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第五章 獣人国編
第148話 嘘はいけないわ
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レンとイツキはゲラニの修道院の一室に居た。
目の前にはキヨエ、キリコ、そしてウタが居る。
ウタがレンを見ている
「レン君、イツキ君、どうしたの?それより無事だった?戦争へ行ってたんでしょ?」
レンがウタを見つめ返す。
「ああ、無事だった・・というか俺は死にかけたし、イツキは一度死んだぞ。オイ。」
「え?」
「ええ、死にました。でもヒナさんの力で蘇生しました。ヒナさん、すごいです。」
レンとイツキは、それまでのことを3人に説明した。
キリコとウタは頷いているが、キヨエは二人の言葉を信じようとしない。
「レン君、イツキ君、二人が苦労をしたのは認めるけど、嘘はいけないわ。死んだ人が生き返るはずないもの。それにヘレナさんがそんな残酷なことをするはずないもの。私達をここまで導いてくれたのはヘレナさんよ?」
キリコがキヨエに向く。
「キヨちゃん。レンもイツキも嘘なんて言ってないわ。全部本当の事よ。イツキは一度死んだ。間違いないわ。」
「キリコさん。どうしてそんなことがわかるの?普通に考えればわかるでしょ?死者が蘇るなんてあり得ないわ。ヘレナさんのことだって・・・」
キリコは『真偽判定』のことをキヨエに話そうかどうか迷った。
自分のスキルを他人に話せば、その効果は薄れる。
誰だって自分の心を覗かれると知っていたら心を閉ざそうとするに決まっている。
だから、キリコは自分のスキルを信用できるウタにしか話してなかったのだ。
ウタがキリコの心を察したように話し始めた。
「イツキ君が死んだかどうかは別にして、レン君とイツキ君が私達を助けに来てくれたのは事実です。今は安全かも知れないけど、いつか私達も戦場へ連れ出されるかも知れません。だったら、今、逃げましょう。」
キヨエは黙り込む。
キリコがレンを向く。
「で、どうやって、ここから逃げる。ここにいる女性徒は私達を含めて20名よ。大丈夫なの?」
「大丈夫だ。外でソウが待っている。ソウは空間移動できる装置を持っている。だから一度に逃げ出せるぞ。オイ。」
キヨエが目を大きく開ける。
「ソウ君?本田君?あの殺人犯の?」
イツキがキヨエを見返す。
「ソウ君はダニクさんを殺していないです。それどころかダニクさんを助けようとしたのに、それをヘレナが・・」
「ヘレナさんが?何をしたって言うの?」
「ダニクさんを殺したそうです。」
「ウソよ、絶対そんなのウソだわ。」
キヨエが立ち上がって部屋から出ようとした。
それをキリコが止める。
「キヨちゃん。何処行くの?」
「舎監さんを呼びます。レン君もイツキ君もここへ入ってはいけないはずです。それに戦場にいるはずの二人がここにいるなんて、何かおかしいです。本田君と何かを企んでいるのかも知れませんわ。」
レンとイツキが焦って口を開く。
「違うって。本当に助けに来たんだ。オイ」
「そうです。僕達本当に皆さんを救助に来たんですよ。」
キヨエの口調が厳しくなった。
「そんなこと言っても、私は信じませんよ。ヘレナさんとヒュドラ様が私を裏切るはずないもの。それとも何か証拠でもあるの?」
イツキが困った顔をした。
「証拠と言われましても・・・あっ・・そうだ。レン君はウタさんの事が好きです。好きな女性を裏切る男はいません。」
レンが「あっ」と言う顔をした。
キリコが頷いて言った。
「今のイツキの言葉も本物よ。」
ウタの顔が少し赤くなる。
レンがイツキの頭をこづいた。
「痛い。」
「お前は馬鹿か。オイ」
「だって。・・・」
ウタもキヨエを止める。
「キヨちゃん。キヨちゃんの疑いの気持ちもわかるわ。でも、少し待って。レン君達が悪意をもってここへ来たとは思えない。それに私、ここを出たいの。少々危険でも自由が欲しいの。みんなだってそうだと思うわ。だから。ねっ。時間をちょうだい。先生。」
キヨエはウタの言葉を聞いて大人しくなった。
「わかったわ。ウタさん。皆で話し合いましょう。ここに居るのか、出て行くのか。だからレン君、イツキ君。一度帰って。今日中に結論を出すから。黙って出て行けば誰にも言わないわ。」
レンが頷いた。
「わかった先生。一度外に出るから、皆で話し合ってくれ。でも時間はあまりないよ。ヘレナから連絡が入っているかも知れない。」
レンは懐から救命ボールを出してウタに渡した。
「何これ?」
「これは無線機だ。ここを押すとソウに繋がる。結論が出たらそれを使うんだ。。」
「わかったわ。」
「できるだけ、急げよ。」
「うん。」
レンとイツキは3人を部屋に残し建物の外へ出た。
物置の陰でソウが待っている。
ソウがレンを見つけて近寄る
「どうだった?」
レンはクビを振る。
「キヨちゃんが俺達のことを信じない。でもウタとキリコは信じてくれたよ。他の生徒とも話し合うってさ。」
「そうか~。あまり時間が無いと思うんだがな。一度帰るか。」
「そうだね。」
3人はキューブへ戻った。
3人はキューブの地下室で話し合っている。
俺は二人から修道院内での出来事の説明を受けた。
キヨエはヘレナの術中に落ちているようだ。
「キヨちゃん、ヘレナに騙されていると気がつかないだろうな。」
「うん。俺だって最初はヘレナを信じていたからな。オイ」
「そうですよ。僕だって殺されるまではヘレナのこと信じてましたからね。」
(いよいよになれば、キヨちゃんを置いていくしか無いかも・・)
「他の生徒はどうだろう?」
「ウタとキリコは絶対に来る。その他の生徒はキヨちゃんに付くかも知れないな。」
「皆、逃げれば良いのにね。ウタさんとキリコさんが説得してくれると思います。」
いくら考えても仕方ない。
俺はウタからの連絡が来るまで、用心の為に修道院を見張ることにした。
「タイチさん」
『ほい。なんじゃ?』
「ドローン飛ばして修道院を見張ってください。何か変化があれば教えてください。」
『よっしゃ』
地下室のスクリーンにドローンからの映像が流れる。
レンとイツキもその映像を見ている。
修道院を出てから3時間ほど経過してあたりは薄暗くなった。
「ずいぶん、時間がかかっているな。」
「そうだな。ちゃんと急げよと言ってきたんだけどね。オイ」
スクリーンを見ていたイツキが手招きをした。
「ソウ君、レン君。」
「どうした?イツキ」
イツキはスクリーンを指さす。
スクリーンは修道院の上空から修道院とその周囲を映し出しているが、画像の端の方から武装した集団が修道院へ近づいている。
おそらくゲラニの兵士だ。
その数、およそ100人。
兵士は修道院へ近づくと10人くらいが建物の中へ入り、残った者は修道院を取り囲むように建物や木立の陰に隠れた。
イツキがつぶやく。
「どうして?」
「キリコ達が裏切ったのか?オイ」
「いやキリコたちじゃ無いだろ。たぶん先生だ。」
キヨエはレン達の言葉に耳を貸さなかった。
ヘレナに洗脳されているのだろう。
レンが不安そうにこちらを向く。
「どうする?」
俺は笑顔で答えた。
「なーに。大丈夫。待ち伏せされていることがわかっていれば、どうってことないさ。」
イツキも不安そうだ。
「大丈夫なの?」
「大丈夫。まかせとけって。ハハ」
その時ウタに渡した救命ボールのスイッチが入った。
「レン君?イツキ君?」
ウタの声だ。
レンがマイクに向かってしゃべる。
「レンだ。ウタ。どうぞ。」
「レン君ね。結果が出たわ。私とキリコさん、それにミキちゃん達7人は逃げる。他の女性徒はキヨちゃんと一緒に残るそうよ。説得したけどだめだった。」
「ウタ。ソウだ。迎えに行くからさっきの部屋で待っていろ。全部で9名だな。」
「ソウ君!元気?大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。すぐに行く。裏庭まで行くから連絡したら降りてきて。」
「うん、わかった。9人よ。部屋で待っているわ。」
この会話は清恵達も聞いているはずだ。
レンが不思議そうにしている。
「100人相手に戦うのか?オイ」
俺はニヤリとした。
「戦わないよ。逃げるだけ。まぁ見ていろ。レンとイツキはこの部屋で待ってて。そこの壁からウタが出てくるから、出てきたら抱きしめてやれ。アハハ。」
レンが俺を殴るふりをした。
「じゃ、いってくらぁ。」
「きをつけてな。オイ。」
「きをつけてね。」
俺はキューブを出て『ソラ』を起動した。
修道院の周囲は兵士だらけだから地上からは絶対に近づけない。
修道院の上空からウタ達のいる部屋のベランダに飛びおりるつもりだった。
ソウがソラで出発する3時間前。
ウタとキリコは各部屋をまわって、同級生達にレン達が救助に来ていたことを説明していた。
ほとんどの生徒は、修道院の生活に嫌気がさしていて自由を求めていた。
だからウタ達の誘いに積極的に乗ろうとしていたが、それをキヨエが阻止しようとウタ達とは逆の説得をしていた。
キヨエにすれば修道院を出ることはヘレナとヒュドラに対する裏切りで、キヨエ自身は絶対に脱出する気にならなかった。
それに自分の監督下の生徒が脱走することでヘレナから叱責をうけることを極度に恐れていたのだ。
最終的に修道院を脱出するのはウタ、キリコ、そしてウタと仲の良い「ミキ」達7名、合計9名ということになった。
他の10名の生徒も最初ウタの説明を受けて脱出しようと決めていたがキヨエの
「貴方達、もし脱走がばれたら、逃走罪で死刑になるわよ。先生はそんな危険な行為を許すわけにいきません。貴方達が死刑になるなんて先生は耐えられません。もう一度ゆっくり考えてみて。本田君は同級生かも知れないけど、殺人犯なのよ。そんな人を信用できるはずないでしょ?」
という言葉に意思をくじかれ残留し、キヨエと共に行動することになった。
キヨエの前にキリコが立つ。
「わかったわ先生。先生の邪魔はしないから自由にして。でも私達のことも邪魔しないでね。私はレンとイツキの言ったことを信じて、ここから出る。自由の無い生活よりも危険でも良いから自分らしい生活をしたいの。それと先生最後に言っておくわね。ヘレナの叱責を恐れて他の生徒の自由まで奪わないで。」
キヨエは少し青ざめた。
「何を言っているのキリコさん。私はただ教え子の身を案じて・・・」
「もう、そんなの良いから!!私にはわかるの先生の心が!!」
キリコはそう言ってキヨエの元を離れた。
キリコにかわってウタが皆の前に立った。
「それじゃぁ今から連絡するわね。」
ウタは救命ボールを取りだしレン達と連絡をとった。
そしてソウが無線に出て
「ああ、大丈夫だ。すぐに行く。裏庭まで行くから連絡したら降りてきて。」
キヨエはウタとソウの連絡を聞いた後、一人部屋を出た。
キヨエは修道院一階にある舎監部屋へ入った。
部屋の中には修道院で唯一の男性である修道士が椅子に座っていた。
「舎監さん。すみません説得に失敗しました。9名が脱走しそうです。」
修道士はゆっくりとキヨエを振り返った。
「わかりました。それで、いつ来ます?」
「すぐに来るそうです。裏庭に集合するようです。」
「わかりました。兵士はすでに手配済みです。裏庭の近くを厳重警戒しましょう。」
キヨエは少し緊張しているようで顔色が悪い。
「あの~それで、ヘレナ様にはどのように・・」
「大丈夫ですよ。貴方が裏切っていないことは私がしっかり証明してあげます。」
キヨエの顔に血の気が戻った。
目の前にはキヨエ、キリコ、そしてウタが居る。
ウタがレンを見ている
「レン君、イツキ君、どうしたの?それより無事だった?戦争へ行ってたんでしょ?」
レンがウタを見つめ返す。
「ああ、無事だった・・というか俺は死にかけたし、イツキは一度死んだぞ。オイ。」
「え?」
「ええ、死にました。でもヒナさんの力で蘇生しました。ヒナさん、すごいです。」
レンとイツキは、それまでのことを3人に説明した。
キリコとウタは頷いているが、キヨエは二人の言葉を信じようとしない。
「レン君、イツキ君、二人が苦労をしたのは認めるけど、嘘はいけないわ。死んだ人が生き返るはずないもの。それにヘレナさんがそんな残酷なことをするはずないもの。私達をここまで導いてくれたのはヘレナさんよ?」
キリコがキヨエに向く。
「キヨちゃん。レンもイツキも嘘なんて言ってないわ。全部本当の事よ。イツキは一度死んだ。間違いないわ。」
「キリコさん。どうしてそんなことがわかるの?普通に考えればわかるでしょ?死者が蘇るなんてあり得ないわ。ヘレナさんのことだって・・・」
キリコは『真偽判定』のことをキヨエに話そうかどうか迷った。
自分のスキルを他人に話せば、その効果は薄れる。
誰だって自分の心を覗かれると知っていたら心を閉ざそうとするに決まっている。
だから、キリコは自分のスキルを信用できるウタにしか話してなかったのだ。
ウタがキリコの心を察したように話し始めた。
「イツキ君が死んだかどうかは別にして、レン君とイツキ君が私達を助けに来てくれたのは事実です。今は安全かも知れないけど、いつか私達も戦場へ連れ出されるかも知れません。だったら、今、逃げましょう。」
キヨエは黙り込む。
キリコがレンを向く。
「で、どうやって、ここから逃げる。ここにいる女性徒は私達を含めて20名よ。大丈夫なの?」
「大丈夫だ。外でソウが待っている。ソウは空間移動できる装置を持っている。だから一度に逃げ出せるぞ。オイ。」
キヨエが目を大きく開ける。
「ソウ君?本田君?あの殺人犯の?」
イツキがキヨエを見返す。
「ソウ君はダニクさんを殺していないです。それどころかダニクさんを助けようとしたのに、それをヘレナが・・」
「ヘレナさんが?何をしたって言うの?」
「ダニクさんを殺したそうです。」
「ウソよ、絶対そんなのウソだわ。」
キヨエが立ち上がって部屋から出ようとした。
それをキリコが止める。
「キヨちゃん。何処行くの?」
「舎監さんを呼びます。レン君もイツキ君もここへ入ってはいけないはずです。それに戦場にいるはずの二人がここにいるなんて、何かおかしいです。本田君と何かを企んでいるのかも知れませんわ。」
レンとイツキが焦って口を開く。
「違うって。本当に助けに来たんだ。オイ」
「そうです。僕達本当に皆さんを救助に来たんですよ。」
キヨエの口調が厳しくなった。
「そんなこと言っても、私は信じませんよ。ヘレナさんとヒュドラ様が私を裏切るはずないもの。それとも何か証拠でもあるの?」
イツキが困った顔をした。
「証拠と言われましても・・・あっ・・そうだ。レン君はウタさんの事が好きです。好きな女性を裏切る男はいません。」
レンが「あっ」と言う顔をした。
キリコが頷いて言った。
「今のイツキの言葉も本物よ。」
ウタの顔が少し赤くなる。
レンがイツキの頭をこづいた。
「痛い。」
「お前は馬鹿か。オイ」
「だって。・・・」
ウタもキヨエを止める。
「キヨちゃん。キヨちゃんの疑いの気持ちもわかるわ。でも、少し待って。レン君達が悪意をもってここへ来たとは思えない。それに私、ここを出たいの。少々危険でも自由が欲しいの。みんなだってそうだと思うわ。だから。ねっ。時間をちょうだい。先生。」
キヨエはウタの言葉を聞いて大人しくなった。
「わかったわ。ウタさん。皆で話し合いましょう。ここに居るのか、出て行くのか。だからレン君、イツキ君。一度帰って。今日中に結論を出すから。黙って出て行けば誰にも言わないわ。」
レンが頷いた。
「わかった先生。一度外に出るから、皆で話し合ってくれ。でも時間はあまりないよ。ヘレナから連絡が入っているかも知れない。」
レンは懐から救命ボールを出してウタに渡した。
「何これ?」
「これは無線機だ。ここを押すとソウに繋がる。結論が出たらそれを使うんだ。。」
「わかったわ。」
「できるだけ、急げよ。」
「うん。」
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「どうだった?」
レンはクビを振る。
「キヨちゃんが俺達のことを信じない。でもウタとキリコは信じてくれたよ。他の生徒とも話し合うってさ。」
「そうか~。あまり時間が無いと思うんだがな。一度帰るか。」
「そうだね。」
3人はキューブへ戻った。
3人はキューブの地下室で話し合っている。
俺は二人から修道院内での出来事の説明を受けた。
キヨエはヘレナの術中に落ちているようだ。
「キヨちゃん、ヘレナに騙されていると気がつかないだろうな。」
「うん。俺だって最初はヘレナを信じていたからな。オイ」
「そうですよ。僕だって殺されるまではヘレナのこと信じてましたからね。」
(いよいよになれば、キヨちゃんを置いていくしか無いかも・・)
「他の生徒はどうだろう?」
「ウタとキリコは絶対に来る。その他の生徒はキヨちゃんに付くかも知れないな。」
「皆、逃げれば良いのにね。ウタさんとキリコさんが説得してくれると思います。」
いくら考えても仕方ない。
俺はウタからの連絡が来るまで、用心の為に修道院を見張ることにした。
「タイチさん」
『ほい。なんじゃ?』
「ドローン飛ばして修道院を見張ってください。何か変化があれば教えてください。」
『よっしゃ』
地下室のスクリーンにドローンからの映像が流れる。
レンとイツキもその映像を見ている。
修道院を出てから3時間ほど経過してあたりは薄暗くなった。
「ずいぶん、時間がかかっているな。」
「そうだな。ちゃんと急げよと言ってきたんだけどね。オイ」
スクリーンを見ていたイツキが手招きをした。
「ソウ君、レン君。」
「どうした?イツキ」
イツキはスクリーンを指さす。
スクリーンは修道院の上空から修道院とその周囲を映し出しているが、画像の端の方から武装した集団が修道院へ近づいている。
おそらくゲラニの兵士だ。
その数、およそ100人。
兵士は修道院へ近づくと10人くらいが建物の中へ入り、残った者は修道院を取り囲むように建物や木立の陰に隠れた。
イツキがつぶやく。
「どうして?」
「キリコ達が裏切ったのか?オイ」
「いやキリコたちじゃ無いだろ。たぶん先生だ。」
キヨエはレン達の言葉に耳を貸さなかった。
ヘレナに洗脳されているのだろう。
レンが不安そうにこちらを向く。
「どうする?」
俺は笑顔で答えた。
「なーに。大丈夫。待ち伏せされていることがわかっていれば、どうってことないさ。」
イツキも不安そうだ。
「大丈夫なの?」
「大丈夫。まかせとけって。ハハ」
その時ウタに渡した救命ボールのスイッチが入った。
「レン君?イツキ君?」
ウタの声だ。
レンがマイクに向かってしゃべる。
「レンだ。ウタ。どうぞ。」
「レン君ね。結果が出たわ。私とキリコさん、それにミキちゃん達7人は逃げる。他の女性徒はキヨちゃんと一緒に残るそうよ。説得したけどだめだった。」
「ウタ。ソウだ。迎えに行くからさっきの部屋で待っていろ。全部で9名だな。」
「ソウ君!元気?大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。すぐに行く。裏庭まで行くから連絡したら降りてきて。」
「うん、わかった。9人よ。部屋で待っているわ。」
この会話は清恵達も聞いているはずだ。
レンが不思議そうにしている。
「100人相手に戦うのか?オイ」
俺はニヤリとした。
「戦わないよ。逃げるだけ。まぁ見ていろ。レンとイツキはこの部屋で待ってて。そこの壁からウタが出てくるから、出てきたら抱きしめてやれ。アハハ。」
レンが俺を殴るふりをした。
「じゃ、いってくらぁ。」
「きをつけてな。オイ。」
「きをつけてね。」
俺はキューブを出て『ソラ』を起動した。
修道院の周囲は兵士だらけだから地上からは絶対に近づけない。
修道院の上空からウタ達のいる部屋のベランダに飛びおりるつもりだった。
ソウがソラで出発する3時間前。
ウタとキリコは各部屋をまわって、同級生達にレン達が救助に来ていたことを説明していた。
ほとんどの生徒は、修道院の生活に嫌気がさしていて自由を求めていた。
だからウタ達の誘いに積極的に乗ろうとしていたが、それをキヨエが阻止しようとウタ達とは逆の説得をしていた。
キヨエにすれば修道院を出ることはヘレナとヒュドラに対する裏切りで、キヨエ自身は絶対に脱出する気にならなかった。
それに自分の監督下の生徒が脱走することでヘレナから叱責をうけることを極度に恐れていたのだ。
最終的に修道院を脱出するのはウタ、キリコ、そしてウタと仲の良い「ミキ」達7名、合計9名ということになった。
他の10名の生徒も最初ウタの説明を受けて脱出しようと決めていたがキヨエの
「貴方達、もし脱走がばれたら、逃走罪で死刑になるわよ。先生はそんな危険な行為を許すわけにいきません。貴方達が死刑になるなんて先生は耐えられません。もう一度ゆっくり考えてみて。本田君は同級生かも知れないけど、殺人犯なのよ。そんな人を信用できるはずないでしょ?」
という言葉に意思をくじかれ残留し、キヨエと共に行動することになった。
キヨエの前にキリコが立つ。
「わかったわ先生。先生の邪魔はしないから自由にして。でも私達のことも邪魔しないでね。私はレンとイツキの言ったことを信じて、ここから出る。自由の無い生活よりも危険でも良いから自分らしい生活をしたいの。それと先生最後に言っておくわね。ヘレナの叱責を恐れて他の生徒の自由まで奪わないで。」
キヨエは少し青ざめた。
「何を言っているのキリコさん。私はただ教え子の身を案じて・・・」
「もう、そんなの良いから!!私にはわかるの先生の心が!!」
キリコはそう言ってキヨエの元を離れた。
キリコにかわってウタが皆の前に立った。
「それじゃぁ今から連絡するわね。」
ウタは救命ボールを取りだしレン達と連絡をとった。
そしてソウが無線に出て
「ああ、大丈夫だ。すぐに行く。裏庭まで行くから連絡したら降りてきて。」
キヨエはウタとソウの連絡を聞いた後、一人部屋を出た。
キヨエは修道院一階にある舎監部屋へ入った。
部屋の中には修道院で唯一の男性である修道士が椅子に座っていた。
「舎監さん。すみません説得に失敗しました。9名が脱走しそうです。」
修道士はゆっくりとキヨエを振り返った。
「わかりました。それで、いつ来ます?」
「すぐに来るそうです。裏庭に集合するようです。」
「わかりました。兵士はすでに手配済みです。裏庭の近くを厳重警戒しましょう。」
キヨエは少し緊張しているようで顔色が悪い。
「あの~それで、ヘレナ様にはどのように・・」
「大丈夫ですよ。貴方が裏切っていないことは私がしっかり証明してあげます。」
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