異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

文字の大きさ
上 下
150 / 177
第五章 獣人国編

第150話 五分の盃

しおりを挟む
ライベルの戦争は膠着状態だった。
攻める側のゲラニ軍の攻撃は魔法攻撃が主体だったが、守る側のライベル守備隊にはセトをはじめ魔法攻撃を無効化するスキルを持つ兵士が多く居たし、物理攻撃はライジンやレギラがことごとく返り討ちにしていた。

しかしライベル側にも弱みはあった。
戦闘が長引けば自然と兵糧が無くなる。
いわゆる兵糧攻めをされると弱い立場なのだ。
現場の兵士に食料が行き渡ってないようなのだ。

俺はライベル側にもゲラン側にも付かないつもりだったが、オオカミ村に避難したライベル住民の食糧を確保するためにも一計を案じた。

「ロダンさん。もしジュベル国首都オラベルとここをゲートでつなげれば食料を確保できますよね?」

「それは、もちろんです。首都オラベルにはここの兵士や住民を養う兵站が十分に備蓄されています。ただ・・」

「何です?」

「大量の食料を移動させるには国の許可が必要です。特に軍事作戦中は商業としての食料の大量売買は厳しく監視されますので、私だけの力では少量の食料しか確保できないかと・・」

戦時中の物資が国の管理下に置かれるのは当然のことだろう。
食料も例外では無い。

「わかった。国の許可があればいいんだね。ここで言うなら誰がその許可を出せる?」

「それは、ヌーレイ様かレギラ様かと・・」

ヌーレイもレギラもやっかいだな。
どちらかと言えばレギラか・・
レギラは馬鹿だが卑怯では無い。

「わかった、レギラと掛け合ってくる。ロダンさんは運搬の準備をしてて。」

「はい。わかりましたが大丈夫ですか?」

ロダンさんは俺とヌーレイ、レギラとのいきさつをある程度知っていて心配してくれているのだろう。

「大丈夫ですよ。ジュベル国の助けにもなるんだから。たぶん・・・」

そばにいるドルムさんが心配そうな顔をしている。

「喧嘩すんなよ。ソウ。」

「うん。わかってますって。ハハ」

俺は戦闘が止んだ隙に正面の門にいるレギラに近づいた。

「レギラ・・」

俺が声をかけると同時にレギラが殺気を込めた拳を俺に向け、振り抜いた。
俺はレギラの行動を予想していたので戦闘態勢で近づいた。
未来予測のおかげでレギラの拳を見切ることが出来た。

高速で硬度の高い拳が俺の顔の横をすり抜ける。
タテガミが何本かちぎれた。

追撃でレギラの右足が飛んでくる。
俺はレギラの前蹴りを一歩下がって避ける。
前髪が何本かちぎれ飛ぶ。
俺は守備体制を解かないが攻撃の姿勢も見せない。

「チッ!!」

レギラが舌打ちをする。

「あれが当たらないのか。どんな加護をもってやがる。ふん」

側に居たセトが口を開いた。

「ソウ。何の用だ。友達は無事救出したんだろ?」

「ああ、おかげで無事だ。今日はそのことにも関連がある話だ。あの時俺の友達は敵軍、ゲラン軍にいた。それはいろいろな事情があるんだが、ま、それはおいといて、俺はその敵軍を助けた。だがら、それは、お前達に対する借りだと思っている。」

レギラが苦々しい顔をして言った。

「で、なんだ。その貸しを返しに来たとでも言うのか?ふん。」

「ああ、そうだ。借りを返しに来た。」

レギラもセトも「え?」という顔をしている。

「単刀直入に言う。ゲラン軍はおそらくお前達を兵糧攻めにするだろう。ここライベルの泣き所は食料だ。なぜ食料が少ないのかは知らないが、城の備蓄はわずかだという。だから俺がそれを補填しよう。オラベルからここまで食料を運んでやる。すぐににだ。」

レギラが言う。

「どうやって?どうしてお前がそんなことをする?」

「言っただろう借りを返すためだ。それと俺はライベルの子供や女性お年寄りを3000人くらい保護している。その子達の食料も確保したいんだ。だからオラベルにある食料庫を開放しろ。俺がゲートで運んでやる。」

セトがレギラを見る。

「若、ソウの言っていることは事実です。ここライベルに子供や女性、老人が見当たらないのは、ソウが避難させているからだそうです。私の直属の部下からの報告ですので間違いないと思われます。」

「なんだと。3000人もソウが保護しているというのか?ヌーレイは何も言ってなかったぞ?間違いないのか?」

俺はレギラに言った。

「本当だ。ここライベルには縁のある人が多い。だからその家族、女子供を俺があずかっている。なんなら見に来るか?俺の村を。」

「住民に何の縁があるというのだ?」

「流行病から救った縁だ。一度救った者を見殺しに出来ないからな。」

「それが3000人も居るというのか?」

「それ以上だ。」

「・・・・・」

セトが口を開いた。

「もしソウが食料を運んでくれるならライベルにとって大きな利益です。ご心配なら、一度ソウの言うことを確認されてはいかがでしょう?」

「ソウの村へ行けというのか?」

「はい。私もお供致します。」

レギラは少し悩んだが俺を見て言った。

「わかった。確かめてやろうじゃないか。ただし少しでもウソがあれば、その場で・・」

「俺を殺すんだろ。いいぜ、その時はお前の拳を正面から受けてやるよ。死なないけどな・・ハハ」

俺は、その場にオオカミまでのゲートを開いた。

レギラは度胸があるのか何も言わず、指示されるままゲートをくぐった。
セトもそれに続いた。

ゲートから出たレギラは目を丸くしている。
美しい町並みと街路樹。
清らかな水が流れる水路。
広場には噴水のある池と子供達の笑い声。

「こ、ここは・・・」

「俺の村、オオカミ村だ。」

セトもあんぐりと口を開けている。

「これは・・村と言うよりも都市だな。ライベルよりも整っている。」


ゲートから出てきた俺達を広場で遊んでいた子供達が見つけて駆け寄ってきた。

「兄ちゃんお帰り。」
「ソウ様お帰りなさい。」
「「「「おかえりなさーい」」」」

ピンター、ライチ、ヒュナ、レンヤさんの子供、シゲルさんの子供、その他多くの子供達。獣人、人間、種族のことは全く関係なく仲良く遊んでいたようだ。

レギラがピンターを見た。

「人間の子供もいるようだが?」

「ああ、ライベル以外の場所からもヒュドラの迫害を受けた子供達を連れてきている。」

「全員、お前が面倒をみているのか?」

「ああ、俺と俺の仲間が子供達の面倒を見ている。」

俺達を見つけたロダンさんも駆け寄ってきた。

「子供だけではありませんよ。レギラ様。老人や女性、怪我人もソウ様のお世話になっています。」

「ロダン・・久しいな。では、ライベルを流行病から救ったのも・・・」

「そうです。全てソウ様がお一人で、何万人という患者を治療なされました。それこそ自分の体を犠牲にしながらお救いくださったのです。ソウ様はライベルの大恩人でございます。」

レギラは何も言わなくなった。
代わってセトが口を開く。

「ソウ。世話になったな。礼を言う。」

「礼なんていらない。それよりこの子達の食べ物を用意しろ。俺が運んでやる。」

セトがレギラを見る。
レギラは重い口を開いた。

「どうやら俺が間違っていたようだな。謝罪すべきだろうな。」

レギラが俺を向く。
レギラが頭を下げようとするが、俺がそれを遮る。

「やめろ。レギラ。一国の王族が簡単に頭を下げるな。お前はお前の信念に基づいて行動したんだろ?だったらそれでいいじゃないか。お前の謝罪なんてもらっても腹は満たない。それよりも国元にかけあって食料をわけてくれ。」

「しかし・・・それでは俺の気がすまん。俺が悪かった。ソウすまない。」

レギラは馬鹿だが卑怯では無い。
むしろ正直者のようだ。

「・・・わかった。謝罪は受け取った。この件はこれ以上無しだ。それより食料をなんとかしてくれるか?」

セトもロダンさんもほっとしている。

「もちろんだ。国元の兄上に説明した上、備蓄食料を解放しよう。兵士にも、もちろん子供達にも。」

これで食糧事情は解決される。
おまけにレギラの誤解も解けたようだ。
誤解が解けたレギラの動きは早かった。
俺がオラベルまでのゲートを開通させると、レギラ自らが国王に報告をし、国の備蓄食料をライベルに流した。

ライベルの備蓄食料が少なかった件や流行病の顛末を国元から派遣された調査官が調べたところヌーレイとサルディアの様々な不正が発覚しヌーレイとサルディアは拘束されて裁判にかけられることとなった。

その間一週間、戦争は膠着状態のままだ。
俺はライベル城の領主の間にいる。

「ソウ。いろいろとすまなかった。俺は人を見る目がなかったようだ。」

「いいさ、今更。俺は自分の知人を救いたかっただけだ。」

「それにしてもお前はすごいな。腕力もさることながら病人の治療もできるし大きな街を造るし、ゲランにそんな人物がいるなんて聞いたこと無いぞ。」

「俺はゲラン国人じゃない。」

「では、いったいどこから?」

「口では説明出来ないほど、遠いところからだ。」

「ふーん。なにやら事情がありそうだな。・・・それより、どうだソウ。俺と一緒に兄上、獅子王様に仕える気は無いか?俺と共にジュベル国を守ってくれないか?」

「レギラ、誘いは嬉しいが、俺はどこの国にも属さないつもりだ。俺は俺の仲間と共に自分の故郷へ帰るのが一番の目標だ。だから困った人の手助けはするが誰かに仕えることは無い。わかって欲しい。」

レギラは天井を見上げた。

「そうか・・・それは残念だが無理はいえんだろうな。だが、これならどうだ?俺と兄弟分になれ。五分の杯だ。それが駄目なら俺が弟分でもいい。お前とはわずかな付き合いだが、俺はお前に男として惚れた。俺と兄弟になれ。」

セトとその他の部下が驚いている。
レギラと兄弟分になると言うことはジュベル国次期国王であろう王族と縁故になるということだ。
もちろん血のつながりは無いが得る権力は計り知れないものがある。
俺は少し迷った。

レギラからの申し出は正直嬉しかったが、異世界の俺がこの世界にしがらみを作って良いのかどうか。
しかしよく考えてみればピンターやドルムさんドランゴさん達、この世界へ来てから知り合った人達と家族同様の間柄になっているのだから、今更一人増えたところでどうっていうことはない。

「わかった。レギラ兄弟分になろう。どっちが上でも下でも無い。お前と俺は五分の兄弟だ。お互いに助け合おう。」

「よっしゃ。」

俺とレギラは固く握手をした。

セトと部下達が拍手をする。
俺はレギラと何度か喧嘩をしたがレギラのことが嫌いでは無かった。

むしろレギラのようなカラッとした性格は好きな方だ。
俺と喧嘩した理由も国民のことを思った上でのことだから何も遺恨は無い。
それにレギラは行方不明のルチアの伯父でもある。
仲良くなっていても損は無いだろう。

その夜レギラをキューブへ招いた。
レギラは大酒飲みだった。
何分もかからずアウラ様、ドルムさん、ドランゴさんと仲良くなった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...