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第五章 獣人国編
第158話 同級生を殺すのか?
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ライベル城外でアキトと戦い、アキトを追い詰めた。
アキトはレギラが苦戦するほどに強くなっていたが、結局魔力総量の差で、おれがアキトを追い詰めたのだ。
アキトは跪いて、俺を見た。
「同級生を殺すのか?日本人を殺すのか?」
アキトは哀れみを帯びた声を出す。
俺は一瞬ためらったが、アキトのイツキやヒナに対する非道を思い出し、止めを刺そうとした時、そいつは現れた。
ブラックドラゴン。
アウラ様とも互角に戦う強敵だ。
ブラックドラゴンをよく見るとその背に女が乗っている。
見覚えがある。
昔、ライジンが連れていた動物使いの女、『エレイナ』だ。
ブラックドラゴンは再攻撃の為に息を吸う。
俺は急いで龍神の盾を取り出した。
龍神の盾を構えると同時にブラックドラゴンは指向性のある青いブレスを吐き出した。
さながら巨大なレーザービームだ。
龍神の盾がブレスを受け流す。
ブレスを受け流すものの、その威力はすさまじく、俺は一歩も動けない。
数秒間ブレスから耐えて視野をブラックドラゴンに戻したところ、エレイナがアキトを抱えてブラックドラゴンに飛び乗ったのが見えた。
ブラックドラゴンはエレイナとアキトを乗せると、その場から飛び立った。
俺はエレイナに向けて雷鳴剣を振った。
落雷がエレイナを襲うがエレイナはそれに耐えた。
エレイナの体の周囲が落雷を受けて発光した。
防御魔法を張っていたのだろう。
俺はソラで追跡することも考えたが、ソラに乗っての攻撃は難しいし、何よりソラは通勤用の飛行艇だ。
ブラックドラゴンとは戦えないだろう。
俺はエレイナ達を見送るしかなかった。
ブラックドラゴンは敵本陣、ゲラン国軍駐屯地方向へ飛び去った。
「イツキ!聞こえるか?」
「はい。ソウ君。聞こえているよ。」
「イツキ、今すぐライベル城まで戻れ、リュウヤもガラクもだ。」
「え?どうして?」
「詳しい説明をしている暇は無い。とにかく一度ライベルまで戻れ、リュウヤとガラクを収容して、急いで戻れ。」
俺はそれだけ伝えると、急ぎライベル擁壁にいるレギラの元へ戻った。
「レギラ、見たか?」
「ああ、見た。やっかいな奴が出てきたな。」
「あのエレイナとかいう女、お前がラーシャから連れてきたんだろ?」
「ああ、そうだ。ラーシャ国王に勧められて、対ゲラン用の兵器として俺が連れてきた。」
レギラは眉をしかめている。
「あの時は、ゲランに対する復讐にはもってこいと思っていたが、いざ敵に回すとかなりやっかいだ。」
実際ブラックドラゴンはセプタを殲滅している。
「あれ、ヒュドラ教の手下だぜ。」
「そうなのか?」
「ああ、ブラックドラゴンとエレイナはヒュドラ教の配下で間違いない。」
セトが口を挟む。
「ブラックドラゴンは、こちらの味方もしてセプタを襲ったし、今は俺達を襲っている。ということは・・」
俺はセトの言葉をつなげた。
「そうだよ。この戦争は最初から仕組まれていた。ゲラン、ラーシャ、ジュベルが、お互いに憎しみあうように。戦争が起こるように。全てヒュドラの計画だ。」
レギラが俺を見る。
「なんで、そんなことを・・」
「俺にもわからんが、戦争が起きて多くの人が死ねば、多くの神石を回収することができる。この戦争の目的の一つは神石の収集かも知れない。」
「神石って?」
俺は戦場の一角を指さした。
ラーシャ軍が大量死した方向から青い人魂のようなものが一方向へ吸収されているのが見える。
「あれだよ。神石を誰かが集めている。神石は魔力の元、簡単に言えば人の魂だ。」
レギラが怒気を放つ。
「するとなにか?俺達は戦いたくも無いのに、その神石とやらを集めるため、無理矢理殺し合いをさせられているということか?」
レギラの怒気に触れて、俺も体から怒気と魔力が溢れてしまった。
周囲の兵隊が後ずさりしている。
「たぶん・・いや。そうとしか考えられない。」
戦場を見渡していたところ、ウルフが帰還した。
城壁内に入ったウルフの元へ俺が近づく。
ウルフからレン、イツキ、ガラク、リュウヤが降りてきた。
俺は4人にむかった。
「ブラックドラゴンが出た。ここは危険だ。お前達、一度オオカミへ帰れ。」
ガラクが一歩前に出る。
「俺が。『はい、わかりました。』と言うと思うか?」
俺は笑った。
「思わない。ハハ」
俺は4人に向かって言ったが、本当はイツキとレンに言ったのだ。
ガラクとリュウヤは自分で自分を守れるだろうが、レンとイツキにその力は無い。
例えウルフに乗っていたとしても、相手がブラックドラゴンでは分が悪い。
「俺も残るぜ。」
リュウヤが言った。
「僕も残ります。ウルフを使わせて。役に立つから。」
「そうだぞ。オイ」
少し悩んだが、4人の意思は固いようだ。
「わかった。レンとイツキは、そのままウルフ。ガラクとリュウヤは自由に動いてライベルを守ってくれ。しかし危ないと思ったら必ず避難すること。いいな。」
全員がうなずく。
「あ、それと、アキトと決闘した。」
イツキとレンが大きく反応した。
「で?」
「アキトに重傷を負わせたが、止めはさせなかった。」
レンが問う。
「止めをささなかったのか?」
「ささなかったんじゃなくて。刺せなかった。止めをさそうとしたらブラックドラゴンに邪魔された。」
俺は、あの時のアキトの言葉を思い出していた。
「同級生を殺すのか?日本人を殺すのか?」
その問いに今返事をする。
(ああ、殺すさ。仲間と家族の為なら。)
俺は城壁の上のレギラと合流した。
「レギラ、ブラックドラゴンはウルフと俺でも勝てないかも知れない。」
俺は逃げた方が良いのでは?
と問いかけたかったのだが、レギラに対してその問いは無意味だろうと思っていた。
「逃げないぜ。例え相手があいつでもな。俺はここの親分だ。子分をすてて逃げられねぇよ。」
「だろうな。」
「ソウ。お前は仲間を連れて逃げろ。お前まで死ぬことはない。」
「兄弟分置いて、逃げろってか?無理なこと言うな。」
「だろうな。」
お互いに笑い合った。
セトと周囲の兵隊も笑っている。
その時、イツキから連絡が入った。
『ソウ君。』
『なんだ、イツキ』
『なんかよくわからないけど、アラームが鳴っているよ。ナビさんによると救難信号らしい。』
『わかった。』
俺はソラに乗った。
ソラのナビゲーションシステムはマザーやウルフ、それにタイチさんと連携させている。
『ソラ、救難信号の詳細を表示しろ。』
『了解』
モニターに赤く点滅するブリッツが表示された。
場所はゲラン軍駐屯地の後方だ。
今、救命ボールを持っているのはウタとキノクニのアヤコだ。
以前、ソウ達に救命ボールを届ける際、念のために戦場にいるアヤコのことを考慮して、アヤコにも一機貸し与えていた。
(アヤコだな。)
アヤコが発している救難信号の周囲は灰色のブリッツで囲まれている。
灰色のブリッツは魔物だ。
おそらく火に怯えたラーシャの魔物が敵味方関係なく、人を襲っているのだろう。
俺はブラックドラゴンに発見されないよう、超低空でソラを飛ばしてゲラン軍駐屯地に近づいた。
救難信号の出ている場所へ近づくと、その発信元は目視で確認できた。
地上で馬車を背にアヤコ達10人くらいがサソリと戦っている。
キノクニの半纏を着た男が何人か馬車の側で倒れている。
アヤコは必死の形相で俺が与えた雷鳴剣を振っている。
雷鳴剣から小さいものの鋭い雷が発せられ、大型のサソリや蛇に当たっている。
雷の威力が弱いのか、雷撃は魔物に当たるものの、その命を断つことは出来ないようだ。
魔物の輪は次第にアヤコ達を追い詰める。
大型のサソリが、その尾っぽを持ち上げアヤコの頭を狙った時、俺は雷鳴剣を振り下ろした。
雷がサソリの尾っぽに落ちると同時にサソリは黒焦げになった。
他の蛇や蜘蛛も俺の怒気を感じて逃げ出した。
「シン様ぁぁぁぁ~」
アヤコが涙と鼻水を垂れ流しながら俺に近づく。
「じぬがとおもっだです~。」
アヤコが俺に抱きつき俺の服がアヤコの涙と鼻水でぬれた。
「アヤコ、無事で良かった。よく思い出したな。」
アヤコの胸元で救命ボールが明滅している。
「はい。魔物に取り囲まれた時、ソウ様の顔を思い出しました。そしてこのボールも。」
アヤコは胸元から救命ボールを取り出した。
ボールを取り出すときに少し見えたような・・
なんでもないです。・・・
「よかった。それより他の隊員は?ケンタは?」
ケンタは元ブンザ隊の副隊長、今では一つのキャラバンを任されている隊長だ。
「隊長はサソリに追われて逃げた他の隊員を追いかけています。」
アヤコは駐屯地の後方を指さした。
「わかった。追いかけてみる。それよりアヤコ。負傷者を逃がせ。お前もだ。」
「どこへ?」
俺は、その場にオオカミに繋がるゲートを開いた。
「ここのゲートは俺の国に繋がっている。向こうにはドルムさんやドランゴさん、ピンター達が居る。怪我人をピンターの元へ運べ。」
「はい。」
俺はケンタを探してすぐにこの場所に戻るつもりだった。
後からそれが大きなミスだと思い知らされた。
アヤコをその場に残し、アヤコが指さした方向へ行き、ケンタを探したところケンタは負傷した隊員に肩を貸し、こちらへ歩いてくるところだった。
「シン相談役!!」
「ケンタ隊長、無事か?」
「ああ、俺は無事だ。だがこいつが大怪我を。」
ケンタが支える隊員は血の気がない。
サソリに射されたそうだ。
俺は大急ぎでヒールを施した。
隊員の血色が少し戻った。
「シンさん。ありがとう。」
「礼は良い。早く運ぼう。」
俺とケンタ隊長は二人で怪我人をゲートまで運んだ。
ゲートまで戻ったところ、アヤコはすでに避難したのか居なかった。
周囲の怪我人もいない。
俺はケンタと怪我人を連れてゲートをくぐった。
ゲートから出た先は俺が設置した病院の待合室だ。
待合室にはライベルから運ばれた何人かの兵士が治療の順番を持っていた。
俺が待合室に現れるとアヤコが俺達を見つけた。
「シン様、ケンタ隊長。ご無事で。」
ケンタがアヤコの頭に手を乗せる。
「怪我人、アヤコが運んでくれたのか?」
「はい。必死でした。」
「よくやった。偉いぞ。」
「ウェヘヘヘ。」
いつものようにアヤコが笑う。
何とか間に合った。
俺は参戦する時、キノクニ従業員が巻き添えをくわないか、それだけが気がかりだったのだ。
怪我人は出たものの死者はいないようだ。
病院ではブルナ、ヒュナ、ドランゴさんがせわしく働いていた。
ウタ達女生徒も怪我人の間を飛び回り、治療を施している。
ピンターはメディにかかりきりのようだ。
俺を見つけたドランゴさんが近づいてきた。
「師匠、お怪我はござりやせんか?」
「ドランゴさん。大丈夫です。俺は戦場に戻りますが、ピンター達の面倒を見てやってください。」
「はい。任せて下しあ。ドランゴ・ワイスの出番でヤンス。」
「お願いします。」
ドランゴさんの気合いが入っている。
「ドランゴ・ワイス」と、めったに名乗らない姓まで名乗った。
アキトはレギラが苦戦するほどに強くなっていたが、結局魔力総量の差で、おれがアキトを追い詰めたのだ。
アキトは跪いて、俺を見た。
「同級生を殺すのか?日本人を殺すのか?」
アキトは哀れみを帯びた声を出す。
俺は一瞬ためらったが、アキトのイツキやヒナに対する非道を思い出し、止めを刺そうとした時、そいつは現れた。
ブラックドラゴン。
アウラ様とも互角に戦う強敵だ。
ブラックドラゴンをよく見るとその背に女が乗っている。
見覚えがある。
昔、ライジンが連れていた動物使いの女、『エレイナ』だ。
ブラックドラゴンは再攻撃の為に息を吸う。
俺は急いで龍神の盾を取り出した。
龍神の盾を構えると同時にブラックドラゴンは指向性のある青いブレスを吐き出した。
さながら巨大なレーザービームだ。
龍神の盾がブレスを受け流す。
ブレスを受け流すものの、その威力はすさまじく、俺は一歩も動けない。
数秒間ブレスから耐えて視野をブラックドラゴンに戻したところ、エレイナがアキトを抱えてブラックドラゴンに飛び乗ったのが見えた。
ブラックドラゴンはエレイナとアキトを乗せると、その場から飛び立った。
俺はエレイナに向けて雷鳴剣を振った。
落雷がエレイナを襲うがエレイナはそれに耐えた。
エレイナの体の周囲が落雷を受けて発光した。
防御魔法を張っていたのだろう。
俺はソラで追跡することも考えたが、ソラに乗っての攻撃は難しいし、何よりソラは通勤用の飛行艇だ。
ブラックドラゴンとは戦えないだろう。
俺はエレイナ達を見送るしかなかった。
ブラックドラゴンは敵本陣、ゲラン国軍駐屯地方向へ飛び去った。
「イツキ!聞こえるか?」
「はい。ソウ君。聞こえているよ。」
「イツキ、今すぐライベル城まで戻れ、リュウヤもガラクもだ。」
「え?どうして?」
「詳しい説明をしている暇は無い。とにかく一度ライベルまで戻れ、リュウヤとガラクを収容して、急いで戻れ。」
俺はそれだけ伝えると、急ぎライベル擁壁にいるレギラの元へ戻った。
「レギラ、見たか?」
「ああ、見た。やっかいな奴が出てきたな。」
「あのエレイナとかいう女、お前がラーシャから連れてきたんだろ?」
「ああ、そうだ。ラーシャ国王に勧められて、対ゲラン用の兵器として俺が連れてきた。」
レギラは眉をしかめている。
「あの時は、ゲランに対する復讐にはもってこいと思っていたが、いざ敵に回すとかなりやっかいだ。」
実際ブラックドラゴンはセプタを殲滅している。
「あれ、ヒュドラ教の手下だぜ。」
「そうなのか?」
「ああ、ブラックドラゴンとエレイナはヒュドラ教の配下で間違いない。」
セトが口を挟む。
「ブラックドラゴンは、こちらの味方もしてセプタを襲ったし、今は俺達を襲っている。ということは・・」
俺はセトの言葉をつなげた。
「そうだよ。この戦争は最初から仕組まれていた。ゲラン、ラーシャ、ジュベルが、お互いに憎しみあうように。戦争が起こるように。全てヒュドラの計画だ。」
レギラが俺を見る。
「なんで、そんなことを・・」
「俺にもわからんが、戦争が起きて多くの人が死ねば、多くの神石を回収することができる。この戦争の目的の一つは神石の収集かも知れない。」
「神石って?」
俺は戦場の一角を指さした。
ラーシャ軍が大量死した方向から青い人魂のようなものが一方向へ吸収されているのが見える。
「あれだよ。神石を誰かが集めている。神石は魔力の元、簡単に言えば人の魂だ。」
レギラが怒気を放つ。
「するとなにか?俺達は戦いたくも無いのに、その神石とやらを集めるため、無理矢理殺し合いをさせられているということか?」
レギラの怒気に触れて、俺も体から怒気と魔力が溢れてしまった。
周囲の兵隊が後ずさりしている。
「たぶん・・いや。そうとしか考えられない。」
戦場を見渡していたところ、ウルフが帰還した。
城壁内に入ったウルフの元へ俺が近づく。
ウルフからレン、イツキ、ガラク、リュウヤが降りてきた。
俺は4人にむかった。
「ブラックドラゴンが出た。ここは危険だ。お前達、一度オオカミへ帰れ。」
ガラクが一歩前に出る。
「俺が。『はい、わかりました。』と言うと思うか?」
俺は笑った。
「思わない。ハハ」
俺は4人に向かって言ったが、本当はイツキとレンに言ったのだ。
ガラクとリュウヤは自分で自分を守れるだろうが、レンとイツキにその力は無い。
例えウルフに乗っていたとしても、相手がブラックドラゴンでは分が悪い。
「俺も残るぜ。」
リュウヤが言った。
「僕も残ります。ウルフを使わせて。役に立つから。」
「そうだぞ。オイ」
少し悩んだが、4人の意思は固いようだ。
「わかった。レンとイツキは、そのままウルフ。ガラクとリュウヤは自由に動いてライベルを守ってくれ。しかし危ないと思ったら必ず避難すること。いいな。」
全員がうなずく。
「あ、それと、アキトと決闘した。」
イツキとレンが大きく反応した。
「で?」
「アキトに重傷を負わせたが、止めはさせなかった。」
レンが問う。
「止めをささなかったのか?」
「ささなかったんじゃなくて。刺せなかった。止めをさそうとしたらブラックドラゴンに邪魔された。」
俺は、あの時のアキトの言葉を思い出していた。
「同級生を殺すのか?日本人を殺すのか?」
その問いに今返事をする。
(ああ、殺すさ。仲間と家族の為なら。)
俺は城壁の上のレギラと合流した。
「レギラ、ブラックドラゴンはウルフと俺でも勝てないかも知れない。」
俺は逃げた方が良いのでは?
と問いかけたかったのだが、レギラに対してその問いは無意味だろうと思っていた。
「逃げないぜ。例え相手があいつでもな。俺はここの親分だ。子分をすてて逃げられねぇよ。」
「だろうな。」
「ソウ。お前は仲間を連れて逃げろ。お前まで死ぬことはない。」
「兄弟分置いて、逃げろってか?無理なこと言うな。」
「だろうな。」
お互いに笑い合った。
セトと周囲の兵隊も笑っている。
その時、イツキから連絡が入った。
『ソウ君。』
『なんだ、イツキ』
『なんかよくわからないけど、アラームが鳴っているよ。ナビさんによると救難信号らしい。』
『わかった。』
俺はソラに乗った。
ソラのナビゲーションシステムはマザーやウルフ、それにタイチさんと連携させている。
『ソラ、救難信号の詳細を表示しろ。』
『了解』
モニターに赤く点滅するブリッツが表示された。
場所はゲラン軍駐屯地の後方だ。
今、救命ボールを持っているのはウタとキノクニのアヤコだ。
以前、ソウ達に救命ボールを届ける際、念のために戦場にいるアヤコのことを考慮して、アヤコにも一機貸し与えていた。
(アヤコだな。)
アヤコが発している救難信号の周囲は灰色のブリッツで囲まれている。
灰色のブリッツは魔物だ。
おそらく火に怯えたラーシャの魔物が敵味方関係なく、人を襲っているのだろう。
俺はブラックドラゴンに発見されないよう、超低空でソラを飛ばしてゲラン軍駐屯地に近づいた。
救難信号の出ている場所へ近づくと、その発信元は目視で確認できた。
地上で馬車を背にアヤコ達10人くらいがサソリと戦っている。
キノクニの半纏を着た男が何人か馬車の側で倒れている。
アヤコは必死の形相で俺が与えた雷鳴剣を振っている。
雷鳴剣から小さいものの鋭い雷が発せられ、大型のサソリや蛇に当たっている。
雷の威力が弱いのか、雷撃は魔物に当たるものの、その命を断つことは出来ないようだ。
魔物の輪は次第にアヤコ達を追い詰める。
大型のサソリが、その尾っぽを持ち上げアヤコの頭を狙った時、俺は雷鳴剣を振り下ろした。
雷がサソリの尾っぽに落ちると同時にサソリは黒焦げになった。
他の蛇や蜘蛛も俺の怒気を感じて逃げ出した。
「シン様ぁぁぁぁ~」
アヤコが涙と鼻水を垂れ流しながら俺に近づく。
「じぬがとおもっだです~。」
アヤコが俺に抱きつき俺の服がアヤコの涙と鼻水でぬれた。
「アヤコ、無事で良かった。よく思い出したな。」
アヤコの胸元で救命ボールが明滅している。
「はい。魔物に取り囲まれた時、ソウ様の顔を思い出しました。そしてこのボールも。」
アヤコは胸元から救命ボールを取り出した。
ボールを取り出すときに少し見えたような・・
なんでもないです。・・・
「よかった。それより他の隊員は?ケンタは?」
ケンタは元ブンザ隊の副隊長、今では一つのキャラバンを任されている隊長だ。
「隊長はサソリに追われて逃げた他の隊員を追いかけています。」
アヤコは駐屯地の後方を指さした。
「わかった。追いかけてみる。それよりアヤコ。負傷者を逃がせ。お前もだ。」
「どこへ?」
俺は、その場にオオカミに繋がるゲートを開いた。
「ここのゲートは俺の国に繋がっている。向こうにはドルムさんやドランゴさん、ピンター達が居る。怪我人をピンターの元へ運べ。」
「はい。」
俺はケンタを探してすぐにこの場所に戻るつもりだった。
後からそれが大きなミスだと思い知らされた。
アヤコをその場に残し、アヤコが指さした方向へ行き、ケンタを探したところケンタは負傷した隊員に肩を貸し、こちらへ歩いてくるところだった。
「シン相談役!!」
「ケンタ隊長、無事か?」
「ああ、俺は無事だ。だがこいつが大怪我を。」
ケンタが支える隊員は血の気がない。
サソリに射されたそうだ。
俺は大急ぎでヒールを施した。
隊員の血色が少し戻った。
「シンさん。ありがとう。」
「礼は良い。早く運ぼう。」
俺とケンタ隊長は二人で怪我人をゲートまで運んだ。
ゲートまで戻ったところ、アヤコはすでに避難したのか居なかった。
周囲の怪我人もいない。
俺はケンタと怪我人を連れてゲートをくぐった。
ゲートから出た先は俺が設置した病院の待合室だ。
待合室にはライベルから運ばれた何人かの兵士が治療の順番を持っていた。
俺が待合室に現れるとアヤコが俺達を見つけた。
「シン様、ケンタ隊長。ご無事で。」
ケンタがアヤコの頭に手を乗せる。
「怪我人、アヤコが運んでくれたのか?」
「はい。必死でした。」
「よくやった。偉いぞ。」
「ウェヘヘヘ。」
いつものようにアヤコが笑う。
何とか間に合った。
俺は参戦する時、キノクニ従業員が巻き添えをくわないか、それだけが気がかりだったのだ。
怪我人は出たものの死者はいないようだ。
病院ではブルナ、ヒュナ、ドランゴさんがせわしく働いていた。
ウタ達女生徒も怪我人の間を飛び回り、治療を施している。
ピンターはメディにかかりきりのようだ。
俺を見つけたドランゴさんが近づいてきた。
「師匠、お怪我はござりやせんか?」
「ドランゴさん。大丈夫です。俺は戦場に戻りますが、ピンター達の面倒を見てやってください。」
「はい。任せて下しあ。ドランゴ・ワイスの出番でヤンス。」
「お願いします。」
ドランゴさんの気合いが入っている。
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毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
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