異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第六章 ヒュドラ教国編

第168話 ランデル辺境伯

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ヒュドラ教国の首都シュンドラへ向かう途中、ライカスの街でサプライズがあった。

ピンター達の母親、ラマさんを見つけたのだ。
一刻も早くヒナを救出したいのはやまやまだが、ラマさんはヒナと同等に大切な人だ。
ピンターの母親で俺を一生懸命看病してくれた人。
今俺が生きていられるのもピンター達の両親、ブラニさんとラマさんのおかげだといっても過言ではない。

ここでラマさんの救出を後回してはピンターとブルナを裏切る事になる。
俺はライカスに宿泊する事情をレン達に話した。

イツキがにこやかに言った。

「それじゃ、その人達と同じ宿に泊まりましょうよ。まずは情報収集だ。」

レンがイツキに向いた。

「情報収集って?どっかへ連れていって、ソウが奴隷解除するだけでいいんじゃないか?オイ。」

「それはそうだけど、今回僕達の任務。それを忘れちゃいけないよ。レン君」

イツキの言うとおりだ。
俺達はこれからヒュドラ教国の首都シュンドラへ潜入してヒナを救出しなければならない。
その前に騒ぎを起こせばヒュドラ側も俺達の存在に気がついてヒナの救出が困難になるのだ。

「そっかー騒ぎを起こすわけにもいかんよな。で?」

「だから、そのラマさんの主人、つまりドレイモンの命令権者を突き止めて、できれば交渉でラマさんをもらい受けるのが一番良いんですよ。」

イツキが俺を見た。

「ソウ君。お金あるんでしょ?」

「ああ、小さな国を買えるくらいなら有るよ。もっとも元はアウラ様のものだけどね。」

勘定したことは無いが、アウラ様からもらった金銀財宝は、おそらく国を買えるくらいには有ると思う。

アヤコが目をまるくしたあと甘い声を出した。

「ソウ様・・ウェヘヘ」

「アヤコ、何想像してんの?」

「何でも無いですウェ」

俺達はラマさんが宿泊している宿屋へ入った。
その宿屋はこの街で一番大きな宿屋だった。
建物も立派で、この世界の宿屋にしてはとても清潔な環境だった。
蝶ネクタイをしたカウンター係が声をかけてきた。

「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」

イツキが対応した。

「はい。4人です。部屋はありますか?」

「はい。ございます。二人用の部屋を二つご用意できます。」

イツキが俺を振り返る。
俺は首を横に振る。

アヤコが居るので二人部屋一つと一人用部屋二つが必要だ。

「女性の一人部屋はないですか?」

「残念ですが、この時期は満杯で他にお部屋をご用意することが出来かねます。」

再度イツキが振り返る。
俺は仕方なく首を立てに振る。

アヤコの目がキラリと輝いた。

「それではご案内します。」

ボーイの後について二階へ上がった。

「こことここです。」

隣り合う二つの部屋をボーイが指し示した。
どの部屋に誰が泊まるか相談をしようと思った瞬間、レンとイツキが先に手前の部屋へ入った。

「後でね。」
「後でな。ガハ」

(レン、なんで笑う)

「お、おい。!!」

アヤコがモジモジしている。

(何だよ。もう)

俺が先に部屋に入るとアヤコが後から頬を染めて入ってきた。

(だ~か~ら~・・なんで紅潮すんのよ)

部屋にはダブルサイズのベッドが一つとシングルサイズのベッドが一つある。

(まぁキャラバンで雑魚寝したこともあるし、いいか・・)

アヤコはまだモジモジしている。

「アヤコ」

「ヒャイ!!」

「頼みがある。」

「ヒャ!ヒャイ」

「この宿に泊まっている、ラマさんの主人。おそらく貴族だろうから、それが誰か探ってくれ。」

アヤコの眉が下がった。

「・・・・はい。」

(眉が下がったのと一瞬の沈黙はなんだ?)

レンとイツキにはラマさんの宿泊している部屋を探ってもらうことにした。
夕刻一回のロビーで食事をしながら3人からの報告を受けた。
まずはアヤコ

「ラマさんの主人、わかりました。ラマさんの主人はランデル辺境伯です。春の大祭に参加すべく奥様を連れての旅行らしいです。」

ランデル辺境伯というのはゲランとヒュドラの国境に位置するゲラン国ランデル領の領主のことだそうだ。

俺は隣に座るアヤコの肩を叩いた。

「ありがとう。」

「これくらいのこと、ソウ様の為なら。ウエヘヘ」

次はレンとイツキ

「ラマさんの居場所わかったよ。今アヤコさんが言ったランデル辺境伯の奥さん。メリア様の側仕えで、奥様と同じ部屋だ。三階の奥の端。三階ワンフロアはランデル伯爵の貸し切りになっている。」

「うむ。警備も厳重で三階へは近づけそうに無いぞオイ。」

「アヤコ、ランデル辺境伯について何か知っていることはあるか?」

「はい。貴族にしては・・あっ・・」

アヤコは周囲を見渡した。

一階フロアの食堂には他の客も大勢居る。

アヤコは声を落とした。

「貴族にしては評判の良い方で領民にも慕われているそうです。奥様は音楽や芸術に造詣が深く優しいお方だそうです。領地のランデルはブドウの栽培と、そのブドウを使った酒造が盛んだそうです。比較的裕福な地域ですね。」

裕福な地域の領主ならばこの問題を金銭で解決するのは難しいかも知れない。

「アヤコ。俺がキノクニ相談役のシンだと名乗ればランデル候は面会してくれるだろうか?」

「たぶん大丈夫です。ランデル候はラジエル候よりの貴族ですのでキノクニとは良好な関係です。だからキノクニ幹部が面会を求めれば合ってくれると思います。」

「わかった。ありがとう。」

俺はマジックボックスからキノクニの礼服を取り出して着替えた。
れいの旧日本海軍風の服装だ。

「かっこいいなオイ。」

「うん。似合ってます。」

「ソウ様・・・ウェ」

服装はキノクニ制服、体型はやや人狼よりの人間風にしてランデル候に面会を求めることにした。

宿屋の三階への階段最上部に居た兵士に

「キノクニのシンと申します。ランデル辺境伯におめにかかりたい。」

と申し向けたところ。
兵士がいぶかしげな顔をして

「商人が何用だ。」

と俺の前に立ち塞がった。

「ランデル様にお目通りしてお願いしたいことがあります。お取り次ぎください。」

「だから何用か分からねば取り次ぎようがない。要件を申せ。」

兵士は堅物のようだ。
ガラクを思い出した。

(ガラクタイプならウソを並べるより正直に話した方が良いかも。)

「実はランデル様の側使えの奴隷に私の知人らしき者がおりまして、その者が私の知る奴隷であればランデル様にお願いしてもらい受けたいと思います。もちろんランデル様の利になるように交渉しようと考えている次第です。」

ランデル候の利益を匂わせておけば無視することもできないだろう。

兵士は他の兵士と少し話し合った。

「しばしここで待て。」

「はい。」

数分もしないうちに奥から執事らしき初老の男が現れた。

「お待たせ致しました。執事のシムスと申します。キノクニ相談役シン様。」

俺は社名つまり「キノクニ」と名前は名乗ったが、キノクニの相談役だとは名乗っていない。

「お手数をおかけします。シムス様。どこかで、お会いしましたでしょうか?」

「いえ。お初にお目にかかります。ですがキノクニ制服で金筋三本ならば大幹部。そして貴方様のようにお若いお姿の幹部と言えば相談役のシン様しか思い当たる人物がございません。」

どうやらシムスは情報通、そして切れ者の用だ。

「それは、それは、私のような若輩を知りおかれたとは。商人としては幸いです。」

シムスはニコニコしている。
好々爺のような風貌だ。

「わがランデル領もキノクニの流通網に多大な恩恵を受けております。領民の物流や郵便、そして何よりもワインの商取引。これが無くては我がランデルの経済は成り立ちませぬ。その取引相手の幹部を知らぬとあらば執事としてランデル様に申し訳が立ちませぬよ。」

俺は頭を下げた。

「ありがとうございます。」

「いえいえ。立ち話もなんですから、こちらへどうぞ。」

俺は三階へ上がった最初の右側の部屋へ通された。
シムスに勧められて部屋の中央に置かれたテーブルの前に腰掛けた。

「私がまず、領主様に、お目通りできる案件かどうか承ります。これも役目故お許しください。」

当然の扱いだ。

「いえいえ。突然の訪問にお応えいただけるだけでもありがたいことです。」

「あらましは聞いております。してその奴隷とは?」

「はい。ブテラ領クチル島出身の「ラマ」と申します。」

「・・確かに当方の奴隷ですな。今は奥様の側仕えをしているはず。」

(やっぱりラマさんだ!!)

「それで何故に、そのラマをお望みなのですかな?」

「詳しく話せば長くなりますが、簡単に言えば私の命の恩人なのです。一年以上前、ブテラ領で滝から転落して海まで流されました。そして漂流中の私を拾ってくれたのがラマの夫ブラニです。救助後もラマは私を一生懸命、介抱してくれました。ですからラマとその夫は私の命の恩人なのです。」

シムスは顎に手を宛てた。

「なるほど。そのような経緯ですか。わかりました。主人に取り次ぎましょう。ただ・・・」

シムスの眉にはしわが寄っている。

「ただ何です?失礼ながら金銭的な条件ならいくらでも飲む用意があります。」

「・・・そうではないのです。奥様が・・私の口からは申せません。とにかくソウ様が主人と面会できるよう取り計らいます。ここでお待ちください。」

「はい。わかりました。」

シムスは一礼して部屋を出て行った。

(奥様が・・・何だろう?)

10分ほど待っただろうか、ドアをノックした後シムスが現れた。

「お待たせしましたソウ様。主人がお目通りを許可なされました。どうぞこちらへ。」

俺はシムスに案内されて三階の廊下を奥へ進み奥の端の部屋へ入った。
奥の端の部屋はいくつかに分かれているようで、その一番最初の部屋に兵士を従えた三十代前半の男が椅子に座っていた。

その男は銀髪で顎髭を蓄えている。
この男がランデル辺境伯だろう。

「お初にお目にかかります。キノクニ相談役のシンと申します。突然の来訪にもかかわらずお目通りがかなったことを感謝いたします。」

俺は片膝をついて挨拶をした。

「いいよ。堅苦しいのは。俺がランデルだ。よしなにな。」

見かけの豪奢な衣装とは違ってランデル候はまるで平民のような言葉をかけてきた。

「恐縮に存じます。」

「だから。堅苦しいのはいいよ。俺には平民の友達も沢山居る。気楽にしろよ。ハハ」

俺は立ち上がった。

「ありがとうございます。」

ランデルは目の前の椅子を指さした。

「ま。座れよ。」

「はい。」

俺はランデルとテーブルを挟んでランデル候の真向かいに座った。

「シムスから話は聞いた。それにお前のことはラジエル殿から聞かされている。なんでもとてつもなく美味いパンを作るんだって?それに風ほど速い馬車を持つとか。」

あんパンとウルフのことのようだ。

「ラジエル様とご懇意なのですか?」

「ああ。先代・・俺の父とラジエル殿がチェスのライバルでな。幼い頃、可愛がってもらったよ。今でもラジエル殿には世話になっている。」

ラジエル侯爵と仲が良いならこちらとしては好都合だ。

「私もラジエル様には、お世話になっています。美味しいパンは私の仲間が作っているものです。もしよろしければ献上致します。」

ランデルは掌をこちらに向けた。

「すまん。俺は甘い物が苦手だ。しかし妻が好むかも知れぬ。今度機会があればな・・」

「わかりました。」

「早速だがラマの件・・・」

「はい。」

俺はランデル候を見つめた。

「すまぬが、この件、断る。」

え・・・・
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