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第五章 獣人国編
第145話 お前は敵なのか
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レンを救出した翌日、俺は明け方から戦場の上空からゲラン軍とジュベル軍の戦いを見ていた。
戦場に居る目的は、ヒナ達を探し出し救出するためだ。
レンの話によればヒナもイツキも生きているはずだ。
生きていれば治癒能力の高いヒナは救護班として、戦場後方にいるはずだ。
戦闘力は低いが奴隷化されたイツキも最前線でジュベル軍と戦っているはずだ。
俺にとってはヒナもイツキも大切な友人だ。
ヒナに対しては恋愛感情もあるが、大切さにおいては甲乙つけがたい間柄だ。
どちらを優先することもできないが、おそらく今、命の危機にあるのはイツキの方だろう。
イツキは頭が良いが戦闘力は無いに等しい。
奴隷にされ最前線に送られれば真っ先に命を失うだろう。
まずはイツキを助けるために動くことにした。
夜明けと同時にゲラン軍がライベルの城壁に詰め寄った。
ゲラン軍の先鋒は歩兵。
歩兵が盾を頭上に掲げ、城壁に取り付く。
はしごをかけて城壁によじ上ろうとするが、城壁の上から投石や魔法攻撃を受けて次々と倒れていく。
ゲラン軍の後方からは沢山のファイヤーボールが城壁上のジュベル軍兵士を攻撃する。
ゲラン軍魔法部隊の魔法攻撃だ。
ゲラン軍の魔法は城壁に届くものの、ジュベル軍兵士は被弾しない。
城壁の上で防御魔法を張る一団がいるからだ。
その一団を指揮しているのはセトだ。
セトの実力を見たことはなかったが、セトは防御魔法に優れているようで、セトを中心に半径30メートルくらいのバリアが築かれている。
魔力の無い者には見えないが、セトの張る防御陣形は厚く固い。
物理攻撃は防げないが魔法攻撃はセトの防御陣の前に全て打ち落とされている。
セトほどでは無いが他の兵士の守備魔法も能力は高いらしく城壁に立ち並ぶ兵士を隙間無く守っている。
セトの隣にいるのはレギラだ。
レギラはここライベルの領主、通常領主が戦争の最前線で戦うことなど無いが、レギラはよほど戦闘に自信があるのだろう。
レギラは獣化している。
赤く長い髪、燃えるような瞳、顔はライオン、体はヘレクレスのように筋骨隆々としている。
レギラは剣を持ち、時折はしごから上がってきたゲラン軍の兵士を片手でなぎ払う。
汗一つかいていないようだ。
レギラと反対方向の城壁にはライジンが居た。
こちらも余裕の戦いだ。
ライジンの動きは人族のそれを遙かに超えている。
城壁の上を駆け回り場内へ侵入しようとするゲラン兵を次々と屠る。
時には城壁外へ飛び降りてゲラン兵部隊を蹂躙し、また城壁内へ跳び上がる。
今のところジュベル側の損害は軽微、ゲラン軍は城壁の下に死体を積み上げている状況だ。
(早く探さないと・・・)
イツキの事が心配だ。
イツキを探して上空を旋回しているとライベル正面の門付近で巨大な火柱が上がった。
ゲラン軍の誰かが正面突破しようとしている。
城壁は巨大な岩石が組み合わされているのでかなり丈夫に出来ているが正面の門は一部木製、火には弱いかも知れない。
そこをめがけて誰かが火の魔法を打ち込んでいる。
その威力は遠目から見ても絶大だ。
ウルフのミサイルに近いほどの威力がある。
火柱は一度ならず二度三度と上がった。
セトがあわてて回り込むが、三度目の火柱が上がった後、城門は崩れ落ちた。
同時に歓声があがる。
「今だ、攻め込め~」
苦戦していたゲラン軍が一斉に正面城門を目指す。
一部が場内になだれ込んだ。
と、そこへレギラが降りてきた。
セトもそれに続く。
レギラは大きく息を吸い込み自分の胸を極限まで膨らませた。
そして雄叫びと共に息を大きく吐き出す。
雄叫びには魔力が乗っている。
「グォォオォォォォォォォォ~」
破れた城門から場内に乗り込もうとした一団が一斉にその場に倒れた。
倒れた数は100を上回るだろう。
レギラの雄叫びが収まると同時に巨大な火の玉がレギラを襲う。
刹那にセトがレギラの前に盾をかざす。
セトの盾の前に火の玉が四方へはじけ飛んだ。
「ちっ、化け物ぞろいだな。」
火の玉を打ち出した主、アキトがつぶやいた。
アキトが剣を抜き前に出ようとした時、アキトの肩に手をやり、ヘレナが言った。
「まだよ、アキトさん。貴方が強いのはわかっているけど、肉弾戦はまだ早いわ。貴方は少し休んで魔力を蓄えて。」
アキトは少し不満そうだがヘレナに従った。
「ああ、わかったよ。ヘレナさん。」
ヘレナは頷いた後、後方を見た。
ヘレナの後ろにはリュウヤ、イツキ、ツネオが居る。
「出番よ、リュウヤさん。華々しく散るも良し、敵将を討ち取り手柄を立てるも良しね。」
リュウヤが無言で前に出た時、更にヘレナが言った。
「あら、どうしたの、イツキさん、ツネオさん。リュウヤさん一人を行かせるつもり?貴方達仲間でしょ?」
リュウヤがヘレナを睨んだ。
「あら、怖い。約束したでしょ?リュウヤさん。私の言うことを聞くって。それにイツキもツネオもゲラン軍兵士、戦うのは当然よ。行きなさい。」
リュウヤが何か言い返そうとした時、イツキが敵陣向けて歩き始めた。
ヘレナの命令は絶対なのだ。
「クソ!」
リュウヤはイツキの後を追った。
ツネオもオロオロしながらリュウヤを追う。
アキトがリュウヤ達を目で追う。
「あーあ。あいつら死んじゃうね。ま、僕には関係ないけど。」
ヘレナがアキトを見る。
「死んだら死んだで、ちゃんと役に立ててあげるから大丈夫よ。」
ヘレナは手に持った革袋を上下させた。
革袋からジャラジャラと玉がぶつかる音がした。
「ヘレナさん。こないだから気になっていたけど。その球何です?」
「これは神石。簡単に言えば魔力の塊ね。使えば魔力の補給が出来るし、他にも使い道はいろいろとね。」
「そうなんですか。僕にも一つくださいよ。」
「いいわよ。沢山有るから。」
ヘレナは革袋から青い球を一つ取りだしてアキトに投げた。
アキトが球を受け取り意識を球に集中すると、球から青い光が出てアキトの体を覆った。
「うわー。これはいいわ。魔力補給だけじゃなくて。魔力総量の底上げにもなるんですね。」
ヘレナはにこりと頷いた。
「球の質にもよりますけどね。良い球は魔力総量の底上げにもなるし、魔力の質も向上させるわよ。」
「良い球って、どうやって採取するの?」
「そうねぇ例えば・・・今、死地に向かっているリュウヤさんの球とか・・ウフフ」
「そうか・・強い魔力の持ち主が死ねば、良い球が取れるんだね。ナルホド。」
イツキは最前線目指して歩き始めた。
その後をリュウヤとツネオが追う。
「イツキ!イツキ!待てよ。オイ。」
リュウヤの呼びかけにイツキが振り向くが止まらない。
止まれない。
「リュウヤ君。止まれないんだ。足が勝手に敵へ向かってしまう。」
イツキにはドレイモンの魔法がかかっている。
ヘレナに「敵と戦え」と命じられれば、死ぬとわかっていても戦ってしまう。
リュウヤにイツキを助ける義理は無いがリュウヤはあの時、決心していた。
(もう一度ツネオ達の仲間になろう。そして元の世界へ帰ろう。)
ツネオに脱走の誘いを受けた時、そう決心し、実際に行動した。
結局逃げることは出来なかったが、心はヘレナやアキトから離れていた。
レンが自分の胸を刺した時、レンから球が転げ落ちて、それをとっさに拾った。
レンはソウと連絡を取っていることを聞かされ、それがその連絡装置だと直感でわかったのだ。
そして装置を稼働させレンの側に落としてやった。
あの時からリュウヤは、もう一度ツネオを守ってやろう。
ツネオと共に同級生の仲間に戻ろうと思っていた。
だからイツキを見捨てることは出来なかった。
「イツキ、俺から離れるな。ツネオもだ。守ってやる。」
イツキがリュウヤに駆け寄る。
ツネオもリュウヤの後に付く。
「ありがとうリュウヤ君。」
「礼は助かった後だ。生きて日本へ帰るぞ。」
ツネオの目頭が熱くなった。
「リュウヤ・・・帰ろうね。」
「ああ、帰ろう。」
「うん。帰りたいです。」
リュウヤ達が生き延びるには敵を殺し、この戦争を勝利で終わらせるしか無い。
リュウヤは身体強化の加護で自己の戦闘能力を高めた。
壊れた城門目指して突撃する。
「うおぉぉぉ~」
リュウヤが雄叫びを上げながら突進する。
イツキもツネオもそれに続く。
城門まであとわずかという所でレギラのスキル『雄叫び』を浴びてしまう。
リュウヤは何とか耐えたが、イツキとツネオは雄叫びに吹き飛ばされ気を失った。
リュウヤは雑兵を倒しつつ敵将レギラまでたどり着いた。
(この敵を殺せば戦争が有利になる。生きて帰れるかも知れない・・)
リュウヤはそう思いながら剣を抜きレギラに突進する。
リュウヤが精神集中すると『身体強化』のスキルが発動した。
リュウヤの今の能力はソウの人狼Ⅱに匹敵するかも知れない。
身体強化の中でも俊敏性が極めて高くなった。
意識を集中すれば飛んでいるハエの羽ばたきが止まって見えるほどに。
リュウヤは加速して一気にレギラの懐に入る。
渾身の一撃をレギラの胸に突き刺したつもりだった。
しかしレギラは笑っている。
リュウヤの突き出した剣はレギラの拳で弾かれた。
レギラは道具など使っていない。
生身の拳で超高速の剣先を弾き返したのだ。
リュウヤの知覚は研ぎ済まされていて自分の剣が弾かれると同時にレギラの右拳が自分の腹部に迫っているのが見える。
見えてはいるがその拳に対処ができない。
レギラの拳が速すぎるのだ。
レギラの拳がゆっくりとリュウヤの体にめり込む。
リュウヤはまるでスローもションを見るように自分の腹部に突き刺さる拳を見ているが体はそれ以上、速く動くことができない。
かろうじて腹部に意識を集中して内臓を守ろうとしたが拳はめり込み肋が折れ、いくつかの臓器が破裂するのを感じた。
リュウヤはうすれゆく意識の中で思った。
(今度生まれ直したら、もっと素直になろう。仲間と楽しく過ごす人生を選ぼう・・)
リュウヤは乱暴者だが心の底には人をいたわる気持ちを持っていた。
ただそれを素直に表現する方法を知らなかった。
幼い時から不仲な両親を見て育ち、なまじ力があるばかりに他人と接する時には暴力で従わせることを先に覚えてしまったのだ。
それでも今はツネオとイツキをいたわる気持ちがリュウヤを動かした。
結果は自分より強い力を持つレギラに破れたが最後に友情という思いやりの心を示せたことに満足して、この世を離れることが出来そうだった。
レギラがリュウヤにとどめを刺そうとした時、銀色に輝く人狼がレギラの拳を受け止めた。
レギラが一歩、後ろに下がる。
「なぜ邪魔をする。お前はやはり敵なのか?ソウ」
戦場に居る目的は、ヒナ達を探し出し救出するためだ。
レンの話によればヒナもイツキも生きているはずだ。
生きていれば治癒能力の高いヒナは救護班として、戦場後方にいるはずだ。
戦闘力は低いが奴隷化されたイツキも最前線でジュベル軍と戦っているはずだ。
俺にとってはヒナもイツキも大切な友人だ。
ヒナに対しては恋愛感情もあるが、大切さにおいては甲乙つけがたい間柄だ。
どちらを優先することもできないが、おそらく今、命の危機にあるのはイツキの方だろう。
イツキは頭が良いが戦闘力は無いに等しい。
奴隷にされ最前線に送られれば真っ先に命を失うだろう。
まずはイツキを助けるために動くことにした。
夜明けと同時にゲラン軍がライベルの城壁に詰め寄った。
ゲラン軍の先鋒は歩兵。
歩兵が盾を頭上に掲げ、城壁に取り付く。
はしごをかけて城壁によじ上ろうとするが、城壁の上から投石や魔法攻撃を受けて次々と倒れていく。
ゲラン軍の後方からは沢山のファイヤーボールが城壁上のジュベル軍兵士を攻撃する。
ゲラン軍魔法部隊の魔法攻撃だ。
ゲラン軍の魔法は城壁に届くものの、ジュベル軍兵士は被弾しない。
城壁の上で防御魔法を張る一団がいるからだ。
その一団を指揮しているのはセトだ。
セトの実力を見たことはなかったが、セトは防御魔法に優れているようで、セトを中心に半径30メートルくらいのバリアが築かれている。
魔力の無い者には見えないが、セトの張る防御陣形は厚く固い。
物理攻撃は防げないが魔法攻撃はセトの防御陣の前に全て打ち落とされている。
セトほどでは無いが他の兵士の守備魔法も能力は高いらしく城壁に立ち並ぶ兵士を隙間無く守っている。
セトの隣にいるのはレギラだ。
レギラはここライベルの領主、通常領主が戦争の最前線で戦うことなど無いが、レギラはよほど戦闘に自信があるのだろう。
レギラは獣化している。
赤く長い髪、燃えるような瞳、顔はライオン、体はヘレクレスのように筋骨隆々としている。
レギラは剣を持ち、時折はしごから上がってきたゲラン軍の兵士を片手でなぎ払う。
汗一つかいていないようだ。
レギラと反対方向の城壁にはライジンが居た。
こちらも余裕の戦いだ。
ライジンの動きは人族のそれを遙かに超えている。
城壁の上を駆け回り場内へ侵入しようとするゲラン兵を次々と屠る。
時には城壁外へ飛び降りてゲラン兵部隊を蹂躙し、また城壁内へ跳び上がる。
今のところジュベル側の損害は軽微、ゲラン軍は城壁の下に死体を積み上げている状況だ。
(早く探さないと・・・)
イツキの事が心配だ。
イツキを探して上空を旋回しているとライベル正面の門付近で巨大な火柱が上がった。
ゲラン軍の誰かが正面突破しようとしている。
城壁は巨大な岩石が組み合わされているのでかなり丈夫に出来ているが正面の門は一部木製、火には弱いかも知れない。
そこをめがけて誰かが火の魔法を打ち込んでいる。
その威力は遠目から見ても絶大だ。
ウルフのミサイルに近いほどの威力がある。
火柱は一度ならず二度三度と上がった。
セトがあわてて回り込むが、三度目の火柱が上がった後、城門は崩れ落ちた。
同時に歓声があがる。
「今だ、攻め込め~」
苦戦していたゲラン軍が一斉に正面城門を目指す。
一部が場内になだれ込んだ。
と、そこへレギラが降りてきた。
セトもそれに続く。
レギラは大きく息を吸い込み自分の胸を極限まで膨らませた。
そして雄叫びと共に息を大きく吐き出す。
雄叫びには魔力が乗っている。
「グォォオォォォォォォォォ~」
破れた城門から場内に乗り込もうとした一団が一斉にその場に倒れた。
倒れた数は100を上回るだろう。
レギラの雄叫びが収まると同時に巨大な火の玉がレギラを襲う。
刹那にセトがレギラの前に盾をかざす。
セトの盾の前に火の玉が四方へはじけ飛んだ。
「ちっ、化け物ぞろいだな。」
火の玉を打ち出した主、アキトがつぶやいた。
アキトが剣を抜き前に出ようとした時、アキトの肩に手をやり、ヘレナが言った。
「まだよ、アキトさん。貴方が強いのはわかっているけど、肉弾戦はまだ早いわ。貴方は少し休んで魔力を蓄えて。」
アキトは少し不満そうだがヘレナに従った。
「ああ、わかったよ。ヘレナさん。」
ヘレナは頷いた後、後方を見た。
ヘレナの後ろにはリュウヤ、イツキ、ツネオが居る。
「出番よ、リュウヤさん。華々しく散るも良し、敵将を討ち取り手柄を立てるも良しね。」
リュウヤが無言で前に出た時、更にヘレナが言った。
「あら、どうしたの、イツキさん、ツネオさん。リュウヤさん一人を行かせるつもり?貴方達仲間でしょ?」
リュウヤがヘレナを睨んだ。
「あら、怖い。約束したでしょ?リュウヤさん。私の言うことを聞くって。それにイツキもツネオもゲラン軍兵士、戦うのは当然よ。行きなさい。」
リュウヤが何か言い返そうとした時、イツキが敵陣向けて歩き始めた。
ヘレナの命令は絶対なのだ。
「クソ!」
リュウヤはイツキの後を追った。
ツネオもオロオロしながらリュウヤを追う。
アキトがリュウヤ達を目で追う。
「あーあ。あいつら死んじゃうね。ま、僕には関係ないけど。」
ヘレナがアキトを見る。
「死んだら死んだで、ちゃんと役に立ててあげるから大丈夫よ。」
ヘレナは手に持った革袋を上下させた。
革袋からジャラジャラと玉がぶつかる音がした。
「ヘレナさん。こないだから気になっていたけど。その球何です?」
「これは神石。簡単に言えば魔力の塊ね。使えば魔力の補給が出来るし、他にも使い道はいろいろとね。」
「そうなんですか。僕にも一つくださいよ。」
「いいわよ。沢山有るから。」
ヘレナは革袋から青い球を一つ取りだしてアキトに投げた。
アキトが球を受け取り意識を球に集中すると、球から青い光が出てアキトの体を覆った。
「うわー。これはいいわ。魔力補給だけじゃなくて。魔力総量の底上げにもなるんですね。」
ヘレナはにこりと頷いた。
「球の質にもよりますけどね。良い球は魔力総量の底上げにもなるし、魔力の質も向上させるわよ。」
「良い球って、どうやって採取するの?」
「そうねぇ例えば・・・今、死地に向かっているリュウヤさんの球とか・・ウフフ」
「そうか・・強い魔力の持ち主が死ねば、良い球が取れるんだね。ナルホド。」
イツキは最前線目指して歩き始めた。
その後をリュウヤとツネオが追う。
「イツキ!イツキ!待てよ。オイ。」
リュウヤの呼びかけにイツキが振り向くが止まらない。
止まれない。
「リュウヤ君。止まれないんだ。足が勝手に敵へ向かってしまう。」
イツキにはドレイモンの魔法がかかっている。
ヘレナに「敵と戦え」と命じられれば、死ぬとわかっていても戦ってしまう。
リュウヤにイツキを助ける義理は無いがリュウヤはあの時、決心していた。
(もう一度ツネオ達の仲間になろう。そして元の世界へ帰ろう。)
ツネオに脱走の誘いを受けた時、そう決心し、実際に行動した。
結局逃げることは出来なかったが、心はヘレナやアキトから離れていた。
レンが自分の胸を刺した時、レンから球が転げ落ちて、それをとっさに拾った。
レンはソウと連絡を取っていることを聞かされ、それがその連絡装置だと直感でわかったのだ。
そして装置を稼働させレンの側に落としてやった。
あの時からリュウヤは、もう一度ツネオを守ってやろう。
ツネオと共に同級生の仲間に戻ろうと思っていた。
だからイツキを見捨てることは出来なかった。
「イツキ、俺から離れるな。ツネオもだ。守ってやる。」
イツキがリュウヤに駆け寄る。
ツネオもリュウヤの後に付く。
「ありがとうリュウヤ君。」
「礼は助かった後だ。生きて日本へ帰るぞ。」
ツネオの目頭が熱くなった。
「リュウヤ・・・帰ろうね。」
「ああ、帰ろう。」
「うん。帰りたいです。」
リュウヤ達が生き延びるには敵を殺し、この戦争を勝利で終わらせるしか無い。
リュウヤは身体強化の加護で自己の戦闘能力を高めた。
壊れた城門目指して突撃する。
「うおぉぉぉ~」
リュウヤが雄叫びを上げながら突進する。
イツキもツネオもそれに続く。
城門まであとわずかという所でレギラのスキル『雄叫び』を浴びてしまう。
リュウヤは何とか耐えたが、イツキとツネオは雄叫びに吹き飛ばされ気を失った。
リュウヤは雑兵を倒しつつ敵将レギラまでたどり着いた。
(この敵を殺せば戦争が有利になる。生きて帰れるかも知れない・・)
リュウヤはそう思いながら剣を抜きレギラに突進する。
リュウヤが精神集中すると『身体強化』のスキルが発動した。
リュウヤの今の能力はソウの人狼Ⅱに匹敵するかも知れない。
身体強化の中でも俊敏性が極めて高くなった。
意識を集中すれば飛んでいるハエの羽ばたきが止まって見えるほどに。
リュウヤは加速して一気にレギラの懐に入る。
渾身の一撃をレギラの胸に突き刺したつもりだった。
しかしレギラは笑っている。
リュウヤの突き出した剣はレギラの拳で弾かれた。
レギラは道具など使っていない。
生身の拳で超高速の剣先を弾き返したのだ。
リュウヤの知覚は研ぎ済まされていて自分の剣が弾かれると同時にレギラの右拳が自分の腹部に迫っているのが見える。
見えてはいるがその拳に対処ができない。
レギラの拳が速すぎるのだ。
レギラの拳がゆっくりとリュウヤの体にめり込む。
リュウヤはまるでスローもションを見るように自分の腹部に突き刺さる拳を見ているが体はそれ以上、速く動くことができない。
かろうじて腹部に意識を集中して内臓を守ろうとしたが拳はめり込み肋が折れ、いくつかの臓器が破裂するのを感じた。
リュウヤはうすれゆく意識の中で思った。
(今度生まれ直したら、もっと素直になろう。仲間と楽しく過ごす人生を選ぼう・・)
リュウヤは乱暴者だが心の底には人をいたわる気持ちを持っていた。
ただそれを素直に表現する方法を知らなかった。
幼い時から不仲な両親を見て育ち、なまじ力があるばかりに他人と接する時には暴力で従わせることを先に覚えてしまったのだ。
それでも今はツネオとイツキをいたわる気持ちがリュウヤを動かした。
結果は自分より強い力を持つレギラに破れたが最後に友情という思いやりの心を示せたことに満足して、この世を離れることが出来そうだった。
レギラがリュウヤにとどめを刺そうとした時、銀色に輝く人狼がレギラの拳を受け止めた。
レギラが一歩、後ろに下がる。
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そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
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