異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第161話 ドランゴ・ワイス

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ミキは知らなかった。
アキトとソウが死闘を繰り広げたことを。
アキトはソウの敵だということを。

それに自分が元居た日本でアキトはミキの憧れだった。
アキトにラブレターを送った事もある。

そんなアキトがゲートから現れていた。
ミキのいる病院の責任者、ドルムやドランゴから言われていた。

「ライベルの兵士や、キノクニの半纏を着た負傷者が来るから面倒を見てくれ。軽傷者はヒール、重症者はメディで診療しろ。」

目の前のアキトは腹部から出血している。
アキトはキノクニ半纏を着ているし、なにより自分達の同級生だ。
ミキは急いでメディの置かれている診察室までアキトを連れていった。
治療者はピンターだ。

「ピンターちゃん。この人ひどい怪我なの。」

ピンターは怪我人を見る。
その怪我人はキノクニの半纏を着ている。
ピンターを補助するブルナがミキを手伝ってアキトの上着を脱がしメディに乗せた。

「メディ、治療開始。」

『了解。』

メディはアキトをスキャンした後、16本の義手をせわしなく動かしてアキトを治療した。
その間、「ヒール」のスキルを持ったミキがメディを補助してアキトにヒールを施す。

アキトはメディに麻酔をうたれて昏睡した。
一通りの治療が終わるとアキトはベッドに移された。

ベッドに横たわるアキトは女性と子供の笑い声で目が覚めた。

「ピンター。よく頑張ったわね。さすがソウ様の弟。貴方のおかげで何人もの命が救われたわ。」

「姉ちゃん。戦争は終わったの?」

「うん。終わったらしいわよ。ソウ様の大勝利、敵は尻尾を巻いて逃げていったらしいわ。」

「よかった。これでまた元の暮らしに戻れるね。アハハ」

「ええ。また仲間と一緒に平和な暮らしに戻れるわよ。」

(ソウ様の弟?)

アキトは薄目を開けて会話の主を見た。
10歳くらいに見える現地人風の男の子と現地人風の若い女性が居る。
若い女性は南洋風の美人だ。
黒髪と大きく黒い瞳が印象的だ。

(平和な暮らしに戻る?ソウが?仲間と?この子達はソウの仲間なのか?)

その時アキトの腹の傷がうずいた。

(痛いな。・・・)

アキトは痛みと共にソウとの戦闘場面を思いだした。
戦闘の最終場面。
アキトが腹部を切られた時、アキトは屈辱的だったが死ぬのが嫌で、ソウに対して哀れみの声を出した。

「同級生を殺すのか?日本人を殺すのか?」

ソウからの回答は明白だった。
殺意のこもった目で手にした剣を振りかぶった。
死を覚悟したあの情景をアキトは忘れないだろう。

(僕を殺そうとしたあいつが仲間と幸せに暮らす?弟が居る?・・・)

アキトの心に昔から巣くっている黒い何かが再び頭をもたげた。

(そんなこと許すものか。ソウが幸せ?ありえない。お前の幸せなんてぐちゃぐちゃに踏み潰してやるよ。)

「あの~すみません。」

ブルナとピンターが振り向く。

「はい。おかげんいかがですか?気分は悪くないですか?」

「お兄ちゃん大丈夫?」

二人が近づく。

「僕、ソウ君の同級生なのですが、少し話を聞かせてもらっていいですか?」

「あら、ソウ様の同級生なのですか?それじゃゲランから逃げ出せたのですね。」

ブルナはソウから「ゲラン軍に無理矢理、加入させられた同級生が何人かいる。」ということだけ聞かされていた。

「ええ、おかげさまで、逃げ出せました。酷い目にあいましたよ。ハハ」

「よかったね。お兄ちゃん。オイラも姉ちゃんも昔、ゲランに捕まって酷い目に遭ったんだ。」

アキトはベッドから起き上がる。

「それで、こっちへ来たばかりだからわからないんだけど。ここは何処?」

「ここは、ソウ様がお造りになった『オオカミ』という国です。だから安心して。ゲラン軍はここへは来ないわ。」

「うん。ソウ兄ちゃんが作ったんだ。すごいでしょ。」

ピンターが笑顔で応えた。

「へぇ。ソウ君がね。ところで君たちはソウ君と、どんな関係なの?」

ピンターがアキトに近づく。

「オイラはソウ兄ちゃんの弟。兄ちゃんは『血を分けた兄弟』って言ってくれてる。姉ちゃんは将来ソウ兄ちゃんのお嫁さんになるんだ。」

ブルナが顔を赤くしてピンターの背中を叩く。

「ピンター何を言うの。そんなことわからないわよ。」

「ええ?だってテルマ姉ちゃんが言ってたよ。エリカさんも、テルマ姉ちゃんも、ブルナ姉ちゃんも、将来はソウ兄ちゃんのお嫁さんになるって。」

「だから、それはまだまだ先の話。そうなればいいわねって話よ。」

「そうなるよ。オイラわかるもん。アハハ」

(ソウがこの子の夫になる?他にも二人居る?)

アキトは笑顔で二人に向かう。

「へー、ソウ君いつのまに、こんな可愛い子と。他にも仲間は居るの?」

「ええ、あとドランゴさん、ドルムさん、ガラクさん、リンダさん・・は仲間なのかな?」

ピンターがブルナを見る。

「それに龍神様とその家族、今は居ないけどルチアもね。」

(ソウのやつ。なんだか幸せそうですね。)

「へぇ~ソウ君。仲間が沢山出来たんだね。幸せそうでいいな。」

「うん。兄ちゃん、仲間が一杯出来たよ。でも最初の仲間はオイラだ。えへへ」

「ええ、ソウ様は困った人を助けるのが趣味みたいなもので、助けられた人がソウ様の仲間になっています。ソウ様はいずれ神様になります。」

「うん。アウラ様が言ってた。いずれオイラは神様の弟になるって。」

(本田が神だと?僕を殺そうとした者が神?ありえない。)

アキトはベッドから降りると周囲を見回した。
隣のベッドにライベルの兵士が寝ていて、その傍らにショートソードが立てかけられている。

アキトは何も言わずに、そのショートソードを手にした。

「お兄ちゃん?・・・」

アキトはゆっくりとピンターに近づきピンターの背後からショートソードをピンターの喉元に押し当てた。

「何?どうしたの?」

「貴方なにするの?」

ピンターを取り返そうと近づくブルナの胸をアキトの剣が貫く。

ブルナは何も言わずその場に倒れた。

「ねぇちゃん!!!ねぇちゃん!!!」

ピンターが大声で叫ぶ。
診療室の外に居た何人かが、診療室へ入ってきた。

「アキト君!!」

「ウタか・・・」

ウタは何事が起こったのか理解できなかった。
同級生のアキトがピンターの喉元に剣を突きつけ、側にはブルナが倒れている。
ブルナは胸から血を流している。
一刻も早く治療しなければならない状況だが、アキトの行動が予測不能だ。
アキトの攻撃魔法は一瞬でこの部屋を丸焦げにする力を持っている。

(慎重に行動しないと・・・)

「アキト君、ブルナさんを刺したの?」

「この子ブルナっていうのか。右胸を刺したからしばらくは生きていると思うよ、安心して。」

「安心できるわけないでしょ。ピンターちゃんを離してよ。何がしたいの?」

「何がしたいんだろうな?えーと。・・・あ、そうだった。僕は本田が困ることをしたいんだ。」

「なんで、そんなことするの?」

「なんでって。本田が言ったんだ。『殺し合おう』って。そして僕は殺されかけた。だから、お返しに本田が困ることをするんだ。」

「そんなの卑怯よ。ピンターちゃんやブルナさんは関係ないでしょ。」

「そうだね。この子達と僕は何の関係も無い。でも、本田も見ず知らずの人を3000人も殺したからね。酷い話でしょ。だから僕が一人や二人、本田の知り合いを殺しても問題ないよね~。アハハ」

ウタの後ろから部屋の様子を見たキリコは一瞬でその状況を把握した。
アキトの心を読んだ。

詳しい内容はわからないがアキトの心はソウに対する憎悪で真っ黒だった。
ソウの仲間のブルナは倒れ、ピンターが人質にされている。
アキトのソウに対する憎悪で今の状態が作り出されていることは明らかだ。

しかしキリコもアキトの実力を知っている。
下手に手出しをすれば、この場に居る全員が危ない。

キリコはそっと、その場を離脱した。
応援を呼ぶためだ。

一番近くにいる大人は、ドランゴだった。
ドルムは少し離れた作戦本部に居る。

「ドランゴさん、大変。ブルナが・・ピンターが人質に取られた。」

「え?なんでがんす?誰がそんなことを?」

「アキトっていう同級生だ。あいつヒュドラの味方だ。」

「よくわからないでやんすが、あんたさんはドルムを呼んできて下しあ。ワッシはなんとかピンターを・・」

ドランゴの胸は不安でいっぱいになった。
ドランゴには戦闘能力が無い。
元々他人と戦う心も能力も皆無なのだ。
それでも、なんとかしてピンターの窮地を救わねばならない。
戦闘を恐れる心、自分の身を守る心と、ピンターを守りたい心が争い、後者が勝った。

ドランゴが診療室を覗くと黒髪の男がピンターを後ろから羽交い締めにして剣を喉元に突き当てている。
ブルナが血を流して床に倒れている。

ウタがその男に対して何かを言っているが、知らない言葉でドランゴには理解できない。
ドランゴは笑顔でアキトに近づいた。

「お話中、失礼するでやんす。なにがあったのかしりやせんが、どうか一つ、ワッシに免じて、その子を離してはくれやせんか?」

アキトは不思議そうな目でドランゴを見る。

「何なの、あんた。」

「ワッシですかい?ワッシはドランゴ・ワイスと申しやんす。ソウ様の一番弟子でガンス。」

「で、そのドランゴナントカが何の用?今忙しいんだけど。」

「えーとでやんすねぇ。そのピンターとブルナを助けにまいりやんした。二人共師匠、・・ソウ様の大切な人でやんす。ワッシにとっても家族と同様の子達でがんす。どうか、どうか助けてくだしあ。」

ドルムはその場に跪いた。

「へぇ、この子達家族なの。それじゃ本田にとっても家族って事?」

「はい。でがんす。」

アキトは少し考えた。

「どうしようかな。ここにいる全員を殺せば。本田が悲しむだろうな。」

アキトはチラリとウタを見た。
ウタをはじめ何人かの戦闘能力のある女子生徒が戦闘の構えをとっている。

「そうもいかないか。アハハ。」

ウタが戦闘態勢を解かぬままアキトに話しかける。

「そうよ。いくらアキト君でもここにいる全員と戦うのは無理よ。だから。ね。お願い。その子を離して。ここから出て行って。」

「戦闘は問題ない。全員を殺すことも出来る。問題は僕の心だよ。まだ少し日本人、元高校生としての心が残っているみたいで。同級生皆殺しは、さすがに心が痛むみたい。」

アキトの心は揺れていた。
ソウに対する憎悪と、同級生に対する憐憫。
二つの相反する心の作用が揺れている。

「同級生は殺したくないけど、本田には悲しんでもらいたいな。ん・・・こうしよう。」

アキトは抱えていたピンターをその場に落とし剣を頭上に掲げた。
アキトはうつ伏せに倒れているピンターめがけて剣を振り下ろす。

その瞬間、ドランゴがピンターに覆い被さる。
ドランゴの背中から鮮血がほとばしる。

「もう。邪魔しないでね。」

今度は剣を逆手に持ち、ドランゴの背中を貫いた。
ウタ達はその様子を見ているが動かない。

いや、動けないのだ。
ウタ達には実践経験がない。
今、目の前で起こっている殺人が実際のこととは思えないのだ。
身がすくんでいる。

アキトがピンターに覆い被さったドランゴを足蹴にして転がす。
怯えた表情のピンター。

アキトは情け容赦なく剣を振り下ろす。
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