をこぼしながら頷き二人の手を握りしめた。
その時、俺は牢獄に繋がっているケーブルを切り、牢獄を破壊した。
現実に戻った。
ラマさんはピンターとブルナを力強く抱きしめている。
「ブルナ・・ピンター・・ごめんね。心配かけたわね。」
ラマさんの表情は明るい。
クチル島で俺の面倒を見てくれた時のラマさんだ。
「母ちゃん!!母ちゃん!!」
「お母さん。帰ってきたのね・・お母さん。」
「お帰りなさい、ラマさん。もう大丈夫だ。」
側で見ていたレンとイツキが小さく拍手をしている。
「よかったです。」
「よかったな。オイ」
ピンターは、ひとしきりラマさんに甘えた後、駆け寄ってきて俺に飛びついた。
「兄ちゃん。ありがとう。やっぱ兄ちゃんだ。」
俺はピンターの頭をなでた。
「約束だからな。」
ブルナとラマさんも俺に近寄る。
「ソウ様。ありがとうございます。ソウ様のおかげで・・・母には二度と会えないかと思っていました。」
ラマさんが頭を下げる。
「ソウさんが二人の面倒を見ていてくれたのですね。あの時、島に貴方がいたことは私達にとって不幸中の幸いです。ほんとうにありがとう。」
「いいんですよラマさん。そういう運命だ。跡はブラニさんを探すだけだ。」
「兄ちゃん。お願いね。」
「ああ、まかせておけ。」
ピンター達が再会を喜んでいる時、ヒュドラ教会本部、教皇の間に一人の男が教皇を前にして、かしずいていた。
「教皇様」
「何?ラグニア」
「先ほど、私のドレイモンが何者かによって破られました。」
「それがどうしたの?」
「おそれながら・・私のドレイモンはヒュドラ教会内部では一番強固なもの、それを破るということは、私以上の力を持つ者が出現したということにござりまする。」
教皇は椅子から立ち上がり跪くラグニアに近づく。
「表をあげてもよろしい。」
「はは」
ラグニアは跪いたまま自分の顔を教皇に向けた。
「ヒミコ様、また時間遡行をなされたのですか?ずいぶんとお若い。」
教皇ヒミコはその姿に似合わぬ低くしわがれた声で言った。
「ラグニア」
「はい。」
「私を本名で呼ぶこと、いつ許可しましたか?」
ラグニアはその言葉を聞いてあわてて両手を地面につき平伏した。
「申し訳ございません。つい・・・誠に申し訳ございませんでした。聖なる教皇様。」
「まぁいいわ。それで、枢機卿のお前が自らドレイモンを施すなんて、そんなに重要な人物だったの?その奴隷。」
「いいえ、ヘレナ不在の時にランデル領の領主に頼まれてドレイモンを施しただけです。奴隷そのものは、どこかの田舎女です。価値はありません。重要なのは私の術を破った者が近くに居るとうことです。まもなくヒュドラ様の「復活の儀」用心にこしたことはございません。」
「そうね。用心に越したことは無いわ。お前の術を破ったのは何者?どこにいるの?」
「それが、その者は神族でも人間でも獣人でもございませんでした。どちらかといえば教皇様に近い力を感じました。私の魔力糸が切られた場所・・術が破られた場所は、ここからさほど遠くない場所。おそらくシュンドラ西の原野です。」
「わかったわ。例の場所の警戒を厳重にして。3日後には儀式を始めるから、それまで誰も近づけないで。」
「はい。かしこまりました。それでは失礼致します。聖なる教皇様。」
「うん。行っていいわよ。」
いつの間にか教皇の声が幼いヒミコの声に戻っていた。
「衛兵」
教皇の声にすぐさま衛兵が反応した。
「はっ」
「ヒナちゃんを連れてきて。それに、お茶とお菓子。」
「ははっ」
数分後、教皇の間にヒナが現れた。
ヒナはヒミコの前でかしずく。
「ヒナちゃん。ここに居るときは友達だって言っているでしょ。そんな挨拶はやめてよ。」
「はい。ヒミコ様」
ヒミコがヒナを手招きしてテーブル前の椅子に座らせる。
ヒナが着席すると同時に湯気の立つコーヒーカップとイチゴのショートケーキが置かれた。
「まずは、お茶を楽しみましょ。今日のケーキも美味しそうよ。」
「はい。」
ヒミコがコーヒーカップを取り上げるのを見てからヒナもカップに手を伸ばした。
ヒミコが視線をヒナに向ける。
「ヒナちゃん。成功率アップしてるんだって?3日前に死んだ人を蘇生させたそうね。」
「はい。ラナガ様からいただいた神石の中に、とても強い球がありまして、その球を使った直後に蘇生が成功しました。それと遺族の中に強い魔力を持った者が居たようで、外からの強い力、祈りのようなものを感じました。」
ヒミコは、ほんの少しの間、沈黙した後独り言のようにつぶやいた。
「やっぱりね。思った通りだわ。蘇生には強い力と強い祈りが必要なんだわ。」
ヒナがヒミコを見つめる。
ヒミコがヒナの視線に気づく。
「あ、ごめん。ごめん。独り言みたいになっちゃたわね。」
「いえ。かまいません。」
「ヒナちゃん。」
「はい。」
「こないだも言ったとおり、三日後に、おっちゃんの蘇生を行うわよ。蘇生の準備はまもなく整うわ。ヒュドラ教全信者が三日後の正午、一斉に祈りを捧げるの。おっちゃんの蘇生を願う祈りを。ヒナちゃんはそれに合わせて「蘇生」を発動させて。おっちゃんが生き返れば、私達、帰れるかもよ、日本へ。」
「はい。私も帰りたいです。日本へ。」
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