異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第155話 最終通告

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ライベル正面の門にゲラン軍将校が一騎で現れた。

「我はゲラン軍第二師団第三大隊長ミハイル・デルナルドである。最終通告に来た。」

門の上からレギラが答える。

「俺はライベル領主、レギラ・ゼルシム・ライベルだ。何が最終通告だ。その首が胴体と繋がっている内に、ここから失せやがれ!!」

さすがにレギラも一騎だけで乗り込んできた敵将校には攻撃をしかけない。
敵将校のミハイルと言う男も根性があるらしく堂々としている。

「職務によってゲラン国王カイエル・デルナード・ゲラン様よりの通告を行う。あと数分で我々は総攻撃を開始する。我々の目的は野蛮なジュベル国をヒュドラ様の名の下に救済することにある。直ちに降伏しヒュドラ教に帰依するのであれば命までは奪わない。見てのとおり我々の軍勢は圧倒的に有利だ。降伏せよ。」

ゲランとしてはジュベルが降伏しヒュドラ教に帰依さえすればその目的を達成する。
戦闘による無益な消耗は避けたいのだろう。

「何が降伏だ。そんな言葉はジュベルにはねぇよ。10万だろうが100万だろうが俺達は負けない。俺達は誇り高き獅子王の戦士だ。なぁみんな。」

レギラが手を高々と上げた。
周囲の兵士が一斉に応える。

「「「「「おぉっぉぉおぉぉおぉ!!!!」」」」」

歓声が鎮まるのを待ってミハイルが口を開く。

「では、戦おう。我々にとって異教徒は犬猫以下の存在。もっともお前等は元々犬猫だったな。アハハ。失礼・・ヒュドラ教に従わぬ者はこの世に存在できないと知れ。」

「お前こそ獅子王様に逆らう者はこの世に存在できないと知るだろうよ。人間よ。」

ミハイルはレギラに背を向け自軍むけて騎馬を走らせた。
レギラが俺を見る。

「ソウ。いよいよだ。準備は良いか?」

「ああ、それぞれ配置済みだ。いつでも良いぜ。」

「頼んだぞ。」



決戦の一日前

俺はオオカミの会議室に仲間を集めていた。
元々の仲間と同級生達だ。

「みんな聞いてくれ。俺は決心した。」

皆が固唾をのんで俺の次の言葉を待った。

「俺は、ジュベル軍の友軍としてラーシャ軍と戦うことにした。場合によってはゲラン軍とも戦う。参戦の理由はいろいろあるが一番の理由はライベルの人々を守りたいことだ。もうみんなも気づいていると思うがゲランとヒュドラは他民族を差別し侵略することが、その本質だ。俺もそうだが、ここにいる多くの仲間がゲランによって奴隷になった。あの苦しみをライベルの子供達に味あわせたくない。だから戦う。」

レンが先に口を開いた。

「わかった。そんで俺達はどうすればいいんだ。オイ」

俺はもう一度全員を見渡した。

「ラーシャと戦うのは俺の意思だ。戦争だから人を殺すこともある。だから戦いたくない者は戦わなくて良い。ここにいてくれ、でも自分も戦いたいと思う者は拒まない。歓迎する。」

イツキが手を上げた。

「僕は戦いたい。なにしろヒュドラに一度殺されたからね。でも、どうすればいい?僕、戦闘能力ないし・・」

イツキに目を合わせた。

「イツキが参戦してくれるなら、イツキなりの戦い方を俺が用意する。肉体を使う必要は無い。頭を使うだけだ。レン。イツキを守ってくれ。」

「おう。」

イツキが参加してくれるなら、イツキにウルフを預けようと思っている。
ウタが手を上げた。

「私もお手伝いをしたいわ。私に何ができる?」

「ウタ他、女子生徒は負傷者の救護をお願いしたい。戦場には出さない。オオカミに病院を作るから、そこで負傷者の手当をしてもらいたい。もちろん参加は自由意志に任せる。」

ウタが女子生徒を見渡す。
皆うなずいている。

「わかったわ。私達はソウ君に恩義があるわ。危険じゃ無い場所でのお手伝いなら、いくらでもするつもりよ。ねぇ」

ウタが再度女子生徒を見渡す。
キリコが反応した。

「そうだな。身に危険がなければ、それくらいのことはしなけりゃ罰が当たるな。一宿一飯の恩義って奴だ。手伝うよ、ソウ。」

「ありがとう。」

リュウヤが身を乗り出す。

「俺は戦場へ行くぜ。連れていけソウ。」

それを見たツネオが少し焦っている。
リュウヤがツネオを見る。

「ツネオ、お前は留守番。万が一のことがある。女子達を守れ。」

「ああ、わかった。」

俺はリュウヤに言った。

「いいのかリュウヤ。敵は手強いぞ。死ぬかもしれないぞ。」

「ふん。一度は死んだ身だ。それにお前だって前線に立つんだろ?」

「ああ、もちろん。」

「じゃ、行く。行って借りを返す。レギラとお前は義兄弟なんだろ?」

「ああ、そうだ。でもそんなことは・・」

「そんなことは関係ある。俺はレギラの部下を殺した。ネリア村の村民を殺した。その罪の償いはラーシャ兵を殺しただけでは足りないかも知れない。でも少しでも借りを返したい。レギラとお前に。」

「わかった。それじゃこれを持って行け。」

俺は炎の魔力を増幅させる魔剣をリュウヤに渡した。

「俺の作った魔剣だ。剣を振る時に炎をイメージしろ。敵に剣が当たらなくても剣先から炎が出るはずだ。」

リュウヤは炎の剣を受け取った。

「ソウ。おめー、やっぱすごいな。わかるぜこの剣のすごさ。」

この場にはピンターもいる。

「ピンター。」

「何?兄ちゃん。」

「ピンターには病院長を頼む。」

「ビョウインチョーって何?」

「病院で一番偉い人のことだよ。この場でメディを管理できるのはピンターだけだからね。」

ピンターはニコニコしている。

「わかった。おいらビョウインチョーやる。」

「ブルナ、ヒュナ、ピンターを補佐して。」

「はい。」
「はーい」

メデイは人狼族の管理権者、つまり俺とピンターが権利を付与した者しか使用出来ない。

元々の仲間には既に権利付与しているが、新たな仲間に使用権限を付与できるのは、ここに残るピンターだけということになる。

「後の者は、ここ作戦本部で待機して。」

ドランゴさん、テルマさん、エリカがうなずく。

「ドルムさんは、ここで居残り組の指揮を執って。そして変化があれば俺に連絡して。」

「よっしゃ。」

「最後にガラク。」

「おう。」

「行くか?」

「ああ、もちろん。」

その日一日かけてレンとイツキにウルフの操縦方法を教え、ウタ達にメディの説明をして決戦に備えた。

エリカが俺に近づいた。

「どうした?エリカ」

「その、少し心配で・・・」

「大丈夫だ。俺の力は知っているだろ?」

「はい。でもやはり戦場では何があるか。私以前にも増して心配なのです。ソウ様の身が。」

エリカの手先は少し震えている。
俺はエリカを抱き寄せた。

「大丈夫だ。約束する必ず無事戻ると。」

「はい。必ず。」

俺がエリカを抱きしめていると、どこからかピンターが現れて俺の足に抱きついた。
そしてヒュナも。

少し離れてブルナがこちらを見ている。
俺はブルナに手招きをした。

ブルナが俺に近づいたので俺は空いた方の手でブルナを自分の胸に引き寄せた。
ブルナは何も言わずに俺に頭を預けた。

(生きて帰るよ。必ず。)




ゲラン国将校ミハイルが自軍に戻ると同時に戦いの火蓋は切られた。
ライベル西、ライベルの正門方向にゲラン軍、ライベル北にラーシャ軍が待機していたが、まずはラーシャ軍の空軍、ワイバーン100匹が一斉にライベル方向へ飛行を開始した。
それと同時にゲラン軍が歓声を上げながら突撃してきた。

「イツキ。来たぞ。」

俺はマザーとナビを通じてイツキに話しかけた。
ウルフはレンが運転している。
レンは正面門から外へ出た。

「ナビさん。上空のワイバーンを一斉攻撃。ミサイルの種類はナビさんの判断で。機銃の使用も許可します。」

『了解しました。イツキ様』

レンとイツキにはウルフの使用権限を与えている。
通常時は武器使用権限まで与えないが、今は緊急時だ。
レンとイツキは俺に次ぐウルフの使用権者だ。

ウルフの車体両側にあるミサイル発射管が仰角になった。
次の瞬間。

『シュン!!シュン!!』

と二本のミサイルが発射された。
ミサイルはワイバーンの群れの中心で爆発を起こす。
するとワイバーンが一度に数十体、きりもみ状態になって墜落した。
落下地点には多くの魔獣が居る。

ミサイルは2本しか撃たれてないが、ナビが選んだミサイルはクラスターミサイルだった。
クラスターミサイルは爆発すると数千の弾が高速で周囲に飛び散る。
巨大な散弾銃とも言える。

2発のミサイルで100匹居たワイバンーンが70匹ほどに減った。
更に連続して数発のミサイルが発射された。

危機を感じて引き返した数匹のワイバーンを残してラーシャの空軍は壊滅した。

ライベルでは味方兵士があっけに取られている。
目の前で起こった事が信じられないようだ。
ワイバーンは亜種といえどもドラゴンの仲間だ。
ワイバーン一匹で一個小隊が全滅したこともあるらしい。
そのワイバーンが味方側に何の消耗も無くたたき落とされた。
しかも100匹もの大軍が。
これほどの戦果を見てもそれが現実の物とは思えないのだろう。

レギラが俺に向いた。

「・・ソウ。」

「何だ?」

「今の、お前がやったのか?」

「ああ、そうだよ。俺の仲間がやった。見ていただろ?」

「ああ、見ていた。でもあんなの今までみたことねぇ。何の魔法だ?あんな大魔法を撃てる仲間がいるのか?」

「魔法じゃ無いよ。ただの武器だ。」

俺は近くの弓兵を見て言った。

「ほら、あの兵士の持っている武器、弓だよな。」

「ああ」

「あれのおっきなやつと思えば良い。」

「そんな弓あるかよ!!」

(説明、へただったかな?)

上空のワイバーンは掃除できたが地上部隊は進軍を止めない。
蛇、蜘蛛、サソリ、犬か猫かわからない魔獣、それにイノシシのでかいやつに乗ったラーシャの戦士がライベル向けて走ってくる。

「イツキ、次来るぞ。作戦通りにやってくれ。」

「うん。わかっている。」

イツキは少し興奮気味だ。

「ナビさん。次は地上の標的を攻撃して。攻撃箇所は今、モニターをポイントするから。」

『了解』

敵魔獣部隊は約10万、効率よく攻撃しなければ弾薬がもたない。
その点を昨日の作戦会議で打ち合わせていた。

イツキはモニターに映る敵勢力の外側3方向をカタカナの『コ』の時を書くようにポイントした。

「ナビさん、今僕がポイントした地点にナパームを打ち込んで。」

『了解』

再びウルフからミサイルが発射された。
今度のミサイルはナパーム弾だ。
敵の上空数100メートルで爆発し無数の焼夷弾がばらまかれる。
ミサイルの直下数百メートルは地獄の業火に包まれた。

イツキの作戦はこうだ。
敵軍の外周、最前線と最後尾には魔物を指揮する魔物使いが3000いる。
最初にその魔物使いを倒し、魔物の制御を無効化する。
制御の効かなくなった魔物は炎の無い方向つまり「コ」の字の線の無い方向、口の開いた方向に逃げる。

その方向には・・ゲラン軍がいる。

守備側のライベル軍も驚いているが、攻める側のゲラン軍も驚いている。
ゲラン軍指揮本部では前線からの連絡が逐一入るし、なによりもミサイルの効果は直視できている。
この作戦の責任者テンポル将軍や各大隊長があっけにとられている。

「な・・なんだこれは・・魔法か?だれが、なにをした?」


テンポル将軍は朝から優雅に茶を楽しんでいた。
戦場にもかかわらず自分の茶道具を召使いに用意させ、茶を飲みながら最終通告を余裕で眺めていた。

戦闘が始まっても茶道具をしまわず大隊長達にも茶を振る舞いながら、部隊後方から前線を眺めていた。

「おのおの方、北をごらんなされ、空を埋め尽くすほどのワイバーン。地鳴りがするほどの魔獣の大軍。これでは我々の活躍の場が無くなりますな。ハハハ。」

大隊長達も空を見上げワイバーンの群れに見とれていた。
全員笑顔だ。

それが次の瞬間、凍り付いた。
轟音と共にワイバーンが次々と墜落したのだ。

全員身動きできない。

「何が、何が起こっている?」
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