異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第135話 同級生

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ゲラン国とジュベル国の本格的な戦闘が始まるまで、あと数日。

ゲラン国はセプタに集結させていた主力部隊を出陣させた。
ゲラン国軍の兵力、約3万。

主力は騎馬隊と騎馬隊を後方支援する魔法隊だ。
更にその後方に歩兵隊、補給部隊、看護部隊、指揮部隊が続く。

その先頭の騎馬隊に東洋人風の顔立ちをした将校が二人居る。
二人はこの世界の人間には理解できない言葉で話していた。
日本語だ。

「なぁアキト。」

「なに?」

「なんで、俺達ここにいるんだろうな。あの飛行機にのっていなけりゃ。今頃学校で楽しく部活でもしていたのに。」

「何をいまさら。リュウヤ君。怖いの?」

「怖くはないさ、でも、これから俺達、殺し合いに行くんだよな。」

アキトは苦笑いをした。

「あたりまえでしょ。戦争なんだから。いや。戦争と言うよりは狩りだね。ゲームゲーム。獣を殺すのに何もためらうことないでしょ。そうだ。どっちが多く狩るか競争しない?」

リュウヤは嫌な顔をした。

「やだよ。あいつら二本足で歩くし。言葉はわからないけど泣きながら何か言うんだぜ。キモいわ。」

「そういや、こないだの猫耳達、殺す前、泣いて手を合わせていたね。俺も猫殺すのは少しためらったよ。でも、それ、今の俺達のお仕事だからね。わすれちゃ駄目よ。」

「わかっているよ。俺達が生きるために獣を殺す。そのことはわかっているけど。・・」

「わかっているけど・・・何よ?」

「何かを殺さなくても自分たちが生きていく方法があったんじゃないかと・・・たとえばソウのように。」

「何いってんの。ソウだってダニクさんを殺したじゃないの。それに俺達めちゃくちゃ強いんだから、いいじゃないの。弱肉強食っていうでしょ。この世界じゃ弱いことは罪なんですよ。」

アキトは今の生活が気に入っていた。
この場に居る誰よりも強く、自分に逆らう者は誰も居ない。
生徒会長という正義の味方を演じる必要も無く、ただただ自分の思い通りに振る舞えば、自然と活路が開ける。

自分の力を思う存分振るうことが今の立場では正義になるのだ。
敵は獣、多く殺せば多く殺すほど賞賛される。

アキトにとってこれほど好ましい環境はなかった。
ただ一つ残念なのは周囲に女性が居ないことだ。

自分の意のままになる女性が存在しないことだ。
その分の欲求が暴力へとはけ口を求めているきらいがある。

「アキトさん。リュウヤさん。」

先頭の二人に一騎の騎馬が追いついた。
その騎馬に乗る者は片腕が無い。
アキトが声の主に振り向く。

「ヘレナさん。怪我の具合はいかがですか?」

「おかげさまで、ずいぶんと良くなりました。ヒナさんの治癒能力はすごいですよ。」

「そうですね。あの時は死にかけていましたものね。よくここまで回復されましたね。」


ソウがブルナを救出したあの日、ヘレナは奴隷兵少女の松明の合図でブルナ救出にやってきたソウの存在に気がついた。

(ソウ・ホンダが来たようね)

ヘレナはこの時を予想してブルナや他の奴隷少女の体にトラップを仕掛けていた。
ブルナがソウを認識する為に、ソウは素顔で現れるに違いない。
だから、その時にトラップが発動するようブルナにドレイモンの暗示をかけておいた。

「ソウ・ホンダが素顔で現れた時に、この筒をソウ・ホンダの背中に宛てなさい。この命令は誰にも言っては駄目。」

同じような命令をブルナの側に居る奴隷少女全員にかけてサソリの刺を渡した。
ただ、ヘレナは欲をかいて失敗した。

(出来るならば、ソウ・ホンダを生け捕りにしたい。)

と思ったことだ。

それはヒナの『蘇生』スキル発芽の為だった。
ヒナの治癒スキルは『再生』まで育っている。
最終的には死者をも蘇らせる神話級の加護『蘇生』まで成長させたかった。
ヒナの「蘇生」が発芽するための大きな条件が、家族か親しい人、愛する人の死を面前にすることだ。

ヒナが愛する人や家族の死を面前にすれば、その人の蘇生を強く願うに違いない。
それこそが蘇生発芽の条件だと思えるのだ。

ヘレナはヒナの心を度々覗いていた。
そしてソウを想うヒナの心がソウのことを「親しい人、家族のような人」から「愛する人」に変化してきたのを知っていた。

だからソウを生け捕りにしてヒナの面前で殺せばヒナの『蘇生』発芽に大きく影響を与えるだろうと思ったのだ。

だからブルナに渡した武器は「即死」を促す武器では無く「行動不能」を促す物にしたのだ。
あのイリヤを行動不能にしたように。

だが結局、エリカという不確定要素によってソウは手に入らなかった。
さらに深追いをしたせいでウルフのミサイルを受けてしまい。
瀕死の重傷を負ってしまったのだ。

味方の兵士に救出され、看護兵の居るセプタまで運ばれる間、ヘレナは何度も死の淵をさまよった。

セプタでは宮中医師のラナガがヘレナの容態を見たが、一目見ただけで自分の手には負えないと理解した。
ヘレナは全身に火傷を負い、複数箇所が骨折していた。
一番酷いのは左腕で肘から先は欠損していた。
生きているのが不思議なほどだ。

ラナガはすぐに自分の部下を呼びにやった。
現れたのはヒナだった。

ヒナは軍服姿では無く、医療従事者が着る白色の作業着だった。
ヒナは顔色も良く健康そうだ。

「ヒナ君、この患者を診てくれ。私の手には負えないようだ。」

ヒナはベッドに横たわる患者の顔を見て驚いた。
かつて自分を軍事裁判で死刑にしようとした女、ヘレナだとすぐに理解した。
ヒナはヘレナのことを憎んでいた。

軍事裁判にかけられたことはヒナにも非があるので仕方ないとしても、ヘレナがソウを殺人狂という極悪人に仕立て上げ、そのソウを捕縛するためにヒナを利用したことがどうしても許せなかったのだ。


ヘレナの状態は、一目見ただけで瀕死の重傷だと理解できた。
ほんの一瞬ヒナは躊躇した。

「どうしたヒナ君?」

ラナガの声で現実に引き戻された。

「あ、はい。すみません。集中します。」

ヒナは目を閉じて精神を集中した。
ヒナの体全体がほのかに青く輝き始めた。
その光はヒナの体全体を覆い、ヒナが両手をヘレナにかざすと光がヒナからヘレナへとゆっくり流れ込んだ。

ヘレナの出血は止まり、骨折も治癒されたようだがケロイドと左手の欠損部分は復元しなかった。

「ヒナ君。どこか調子が悪いのかい?」

ラナガはヒナの治療を毎日見ている。
いつものヒナならば火傷の跡など造作も無く回復させ皮膚を再生させるのに、今回は怪我の治癒に留まったのだ。

「すみません、ラナガ先生。体調を整えてから、もう一度治療にあたります。」

「うん。そうだね。少し休むと良い。幸い患者の命はとりとめたから、後は私達で処置しておくよ。」

「はい。ありがとうございます。」

ヒナに同僚のリナルが近づいた。

「ヒナさん、どこか調子悪いの?いつもより治癒の光が薄かったわ。」

「いえ。どこも悪くないわ。でもなんだか気分が優れないの。疲れているのかも知れないわね。」

ヒナは不調の理由を十分理解している。
不調の原因は憎しみだ。
しかし、そのことは誰にも知られたくない。
ヒナは人を憎むことは醜いことだと思っているからだ。

たとえそれがソウの宿敵であっても憎むことは恥ずかしいことだし、いけないことだと思ってしまう。
それがヒナの本質なのだ。

それは慈愛の心に繋がる。

その時ヒナの心には魔力の触手が伸びていた。

(これが治癒能力の根源なのかもしれないわね・・・)

魔力の触手をたどればヘレナに行き着く。



ゲラン軍の部隊最後方には補給部隊が居る。
部隊の一部は軍人だが、殆どは平民だ。

多くの者はキノクニの制服を着ている。
軍に徴用されたキノクニのキャラバンのようだ。

キノクニの制服を着た者が軍服の男に呼びかける。

「イツキ様、イツキ・スギシタ様はおいでませんか?」

補給部隊の中から二人の男が振り向いた。

「イツキ、呼んでるぞ。」

「何だろう?」

イツキがキノクニの作業員に近づく。

「イツキは僕ですが、何か?」

作業員はバッグから封筒を取り出した。
封筒には鑞で封印がされている。

「私はキノクニキャラバンのアヤコと申します。とある方からお手紙を預かりました。あなた様はイツキ様に相違ございませんでしょうか?」

イツキはゲラン軍歩兵としての身分を示す金属製の認識票をアヤコに見せた。

「失礼いたしました。イツキ様、確認いたしました。それではこれをどうぞ。」

アヤコは一通の手紙を受け取った。
鑞の封印にはブテラの刻印がある。
レイシアだ。

「ありがとうございました。」

「いえいえ、これも仕事ですから。それではこれで、ご武運を」

アヤコは軍隊式の礼をして立ち去った。

「彼女からか?」

「うん。」

イツキとレイシアは文通をしている。
イツキはその場で封筒を開いた。

「なんて書いてある?」

手紙にはレイシアがイツキを慕っている事が少女らしい文体で長々と書かれているが、それをレンにひけらかすほど、イツキは野暮じゃない。

「うん。レイシアさんは元気だそうだ。キヨちゃん達も修道院で平和にくらしているって。」

「そうか、ウタも元気かな?」

「何も書いていないけど、ウタに何かあれば知らせてくれるはずだよ。きっと。」

「だよな。」

「レン君、気になる?」

「何が?」

「ウタのこと」

イツキはニヤリと笑う。

「何笑ってんだ。このヤロウ。『恋愛経験豊富です。』みたいな面でよ。オイ!」

「いや、そんなつもりは無いけど。前から知ってましたよ。えへへ。」

「そうだけど。誰にも言うなよ。以前、ソウに生きて帰ったら好きな人に告白するみたいなこと言ったら怒られた。」

「どうして?」

「それ巨大なフラグだって。」

「確かに。あはは。」

レンとイツキの笑い声に呼び寄せられるように二騎の騎馬が近づいてきた。

「楽しそうだな。おい。戦争は楽しいか?」

リュウヤだ。

「ホント楽しそうですね。レイシアさんからの手紙でも届きましたか?」

アキトが薄ら笑いを浮かべる。

「誰から手紙が届こうが、お前達には関係ないだろ。」

レンが二人を睨む。

「ところが関係あるんですよ。私は移転組の代表格で中佐です。貴方達に対して、いわゆる監督責任というものがあります。戦場で色恋沙汰は部隊の指揮を落とします。その手紙は没収します。」

イツキはレイシアからの手紙を後ろ手に回した。

「おい。軍の命令にさからうのか?反逆するのか?」

リュウヤが騎馬から降りた。

「アキト、リュウヤ、なんで、そんな嫌がらせをする。俺達同級生じゃ無いか。助け合おうぜ。オイ」

アキトも騎馬から降りた。

「嫌がらせじゃ無いですよ。軍の規律を守ろうとしているだけです。前みたいに生徒会長として言っていませんよ。ゲラン軍中佐として二等陸士のイツキ君に命じているのです。さぁ渡しなさい。」

イツキは手紙を渡すこと無く自分の口に入れて飲み込もうとしたが、手紙を頬張った途端、アキトの鉄拳が飛んできた。

イツキは勢いよく後ろに倒れて後頭部を地面に打ち付けて気絶した。

「あーあ、汚いな。」

アキトがイツキの口から手紙を取り出し、イツキの衣服で唾液を拭った。

「何しやがる!!コノヤロウ。」

レンがアキトに掴みかかろうとしたが、リュウヤがレンを羽交い締めにした。

アキトがレンを睨む。

「確かに、元同級生です。だからこの程度で済ませてあげますよ。」

アキトは騎馬に乗って、その場を離れた。

リュウヤも騎馬に乗ろうとしている。

「リュウヤ、どうしちまったんだ?お前、それほどの悪人だったか?」

リュウヤは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

「俺は何も変わっていない。お前達の事を知らなかっただけだ。」

リュウヤはツネオの顔を思い出していた。

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