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第五章 獣人国編
第140話 友達
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開戦前夜
俺はゲラン軍に紛れ込み、キノクニのアヤコに頼んで手紙と救命ボールをイツキ達に渡してもらった。
その日の深夜、イツキからの連絡が入った。
まだ何名かの同級生と連絡が取れないから、脱出は明日になりそうだとのこと。
そこで俺は部隊の近くでいつでも救出できるように待機することをイツキに伝えた。
明日には本格的な戦争がはじまる。
戦争前にヒナ達を救出したい。
深夜0時を回った今、俺はゲラン軍の野営地の上空、ソラで待機している。
ソラには俺とドルムさん。
地上にはエリカとガラクがウルフに乗って待機している。
俺一人で救出作戦を行うつもりだったが、そのことをドルムさんに話すとドルムさんに叱られた。「もっと仲間を信用しろ、また俺達に心配をかける気か」と、ドルムさんの言うとおりだ、もっと仲間を信用して助け合うべきなのだろう。
ソラの受信機は救命ボールの魔力通信を受信できるようマザーに頼んでセットしてある。
イツキに渡した救命ボールを誰かが使えば、ソラやウルフの受信機で受信できるはずだ。
深夜の2時頃になってソラのスピーカーに反応があった。
「ピコピコ!ピコピコ!」
救命ボールのスイッチが入った音だ。
「ソウ・・ソウはいるか?」
レンの声だ。
「おう。レン!レンだろ?」
「そうだ。他にヒナ、イツキと3組のヤマダ、ユキムラ、2組のハゼヤマ、ナガノがいる。」
俺とヒナ、レン、イツキは遭難当時2年1組、修学旅行には1組から3組までが同じ飛行機に乗っていた。
今レンが言った名前に聞き覚えはあるが顔は思い出せない。
「それと後、ツネオとリュウヤがもうすぐ合流するはずだ。」
以外だった。アキトとリュウヤは予定に無かったが、脱出する人選はレン達に任せたつもりだったのでアキト以外なら異存は無い。
「それで、俺達どうすればいいんだ?」
「簡単だ。全員集まったら人目に付かない所でもう一度無線を入れろ。位置はすぐわかるから。俺が飛行艇で迎えに行く。」
「飛行艇って、飛行機?飛行機持ってんの?ソウ。」
「ああ、持っているぞ。音のしない自家用のやつ。」
「すげーな。」
「ああ、でもそんなこといいから、早く移動しろ。」
「わかった。あ、ちょっと待てよ。」
「ソウちゃん・・・・」
ヒナの声だ。
俺はこの声を聞くことをどれだけ待ち望んだだろう。
飛行機が墜落してヒナを手助けして飛行機から脱出し、滝壺に落ちて奴隷になり、ブテラでヒナに誤解されたうえ、アキトに殺されかけ、キノクニやアウラ様に助けられた。
めぐりめぐってとうとうヒナに追いついた。
いや、まだだ、この手にヒナを抱きしめるまで安心するな。
俺は自分を戒めた。
「ヒナ。もうすぐだからな。もうすぐお前を迎えに行くからな。」
「ソウちゃん。・・・うん。迎えに来て。」
ヒナの声は鼻声だ。
泣いているのだろう。
(まっていろ、ヒナ)
俺はやる心を抑えて再度の連絡を待った。
「ピコピコ」
(来た!!)
ソラのモニターを見ると発信源はゲラン軍の部隊から少し西に外れた小高い山の麓だ。
ソラなら1分もかからない。
「ソウ。」
レンの声だ。
「レン、場所はわかった。すぐに行く。」
「ちょっと待って。」
「どうした?」
「ツネオと一度合流したけど、リュウヤを迎えに行くと言ったまま帰ってこないんだ。合流場所は伝えたから、もうすぐ来ると思うけど。」
「わかった。でも先にお前達だけでも救出する。すぐに行くから、まっていろ。」
「わか・・・あっ・・・・来るな!!ソウ来るな!!」
「どうした?レン。レン!!!おいレン!!」
レンからの応答が途切れた。
俺はレン達の方向へソラの機首を向けた。
視界に多数の松明が目に入った。
松明の数は数十、レン達がいるであろう場所を取り囲んでいる。
俺はソラに命じた。
「すぐに救難信号の場所まで・・。」
「待て、ソウ!!」
ドルムさんが俺の命令を遮った。
「なんで?ドルムさん。」
「これは罠だ。罠じゃないとしても間に合わない。ソウの友達を人質にされたら、俺達、特にソウは何もできなくなるぞ。」
言われてみればそうだ。
レン達の集合場所はレン達だけしかしらないはずだ。
その場所に多数の松明と言うことは、間違いなくこの計画が誰かに漏れている。
そして多数の人員を動かせるのは軍の上層部かアキトだ。
いずれにしても今からでは間に合わない。
戦闘力はこちらが上だろうが、レンやイツキ、ヒナ達を人質に取られたら、俺は一切手出しが出来ない。
ゲラニでアキトに襲われた時の二の舞だ。
「エリカ聞こえるか?」
「はい。ウルフで待機中です。」
「ドローンを飛ばして救命信号の出ているあたりを撮影してくれ。」
「了解しました。」
数十秒後に映像が映し出された。
ゲラン軍の正規兵が松明片手にレン達を取り囲んでいる。
その囲みの中に一騎の騎馬が入り込んだ。
アキトのようだ。
アキトの後ろにもう一騎。
片腕の無い宗教服を着た女。
その女の側には歩兵と将校がいる。
遠目ではっきりとはしないがその姿には見覚えがある。
リュウヤとツネオのコンビだ。
アキトが何かを話すとレン達は持っていた武器を捨てた。
アキトはレン達の周囲にファイヤーボールを打つ。
レン達の周囲は焼け野原になった。
レン達は次々に縛られていく。
ヒナも縛られた。
なぜかリュウヤとツネオは縛られもせず、アキトの後をついて行った。
そしてレン達は野営地へ連れ戻された。
(あと少しだったのに・・・もう少しだったのに。)
俺は血がでるほどに唇を噛みしめた。
レンがソウからの連絡を受けたその日、レンとイツキは動いた。
他の同級生も一緒に助け出すための連絡だ。
途中リュウヤに会ったが計画については話さなかった。
一緒に連れて逃げるかどうかはリュウヤの親友、ツネオに任せようということになった。
歩兵部隊のテントで食事を取っているツネオに会えた。
一度に集まると不審に思われるのでレンとイツキは二手に分かれて事情を説明して回った。
どうしても会えない同級生がいたが、同じ部隊の者に伝言を頼んだ。
レンとイツキはあらかじめ計画を立てていた。
脱出に賛同する者は明日、戦争前の深夜2時に寝床を抜け出して部隊の最後尾、キノクニキャラバンの馬車付近に集合する。
そして全員揃ったら目立たない場所に移動して救助を待つ。
それを各人に伝えて回ったのだ。
レンはツネオに質問した。
「それで、ツネオ。リュウヤをどうする?今はあんなだけど、お前友達だろ?」
ツネオは迷っていた。
リュウヤは昔からのいじめっ子で、ツネオはそのいじめから逃れるためにリュウヤの子分になっていたとも言える。
周囲からは仲の良い友達に見えていただろうがツネオのリュウヤに対する本心は嫌悪と恐怖だった。
それでもこの世界へ来てからリュウヤは何かとツネオの面倒を見てきた。
ツネオと違い身体的な加護が発達したリュウヤは兄貴分としてツネオを庇う場面が度々あったのだ。
それとツネオにはもう一つの心配事があった。
昔ソウを裏切った事だ。
ツネオがチョコレートを隠し持っていて、それを自分一人がこっそり食べていた。
それをソウに見つかった時、オオカマキリに襲われた。
ソウは身を挺してツネオを助けたが、ツネオは川に落ちたソウを見殺しにした。
ソウと合流すれば、その自分の卑怯な行いがばれてしまう。
もしソウと合流しても仲間はずれにされてしまうのは目に見えている。
このまま従軍すべきか恥を忍んでソウと合流すべきか。
リュウヤとの問題もさることながら、ツネオにとってはこっちの方が大問題だった。
明日には本当の戦争、殺し合いが始まる。
弱いツネオが生き残れる可能性は低い。
(死ぬまでは自分の思うように生きよう。)
ツネオは迷ったが結局答えは出た。
「リュウヤを誘ってソウに合流するよ。」
ツネオはリュウヤの事を恐れてはいたが、この世界に来てから少し考えが変わっていた。
リュウヤが時折見せる親友としての姿に感謝することが何度かあった。
もしかしたらリュウヤは自分のことを本当の友達だと思っているかも知れない。
その姿をもう一度信用してみることにしたのだ。
ソウのことも心から謝ろうと思った。
あの時、保身のために助けを呼ばなかったことをツネオは悔いていた。
激流に流されるソウの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
ソウが生きていると知って心からホッといたのを覚えている。
ツネオだってごく普通の高校生だったのだ。
性根から腐ってはいなかった。
「わかった。集合は深夜2時だ。リュウヤにも伝えてくれ。オイ」
「うん。」
ツネオはリュウヤの居る作戦指揮本部を訪ねた。
「リュウヤ少佐はおいでますでしょうか?」
番兵に取り次いでもらった。
リュウヤがテントから出てきた。
「何の用だ?明日は戦争だぞ。」
リュウヤの表情は険しい。
「ちょっと二人で話がしたいんだ。」
リュウヤはヘレナから親友だと思っていたツネオが本当はリュウヤのことを嫌っていると聞かされていた。
だからリュウヤからツネオに近づくことはしなかった。
それでもレンから、「お前が自らツネオの心を覗いたのか?」と言われ、そのことも気になっていた。
「めずらしいな。お前から会いに来るなんて。」
「今、会わないと一生後悔すると思ったから。」
「何だよ。大げさだな。明日の戦争のことか?そう簡単に死にはしないよ。」
「でも死ぬ可能性はある。」
「ま、そう言われればそうだが。」
「特に僕は弱いから真っ先に死ぬだろう。だからその前に言っておきたかったんだ。」
「何を?」
「今まで僕を守ってくれてありがとう。」
ツネオは本心でそう言った。
「何だよ急に。」
「本当のことを言うよ。僕はリュウヤが怖かった。小学校の頃、リュウヤに殴られて以来ずっと。でも最近は違うんだ。こっちへ来てからずっと僕のことを気にかけてくれただろう?旅をする途中、何度か僕を守ってくれた。僕のことを気にかけてくれた。だから・・だから・・・」
「もう言うな。こっぱずかしい。男のくせによう。」
リュウヤはツネオから視線をそらせた。
リュウヤの目は潤んでいた。
「そんなことを言いに来たのか?」
「いや、それだけじゃ無い。今夜僕は逃げる。死ぬ前に逃げようと思う。だからリュウヤも一緒に逃げよう。」
リュウヤは戦闘に自信があった。
だから戦争になっても自分だけは死なないと思っている。
「俺は逃げないぜ。逃げたきゃお前だけ逃げろ。もちろん黙っていてやるから。」
「僕はリュウヤと一緒に居たい。このままだと一生会えないかもしれないよ?」
リュウヤは悩んだ。
リュウヤの性格から友達と言える人間はツネオしかいない。
そのツネオも自分を裏切ったと思っていたが、必ずしもそうではなかった。
むしろツネオを裏切っていたのはリュウヤの方かもしれない。
それに先日ネリア村での惨劇を見て、つくづく人殺しが嫌になっていた。
アキトのように獣狩りだとはどうしても思えないのだ。
「少し時間をくれ。」
「わかった。あまり時間はないけど、最終的には深夜2時に部隊の最後尾で集合だから、遅れずに来て。」
ツネオはソウの事をあえて言わなかった。
リュウヤとソウは仲が悪い。
ソウの事は逃げてから言うべきだと思ったのだ。
「わかった。でも行くかどうかわからないぞ。」
「うん。待っている。」
リュウヤの表情が和らいだ。
俺はゲラン軍に紛れ込み、キノクニのアヤコに頼んで手紙と救命ボールをイツキ達に渡してもらった。
その日の深夜、イツキからの連絡が入った。
まだ何名かの同級生と連絡が取れないから、脱出は明日になりそうだとのこと。
そこで俺は部隊の近くでいつでも救出できるように待機することをイツキに伝えた。
明日には本格的な戦争がはじまる。
戦争前にヒナ達を救出したい。
深夜0時を回った今、俺はゲラン軍の野営地の上空、ソラで待機している。
ソラには俺とドルムさん。
地上にはエリカとガラクがウルフに乗って待機している。
俺一人で救出作戦を行うつもりだったが、そのことをドルムさんに話すとドルムさんに叱られた。「もっと仲間を信用しろ、また俺達に心配をかける気か」と、ドルムさんの言うとおりだ、もっと仲間を信用して助け合うべきなのだろう。
ソラの受信機は救命ボールの魔力通信を受信できるようマザーに頼んでセットしてある。
イツキに渡した救命ボールを誰かが使えば、ソラやウルフの受信機で受信できるはずだ。
深夜の2時頃になってソラのスピーカーに反応があった。
「ピコピコ!ピコピコ!」
救命ボールのスイッチが入った音だ。
「ソウ・・ソウはいるか?」
レンの声だ。
「おう。レン!レンだろ?」
「そうだ。他にヒナ、イツキと3組のヤマダ、ユキムラ、2組のハゼヤマ、ナガノがいる。」
俺とヒナ、レン、イツキは遭難当時2年1組、修学旅行には1組から3組までが同じ飛行機に乗っていた。
今レンが言った名前に聞き覚えはあるが顔は思い出せない。
「それと後、ツネオとリュウヤがもうすぐ合流するはずだ。」
以外だった。アキトとリュウヤは予定に無かったが、脱出する人選はレン達に任せたつもりだったのでアキト以外なら異存は無い。
「それで、俺達どうすればいいんだ?」
「簡単だ。全員集まったら人目に付かない所でもう一度無線を入れろ。位置はすぐわかるから。俺が飛行艇で迎えに行く。」
「飛行艇って、飛行機?飛行機持ってんの?ソウ。」
「ああ、持っているぞ。音のしない自家用のやつ。」
「すげーな。」
「ああ、でもそんなこといいから、早く移動しろ。」
「わかった。あ、ちょっと待てよ。」
「ソウちゃん・・・・」
ヒナの声だ。
俺はこの声を聞くことをどれだけ待ち望んだだろう。
飛行機が墜落してヒナを手助けして飛行機から脱出し、滝壺に落ちて奴隷になり、ブテラでヒナに誤解されたうえ、アキトに殺されかけ、キノクニやアウラ様に助けられた。
めぐりめぐってとうとうヒナに追いついた。
いや、まだだ、この手にヒナを抱きしめるまで安心するな。
俺は自分を戒めた。
「ヒナ。もうすぐだからな。もうすぐお前を迎えに行くからな。」
「ソウちゃん。・・・うん。迎えに来て。」
ヒナの声は鼻声だ。
泣いているのだろう。
(まっていろ、ヒナ)
俺はやる心を抑えて再度の連絡を待った。
「ピコピコ」
(来た!!)
ソラのモニターを見ると発信源はゲラン軍の部隊から少し西に外れた小高い山の麓だ。
ソラなら1分もかからない。
「ソウ。」
レンの声だ。
「レン、場所はわかった。すぐに行く。」
「ちょっと待って。」
「どうした?」
「ツネオと一度合流したけど、リュウヤを迎えに行くと言ったまま帰ってこないんだ。合流場所は伝えたから、もうすぐ来ると思うけど。」
「わかった。でも先にお前達だけでも救出する。すぐに行くから、まっていろ。」
「わか・・・あっ・・・・来るな!!ソウ来るな!!」
「どうした?レン。レン!!!おいレン!!」
レンからの応答が途切れた。
俺はレン達の方向へソラの機首を向けた。
視界に多数の松明が目に入った。
松明の数は数十、レン達がいるであろう場所を取り囲んでいる。
俺はソラに命じた。
「すぐに救難信号の場所まで・・。」
「待て、ソウ!!」
ドルムさんが俺の命令を遮った。
「なんで?ドルムさん。」
「これは罠だ。罠じゃないとしても間に合わない。ソウの友達を人質にされたら、俺達、特にソウは何もできなくなるぞ。」
言われてみればそうだ。
レン達の集合場所はレン達だけしかしらないはずだ。
その場所に多数の松明と言うことは、間違いなくこの計画が誰かに漏れている。
そして多数の人員を動かせるのは軍の上層部かアキトだ。
いずれにしても今からでは間に合わない。
戦闘力はこちらが上だろうが、レンやイツキ、ヒナ達を人質に取られたら、俺は一切手出しが出来ない。
ゲラニでアキトに襲われた時の二の舞だ。
「エリカ聞こえるか?」
「はい。ウルフで待機中です。」
「ドローンを飛ばして救命信号の出ているあたりを撮影してくれ。」
「了解しました。」
数十秒後に映像が映し出された。
ゲラン軍の正規兵が松明片手にレン達を取り囲んでいる。
その囲みの中に一騎の騎馬が入り込んだ。
アキトのようだ。
アキトの後ろにもう一騎。
片腕の無い宗教服を着た女。
その女の側には歩兵と将校がいる。
遠目ではっきりとはしないがその姿には見覚えがある。
リュウヤとツネオのコンビだ。
アキトが何かを話すとレン達は持っていた武器を捨てた。
アキトはレン達の周囲にファイヤーボールを打つ。
レン達の周囲は焼け野原になった。
レン達は次々に縛られていく。
ヒナも縛られた。
なぜかリュウヤとツネオは縛られもせず、アキトの後をついて行った。
そしてレン達は野営地へ連れ戻された。
(あと少しだったのに・・・もう少しだったのに。)
俺は血がでるほどに唇を噛みしめた。
レンがソウからの連絡を受けたその日、レンとイツキは動いた。
他の同級生も一緒に助け出すための連絡だ。
途中リュウヤに会ったが計画については話さなかった。
一緒に連れて逃げるかどうかはリュウヤの親友、ツネオに任せようということになった。
歩兵部隊のテントで食事を取っているツネオに会えた。
一度に集まると不審に思われるのでレンとイツキは二手に分かれて事情を説明して回った。
どうしても会えない同級生がいたが、同じ部隊の者に伝言を頼んだ。
レンとイツキはあらかじめ計画を立てていた。
脱出に賛同する者は明日、戦争前の深夜2時に寝床を抜け出して部隊の最後尾、キノクニキャラバンの馬車付近に集合する。
そして全員揃ったら目立たない場所に移動して救助を待つ。
それを各人に伝えて回ったのだ。
レンはツネオに質問した。
「それで、ツネオ。リュウヤをどうする?今はあんなだけど、お前友達だろ?」
ツネオは迷っていた。
リュウヤは昔からのいじめっ子で、ツネオはそのいじめから逃れるためにリュウヤの子分になっていたとも言える。
周囲からは仲の良い友達に見えていただろうがツネオのリュウヤに対する本心は嫌悪と恐怖だった。
それでもこの世界へ来てからリュウヤは何かとツネオの面倒を見てきた。
ツネオと違い身体的な加護が発達したリュウヤは兄貴分としてツネオを庇う場面が度々あったのだ。
それとツネオにはもう一つの心配事があった。
昔ソウを裏切った事だ。
ツネオがチョコレートを隠し持っていて、それを自分一人がこっそり食べていた。
それをソウに見つかった時、オオカマキリに襲われた。
ソウは身を挺してツネオを助けたが、ツネオは川に落ちたソウを見殺しにした。
ソウと合流すれば、その自分の卑怯な行いがばれてしまう。
もしソウと合流しても仲間はずれにされてしまうのは目に見えている。
このまま従軍すべきか恥を忍んでソウと合流すべきか。
リュウヤとの問題もさることながら、ツネオにとってはこっちの方が大問題だった。
明日には本当の戦争、殺し合いが始まる。
弱いツネオが生き残れる可能性は低い。
(死ぬまでは自分の思うように生きよう。)
ツネオは迷ったが結局答えは出た。
「リュウヤを誘ってソウに合流するよ。」
ツネオはリュウヤの事を恐れてはいたが、この世界に来てから少し考えが変わっていた。
リュウヤが時折見せる親友としての姿に感謝することが何度かあった。
もしかしたらリュウヤは自分のことを本当の友達だと思っているかも知れない。
その姿をもう一度信用してみることにしたのだ。
ソウのことも心から謝ろうと思った。
あの時、保身のために助けを呼ばなかったことをツネオは悔いていた。
激流に流されるソウの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
ソウが生きていると知って心からホッといたのを覚えている。
ツネオだってごく普通の高校生だったのだ。
性根から腐ってはいなかった。
「わかった。集合は深夜2時だ。リュウヤにも伝えてくれ。オイ」
「うん。」
ツネオはリュウヤの居る作戦指揮本部を訪ねた。
「リュウヤ少佐はおいでますでしょうか?」
番兵に取り次いでもらった。
リュウヤがテントから出てきた。
「何の用だ?明日は戦争だぞ。」
リュウヤの表情は険しい。
「ちょっと二人で話がしたいんだ。」
リュウヤはヘレナから親友だと思っていたツネオが本当はリュウヤのことを嫌っていると聞かされていた。
だからリュウヤからツネオに近づくことはしなかった。
それでもレンから、「お前が自らツネオの心を覗いたのか?」と言われ、そのことも気になっていた。
「めずらしいな。お前から会いに来るなんて。」
「今、会わないと一生後悔すると思ったから。」
「何だよ。大げさだな。明日の戦争のことか?そう簡単に死にはしないよ。」
「でも死ぬ可能性はある。」
「ま、そう言われればそうだが。」
「特に僕は弱いから真っ先に死ぬだろう。だからその前に言っておきたかったんだ。」
「何を?」
「今まで僕を守ってくれてありがとう。」
ツネオは本心でそう言った。
「何だよ急に。」
「本当のことを言うよ。僕はリュウヤが怖かった。小学校の頃、リュウヤに殴られて以来ずっと。でも最近は違うんだ。こっちへ来てからずっと僕のことを気にかけてくれただろう?旅をする途中、何度か僕を守ってくれた。僕のことを気にかけてくれた。だから・・だから・・・」
「もう言うな。こっぱずかしい。男のくせによう。」
リュウヤはツネオから視線をそらせた。
リュウヤの目は潤んでいた。
「そんなことを言いに来たのか?」
「いや、それだけじゃ無い。今夜僕は逃げる。死ぬ前に逃げようと思う。だからリュウヤも一緒に逃げよう。」
リュウヤは戦闘に自信があった。
だから戦争になっても自分だけは死なないと思っている。
「俺は逃げないぜ。逃げたきゃお前だけ逃げろ。もちろん黙っていてやるから。」
「僕はリュウヤと一緒に居たい。このままだと一生会えないかもしれないよ?」
リュウヤは悩んだ。
リュウヤの性格から友達と言える人間はツネオしかいない。
そのツネオも自分を裏切ったと思っていたが、必ずしもそうではなかった。
むしろツネオを裏切っていたのはリュウヤの方かもしれない。
それに先日ネリア村での惨劇を見て、つくづく人殺しが嫌になっていた。
アキトのように獣狩りだとはどうしても思えないのだ。
「少し時間をくれ。」
「わかった。あまり時間はないけど、最終的には深夜2時に部隊の最後尾で集合だから、遅れずに来て。」
ツネオはソウの事をあえて言わなかった。
リュウヤとソウは仲が悪い。
ソウの事は逃げてから言うべきだと思ったのだ。
「わかった。でも行くかどうかわからないぞ。」
「うん。待っている。」
リュウヤの表情が和らいだ。
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