異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第157話 誰より強いって?

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俺はライベルの城壁から少し離れた北の平野で魔獣使いを掃討するため徒歩で参戦していた。
ウルフに乗ったイツキとレン、徒歩のガラクとリュウヤ達も一緒だ。
相当数の魔獣や魔獣使いを倒して更に敵を求めていたところ、ドルムさんから遠話連絡が入った。

『おーい。ソウ。』

『はい。ドルムさん。』

『レギラがやばい。やられそうだ。』

『え?レギラが?』

レギラは強い。
人狼Ⅱの俺と互角か、それ以上だ。
そのレギラが危ないという。

『どんな状況です?』

『敵は一人だ。ゲラン軍の将校服を着ている。まだ若いな。ソウと同い年くらいだろう。黒髪で見た感じは、お前達日本人みたいだ。』

(アキトだ。)

しかしアキトはレギラを追い詰めるほど強くは無い。
確かに身体能力や魔法は強いがレギラが危うくなるほどの強さでは無いはずだ。

しかし、その情報は一年以上前のもの。
俺がブテラを逃げ出す時のものだから、アキトもそれから大きく成長したのかもしれない。
俺が獣王化したように。

『ドルムさん。俺の応援が必要だと思いますか?』

『ああ、このままじゃレギラはもたねぇ。友軍のセト達はレギラの危機に気がついてないと思う。なんせレギラだからな。』

セト達はレギラに対して絶対的な信頼を置いている。
レギラが俺以外の誰かに戦闘で負けるなんて想像もしていないだろう。

『わかった。ドルムさん、俺が応援に行く。』

『ああ、早くしたほうが良いと思うぞ。』

『うん。ありがとう。』

側に居るリュウヤとガラクがこちらを見ている。

「リュウヤ、ガラク、城壁に居るレギラが危ないらしい。俺、ちょっと行ってくる。後、まかせていいか?」

「レギラ様が?相手は誰だ?」

ガラクもレギラの戦闘能力には疑いを持っていない。
そのレギラが危ういというので驚いている。

「アキトっていう奴。俺の宿敵だ。」

リュウヤがアキトという名前に反応する。

「アキト・・」

「レギラに後から怒られるかも知れないが、ちょっと様子を見てくるよ。」

ガラクもリュウヤもうなずく。

俺は「ソラ」をその場に展開して飛び乗った。
ソラなら、ライベル正門まで一分とかからない。

ライベル正門上空に来て下を見下ろしたところ。
レギラの上空で巨大な火の玉がレギラを取り囲み旋回している。

レギラがどの方向に逃げても直撃は避けられないだろう。
レギラから少し離れたところにアキトはいた。
アキトは右手をかざして人差し指をクルクルと回している。
アキトの指の動きと火の玉の動きは連動している。
攻撃のタイミングを計っているのだろう。

アキトが手を振り下ろそうとする時、俺は龍神の盾を持ったままソラを蹴ってレギラの側に着地した。

と、同時にいくつもの巨大な火の玉が俺とレギラをめがけて襲いかかる。
しかし、龍神の盾がその全てを弾き返した。

レギラと目が合った。
レギラはあちこちに負傷している。
俺は盾を掲げたまま、レギラにヒールを施した。

「何しに来た。」

レギラは不機嫌だ。

「こんな場面で強がり言うな。」

「今から、反撃するところだったんだよ!!」

といいながらも少し笑った。
俺も笑い返した。

「すまんな。正直少しだけ、手間取っていた。強いぞあいつ。もしかしたらソウより強いかも。」

俺は無言で獣王化した。
俺の全身が銀色の体毛とほとばしる青い魔力で覆われる。
獣王の姿はレギラには見せていなかった。
俺は金色の目でレギラを見返した。

「誰より強いって?」

レギラは驚いている。

「あ、いや、なんでも無い。お前、ソウだよな?」

「ああ、俺だ。レギラ城壁へ戻ってくれ。アキトと少し話がしたい。」

「俺も戦うぞ。」

「作戦上、お前の役目は何だ?」

「守備の要・・・」

レギラは悔しそうに、その場を離れた。

改めてアキトを見た。
アキトはゲラン軍将校の姿をしている。

「久しぶりだね。本田君。」

「ああ、久しぶりだアキト。」

「しばらく見ない間にずいぶんと変わったね。すっかりバケモノになっちゃてさ。」

「ああ、みてくれはな。変わったと言えばお前の方が俺より変化しているぞ。」

アキトは自分の手足を見る。

「え?僕のどこが?僕は変わっていないよ。本田君みたいにバケモノにはなっていないよ。」

俺は微笑みながら言い返した。

「いや、変わったさ。お前平気で人殺しできるだろ?平気で仲間を殺せるだろ?お前の方がバケモノだよ。」

「何?ネリア村の猫やイツキの馬鹿のことを言ってるの?猫を数匹殺したくらいなんだっていうの?イツキだって死刑囚だから殺しただけだよ。俺は、な~んにも悪くないよね?」

「だからバケモノだってぇの。同級生殺して平気でいられるその神経はバケモノ以外の何者でもないよ。」

「人を殺したらバケモノなの?そんじゃ本田君はバケモノ以上だね。さっき何千人か殺したでしょ?ラーシャ兵。」

確かに俺はラーシャ兵の魔物使いを何千人か殺している。
俺が直接手をかけたのは数名だが、ウルフのミサイルで何千人か殺している。
それは俺が殺したことに間違いない。

アキトの言うように俺もバケモノなのかもしれない。

「ああ、そうだな。俺もバケモノだろうよ。俺はこの世界に来て、殺さなければ殺されるという目に何度も遭遇した。自分が生き残るために人を殺したよ。認めるよ。」

「案外素直だね。で、どうすんの?生きるために僕を殺すのかい?」

「ああ、場合によってね。しかし、今なら間に合うかも知れない。ヒュドラは俺達の敵だ。ヒュドラの元を離れる気はないか?俺はバケモノかもしれないが、できるなら同級生を殺したくない。」

アキトは少し上を向いて考える仕草をした。

「ん~、どう考えても無理だね。そっちには行かない。」

「なぜ?」

「なぜって・・そりゃ、そっちより、こっちの方が楽しいし、気持ちよいもの。」

「同級生を殺してでもか?」

「うん。殺してでもだ。」

重苦しい空気が流れる。

「そうか、それじゃ仕方ないな。殺し合おう。」

「うん。そうだね。殺し合おう。」

アキトがその言葉を発すると同時に後ろに飛び下がった。
俺もアキトから飛び下がりながら雷鳴剣を振り下ろした。
雷がアキトの居たはずの場所に落ちるが、アキトはすでにそこには居ない。

俺が雷鳴剣を振り下ろし終わると同時に強大な火の玉が俺の上空に発生した。

火の玉から逃れようとしたところ、重力の波が次々と俺を襲った。
重力波の影響で体が思うように動かない。

火の玉が俺を直撃するが龍神の盾のおかげでダメージは最小限にとどまった。
俺は未来予想を使いながら攻防しているが、その未来予測をも上回る速さでアキトが動き回る。

敏捷性に関しては、俺を上回っているようだ。
レギラが苦戦したのもわかる。

アキトはヒットアンドウェイで戦っている。
遠間から何度か魔法攻撃を仕掛けてきたが、そのことごとくを俺が無効化したり盾で防いだから魔法効果よりも物理攻撃で攻める戦法に切り替えたのだ。

俺は接近戦があまり得意では無いがドルムさんからコピーしたスキル『剣技』も、そこそこに成長しているし、獣王化している今なら物理攻撃もさほど怖くは無い。

そこいらの武器では俺の肌に傷一つつけることはできない。

「固いねぇ本田君。」
俺の防御は完璧だが、俺の攻撃もアキトに届かない。
アキトの魔法抵抗値は高く、攻撃魔法は効果が無いし、俺の得意な雷鳴剣での攻撃もアキトは見切ってしまう。

しばらくの間アキトと一進一退の攻防を続けた。
長時間、攻防を続けるうちにアキトの表情がくもり始めた。

アキトは物理攻撃の合間にファイヤーボールや重力波を撃ってきて、俺に隙を作ろうとしていたが、その魔法攻撃の回数と威力が落ちてきた。

魔力が尽き始めているのだろう。

俺にも覚えがある。
獣王化する前には魔力にも限界があり、極度の緊張状態で魔法を使い続けると魔力が欠乏し危機に陥る事があった。

アキトと俺が戦い始めて10分以上経過している。
さしものアキトの魔力もつき始めているのだろう。

片や俺は獣王化してタテガミが常時魔力を供給している。
よほど大きな魔法を連発しない限り魔力は無尽蔵とも言える。

アキトが防御のために撃った重力波が思いの外弱かった。
俺は重力派を突き破りアキトの懐に潜り込むことができた。

左手をアキトの胸方向にかざし、手のひらから極限級のパラライズを放った。

アキトは避けきれず一瞬動きが止まった。

俺はその隙を見逃さず、
雷鳴剣をアキトの腹めがけてなぎ払った。
手ごたえがあった。

アキトの腹から血が噴き出す。
雷を伴った斬撃がアキトの硬い体を切り裂いたのだ。

アキトはその場に膝を付き腹部を抑えている。
ヒールのスキルは持っていないようだ。
アキトは動けない。

俺はアキトにとどめを刺すべく用心しながらアキトに近寄った。

アキトが顔を上げる。

「本田君、同級生をころすのかい?日本人を殺すのかい?」

アキトは哀れみを誘うような言葉を絞り出した。

俺は一瞬ためらった。

このためらいが後に大きな災いをまねくことになろうとは思いもしなかった。
目の前にいるのは、死にかけている元同級生。
俺の心の中に、まだ日本人だった頃の心、高校生だった頃の心残っていた。

(同級生を殺す・・・のか?)

しかしイツキは、この同級生に殺されたのだ。
この男はヒュドラ教の手先で俺からヒナを奪い去ったのだ。
俺は剣を振りかぶった。

「殺し合うと言っただろう。」

今、まさに剣を振り下ろそうとした時、右目の視野の端に違和感を覚えた。
俺の心に警報が鳴った。

俺は全身を堅固すると共に後ろに大きくジャンプした。
バック転の要領で手を地面につき着地した時、さっきまで俺がいた場所に巨大な閃光が走った。

その閃光は地面を深く長くえぐり、閃光の方向にある全ての物を溶かした。

(でやがった。)

ブラックドラゴンがこちらを見ている。
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