異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第136話 避難の準備

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ついにゲラン国とジュベル国の戦争の火蓋が切られた。

今までにも国境付近の小競り合いはあったが、今回の戦争は宣戦布告がなされての国対国の全面戦争だ。

どちらかが敗北を宣言するか全滅するまで争いは収まらない。
もしかすると両者が敗北、つまりゲラン国、ジュベル国共に滅びるかも知れない。

なぜならこの大きな争いの後ろで糸を引いているのがヒュドラ教なのだ。
ヒュドラ教の明確な意思は見えないが、俺にはヒュドラ教が戦禍をより大きく、犠牲者をより多くだそうとしているとしか見えないのだ。

ネリア村の蹂躙、セプタの殲滅、オラベルでの毒水事件、いずれをとってもゲラン、ジュベル両国の利益にはならない。

誰かが意図して火に油をそそいでいるとしか見えないのだ。
俺は今「ソラ」に乗ってゲラン軍の進軍状況を偵察している。

ジュベル国の味方をしようとは思っていない。
今眼下には蟻の行列のようなゲラン国軍の隊列が見える。
この中にイツキ、レン、そしてヒナがいるはずだ。

おれは大きな戦闘になる前にイツキ達を救出しようと思っている。

「こりゃ、大軍だな。およそ3万っていうところか?」

助手席のドルムさんがつぶやく。



「そうですね。3万は下らないでしょう。これがすべてライベルへ向かっています。まずはライベルを落として橋頭堡を築くつもりなんでしょう。」


「だとするとレンヤやシゲル一家も危ないな。」

ライベルには、ひょんな事から知り合った獣人が多く住んでいる。
水銀中毒を治療する過程で知り合った人ばかりだ。

その中でもネリア村から道案内をしてくれたライチやライチの伯父レンヤ一家、その隣家のシゲル一家とは親しい間柄だ。

ライチはピンターの友達でもある。
それに俺がライベルにいる間、いろいろと面倒を見てくれた商工会議所の会長や、俺が治療をした住民、兵士、貴族、沢山の人が今、戦争の脅威にさらされている。

兵士や貴族は、ある程度の覚悟は出来ているだろうし、セプタを襲ったという過去もあるから、さほど感情移入はしないが、レンヤ達平民やスラムの子供達には助かって欲しい。

「で、どうすんだ?」

「そうですね。兵士達はさておいて、平民や子供達に希望者がいれば、避難させようと思います。」

「大神村か?」

「他に無いでしょう。」

俺はアウラ様の許可を得てアウラ神殿近くの草原に避難村を作っている。
その村の管理は仲間に任せているが、その村の呼び名がいつのまにか「オオカミ村」となっていた。

大きな神と俺のオオカミを掛け合わせたような名前だ。
俺はけっこう気に入っている。

「でも勝手に住民を移すと、それこそジュベルとの戦争にならないか?」

「あくまでも避難で、落ち着けば元に戻すから大丈夫でしょう。現にネリア村の300人はライジンに話したけど、何の文句も言わなかったでしょ?ガラクどう思う。」

後部座席のガラクの顔が少し青い。

「ん?なんだって?」

飛行機酔いのようだ。

「いや、なんでもない。もうすぐ降りるから辛抱しろ。」

「ああ、・・・乗るんじゃ無かった。ふぅ・・・」



ゲラン軍はライベルまで3日の位置までせまっている。
避難させるなら、もう行動を開始しなければならない。

俺達はライベルの外れスラム街近くにソラを着陸させた。

「まずは身近な者から説得しよう。」

「そうだな。レンヤ一家、シゲル一家だな。」

レンヤの家に到着する前に、スラム街の子供達に見つかった。

「「ソウ様だ。ソウ様だ。」」

俺は、前回、スラムの子供達のほとんどを治療した。
治療しただけでなく、自費で劣悪な生活環境を改善し少しでも病による死者が出ないように努力した。

炊き出しもその活動の一つだ。
飢える者にとって食事を提供されることは、大きな出来事だ。
子供達は俺の事を覚えていた。

子供達をひきつれレンヤの家に到着する頃、俺の周りは数十人の人だかりができていた。
外の騒がしさに気がついたレンヤとライチが出てきた。

「「ソウ様。」」
ライチは少し背が伸びたような気がする。

「ライチ、元気だったか?」

「はい。元気です。他の従兄弟達もソウ様に治療してもらったおかげで皆、元気でやってます。」

レンヤの子はライチにとっての従兄弟になる。
レンヤがまとわりつく子供をあしらいながら近づいてきた。

「ソウ様、ようこそ。今日は何事で?」

立ち話で済ませることが出来るような要件では無い。

「レンヤさん。中で話せる?」

「ああ、もちろん、もちろん。さぁさ、どうぞどうぞ。」

レンヤの家に入るのは久しぶりだ。

中にはいるとシゲル一家も居た。
ちょうどいい。

「これはソウさま。お久しぶりでぶ。」

「ああ、久しぶりだね。シゲルさん。」

「今日は何事でぶか?」

「それを今から話すところだ。」

避難の話をしようと思ったが、子供達が俺達を取り囲んで、もつれ合うので話も出来ない。
かといって追い出すのも可愛そうだ。

俺はマジックバッグから缶に入ったオレンジジュースとテルマさんお手製のあんパンをテーブルに並べた。

「食べて良いよ。喧嘩せずに分け合うんだよ。」

「「「「「うわぁぁぁ」」」」」

レンヤの子供とシゲルの子供、それにその友達あわせて10人くらいがいるが、奪い合いをすることもなく、レンヤの長男の指示にしたがって順番にパンとジュースを受け取っている。

人族の間では「獣人は子供の頃から野蛮で人を殺す。」という噂があるが、そんな噂をしている奴らに今の光景を見せてやりたい。

「食べたら、お外で遊んでくるといいだによ。」

レンヤが気を利かせる。
レンヤの居間は大人だけになった。

「やっと静かになったな。」

「すみませんだによ。子供達が騒がしくて。」

ガラクが笑う。

「それが子供達の仕事さ。」

ドルムさんがガラクを見てニヤリとする。

「お?ガラク回復したか?」

「ああ、おかげでな。もう二度と空は飛ばんぞ。」

シゲルがぎょっとしている。

「ガラク様、空を飛べるんでぶか?」

「俺の力じゃ無い。ソウの力だ。」

俺の力でも無いけどね。

ガラクがそういうとなぜだかシゲルは納得したようだ。

「それで、本題だが、あと3日でライベルは戦場になる。」

「「「え?」」」

レンヤ夫婦、シゲル夫婦が驚いてる。

「戦場って?ゲランとの戦争でぶか?」

「そうだよ。城からは何の指示も出ていないのか?」

「城からは何のお達しもきてないだによ。戦争はまだ先のことで、それも国境近くでおこなわれると聞いていただによ。あと3日だなんて、そんな。」

俺はガラクを見た。

「俺が守備隊に居た時は毎日、偵察を出していたが、今はなぜか、それをしていないようだな。宣戦布告があっているのに。なんてことだ。」

ヌーレイは代官だが戦争に関しては素人のようでサルディア将軍に任せきりのようだ。
そのサルディアも名ばかりの将軍で、やがて応援に来るライジンを頼りにしているらしい。

「さっき、見てきたが、あと3日の距離にゲラン軍3万がせまっている。ここが戦場になることは間違いない。」

「そんな、ここが戦場になるなら、子供達や年寄りはどうなるだにか?えらいこっちゃ。」

「そうだぶ。えらいことでぶよ。」

レンヤとシゲルが慈悲を乞うような目で俺を見る。

「そこで、俺が来たと言うことだ。」

「ソウ様が戦ってくれるだにか?」

「そうだぶか?」

「いや、俺は戦わない。人族側にも俺と親しい者はいる。だが、お前達が逃げるのなら、それを手伝おうと思う。どうだ?」

レンヤとシゲルは見合ったいる。

「そりゃ、戦争からは逃げたいだにが・・」

「そうだぶが・・・」

レンヤとシゲルはなぜだか口ごもる。
レンヤとシゲルに代わってガラクが口を開いた。

「ソウ、ここライベルでは戦争時、特別徴用がかかる。つまり敵が攻めてくることがわかると13歳から70歳までの男は兵士として徴用される。逃げることが許されないんだ。だから逃げるなら徴用令が発令されていない今しかないな。」

「そうなのか。レンヤさん。シゲルさん。どうする?」

レンヤとシゲルは顔を見合わせた。

「オラは弱いけど逃げないだによ。ここはオラの生まれ育った土地だによ。それを奪い取ろうとする者がいるなら、戦うしか無いだに。妻と子供を守りたいずら。」

「わても怖いけど逃げるわけにいかないでぶ。でも子供達だけでもなんとか逃がしたいで。」

レンヤもシゲルも故郷を守りたいという意思は強いようだ。

「ソウ様、勝手なお願いなんだども、戦争の間、子供達を預ってくれないだにか?子供達は戦禍に巻き込みたくないだによ。人は子供まで殺したり奴隷にしたりするらしいから、それがとても心配だがに。」

レンヤの妻もシゲル夫婦も頷く。

「もちろん、そのつもりで来たんだ。レンヤさんとシゲルさんはここに残るとしても、奥さんと子供達は避難させた方が良い。」

「そんで、どこへ避難させるでぶか?」

「大神村、俺の村だ。」

「ソウ様がお作りになった村でぶか?」

「そうだよ。」

レンヤ達は安堵の表情を浮かべた。

「他に避難したい者がいれば、あと何百人かは余裕がある。知り合いに声をかけるといい。成人男性は別にして老人や女子供は俺が面倒見ると約束しよう。」

「商工会長と相談してきますだに。」

「わかった。あまり時間は無い。避難したい者は明日の朝、商工会館に集めて欲しい。」

レンヤとシゲルは、すぐに家を出て商工会館へ向かった。

ガラクが俺に向く。

「ソウ、敵が迫っている事を城へ伝えたいが良いか?」

ガラクも元の部下達のことが心配なのだろう。

「いいよ。それは良いけど、ガラクはどうすんの?」

ガラクはクビになったとはいえ、元々この街の守備隊長だ。

「俺も戦いたいと一時は思った。しかし今俺は平民。俺一人の力は微々たるものだ。剣をとって戦うよりも、ソウの手伝いをして多くの弱者を避難させることに力を使うよ。いいか?」

「もちろん歓迎だ。」

ドルムさんがガラクの肩をポンポンと叩いた。

翌朝、商工会館へ行ってみると、すでに大勢の人が集まっていた。
数百人どころではない。
数千人はいるだろう。

俺が姿を現すと

「「「「「ソウ様」」」」

と歓声が沸き起こる。
中には地べたに伏して拝む老人もいる。

俺はここライベルで多くの病人を救った。
その記憶はまだ新しいのだろう。

商工会館へ入ると会長のロダンさんが出迎えてくれた。

「これは、ソウさまいらっしゃいませ。過日はひとかたならぬお世話になりました。改めてお礼申しあげます。」

「おはようございます。ロダンさん。堅苦しい挨拶は抜きにして本題に入りましょう。」

「はい。レンヤ達から聞きました。ゲラン軍が間近に迫っているとのことで。」

「ええ、そうです。ゲラン正規軍3万があと二日の距離まで迫っています。ネリアからここまでの主な集落は既に落ちています。」

「それは真で?」

「この目で見てきたし、生き残りを私が収容しましたので、間違いないです。」

「わかりました。流行病につづき再びあなた様に甘えてしまいます。お許しください。」

「許すも何も。俺が勝手に押しかけてきたんだ。気にしないでください。」

ガラクが話に割り込む。

「気にするなソウは太っ腹だ。俺も甘えっぱなしさ。ハハ」

「ガラク様。お久しぶりです。」

「おう。ロダンも元気そうで何よりだ。」

「それでは早速、避難を始めよう。」

「ええ、お願いします。」

その時、商工会館の外で待機している群衆が騒ぎ始めた。

(何だ?)
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