異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第六章 ヒュドラ教国編

第167話 黒装束の一団

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俺はレン、イツキ、アヤコを乗せたソラでヒュドラ教国へ向うべくゲラニを離陸した。
目指すはヒュドラ教国首都「シュンドラ」ヒュドラ教会本部のある街だ。

「飛行機は久しぶりだなオイ。イツキ大丈夫か?」

後部座席のイツキの顔は少し青い。

「だいじょうぶ・・だと思います。」

イツキのか細い声に助手席のレンが後部座席を振り返る。

「イツキ・・は大丈夫みたいだけど。アヤコさん?大丈夫?」

アヤコはイツキより更に青い顔をしている。

「ひゃい。大丈夫ですが。・・・なにしろ生まれて始めてなもので・・・」

それはそうだろう。
この世界の現地人で飛行機に乗ったことのある人なんていないだろうから。
最初の計画では俺とレンだけでヒュドラ教国まで飛び、現地でゲートを開いてイツキとアヤコを合流させるつもりだった。

ところがアヤコがどうして飛空挺というものにのってみたいと言うものだから多少の不安はあったが乗せてみることにした。

俺はアヤコを振り返った。

「だから、地上で待ってろって言ったのに。それに高いところは苦手じゃないって言ってただろ?」

「ずびばせん。高いところは苦手じゃないと思っていましたが、まさかこれほど高いところだとは・・・」

今の高度は2000メートルくらい。
一般的に飛行機は空気抵抗の低い高度1000メートル以上の上空を飛ぶように設計されている。
ソラも通勤用とはいえ高度の低い場所を飛ぶよりは高度の高い場所を飛ぶ方が速く飛べる。

出発地のゲラニからヒュドラ教国までは約800キロ。
ソラなら一時間ほどの行程だ。

「アヤコ。一度降りるか?」

アヤコはブンブンと音が出そうな程首を左右に振った。

「いやです。死んでもこのままソウ様と一緒に居ます。降りません。ずれてってぐださい。」

アヤコは半泣きだ。

「わかった。わかったから鼻かめよ。一緒に行くから。泣くな。」

「ズビビー、ばい。ありがとうございます。」

鼻をかむアヤコの横でイツキが顔をしかめている。

(アヤコ、黙っていれば見た目はかわいいのにな。)

「ところでソウ様。今日は何処で宿泊予定ですか?」

ハンカチで顔を拭いながらアヤコが質問した。

「どこって?どこへも泊まらないよ。まっすぐヒュドラへ行く。」

「え?ヒュドラは遠いですよ。ゲラニからブテラくらいの距離はありますよ?」

「それくらいの距離なら一時間もあれば十分だ。」

「え?そんなに速いんですか?キャラバンなら一月の行程なのに。」

「まぁな。このソラなら、隣町にいくようなもんだな。」

「それじゃ・・一時間しか一緒に居られないんですね・・・残念。」

最後の残念という言葉は聞き取れるか聞き取れないくらいの小さな声だった。

「それはそうと、ソウ様。」

「なんだ?」

「シュンドラへはどうやって入国するおつもりですか?」

予め仕入れた情報によれば、ヒュドラの首都シュンドラは教会本部のある首都だけあって、警戒が厳重で他国民が入国するには厳重な審査があるそうだ。
また国内の警察機構はかなり発達していて警備兵が常時パトロールしているそうだ。

ソラで関所を跳び越えて密入国してもよかったが今は騒ぎを起こしたくなかったのでキノクニの商人として入国する予定だった。

「どうやってって。キノクニの半纏と通行証があれば大丈夫だろ?」

「それは、そうですが、キノクニの従業員が徒歩で入国することは無いですよ?」

アヤコに言われて気がついた。
アヤコの言うことはもっともだ。
通常キノクニの従業員ならばキャラバンで訪れるはずだし、単なる商談のために訪問する場合でも馬か馬車を利用するはずだ。

徒歩での入国はあり得ない。

「そういわれればそうだな。」

レンもイツキも頷いている。
イツキが口を挟んだ。

「それじゃ、街から離れた場所で馬か馬車を調達すべきかもしれませんね。」

「そうだな。オイ」

再度アヤコを振り返る。

「シュンドラへ入る前に馬を調達出来る集落はあるか?」

「はい。シュンドラの手前20キロ程の場所に「ライカス」という宿場町があります。番所はありますが、厳重じゃ無いです。そこなら馬を調達出来ると思います。」

「分かった。街道沿いに飛ぶからライカスという集落が見えたら教えてくれ。」

「はい。」

俺はゲランとヒュドラを結ぶ街道沿いを低空で進んだ。
街道沿いは原野だが街道にはいくつかのキャラバンや徒歩での旅人が見える。

旅人の中でも目立つのが全身黒ずくめの集団だ。
5~6人の集団がいくつか見える。
ソラはステルスモードにしてあるので多少低空飛行をしても旅人からこちらは見えない。
俺は旅人の行列を眺めながらつぶやいた。

「ずいぶんと人通りが多いな。」

それにアヤコが反応した。

「今の季節は巡礼が多いですからね。もうすぐ春の大祭がありますから。」

アヤコの説明だと春になると各地のヒュドラ教信者が一斉に聖地シュンドラを目指して巡礼の旅にでるのだそうだ。

「春の大祭」というのは年に一度、シュンドラで行われる宗教行事で、ヒュドラの復活を願うのだそうだ。

「春の大祭には全世界から信者が訪れますのでこの期間だけはシュンドラの人口も倍近くに膨れ上がります。商売人にとっては稼ぎ時ですから行商人も多く集まるんです。」

しばらく街道沿いに飛行しているとまばらに人家が見えてきた。

「この農村を過ぎればすぐにライカスの街です。」

俺は農村を過ぎたあたりにあった林にソラを着陸させた。

「ここからは歩いて行こう。」

俺はソラを収納して徒歩でライカスという街へ向かった。
4人で街道を歩いていると全身黒ずくめの衣装をまとった集団に追いついた。
総勢20名くらいだろうか。

街道は整備されているものの道幅はさほど広くは無い。
集団を追い越そうかどうか迷っている内にライカスの入り口まで来てしまった。
一応番所らしき場所だが検閲などは無く黒ずくめの集団に付き従うような形で門を通り抜けた。

門を抜けると黒ずくめの集団は左へ、俺達は右へと別れた。

黒ずくめの集団と別れる時に追い風だった風が左から流れて集団の人々の匂いが自然と漂ってきた。

その時、俺の心がざわついた。
集団の中から覚えのある人の匂いを嗅ぎ取った。
俺はこの世界へ来てから身体能力が向上しているが嗅覚も人のそれを遙かに超えている。
通常では感じない他人の体臭も意識せずに嗅いでしまう。

風向きが変わってから漂ってきた匂いの中に以前嗅いだことのある人の匂いがする。

俺は歩みを止めた。

「ちょっとまってて。」

「なんだオイ。」
「どうしたの」

「すぐに戻るからここで待っていて。後から説明する。」

俺はレン達をその場に残して集団の後をつけた。
集団の構成員はほとんどが男だが、数名は女性も居る。
女性は頭から黒い布をかぶり、口元も布で隠されている。

集団をつけながら覚えのある匂いのする女性を特定した。
女性は後列2番目にいて大きな荷物を持っている。

黒ずくめの衣装だが、他の人と違って薄汚れた衣装でどこか弱々しい。

(顔を見たい。もしかしたら・・・)

俺は一度横道へ入り裏通りを通って集団の先頭へ先回りをした。
集団の進行方向の雑貨店で品物を見るふりをして集団が来るのをまった。

集団がゆっくり近づく。
俺の心臓は少しずつ早く動き始める。

集団が近づいた。
集団の先頭は黒い衣装を着た騎乗の兵士が5名その後に馬車。

馬車には家紋が豪華に装飾されており、一見して貴族の持ち物だと分かる。
馬車には窓があって車中に中年の男女が乗っているのがわかる。

その後ろに荷馬車が三台、それぞれの馬車に従者らしき者が数名付いている。
最後尾から二列目には女性が3名居る。
いずれも大きな荷物を持って隊列に付き従っている。
最後尾は兵士5名が隊列を守っている。

馬車と荷車が通り過ぎて女性達が近づいた。
3名の女性はいずれも布で顔を隠しているが目元は見えている。
三名の女性の目元をそれとなく観察した。

一人目の女性には見覚えが無い。
二人目にも記憶が無い。
三人目の目元を見た。

俺の心臓が大きく鼓動した。

「ラマさん。・・」

俺は小さな声で呼びかけた。

俺の声に、その女性は「ピクリ」と反応したが立ち止まること無く歩き去った。
最後尾の兵士の一人がこちらを睨んだが俺が、すぐに視線をそらせたので騒ぎにはならなかった。

俺は一度雑貨店へ入り隊列をやり過ごしてから再度隊列を尾行した。
隊列は街の中心部のわりと大きな宿へ入った。
俺の心は躍り上がった。

(間違いない。ラマさんだ。)

俺はすぐにでもキューブに帰ってピンターとブルナを抱きしめたかった。

「ラマさん。」

そう。
ピンターとブルナの母親、ラマさんだ。

大怪我を負った俺を海で拾って命をつなげてくれたブラニさんの妻。
一生懸命、俺を介抱してくれたラマさん。
グンター達に襲われて行方不明になっていたラマさん。

先ほどのラマさんの様子や、今までの経緯を考えると、おそらくラマさんも俺達と同様、誰かの奴隷になっているのだろう。

ラマさんが俺に気づいたかどうかは分からないが、先ほどの女性がラマさんなのは、間違いない。

今すぐにでもラマさんを助け出したかったが、今の俺は騒ぎを起こすわけにはいかない。
できるならば穏やかに事を解決したいのだ。

集団の宿を確認した後、レン達の元へ戻った。

「みんな。今日はこの街に泊まる。つきあってくれ。」

「いいけど。どうしたんだ。オイ」

「見知らぬ街で一泊するのもいいですね。」

「ソウ様とお泊まり。ウェ」

(部屋は別だかんな!!)

「でも、いったいどうした?」

俺の顔は少しにやけた。

「すごく良いことがあったんだ。」

「「「ナニナニ?」」」

俺達はライカスの街で一泊することになった。

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