異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第153話 魔物10万匹

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ヒナが教皇ヒミコと会話している頃、ソウはオオカミに居た。
レギラがキョロキョロとあたりを見回している。

「ソウ。すごいところだな。本当にここ、お前が作ったのか?」

同じ質問を何度も受けている。
最近は面倒なので。

「ああ、そうだよ。」

とだけ答えている。

「ここなら子供も安心して暮らせるな。いっそ俺もここに住もうかな?」

「何言ってんだよ。領主が領地すてて他人の家に引っ越すなんて聞いたこと無いぞ。」

「領地を捨てたりしねぇよ。ただここが住み心地良さそうだなと思って。なんならソウ、お前がライベル領主やってみねぇか?」

側に居たセトとガラクが驚く。

「若!!なんということを!」

セトにガラクが続く。

「オオカミ守備隊長としては許せませんな。」

「冗談だって。冗談。でもソウが本気でライベルを治めるなら、まんざらでもないな。」

「「若!!」」

「わかってるって。それよりソウ。新しい情報だ。」

俺はレギラを見上げる。
レギラの身長は俺より20センチ程高い。

「何だ?情報って。」

「ラーシャの様子が怪しい。ラーシャに潜り込ませた密偵の情報によれば、昨日ラーシャ軍の召集があって出陣準備をしているというのだ。出陣先はおそらくライベルだろう。」

「ラーシャとは停戦中じゃないのか?」

「ああ、停戦中だ。しかしそんなものは上辺だけにすぎない。前回の戦争で衰えた国力を回復するための方便だろうよ。今回はゲランと同盟を結んでいっきに我が国に攻め入るだろう。となると真っ先に狙われるのは、ラーシャにより近いライベルだ。」

「ラーシャは手強いのか?」

「ああ手強い。なんといっても魔物使いだ。ラーシャ国とライベルの間にある魔獣地帯で魔物や魔獣を従えてライベルを襲う可能性が強い。人型の敵ならどうってことないがムカデや蜘蛛や蛇、サソリなんかが何十万と襲ってくるとなるとかなりやっかいだ。それに場合によってはワイバーンやドラゴンがやってくる可能性もある。」

俺はゴブル砂漠でキノクニキャラバンを襲った獣の群れ、スタンピートを思い出していた。

「そりゃ。ちとやっかいだな。」

「それでだな。ソウ。」

「なんだ?」

「お前が参戦しないことはよくわかっている。それでも頼みがある。」

「言ってみろ。」

「もしも、もしもだ。ライベルの門が破られて蜘蛛やサソリが襲ってきた場合。住民をここへ避難させたい。今は子供や女性を避難させてもらっているが、ライベルが壊滅する前に大人の一般住民を避難させたいんだ。」

俺は間をおかずに返事をした。

「いいぜ。」

レギラもセトも驚く。

「いいのか?」

「いいさ。レギラがそれを言わなければ俺の方から言い出そうと思ってたんだ。ライベルにはレンヤさんやシゲルさん、ロダンさん、親しい人が多いしね。いつでもこっちに来させていいよ。」

レギラは俺の手をとった。

「兄弟。ありがとう。」

「やめろよ。照れくさい。」

セトとガラクの目が潤んでいるように見える。
それから2~3日してレギラの情報の正しさが証明された。
レギラの情報を元に俺がドローンを偵察に出したところ、ライベルの東、ラーシャ方向の魔獣地帯と呼ばれる荒野をライベル向けて進軍する魔獣の群れが確認された。

魔獣の数はおよそ10万。
上空にはワイバーンが100程旋回している。
昔キャラバンを襲ったサソリや蛇、蜘蛛、大小様々だが群れは意思統一されていてまっすぐライベルへ向かってくる。

群れの先頭には大型のイノシシのような獣にまたがった軍人が1000人、群れの後方に2000人ほどいた。
おそらくそいつらが魔物たちを操っているのだろう。
レギラの言う「魔物使い」に違いない。

群れの進軍速度から考えて魔物の群れがライベルに到着するのは、およそ5日後だ。
俺は悩んでいた。

10万程度の魔物、100匹のワイバーンと3000人の兵士。
密集している今ならウルフのミサイルで蹴散らすことはできる。
全滅させることはできなくても戦闘能力を大きく削ぐことは可能だろう。
しかし、俺がここで魔獣部隊を殲滅するとラーシャと同盟軍のゲランと敵対することになる。

ゲランと敵対するということは大恩あるキノクニに弓を引くということになるかも知れない。
キノクニだけは裏切れない。
兄弟分のレギラや仲間のガラク、ライチやレンヤ、シゲル達の家族のことを考えればライベルの味方もしてやりたい。

俺が悩んでいるとドルムさんが声をかけてきた。

「ソウ。悩んでいるようだな。」

「あ、ドルムさん。わかります?」

「わかるさ。どれだけお前と一緒にいると思ってんだ。ゲラン、いやキノクニとレギラ達の間に挟まって困ってるんだろ?」

ドルムさんは鋭い。

「そうなんです。魔物部隊を攻撃すればライベルは助かるけど、俺は完全にゲランの敵です。キノクニに迷惑がかかるんじゃないかと。」

「そんなことだと思ったよ。前に言ったよな。いつか無理な選択、残酷な選択をしなければならない時が来るって。」

「はい。」

「今がその時だよ。」

「そうかもしれません。」

「ソウにとって今一番大事なことは何だ?」

「今居る仲間を守る事と、ルチア、ヒナを探し出すことです。」

「だったら迷うこと無いだろ。ラーシャはルチアをさらった。ヒュドラはヒナをさらった。もうすでに敵だろ。あとはキノクニにどう仁義を通すかだけだ。」

ドルムさんの言葉で少し晴れ間が見えた気がした。
ゲランは元々俺とピンターやブルナを奴隷にした張本人だ。
ラーシャはルチアをさらってどこかに隠しているだろう。
両者共、元々俺の敵なんだ。

あとは恩義あるキノクニに迷惑をかけない方法を探すだけだ。

「ドルムさん。ありがとう。」

「ハハ。ちょっとは吹っ切れたようだな。」

「ええ。」

俺はキューブに戻り、キノクニ本社を訪れブンザさんを訪ねた。

「まぁ、お久しぶりですね。ソウ様。今日は何事で?」

「誠に勝手で申し訳ありませんが、カヘイさんとハットリ部長を交えてお話ししたいことがございます。」

「わかりました。祖父は社屋におりますのでハットリ部長を呼び寄せます。しばらくお待ちください。」

「すみません。お世話かけます。」

「いいですよ。なにを今更。ウフフ」

数十分後、ハットリ部長がダンゾウ・カトウ等のSPを伴ってキノクニ本社にやってきた。

「ソウ。久しぶりじゃの。龍神様はご健勝であらせられるか?」

ハットリ部長はキノクニ諜報部の部長だが、以前麻薬取り締まりの仕事を一緒にした時、キューブでアウラ様に会ってからは、アウラ様、龍神様の熱心な信者になったようだ。

「はい。毎晩私の家で晩酌しています。」

「おお、そうか。お前がうらやましい。今度ワシも招待してくれぬか?その晩酌に。」

「いいですよ。近いうちに招待させてもらいます。」

ダンゾウ・カトウが俺に会釈をした。

「ダンゾウさん。久しぶりですね。今もハットリ部長のSPをされているんですか?」

「ええ、部長の秘書兼、SPをしております。秘書も兼ねておりますので、こうやって表にも出てきています。ところでソウ様、エリカは元気でしょうか?」

エリカはダンゾウの元同僚だ。

「ええ、私の家族として一緒に暮らしています。元気ですよ。」

『家族』という言葉にダンゾウが反応した。

「エリカをよろしくお願いします。」

まるで娘を嫁に出す父親の姿のようだ。

「ええ、大事にします。」

ハットリ部長はそれを見て微笑んでいる。

ハットリ部長、ブンザさんと一緒にキノクニ本社、総領の部屋へ入った。
カヘイ・キノクニの部屋だ。
カヘイさんは和室の中央にこしらえた囲炉裏の湯をきゅうすに移しているところだった。

「これは、これはソウ殿、久しゅうございますな。どうぞお上がりください。」

俺は靴を脱いで囲炉裏の前に置かれた座布団に正座した。
ハットリ部長もブンザさんも座布団にすわった。
カヘイさんがきゅうすから湯飲みに茶を移しそれを俺に差し出してくれた。

「いただきます。」

茶を一口すすった。
香ばしい番茶の香りがする。
心が落ち着く。
高級な茶葉ではないだろうが、日本に居た頃いつも飲んでいた茶の香りがする。
茶の香りと共に母の姿を思い出した。

「ふぅ~」

俺が一息ついた。
カヘイさんがニコニコしている。

「ソウ殿を見る度に思いますが、ソウ殿はヤマタイの人そのものですな。接していて何の違和感もございません。」

俺は頭を下げた。

「ありがとうございます。私もカヘイ様の前ではついつい地が出てしまいます。まるで田舎の祖父宅を訪れたような気になってしまいます。」

「ふぉっふぉっ。それは嬉しゅうございますな。まことに失礼ながらソウ殿のことは孫のように思えてしかたありませぬ。」

「こちらこそ、ありがとうございます。・・・そのような方を目の前に少し辛いお話をしなければならないことをお許しください。」

ハットリ部長もブンザさんも少し緊張した。
カヘイさんはリラックスしたままだ。

「いやいや、田舎の祖父と思うて、えんりょなくお話しください。」

俺は改めて姿勢を正した。

「要件を先に伝えます。私、この度不本意ながらゲランとジュベルの戦争に巻き込まれてしまいました。ついてはキノクニの職を辞したうえ、ジュベル側に付こうと決心しました。勿論ゲランとの直接戦闘は避けますが、途中参戦したラーシャの敵兵と戦います。大恩あるキノクニになんのお返しもせず、ましてや弓を引く形になったことを心からお詫び申しあげます。」

俺はここへ来るまでいろいろと悩んだ。
なんとか自分を正当化できないか考えた。
しかし、よく考えればキノクニに対して謀略、知略で自己正当化をするのは最低だと気づいた。
だから全てを正直に話すことにしたのだ。

「そんな・・辞職だなんて。」

ブンザさんが先に口を開いたがカヘイさんがそれを手で制した。

「確かにゲランに対して弓引く行為ですな。」

俺は頭を下げた。

「しかし、キノクニに対しては弓などひいておりませぬぞ。」

「え?」

「キノクニやキノクニを擁護くださるラジエル侯爵は、この戦争に反対しておるのはご存じでしょう。今回のラーシャ参戦も大反対。いたずらに戦禍を広げるだけですからのう。」

ハットリ部長もブンザさんも頷く。

「それでも、キノクニに迷惑をおかけする可能性が。・・」

「ま、ソウ殿の素性や行いが宰相やヒュドラ教にばれてしまうとまずいことはございましょうが、それは今でも同じ事。なんら変わりはございませんよ。それよりも将来の事を考えれば、ソウ殿との縁が切れてしまうのはキノクニにとって大きな痛手ですじゃ。それこそ我々に対する裏切りですぞ。のうケンゾウ」

ハットリ部長が大きく頷く。

「カヘイの言うとおりじゃ。今まで散々やりたいようにやってきたソウが今更。ハハハ。カヘイの言うたとおりラーシャと戦うのは大賛成。ラーシャの出鼻をくじいて早く戦争を終わらせてくれ。」

俺の目から少し暖かいものがこぼれた。

「はい・・」

ハットリ部長が続ける。

「それにのう。ソウ。お主、新しい国を作ったそうじゃないか。その国の流通はキノクニに任せてくれるであろうな?」

さすがキノクニ情報部部長。

「さすが情報部長。もうお耳に入っていますか?」

カヘイさんは理解しているようだがブンザさんは寝耳に水のようだ。

「ソウ様が国を?」

「いや単なる避難所ですよ。あちこちから困っている子供やお年寄りを集めただけです。」

ハットリ部長が身を乗り出す。

「いやいや、情報によると人口5000以上で町並みも整い。ライベル以上の要塞都市らしいぞ。その国の頭領がソウだ。」

言葉にするとそのとおりだが、俺自身には、そんな実感がない。

「すごいですね。一度お伺いしたいです。」

ブンザさんの言葉にハットリ部長が反応する。

「ブンザは街が見たいのか?ドランゴに会いたいのか?どっちだ。」

ブンザさんがハットリ部長の背中を叩いて頬を染めている。

(ん?どういうこと?)

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