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第六章 ヒュドラ教国編
第174話 堅固な牢獄
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二台のメディそれぞれに美しい女性が横たわっている。
ブテラ領主の娘メリアとレイシアだ。
メリアの片腕と片足は象の皮膚のように肥大している。
フィラリアという微生物が悪さをして皮膚が異常を来しているのだ。
マザーによれば、そのフィラリア虫を駆除したうえ皮膚の移植をすれば元に戻れるそうだ。
皮膚の提供者はメリアの隣にいるレイシアだ。
「メディ。手術を実行しろ。」
『了解しました。ただいまより患者メリアのフィラリア駆除と象皮部分の切除、皮膚の移植を実施します。皮膚の提供者はレイシア。術式の成功率は99%。術式の間ソウ様はヒールでの補助をしてください。』
「わかった。」
メディから伸びるチューブがメリアの健康な方の腕に繋がっている。
そのチューブに緑色の液体が流れる。
駆除剤のようだ。
『フィラリア虫の駆除完了。続いて皮膚の剥離を実施します。』
二台のメディのアームが同時に二人に伸びる。
まずは両者の左腕。
メリアの象皮がレーザーで綺麗に切り取られ真皮が見えるようになった。
と同時にレイシアの腕の表皮が剥がされメリアの真皮の上にかぶせられる。
真皮がむき出しのままでは感染症になる可能性が高く、それを防ぐため、包帯代わりにレイシアの皮膚を使うのだそうだ。
『ソウ様。患者レイシアのヒールをお願いします。』
「わかった。」
俺はレイシアの赤くなった腕にヒールを実施した。
獣王の姿で神経を集中する。
背中のタテガミが青く光る。
更に集中すると背中の光は青から金へと変化し手元に集まる。
普段のヒールより金色が濃い。
手に集まった金の光をレイシアの腕にそそいだ。
すると皮膚を剥がされて赤くなっていたレイシアの腕が少し光り、数秒すると手術前の健康な腕と同じ状態になった。
剥がされたはずの皮膚が再生している。
『左手の皮膚移植終了。患者メリアに対するヒールをお願いします。』
メリアに対してもヒールを実施した。
ヒール前にはいびつだった移植の跡もヒールを実施したらなめらかになった。
レイシアの皮膚がメリアの体に同化したようだ。
同じようにしてメリアの左足も治療した。
メリアには包帯も巻かれていない。
見た目は健康な人の手足だ。
術式に要した時間は約30分。
『術式成功。終了します。』
俺は術後の二人を見て言った。
「メディさすがだな。見た目は健康体だぞ。」
『いえ。私は物理的な処理をしただけです。今の患者の状態はソウ様のヒールのおかげです。ソウ様のヒールは以前より進化している模様です。』
(俺のヒールが進化?そういえば、さっきのヒールは普段の青色じゃなくて金色が濃かったな。)
『マザー』
『はい。』
『俺のヒールって進化しているの?』
『はい。進化しています。スキル的にいえば『治癒』に加えて『再生』も発生しています。治癒と再生は同じようなものですが再生は文字通り欠損した部位をも再生させます。龍神丹の効果を他人に与えるようなものですね。』
『すると、あれかい?俺自身が龍神丹みたいになったってこと?』
『簡単に言えばそうですね。もっと進化すればエリカ様の目の再生も可能になります。』
それはうれしい。
今一番の気がかりはドランゴさんの蘇生だが、エリカのケロイドの治療や目の再生も忘れては居ない。
「メディ。二人を起こして。」
『了解しました。』
数秒後、先にメリアが目を覚ました。
メリアはゆっくりと起き上がる。
最初に左腕を見た。
肘を曲げ手先を上にして右に左に腕を回す。
皮膚の移植根は、わずかにあるが常人のそれとなんらかわることはない。
次に左足を見た。
ベッドの上で片膝を立てて右手でふくらはぎをひっぱり、自分の視野に入れる。
もう一度左腕を見た時目尻から涙がにじみ出た。
その涙の粒は徐々に大きくなり目からあふれた。
「おお、おぉぉぉ」
声を出して泣き始めた。
その声でレイシアも目が覚めてベッドの上に起き上がる。
ドアがノックされる。
「メリア、メリア!!どうした?入るぞ。」
ドアの外からランデル伯の声がする。
「どうぞ。」
ドアが勢いよく開いてランデル伯がメリア夫人に近づく。
「メリア。メリア!」
「あなた。これを見て。」
メリア夫人が両腕をランデル伯に差し出す。
「これは・・・」
「貴方、奇跡よ。奇跡。私の腕が・・足が・・」
メリア夫人がベッドから左足を差し出す。
ランデル伯は差し出された足を摩る。
「メリア・・メリア・・」
ランデル伯の目からも涙がこぼれる。
「お姉様良かった。良かったですわ。」
レイシアがベッドから降りてメリア夫人を抱きしめる。
「ありがとう。レイシア。レイシア・・貴方は大丈夫なの?」
レイシアは自分の手足を調べるように見た。
「なんともありませんわ?」
そういいながら俺を見た。
俺は「失礼。」と言いながらメリア夫人の左腕を取って手術根を指さした。
「ここから、ここまでがレイシアの皮膚だよ。跡が残っているだろう?」
レイシアが不思議そうにメリア夫人の腕を見る。
レイシアは再度自分の腕を見た。
「でも、私には何の痕跡もありませんわ。」
「レイシア、サソリの手術の跡、残っているか?」
「あ、そうですね。シン様のお力ですね。」
ランデル伯が俺の前に立ち、俺の両手を取った。
「シン殿、なんとお礼を申して良いやら。このご恩、一生忘れぬ。本当に感謝する。」
ランデル伯は頭を下げた。
大貴族が平民の俺に頭をさげることなどめったにない事だ。
よほど嬉しかったのだろう。
「シン殿、ゲラニへ帰る途中、我がランデル領へ立ち寄られたい。その際にできる限りのお礼をしたいと思う。」
気持ちは嬉しいが、ランデル領へ立ち寄る暇など無い。
「お気持ちは嬉しいですが、シュンドラでの要件が済めば、他に行くべきところがございます。ランデル領への立ち寄りは遠慮させていただきたいです。」
「だが、それでは、なんの礼も出来ない。今は旅先、何の持ち合わせもないのだ。何か礼をさせて欲しい。」
「それならば、先日の話、もう一度ご検討願えませんでしょうか?」
「先日の話と言えば・・・使用人のラマの事かな?」
「そうです。なんとかラマさんをこちらに引き取りたいのです。」
「そんなことで良いのか?」
「そんなことどころか、私がこの場で一番望むことです。私の財産全てをはたいてもラマさんをお譲り願いたいほどです。」
俺とランデル伯の話を着ていたメリア夫人がベッドから起き上がった。
「貴方。私の姿が元に戻ればラマは自由にさせてもかまいません。私には秘密も無くなったし、自分の世話を自分で出来るようになったのですから。ほら」
メリア夫人は自分の目の前で両腕をひらひらさせて360度ターンした。
「そうだな。お前がそう言うのであれば何の問題も無い。シムス。」
ランデル伯は部屋の外で待機していたシムスさんを呼んだ。
「はい。ご主人様。」
「ラマを連れて参れ。」
「はい。かしこまりました。」
執事のシムスさんがラマさんを連れてきた。
ラマさんは俺を見たものの何も言わない。
伏し目がちだ。
「ラマ。命令する。お前は今日から、ここにいるシン殿を主とせよ。私達夫婦以外の誰かと会話することも許可する。」
ラマさんはドレイモンの命令でランデル夫妻以外との会話を禁じられていたようだ。
ラマさんは俺に近づいた。
「ご主人様、よろしくお願い致します。」
他人行儀な挨拶をした。
クチル島で奴隷にされて以来一年以上の歳月が流れた。
ドレイモンは肉体のみならずドレイモンをかけられた人の精神をもむしばむ。
ラマさんは今、形上俺の奴隷になっている。
俺が、あのソウだと気がついてはいるのだろうが状況が飲み込めていないようだ。
俺はラマさんをつれて自分の部屋へ入った。
「ラマさん。大丈夫ですか?俺が分かりますか?ブラニさんに命を救われたソウです。」
「はい。ご主人様。存じ上げております。」
やはり他人行儀でぎこちない。
「ラマさん。ピンターとブルナは無事ですよ。今、僕と一緒に暮らしています。これから二人に会えますよ。」
ラマさんは表情を変えない。
「ありがとうございます。」
「ラマさん。今からドレイモンを解除します。自由になりたいと心から思ってください。」
ラマさんは戸惑っているようだ。
俺は魔力の触手をラマさんの心に伸ばした。
ラマさんの心の奥、遠くの方に檻が見える。
ドレイモンの檻だ。
檻の魔力波形は神族のものだが、誰のモノだかはわからない。
ランデル伯から命令権は譲られたが、ドレイモンは術者が死ぬか解除するまで解けない。
俺が力尽くに解除するしかないだろう。
ラマさんは檻の中にいるが、その檻の中で布をまとい檻の隅で丸まっている。
まるで何かから自分を守るような姿勢だ。
「ラマさん。ラマさん。」
俺はラマさんに声をかける。
ラマさんは反応しない。
試しに檻を力尽くで破ろうとしたがラマさんにドレイモンをかけた術者はかなりの強者のようだ。
簡単には壊れそうにない。
あくまでもイメージなのだが今までのドレイモンと違い檻の造りが、かなり強固なのだ。
それに今までに見たドレイモンの檻とは少し違い、ケーブルのようなものが檻に繋がっている。
そのケーブルから魔力が充填補給されているようなのだ。
無理に壊せないこともないが強引に壊せば檻の中にいるラマさんまで傷つけてしまいそうな気がする。
ドレイモン解除は俺の力に加え、術をかけられた本人の「自由になりたい。」という強い意志が必要だ。
檻の中のラマさんは俺の呼びかけに反応しない。
長い間、心を閉ざすことを強要されていたからだろう。
このままでは解除出来ない。
「ラマさん。ここから動かないで。」
「はい。」
「イツキ、レン。」
「はい。」
「おうよ。」
「ここでラマさんを守っていて。」
「うん。」
「よっしゃ。」
俺はゲートを使ってオオカミへ戻った。
ピンター・・ブルナ・・・
二人を探した。
ピンターもブルナも会議所のあるビルの食堂にいた。
「兄ちゃん。オカエリぃ」
「ソウ様、おかえりなさい。」
「ピンター、ブルナ。」
「なに?」
「はい。」
「一緒に行くぞ。」
「どこへ?」
「どちらまで?」
「ラマさんを迎えにだ。」
二人は目を丸くした。
ブテラ領主の娘メリアとレイシアだ。
メリアの片腕と片足は象の皮膚のように肥大している。
フィラリアという微生物が悪さをして皮膚が異常を来しているのだ。
マザーによれば、そのフィラリア虫を駆除したうえ皮膚の移植をすれば元に戻れるそうだ。
皮膚の提供者はメリアの隣にいるレイシアだ。
「メディ。手術を実行しろ。」
『了解しました。ただいまより患者メリアのフィラリア駆除と象皮部分の切除、皮膚の移植を実施します。皮膚の提供者はレイシア。術式の成功率は99%。術式の間ソウ様はヒールでの補助をしてください。』
「わかった。」
メディから伸びるチューブがメリアの健康な方の腕に繋がっている。
そのチューブに緑色の液体が流れる。
駆除剤のようだ。
『フィラリア虫の駆除完了。続いて皮膚の剥離を実施します。』
二台のメディのアームが同時に二人に伸びる。
まずは両者の左腕。
メリアの象皮がレーザーで綺麗に切り取られ真皮が見えるようになった。
と同時にレイシアの腕の表皮が剥がされメリアの真皮の上にかぶせられる。
真皮がむき出しのままでは感染症になる可能性が高く、それを防ぐため、包帯代わりにレイシアの皮膚を使うのだそうだ。
『ソウ様。患者レイシアのヒールをお願いします。』
「わかった。」
俺はレイシアの赤くなった腕にヒールを実施した。
獣王の姿で神経を集中する。
背中のタテガミが青く光る。
更に集中すると背中の光は青から金へと変化し手元に集まる。
普段のヒールより金色が濃い。
手に集まった金の光をレイシアの腕にそそいだ。
すると皮膚を剥がされて赤くなっていたレイシアの腕が少し光り、数秒すると手術前の健康な腕と同じ状態になった。
剥がされたはずの皮膚が再生している。
『左手の皮膚移植終了。患者メリアに対するヒールをお願いします。』
メリアに対してもヒールを実施した。
ヒール前にはいびつだった移植の跡もヒールを実施したらなめらかになった。
レイシアの皮膚がメリアの体に同化したようだ。
同じようにしてメリアの左足も治療した。
メリアには包帯も巻かれていない。
見た目は健康な人の手足だ。
術式に要した時間は約30分。
『術式成功。終了します。』
俺は術後の二人を見て言った。
「メディさすがだな。見た目は健康体だぞ。」
『いえ。私は物理的な処理をしただけです。今の患者の状態はソウ様のヒールのおかげです。ソウ様のヒールは以前より進化している模様です。』
(俺のヒールが進化?そういえば、さっきのヒールは普段の青色じゃなくて金色が濃かったな。)
『マザー』
『はい。』
『俺のヒールって進化しているの?』
『はい。進化しています。スキル的にいえば『治癒』に加えて『再生』も発生しています。治癒と再生は同じようなものですが再生は文字通り欠損した部位をも再生させます。龍神丹の効果を他人に与えるようなものですね。』
『すると、あれかい?俺自身が龍神丹みたいになったってこと?』
『簡単に言えばそうですね。もっと進化すればエリカ様の目の再生も可能になります。』
それはうれしい。
今一番の気がかりはドランゴさんの蘇生だが、エリカのケロイドの治療や目の再生も忘れては居ない。
「メディ。二人を起こして。」
『了解しました。』
数秒後、先にメリアが目を覚ました。
メリアはゆっくりと起き上がる。
最初に左腕を見た。
肘を曲げ手先を上にして右に左に腕を回す。
皮膚の移植根は、わずかにあるが常人のそれとなんらかわることはない。
次に左足を見た。
ベッドの上で片膝を立てて右手でふくらはぎをひっぱり、自分の視野に入れる。
もう一度左腕を見た時目尻から涙がにじみ出た。
その涙の粒は徐々に大きくなり目からあふれた。
「おお、おぉぉぉ」
声を出して泣き始めた。
その声でレイシアも目が覚めてベッドの上に起き上がる。
ドアがノックされる。
「メリア、メリア!!どうした?入るぞ。」
ドアの外からランデル伯の声がする。
「どうぞ。」
ドアが勢いよく開いてランデル伯がメリア夫人に近づく。
「メリア。メリア!」
「あなた。これを見て。」
メリア夫人が両腕をランデル伯に差し出す。
「これは・・・」
「貴方、奇跡よ。奇跡。私の腕が・・足が・・」
メリア夫人がベッドから左足を差し出す。
ランデル伯は差し出された足を摩る。
「メリア・・メリア・・」
ランデル伯の目からも涙がこぼれる。
「お姉様良かった。良かったですわ。」
レイシアがベッドから降りてメリア夫人を抱きしめる。
「ありがとう。レイシア。レイシア・・貴方は大丈夫なの?」
レイシアは自分の手足を調べるように見た。
「なんともありませんわ?」
そういいながら俺を見た。
俺は「失礼。」と言いながらメリア夫人の左腕を取って手術根を指さした。
「ここから、ここまでがレイシアの皮膚だよ。跡が残っているだろう?」
レイシアが不思議そうにメリア夫人の腕を見る。
レイシアは再度自分の腕を見た。
「でも、私には何の痕跡もありませんわ。」
「レイシア、サソリの手術の跡、残っているか?」
「あ、そうですね。シン様のお力ですね。」
ランデル伯が俺の前に立ち、俺の両手を取った。
「シン殿、なんとお礼を申して良いやら。このご恩、一生忘れぬ。本当に感謝する。」
ランデル伯は頭を下げた。
大貴族が平民の俺に頭をさげることなどめったにない事だ。
よほど嬉しかったのだろう。
「シン殿、ゲラニへ帰る途中、我がランデル領へ立ち寄られたい。その際にできる限りのお礼をしたいと思う。」
気持ちは嬉しいが、ランデル領へ立ち寄る暇など無い。
「お気持ちは嬉しいですが、シュンドラでの要件が済めば、他に行くべきところがございます。ランデル領への立ち寄りは遠慮させていただきたいです。」
「だが、それでは、なんの礼も出来ない。今は旅先、何の持ち合わせもないのだ。何か礼をさせて欲しい。」
「それならば、先日の話、もう一度ご検討願えませんでしょうか?」
「先日の話と言えば・・・使用人のラマの事かな?」
「そうです。なんとかラマさんをこちらに引き取りたいのです。」
「そんなことで良いのか?」
「そんなことどころか、私がこの場で一番望むことです。私の財産全てをはたいてもラマさんをお譲り願いたいほどです。」
俺とランデル伯の話を着ていたメリア夫人がベッドから起き上がった。
「貴方。私の姿が元に戻ればラマは自由にさせてもかまいません。私には秘密も無くなったし、自分の世話を自分で出来るようになったのですから。ほら」
メリア夫人は自分の目の前で両腕をひらひらさせて360度ターンした。
「そうだな。お前がそう言うのであれば何の問題も無い。シムス。」
ランデル伯は部屋の外で待機していたシムスさんを呼んだ。
「はい。ご主人様。」
「ラマを連れて参れ。」
「はい。かしこまりました。」
執事のシムスさんがラマさんを連れてきた。
ラマさんは俺を見たものの何も言わない。
伏し目がちだ。
「ラマ。命令する。お前は今日から、ここにいるシン殿を主とせよ。私達夫婦以外の誰かと会話することも許可する。」
ラマさんはドレイモンの命令でランデル夫妻以外との会話を禁じられていたようだ。
ラマさんは俺に近づいた。
「ご主人様、よろしくお願い致します。」
他人行儀な挨拶をした。
クチル島で奴隷にされて以来一年以上の歳月が流れた。
ドレイモンは肉体のみならずドレイモンをかけられた人の精神をもむしばむ。
ラマさんは今、形上俺の奴隷になっている。
俺が、あのソウだと気がついてはいるのだろうが状況が飲み込めていないようだ。
俺はラマさんをつれて自分の部屋へ入った。
「ラマさん。大丈夫ですか?俺が分かりますか?ブラニさんに命を救われたソウです。」
「はい。ご主人様。存じ上げております。」
やはり他人行儀でぎこちない。
「ラマさん。ピンターとブルナは無事ですよ。今、僕と一緒に暮らしています。これから二人に会えますよ。」
ラマさんは表情を変えない。
「ありがとうございます。」
「ラマさん。今からドレイモンを解除します。自由になりたいと心から思ってください。」
ラマさんは戸惑っているようだ。
俺は魔力の触手をラマさんの心に伸ばした。
ラマさんの心の奥、遠くの方に檻が見える。
ドレイモンの檻だ。
檻の魔力波形は神族のものだが、誰のモノだかはわからない。
ランデル伯から命令権は譲られたが、ドレイモンは術者が死ぬか解除するまで解けない。
俺が力尽くに解除するしかないだろう。
ラマさんは檻の中にいるが、その檻の中で布をまとい檻の隅で丸まっている。
まるで何かから自分を守るような姿勢だ。
「ラマさん。ラマさん。」
俺はラマさんに声をかける。
ラマさんは反応しない。
試しに檻を力尽くで破ろうとしたがラマさんにドレイモンをかけた術者はかなりの強者のようだ。
簡単には壊れそうにない。
あくまでもイメージなのだが今までのドレイモンと違い檻の造りが、かなり強固なのだ。
それに今までに見たドレイモンの檻とは少し違い、ケーブルのようなものが檻に繋がっている。
そのケーブルから魔力が充填補給されているようなのだ。
無理に壊せないこともないが強引に壊せば檻の中にいるラマさんまで傷つけてしまいそうな気がする。
ドレイモン解除は俺の力に加え、術をかけられた本人の「自由になりたい。」という強い意志が必要だ。
檻の中のラマさんは俺の呼びかけに反応しない。
長い間、心を閉ざすことを強要されていたからだろう。
このままでは解除出来ない。
「ラマさん。ここから動かないで。」
「はい。」
「イツキ、レン。」
「はい。」
「おうよ。」
「ここでラマさんを守っていて。」
「うん。」
「よっしゃ。」
俺はゲートを使ってオオカミへ戻った。
ピンター・・ブルナ・・・
二人を探した。
ピンターもブルナも会議所のあるビルの食堂にいた。
「兄ちゃん。オカエリぃ」
「ソウ様、おかえりなさい。」
「ピンター、ブルナ。」
「なに?」
「はい。」
「一緒に行くぞ。」
「どこへ?」
「どちらまで?」
「ラマさんを迎えにだ。」
二人は目を丸くした。
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