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第五章 獣人国編
第156話 レギラの窮地
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ライベルの北側の荒野にはラーシャの魔獣軍が10万、ライベルを攻撃する為に集結していたが、今やその群れの統制は無いにも等しかった。
ラーシャ空軍のワイバーンはウルフのミサイルによって大半が撃墜され、魔獣を指揮する魔物使い達はナパーム弾で地獄の業火に焼かれていた。
統制をなくした魔物達は唯一火の手が上がっていないライベル西側の平野を目指して我先に暴走しはじめた。
暴走した魔獣が向かう先にはゲラン軍の駐屯地がある。
一部生き残った魔獣使いが魔獣を制御しようとするが魔獣使いの数は足りず、ましてや炎に怯える魔獣を制御するのは不可能に近かった。
俺はライベル城壁の上で戦果を確認した。
「そろそろ、行くぞ。」
俺はガラクとリュウヤに合図をした。
ウルフが撃ち漏らしたラーシャ軍の魔獣使いを掃討するつもりだ。
魔獣の多くが生き残っている。
しかし、それを制御する者さえ居なければ魔獣は魔獣だ。元の魔獣地帯へ帰るだろう。
「ああ、行こう。」
「よし。やるか。」
俺、ガラク、リュウヤが城壁から飛び降りてウルフの後ろに付いた。
「イツキ。ナビを使って魔獣使いの生き残りを探してくれ。俺達が片づける。」
「わかったよ。ソウ君。」
ナビは魔獣と人を見分けてモニター表示することができる。
魔獣の生き残りは火の手の向こうにいるはずだが、時折火をかいくぐった魔獣が俺達に突進してくる。
俺達は難なく魔獣を倒す。
ガラクは金棒で、リュウヤは魔法剣で、それぞれ造作も無く敵を倒す。
ウルフが進む方向には必ずラーシャの魔獣使いがいた。
魔獣使いは人間だ。
何かの毛皮でできた獣の匂いのする服と、麻か何かでできたフードをかぶっている。
武器は持たず、手にホイッスルのようなモノを持っていて、それを鳴らすことにより魔獣をコントロールしているようだ。
フォナシス火山でアウラ様がブラックドラゴンと戦った時に使われたホイッスルだ。
魔獣使いは俺達と遭遇すると、そのホイッスルを吹こうとするが、俺達は魔獣使いが音を出す前に倒した。
煙の向こうに魔獣使いが3人現れた。
おれは躊躇することなく雷鳴剣を振り下ろす。
一人が落雷を受けて黒焦げになった。
ガラクが金棒を伸ばしてイノシシの上に乗った魔獣使いをなぎ払う。
リュウヤが魔剣を構えた。
残る一人を狙って。
その時風が吹いて敵のフードがめくれた。
魔獣使いの素顔が現れる。
14~15歳くらいの女の子だ。
リュウヤの振りかぶった剣が上段の位置で止まる。
その隙に魔獣使いがホイッスルを吹いたところ、近くに居た軽四トラックほどのサソリがリュウヤを襲った。
リュウヤは間一髪でそれを避ける。
ガラクがそのサソリを叩き潰した。
魔獣使いは隙を見て逃げ出した。
「どうしたリュウヤ。」
「あ、いや。その・・女だった。・・」
「魔獣使いがか?」
「そうだ。女・・いや女の子だった。」
ガラクがリュウヤを睨む。
「だからなんだ?あの魔獣使いがワイバーンを使ってライベルの子供達を殺すかもしれないんだぞ。」
リュウヤは困った顔をした。
「ああ、すまん。そうだな。ここは戦場なんだよな。すまん。次からは・・」
俺はリュウヤの肩を叩いた。
「俺だって戸惑ったろうよ。でも敵は敵だ。殺さなきゃ殺される。敵の生は俺達の死だ。」
「うん。わかった。」
ウルフは魔獣使いを探しながら機銃で魔獣を一掃する。
俺達はウルフの後ろをついて敵軍奥深くへと進んだ。
一方ライベル城門では、ゲラン軍の総攻撃が始まっていた。
本来ならワイバーンが空から城門を襲い、レギラ達の守備力が墜ちたところへ魔獣と共に侵攻を懸ける予定のゲラン軍だったが、あてにしていた魔獣軍は、ソウ達のミサイル攻撃により、その戦力を著しく欠いた。
戦力を欠いたどころか魔獣の一部は暴走し、こともあろうかゲラン軍の駐屯地を襲っている。
突撃開始の合図で駐屯地を離れたゲラン兵士は暴走した魔獣により本拠地から分離された形になってしまい、しかたなく城壁を攻撃しているような状態だ。
魔獣同様、指揮が執れていない烏合の衆と化している。
城壁から誰かが降りてきた。
真っ赤な髪と燃えるような赤い瞳、身長2メートルはあるだろう。
レギラだ。
レギラは城門下に降り立ち、大きく息を吸い込むとゲラン軍向けて『雄叫び』を放った。
雄叫びの方向にいたゲラン兵士が数十人、その場に倒れた。
雄叫びを耐え抜いたゲラン兵士が剣や槍を手にレギラを襲うがレギラはそれを拳だけで払いのけ、蹴りやパンチで敵兵を次々と倒してゆく。
城壁の上からセトが声をかける。
「若!深追いしないでくださいよ。我々は守備に徹する。ソウ殿とも話し合ったでしょう。」
レギラがうるさそうにセトを見上げる。
「わかってるって。ソウがあれだけ働いてんだ。俺も少しは働かないと申し訳ないだろ。」
そう話している間にもゲラン兵士がレギラを襲う。
レギラは事も無く向かってくる敵を倒した。
レギラが一通り敵を倒して城壁に戻ろうとした時、巨大な火の玉がレギラを襲った。
レギラは殺気を感じて振り返ると同時に雄叫びで火の玉を打ち返した。
火の玉はレギラの直前で地面に落ちて轟音と共に火柱を上げた。
その火柱の間から人影が素早くレギラに近づく。
人影は瞬時に間を詰めて炎の魔剣でレギラを襲う。
レギラは魔剣を避けたが魔剣から発せられた火の玉がレギラを追撃する。
レギラは拳で火の玉を払ったが右肩にダメージを受けた。
レギラがその人影に右拳を突き出し、蹴りを連発するが敵は難なくそれを避ける。
レギラと敵が正面で睨みあう。
「誰だお前。俺の蹴りをかわすなんて、ここいらじゃソウくらいのもんだぞ。」
「ソウ?ホンダ、ソウのことか?」
アキトだ。
「ほう。お前、ソウのこと知ってんのか?もしかしてソウの同級生とかいうやつか?」
アキトはニヤニヤしている。
「ああ、昔、そんな間柄だったかもね。」
「やっぱりな。それならなぜそっちに居る?ソウの仲間は皆、こっちについたぞ。」
「同級生?友達?なにそれ。そんなくだらないしがらみに捕らわれているほど暇じゃ無いんでね。それよりあんた、そっちの大将だろ?」
「ああ、そうだ。ライベル領主レギラだ。それがどうした?」
「いや~今ね。ゲラン軍大ピンチ。どっかの馬鹿が素手の殴り合いに鉄砲持ち込んだからね。」
「ソウのことか?」
「うん。だからここで敵の大将首取って大逆転すれば、僕はゲランの大英雄ってことになるよね。」
「ふふ。そういうことか。いいぜ相手になってやる。取れるもんなら取ってみろ。レギラ様の首は硬いぞ。ウハハ。」
アキトはファイヤーボールを打ちながら地を蹴ってレギラの懐へ潜り込む。
(早い!)
アキトの剣先がレギラの衣服を切り裂く。
レギラの腹部が浅く切り裂かれた。
(こいつ、早さだけならソウ以上だぞ。)
アキトは抜き胴を放った後、すぐレギラに向き直り両手を振り下ろした。
レギラを重力の波が襲う。
ザンザンザン!!
アキトが両手を振り下ろす度にレギラの上空から目に見えない何かがレギラに重くのしかかる。
レギラの足は地面に埋もれていく。
レギラは力を込めて地面を蹴り、横方向に飛び逃げる。
レギラが横に転がると同時にアキトがファイヤーボールを投げつける。
アキトの投げるファイヤーボールは一つ一つが巨大でなおかつ早い。
周辺にいたゲラン兵が巻き添えをくって黒焦げになる。
ようやくのことでファイヤーボールをかわしたレギラの背後には、いつのまにかアキトが迫っていた。
アキトが剣を振り下ろす。
レギラが拳で受け止める。
レギラの拳に傷が入った。
拳から大量の血が噴き出す。
「くっ」
それを見てアキトがあざ笑う。
「へぇ~噂とずいぶん違うね。やっぱりあれかな。獅子王とかいう人もあんた程度かな?」
レギラの顔が怒りに震える。
アキトは余裕の表情でファイヤーボールを連発する。
アキトは数日前から急激に成長していた。
ヘレナからもらった神石のおかげだ。
ヘレナからもらった神石を自分の体に試したところ、急激に基礎能力がUPした。
魔力総量、身体能力、各種スキルの効果向上。
元々、神石は人の命そのものだ。
その命を吸収するのだから能力が向上しても不思議では無い。
この世界の人間が神石を使用しても基礎能力の向上率は微々たるものだが、異世界人が神石を使用すると、なぜだか大きな力を得られるようだ。
アキトはこの数日間で何度か神石を使い、能力を飛躍的に向上させていた。
今のアキトはレギラの能力を超えているかもしれない。
それでもレギラは戦う姿勢を崩さない。
戦闘能力はアキトより劣るかも知れないが、ライベルの領主、獅子王の弟という立場がレギラを奮い立たせる。
「おい。お前名は何という。」
「僕?僕はアキト、アキト・シマダ。名前、きいてどうすんの?あんたもうすぐ死ぬのに。」
アキトは更に加速し、すれ違いざまにレギラの太ももを切り裂いた。
「クッ!アキトか、覚えておいてやるよ。俺が殺す敵の名をな。」
レギラは精神を集中した。
人間の容貌だったレギラは次第にその姿を変える。
体中の筋肉が盛り上がり顔はライオンのよう険しく逞しい。
拳の傷と太ももの傷は塞がった。
今までは余力を残して通常の姿で戦っていたが、危機を感じたレギラが獣化したのだ。
「ありゃ。ソウと同じ化け物だったか。まっどうっちゅうことないけどね。」
レギラの手指には長く鋭い爪が伸びている。
下手な短剣より鋭そうだ。
アキトは襲いかかるレギラの爪を余裕で避ける。
避けながらも、剣での攻撃を緩めない。
最初は伯仲していると思われた攻撃力も、次第にアキトの方が上だとわかり始めた。
アキトもまた余力を残して戦っていたようだ。
「へいへい。ライオンさん。お遊戯しているのか?全然当たらないよ。」
アキトは薄笑いを浮かべている。
攻撃の数は同じくらいだが、アキトの方が命中率が高く、防御力が高いはずのレギラが次第に負傷していく。
(クソ、なんだこいつは。この俺が、このレギラ様が、遊ばれている。生死を懸けた戦いでもてあそばれている。)
「そろそろ、終わりにするよ。」
アキトがそう言い放つと、複数の火の玉がレギラを中心として上空で旋回しはじめた。
(まずいな。一度にあれがくると・・・)
アキトが人差し指を上に向けてくるくる回すと火の玉も高速で回転を始めた。
そしてアキトが人差し指を振り下ろすと、レギラの上を旋回していた火の玉が、一斉にレギラめがけて降り注いだ。
レギラに命中したと思われた時、火の玉は透明な何かにぶつかって飛散した。
レギラの側には龍神の盾を上空にかざすソウが居た。
ラーシャ空軍のワイバーンはウルフのミサイルによって大半が撃墜され、魔獣を指揮する魔物使い達はナパーム弾で地獄の業火に焼かれていた。
統制をなくした魔物達は唯一火の手が上がっていないライベル西側の平野を目指して我先に暴走しはじめた。
暴走した魔獣が向かう先にはゲラン軍の駐屯地がある。
一部生き残った魔獣使いが魔獣を制御しようとするが魔獣使いの数は足りず、ましてや炎に怯える魔獣を制御するのは不可能に近かった。
俺はライベル城壁の上で戦果を確認した。
「そろそろ、行くぞ。」
俺はガラクとリュウヤに合図をした。
ウルフが撃ち漏らしたラーシャ軍の魔獣使いを掃討するつもりだ。
魔獣の多くが生き残っている。
しかし、それを制御する者さえ居なければ魔獣は魔獣だ。元の魔獣地帯へ帰るだろう。
「ああ、行こう。」
「よし。やるか。」
俺、ガラク、リュウヤが城壁から飛び降りてウルフの後ろに付いた。
「イツキ。ナビを使って魔獣使いの生き残りを探してくれ。俺達が片づける。」
「わかったよ。ソウ君。」
ナビは魔獣と人を見分けてモニター表示することができる。
魔獣の生き残りは火の手の向こうにいるはずだが、時折火をかいくぐった魔獣が俺達に突進してくる。
俺達は難なく魔獣を倒す。
ガラクは金棒で、リュウヤは魔法剣で、それぞれ造作も無く敵を倒す。
ウルフが進む方向には必ずラーシャの魔獣使いがいた。
魔獣使いは人間だ。
何かの毛皮でできた獣の匂いのする服と、麻か何かでできたフードをかぶっている。
武器は持たず、手にホイッスルのようなモノを持っていて、それを鳴らすことにより魔獣をコントロールしているようだ。
フォナシス火山でアウラ様がブラックドラゴンと戦った時に使われたホイッスルだ。
魔獣使いは俺達と遭遇すると、そのホイッスルを吹こうとするが、俺達は魔獣使いが音を出す前に倒した。
煙の向こうに魔獣使いが3人現れた。
おれは躊躇することなく雷鳴剣を振り下ろす。
一人が落雷を受けて黒焦げになった。
ガラクが金棒を伸ばしてイノシシの上に乗った魔獣使いをなぎ払う。
リュウヤが魔剣を構えた。
残る一人を狙って。
その時風が吹いて敵のフードがめくれた。
魔獣使いの素顔が現れる。
14~15歳くらいの女の子だ。
リュウヤの振りかぶった剣が上段の位置で止まる。
その隙に魔獣使いがホイッスルを吹いたところ、近くに居た軽四トラックほどのサソリがリュウヤを襲った。
リュウヤは間一髪でそれを避ける。
ガラクがそのサソリを叩き潰した。
魔獣使いは隙を見て逃げ出した。
「どうしたリュウヤ。」
「あ、いや。その・・女だった。・・」
「魔獣使いがか?」
「そうだ。女・・いや女の子だった。」
ガラクがリュウヤを睨む。
「だからなんだ?あの魔獣使いがワイバーンを使ってライベルの子供達を殺すかもしれないんだぞ。」
リュウヤは困った顔をした。
「ああ、すまん。そうだな。ここは戦場なんだよな。すまん。次からは・・」
俺はリュウヤの肩を叩いた。
「俺だって戸惑ったろうよ。でも敵は敵だ。殺さなきゃ殺される。敵の生は俺達の死だ。」
「うん。わかった。」
ウルフは魔獣使いを探しながら機銃で魔獣を一掃する。
俺達はウルフの後ろをついて敵軍奥深くへと進んだ。
一方ライベル城門では、ゲラン軍の総攻撃が始まっていた。
本来ならワイバーンが空から城門を襲い、レギラ達の守備力が墜ちたところへ魔獣と共に侵攻を懸ける予定のゲラン軍だったが、あてにしていた魔獣軍は、ソウ達のミサイル攻撃により、その戦力を著しく欠いた。
戦力を欠いたどころか魔獣の一部は暴走し、こともあろうかゲラン軍の駐屯地を襲っている。
突撃開始の合図で駐屯地を離れたゲラン兵士は暴走した魔獣により本拠地から分離された形になってしまい、しかたなく城壁を攻撃しているような状態だ。
魔獣同様、指揮が執れていない烏合の衆と化している。
城壁から誰かが降りてきた。
真っ赤な髪と燃えるような赤い瞳、身長2メートルはあるだろう。
レギラだ。
レギラは城門下に降り立ち、大きく息を吸い込むとゲラン軍向けて『雄叫び』を放った。
雄叫びの方向にいたゲラン兵士が数十人、その場に倒れた。
雄叫びを耐え抜いたゲラン兵士が剣や槍を手にレギラを襲うがレギラはそれを拳だけで払いのけ、蹴りやパンチで敵兵を次々と倒してゆく。
城壁の上からセトが声をかける。
「若!深追いしないでくださいよ。我々は守備に徹する。ソウ殿とも話し合ったでしょう。」
レギラがうるさそうにセトを見上げる。
「わかってるって。ソウがあれだけ働いてんだ。俺も少しは働かないと申し訳ないだろ。」
そう話している間にもゲラン兵士がレギラを襲う。
レギラは事も無く向かってくる敵を倒した。
レギラが一通り敵を倒して城壁に戻ろうとした時、巨大な火の玉がレギラを襲った。
レギラは殺気を感じて振り返ると同時に雄叫びで火の玉を打ち返した。
火の玉はレギラの直前で地面に落ちて轟音と共に火柱を上げた。
その火柱の間から人影が素早くレギラに近づく。
人影は瞬時に間を詰めて炎の魔剣でレギラを襲う。
レギラは魔剣を避けたが魔剣から発せられた火の玉がレギラを追撃する。
レギラは拳で火の玉を払ったが右肩にダメージを受けた。
レギラがその人影に右拳を突き出し、蹴りを連発するが敵は難なくそれを避ける。
レギラと敵が正面で睨みあう。
「誰だお前。俺の蹴りをかわすなんて、ここいらじゃソウくらいのもんだぞ。」
「ソウ?ホンダ、ソウのことか?」
アキトだ。
「ほう。お前、ソウのこと知ってんのか?もしかしてソウの同級生とかいうやつか?」
アキトはニヤニヤしている。
「ああ、昔、そんな間柄だったかもね。」
「やっぱりな。それならなぜそっちに居る?ソウの仲間は皆、こっちについたぞ。」
「同級生?友達?なにそれ。そんなくだらないしがらみに捕らわれているほど暇じゃ無いんでね。それよりあんた、そっちの大将だろ?」
「ああ、そうだ。ライベル領主レギラだ。それがどうした?」
「いや~今ね。ゲラン軍大ピンチ。どっかの馬鹿が素手の殴り合いに鉄砲持ち込んだからね。」
「ソウのことか?」
「うん。だからここで敵の大将首取って大逆転すれば、僕はゲランの大英雄ってことになるよね。」
「ふふ。そういうことか。いいぜ相手になってやる。取れるもんなら取ってみろ。レギラ様の首は硬いぞ。ウハハ。」
アキトはファイヤーボールを打ちながら地を蹴ってレギラの懐へ潜り込む。
(早い!)
アキトの剣先がレギラの衣服を切り裂く。
レギラの腹部が浅く切り裂かれた。
(こいつ、早さだけならソウ以上だぞ。)
アキトは抜き胴を放った後、すぐレギラに向き直り両手を振り下ろした。
レギラを重力の波が襲う。
ザンザンザン!!
アキトが両手を振り下ろす度にレギラの上空から目に見えない何かがレギラに重くのしかかる。
レギラの足は地面に埋もれていく。
レギラは力を込めて地面を蹴り、横方向に飛び逃げる。
レギラが横に転がると同時にアキトがファイヤーボールを投げつける。
アキトの投げるファイヤーボールは一つ一つが巨大でなおかつ早い。
周辺にいたゲラン兵が巻き添えをくって黒焦げになる。
ようやくのことでファイヤーボールをかわしたレギラの背後には、いつのまにかアキトが迫っていた。
アキトが剣を振り下ろす。
レギラが拳で受け止める。
レギラの拳に傷が入った。
拳から大量の血が噴き出す。
「くっ」
それを見てアキトがあざ笑う。
「へぇ~噂とずいぶん違うね。やっぱりあれかな。獅子王とかいう人もあんた程度かな?」
レギラの顔が怒りに震える。
アキトは余裕の表情でファイヤーボールを連発する。
アキトは数日前から急激に成長していた。
ヘレナからもらった神石のおかげだ。
ヘレナからもらった神石を自分の体に試したところ、急激に基礎能力がUPした。
魔力総量、身体能力、各種スキルの効果向上。
元々、神石は人の命そのものだ。
その命を吸収するのだから能力が向上しても不思議では無い。
この世界の人間が神石を使用しても基礎能力の向上率は微々たるものだが、異世界人が神石を使用すると、なぜだか大きな力を得られるようだ。
アキトはこの数日間で何度か神石を使い、能力を飛躍的に向上させていた。
今のアキトはレギラの能力を超えているかもしれない。
それでもレギラは戦う姿勢を崩さない。
戦闘能力はアキトより劣るかも知れないが、ライベルの領主、獅子王の弟という立場がレギラを奮い立たせる。
「おい。お前名は何という。」
「僕?僕はアキト、アキト・シマダ。名前、きいてどうすんの?あんたもうすぐ死ぬのに。」
アキトは更に加速し、すれ違いざまにレギラの太ももを切り裂いた。
「クッ!アキトか、覚えておいてやるよ。俺が殺す敵の名をな。」
レギラは精神を集中した。
人間の容貌だったレギラは次第にその姿を変える。
体中の筋肉が盛り上がり顔はライオンのよう険しく逞しい。
拳の傷と太ももの傷は塞がった。
今までは余力を残して通常の姿で戦っていたが、危機を感じたレギラが獣化したのだ。
「ありゃ。ソウと同じ化け物だったか。まっどうっちゅうことないけどね。」
レギラの手指には長く鋭い爪が伸びている。
下手な短剣より鋭そうだ。
アキトは襲いかかるレギラの爪を余裕で避ける。
避けながらも、剣での攻撃を緩めない。
最初は伯仲していると思われた攻撃力も、次第にアキトの方が上だとわかり始めた。
アキトもまた余力を残して戦っていたようだ。
「へいへい。ライオンさん。お遊戯しているのか?全然当たらないよ。」
アキトは薄笑いを浮かべている。
攻撃の数は同じくらいだが、アキトの方が命中率が高く、防御力が高いはずのレギラが次第に負傷していく。
(クソ、なんだこいつは。この俺が、このレギラ様が、遊ばれている。生死を懸けた戦いでもてあそばれている。)
「そろそろ、終わりにするよ。」
アキトがそう言い放つと、複数の火の玉がレギラを中心として上空で旋回しはじめた。
(まずいな。一度にあれがくると・・・)
アキトが人差し指を上に向けてくるくる回すと火の玉も高速で回転を始めた。
そしてアキトが人差し指を振り下ろすと、レギラの上を旋回していた火の玉が、一斉にレギラめがけて降り注いだ。
レギラに命中したと思われた時、火の玉は透明な何かにぶつかって飛散した。
レギラの側には龍神の盾を上空にかざすソウが居た。
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