異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第138話 救命ボール

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ゲラン軍とジュベル軍、衝突まで後二日。
俺はライベルの子供達を避難させるべく大神村へ来ていた。
しかし大神村は、もう村とは呼べなかった。

最初は地べたに100軒ほどのキューブを並べていただけだったが、ここ数日、俺が居ない間に村は様変わりしていた。

道路は舗装されていて脇には水路があり、キューブが整然と並んでいることに加え、いつの間にか10階建てのビルが複数建ち並んでいる。

街の中央には広場があり、噴水まで設置されている。
まるで日本の地方都市のようだ。

そして何より驚いたのが街を取り囲むように高さ5メートル程の擁壁が設置されているのだ。

擁壁の上には蜘蛛型ロボットが巡回している。
外敵から擁壁内の住民を守っているようだ。

まるで要塞都市。
大神村ではなくて、大神シティになっている。

「こ、これは?」

ロダンさん達が驚いている。
驚くのもあたりまえだ。
設置者の俺自身が驚いているのだから。

ゲートを出てすぐの広場に難民を受け入れるためのテントが設置されている。
そこにはテルマさん、ブルナ、ピンター、リンダ、ドランゴさんが忙しく働いていた。

テルマさんが俺達を見つけた。

「いらっしゃいませ。」

「ああ・・・ただいま。テルマさん。」

テルマさんは俺の驚きようを見て嬉しそうだ。

「驚きました?」

「ああ、驚いた。」

「ドランゴさん。すごいんですよ。たった数日で、この村をこんなにしました。」

ドランゴさんはニコニコしている。

「いやー。ワッシは考えただけで、実際はこのリンダさんがやったでがすよ。この人はすごいんでがす。ワッシの考えを全て実現してくださりやした。」

リンダは無表情で答えた。

『セキュリティを主なテーマとして第二要塞都市計画をモデルに設置しました。他にご要望があれば何なりとお申し付け下さい。』

第二要塞都市が何なのかは知らないが、これなら正規軍や魔獣が攻めてきても大丈夫だろう。

「建物はわかるけど、擁壁は?必要でしたか?」

それにはピンターが答えた。

「うん。野生のトラや大蛇、その他にも魔獣がけっこういたんだ。だから塀を造ろうとしたらリンダさんが、あっという間に。」

ここは草原だ。
野生の動物や魔獣がいてもおかしくない。

「このビル・・いや、大きな建物は?」

ブルナが答えた。

「ソウ様の連絡で、人が増えるとのことでしたので、リンダさんに相談したら多人数を一度に収容するならこれが良いって。」

目の前にあるのは10階建てのマンションだ。
マンションの中へ入ってみた。

エレベーターもある。
魔力が動力だろう

一階は多目的ホール、今は身寄りの無い老人や子供の食堂になっている。
複数人が食事をしている。


ホール横には厨房があって、何人かの老婆が調理をしている。
食材は俺がキノクニから調達していた。

二階から上は住居になっていて広さの違う部屋が一階につき8戸ある。
そのうちの一戸にはいってみると、台所、トイレ、シャワールーム、ベッドが標準装備になっているようで、もちろん上下水道も完備されている。

俺が昔住んでいた日本の家より立派だ。
避難施設と言うよりは観光地のホテルのようだ。

「こりゃー、我が家より立派だによ。戦争がおわったらオラも住んでみたいだで。」

「んだなす。わてもここに住みたいでぶよ。」

レンヤとシゲルがため息をついている。
ロダンさんも驚いてばかりであまり口を開かない。

「どうです。ロダンさん。安心しましたか?」

「あ、あっ・・安心したというか何というか、・・・ソウ様にはいつも驚かされます。」

俺も少し驚いているんだが・・

「ところで、ここの食料やその他の生活用品はどうなされるので?」

「今のところ、俺の私財で賄っていますが、いずれは自給自足してもらうつもりです。草原を切り開いて農耕をするもよし、牧畜や狩りをするだけでも生活には困らないはずです。」

「本当にそれでよろしいのですか?私は商人、これだけの村、いや都市を運営するのにどれだけ莫大な資産が必要か、およそ想像できます。ソウ様一人にそれを負担させて良いものかどうか。出来ますれば商工会としてもお役に立ちたいです。」

俺の私財と言ってもアウラ様から戴いた財宝を使っているだけなんだけど・・
それでも援助の申し出は素直に受けたい。

「それならば、当面ライベルとここをゲートでつなぎますから、住民に必要な生活用品の手配をお願い出来ますか?そうしていただければ助かります。それと身寄りの無い年寄りや子供達の面倒を見てくださる方も手配していただきたいです。ライベルの住人だけで無く他の人族も居ますので、必要経費は必ず請求して下さい。」

ロダンさんは笑顔で答えた。

「お安いご用です。さっそく手配いたします。しかし経費はいただけませんよ。」

「何を言っているのですか。貴方は商人でしょう?慈善事業じゃないんだ。長く続けていくために必ず利益を出して下さい。そうでなければ信用しませんよ。」

「そうですね。おっしゃることわかります。何事にも運転資金は必要。商人としてお付き合いさせていただきます。ところで、ソウ様はここに滞在なさるんですか?」

「いや俺は他の用事があるので、ここを留守にしますが、ここにはガラク他、何人かの俺の仲間が残りますので、その者達と相談してください。」

「わかりました。ソウ様には重ね重ねお慈悲をいただき、ライベルの街を代表してお礼申しあげます。本当にありがとうございます。」

ロダンさんは深々と頭を下げた。

これでライベルの心配事は解決した。
次は戦争間近のヒナ達の救出だ。


俺はライベルへ戻り行軍中のヒナ達の様子を伺うことにした。

「ドルムさん。ちょっと偵察に行きます。ここを任せますよ。」

「おお、それは良いけど一人で大丈夫か?」

「偵察するだけですから大丈夫です。」

ガラクが心配そうにこちらを見ている。

「ガラク、大丈夫だって。いざとなったら遠話でドルムさんを呼ぶから、お前もきてくれればいいさ。」

「うむ。地上ならついて行くんだがな。飛んでいくんだろ?」

ガラクは飛行機酔いする。
俺は笑いながら答えた。

「ああ。」

俺はウルフをドルムさんに預けた。

「じゃ、後は頼みます。」

「気をつけてな。」
「いってこい。」

俺はソラに乗ってライベルを後にした。
ゲラン軍はライベルまで徒歩二日の距離にいるがソラで飛べば10分ほどでゲラン軍上空まで行くことが出来る。

『ソラ、地上からお前を認識出来る高度はどの程度だ?』

『肉眼なら100メートル程ですが、ステルスフォルムに変更すれば20~30メートル程でも発見されにくいです。』

『わかった。では今後ステルスフォルムで飛行しろ。』

『了解しました。』

ライベルを出発して10分ほどでゲラン軍の隊列が見えた。
隊列の上空30メートル程からヒナ達を探したがソラの望遠鏡でも発見できなかった。
ゲラン軍の隊列は先頭に騎馬兵、続いて歩兵、最後に馬車隊の順で進軍している。
最後尾の馬車に〇にキの字の旗が見える。
キノクニのキャラバン隊だ。

キノクニキャラバンの先頭馬車、つまり隊長馬車は「キンタ」だ、その後ろに続く馬車にも見覚えがある。

「アヤコ」だ。

俺はキンタともアヤコとも仲が良い。
キンタは俺がブンザさんの元で副隊長をしていた時、同じブンザ隊の副隊長をしていた。
アヤコは当時ブンザさんの伝令係をしていたが、今は一つの馬車を任される分隊長になっているようだ。

ゲラン隊を上空から追尾していたところ野営の準備を始めた。
俺は隊列から少し離れたところに着陸し、キノクニの法被を着て部隊に接近した。

兵士達は野営準備の為、忙しく働いている。
俺はヒナとレン、それにイツキを見つけることができれば集合時間を決めて一度に脱出ささようと思っていた。

もちろん、ヒナ、レン、イツキを最優先にするが、この部隊にはこの3人の他にもツネオやリュウヤ、アキト、その他5名くらいの同級生がいるはずだ。

アキトは論外だが、リュウヤやツネオ、その他の生徒も脱出を希望すれば救い出そうと思っている。
だから、まずは連絡方法を確立しなければならない。

キノクニの法被を着てヒナ達を探していたところ、俺の頭に警戒警報が鳴った。
万が一の為にと、薄く広く伸ばしていた魔力の触手の一部に神族特有の魔力反応があった。

(まずい。)

魔力反応は大きなものでは無かったが人族や獣人とは異なる反応、以前にヘレナやエレイナから感じた反応によく似ている。

ヘレナ本人では無いようだが神族ならば俺の存在に気がつくかも知れない。
俺はそれ以上進むのを止めて後方へ下がった。

ヒナやレン達と直接連絡を取るのは難しいようなので別の方法を取ることにした。
俺はキノクニのキャラバンである人を探した。
その人はすぐに見つかった。

「アヤコ」

「ひゃい。」

アヤコが振り向いた。
振り向くと同時に猛ダッシュで俺に近づき抱きついた。

「シンさまぁぁぁ・・・」

アヤコと抱き合いたいとは思わなかったが、子犬のように俺の事を慕ってくる子をむげにも出来なかった。

「元気だったか?アヤコ」

「はい。おかげさまで。お目にかかりたかったですぅウェヘヘ」

アヤコは可愛いしよい子なのだが、この笑い方がどうにも・・・

アヤコの腰には立派な剣がぶら下がっている。
俺は視線をアヤコの腰に向ける。

「まだ持ってくれているんだね。」

「勿論ですぅ。シン様から戴いた雷鳴剣、片時も離しません。」

寝る時は、どうするんだろ?

「ところで、アヤコ少し尋ねたい。」

「なんですぅ?」

「この部隊にヒナ、レン、イツキという俺の同郷の者が居るはずなんだが知らないか?」

「ヒナさんという方、レンさんという方は知りませんが、イツキさんと言う方なら先日お目にかかりました。すぐ先の補給部隊においでます。」

「そうか。何の用事で会ったの?」

「キンタ隊長からの命令で手紙を届けたんです。誰からの手紙か知りませんが、封鑞はブテラ候のものでした。」

ブテラ候、俺達が奴隷として働いていたブテラの領主だ。
ということは領主の娘レイシアからの手紙だろう。

「アヤコ、頼みがある。」

アヤコは笑顔で答えた。

「なんなりと、どうぞ。ウェヘヘ」

「今から手紙を書くから、それをイツキに渡してくれないか?」

「お安いご用です。」

「ありがとう。アヤコ。」

「いえいえ、シン様の為ならなんでもいたします。」

俺はその場で手紙を書いてアヤコに渡した。

「これをイツキに渡して。イツキ以外の者に絶対に見せないでくれ。それと・・」

俺はマジッグバックから野球のボールくらいの球を取りだしアヤコに渡した。

「これは?」

「これは助けを呼ぶ球だ。アヤコやキノクニの誰かが危なくなったら球の上にある窪みを思い切り押せ。そうすればお前達が危ないと言うことが俺にだけわかる仕組みになっている。イツキにも渡して欲しい。」

ここは戦場だ。
いつ何時危機がせまるかわからない。
キノクニにはいつも迷惑をかけている、今もアヤコを巻き込もうとしている。
せめてアヤコ達が危機に陥った時、助けられるなら助けたいのだ。

「わかりました。ありがとうございます。雷鳴剣と共に家宝にします。」

「礼を言うのはこちらだ。頼んだぞ。」

「はい。」

これでイツキ達と連絡が取れるはずだ。

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