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第五章 獣人国編
第134話 ルチアの行方 開戦間近
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難民達の世話をした後、キューブで食事をしていたところ、オラベルで待機していたガラクが現れた。
「ライジンが戻ってきたぞ。」
ライジンは誘拐されたルチア達を追って隣国ラーシャへ行っていたが、そのライジンが帰還したという。
「ルチアは?」
俺は真っ先にルチアの安否を確認したかった。
しかしガラクは首を横に振った。
「いなかったのか?どうなったんだ?」
「俺からの説明よりもライジンに直接会った方が早いだろう。ともかく一度、オラベルへ戻ってくれ。」
夕食の途中だったが、俺はオラベルへ戻ることにした。
「俺も行くぞ。」
ドルムさんも付いて来た。
キューブ地下室のゲートをオラベルのゲートへチャンネルに合わせた。
ゲートをくぐるとオラベルの宿屋に出る。
「ライジンはどこにいるんだ?」
「今は自宅に居るはずだ。さっき王宮への報告を済ませたとセトから聞いた。まずは詰め所へ行ってセトに会おう。」
「わかった。」
俺とドルムさん、ガラクは歩いて宮殿近くにあるジュベル国軍の警備詰め所へ行った。
詰め所の前には竜人族の門番がいる。
ガラクが門番に名乗った。
「ガラクと言う。セト大隊長に面会したい。」
ほどなくセトが現れた。
セトは俺達を見た。
「今、馬車を用意する。ライジン将軍宅へ案内するよ。」
ガラクが答える。
「ああ、頼む。」
セトの表情は暗い。
あまりよくない結果だったのだろう。
馬車の中で俺がセトに質問した。
「お前の知っていることを全部話してくれ。」
ライジンが嘘を言うとも思えないが、ライジンから話を聞く前に少しでも情報を収集しておきたかった。
セトが重い口を開いた。
「俺が知っているのは、ルチア様達は見つからなかったということだけだ。・・・後はライジン様に聞いてくれ。」
セトの応えはありきたりだが韻を含んでいた。
想像以上の悪い結果があるのかもしれない。
馬車が高級住宅街へ入り、一際大きな屋敷の前で止まった。
あらかじめゲランで仕入れていた情報では、オラベルは汚い獣の巣が集まった集落で、そこに獣の王が生肉をかじりながら人族を迫害しているということだったが、この住宅街はゲラニの上級貴族の屋敷より清潔で豪華に見える。
やはり人の噂というのはあてにならない。
ライジン将軍の屋敷は高級住宅街の中心部にありレンガと漆喰で作られた3階建ての建物だ。
敷地は広く、入り口の門から正面玄関まで100メートルはありそうだ。
門番にセトが何かを言うと鉄の門扉が開き、石畳が玄関まで続いていた。
石畳を通り、ロータリーの途中で馬車が止まると執事らしき者が出迎えた。
「いらっしゃいませ。」
正面玄関入り口、左右3名ずつ並んだ執事が一斉に頭を下げた。
俺がセトに話しかけた。
「ライジンって金持ちなんだな。」
セトは困った顔をした。
「ここでライジン様を呼び捨てにしないでくれ。せめてライジン将軍と呼んでくれ。」
まぁここはセトの顔を立ててやろう。
「わかりました。三大英雄のセト様。」
セトはますます嫌な顔をした。
執事の案内で豪華な敷物の上をあるき、書斎らしき場所へ案内されたが、ライジンは居なかった。
「しばらくお待ちくださりますようお願い申し上げます。ただ今主人を呼びします故。」
俺は勝手に豪華なソファーにドスンと腰をかけた。
「ちょっと行儀が悪くないか?」
ガラクがつぶやく。
俺はルチアが戻って居ればセトにだってライジンにだって丁寧に接し厚く感謝の意を告げただろう。
しかし、ここにルチアは居ない。
「少しばかり不機嫌だが。許せ。ガラクに他意はないんだ。」
「わかっている。」
執事がドアと出ると同時に猫耳のメイドが茶らしきものを持って来た。
良い香りがするコーヒーだろうか?
出された飲み物を口に近づけると懐かしいコーヒーの匂いが鼻をくすぐる。
一口に飲んですぐわかった。
本物のコーヒーだ。
「コーヒーか・・」
セトが俺の言葉に反応した。
「ほう、この飲み物を知っているのか。」
「ああ、この国でなんて呼ぶか知らないが、俺達の国ではこの飲み物を『コーヒー』という。」
「そうか。ここいらではこの飲み物を『カピ』という。ラーシャ国の特産品だ。」
久しぶりのコーヒーを味わって少し心が落ち着いた。
コーヒーには鎮静作用があるのだろう。
コーヒーカップをテーブルに置いた時、ドアが開き、豹頭の獣人が入室した。
ライジン将軍だ。
ライジンは俺の正面に腰掛けた。
「久しぶりだな。ソウ。」
「ああ、久しぶりだ。ライジン」
俺とライジンはお互いの目を見て少しの間沈黙した。
にらみ合いに近いが、喧嘩の前哨戦ではない。
お互いに心の内を読み合っているような形だ。
その姿勢のまま数秒するとライジンが
「ふぅ・・・・」
と一息ついて腰を深く下ろした。
「ソウ。お前、何があった?」
「何があったとは?」
「お前、本当にソウなのか?前に会ったとき時とは別人だ。・・・見かけは同じだが中身は違う人だ。」
ライジンは俺の心の内に宿った『神の種』に気づいたのかも知れない。
神の種は日に日に生長している。
「何も変わってはいない。人はそれぞれ成長するものだ。」
「まぁいい。長年生きていると、目を見ただけである程度は、その人となりや強さがわかる。お前には何の隠し事も出来ないようだな。」
ライジンが何をもってそのようなことを言っているのかわからないが、もしライジンが嘘や誤魔化しを言っても、俺はおそらく、それを見破るだろう。
その自信はある。
「ああ、正直に話せ。」
ドルムさん、セト、ガラクが俺達二人を見守っている。
「まず結論から先に言おう。ルチア様達はさらわれた。さらったのは、おそらくヒュドラ教。手を尽くしたが、行く先は未だ不明だ。」
「ラーシャには居ないのか?」
「ラーシャ国がヒュドラ教と手を組んでいるようだ。ラーシャ国内に捕らわれている可能性は高い。だがおいそれとジュベルの王族を手放したりしないだろう。」
その後何度か応答を繰り返しライジンの話す内容が理解できた。
まず今回ルチア達をさらったのは、ブラックドラゴンを操る「エレイナ」だ。
このことは前後の状況から間違いないだろう。
そもそもエレイナは獅子王の弟「レギラ」がラーシャ国から借り受けて来た奴隷だそうだ。
ラーシャ国には昔から魔獣使いというスキルを持つ者が存在していた。
ラーシャ国からの申し出で今ゲランと戦闘状態にあるジュベルにとって喉から手が出るほど欲しい戦力、ブラックドラゴンをドラゴン使いの「エレイナ」ごと、借り受けたというのだ。
エレイナにはドレイモンが施されていて当初はライジン他数名の幹部の命令通り動いていた。
ところがセプタでの停戦交渉が終わると同時に命令権者の意に反して、セプタを壊滅させ、ルチア達をさらって姿をくらましたというのだ。
「ドレイモンを自ら解除することはできないはず。誰か策略を練っている者がいるかもしれぬ。」
ライジンがつぶやいた。
「何言ってんだ?ライジン」
「何をとは?」
「ドレイモンなんて、魔力の高い者なら簡単にはずせるぜ?」
ゲランでもそうだったが、ここジュベル国でもドレイモンは反抗不能な神の加護と位置づけられているようだ。
「そうなのか?俺は未だかつて自分でドレイモンを解除した者など見たことがない。」
「目の前にいるぞ。」
「お前は奴隷だったのか?」
セトも驚いている。
「ああ、元、ヒュドラの奴隷だ。自らの力で解除した。」
「しかし、ラーシャ国の人間に、それほどの魔力を持つ者がいるとは思えない。」
「何いってんだ?エレイナは神族だぜ。」
俺は以前、エレイナに鑑定スキルを使われたことがあるが、その時の魔力波形をしっかり覚えている。
あれは間違いなく「神族」の魔力波形だ。
しかもエリカに大怪我を負わせた「ヘレナ」のものにかなり近い波形だ。
エレイナはヘレナの家族か、それに近い同族なのだろう。
「やはりそうなのか。ラーシャ国は神族と手を組み、俺達とゲランを争うように仕向けているのか。」
「ああ、そうだよ。まずジュベル国ネリア村を宣教部隊が襲い、その報復でジュベル国がセプタを襲う。停戦が決まりそうになるとブラックドラゴンを使ってセプタを殲滅し開戦を促す。そしてジュベル国の急所ともなりえるルチア達、王族をさらった。これが大筋だろうな。」
「ラーシャ国でルチア様達を探すため、エレイナとブラックドラゴンを追跡した。その際ラーシャの王室に連絡を取ったがけんもほろろに扱われた。『ジュベル国は貸与したドラゴンを失ったばかりかラーシャ国を疑うのか。それならば再度戦争だな。開戦と言うことでよいのだな。』と、まったく話にならなかったよ。」
「誰が言った?」
「ラーシャ国王だ。」
ライジンの話では、ラーシャ国は独裁政権で一握りの王族が実権を握り、多くの国民から搾取している。
国民の半分近くは農奴で過酷な労働を強いられている。
兵士の多くは奴隷兵で使い捨てされているそうだ。
ただラーシャ国は強い。
なぜならば昔から魔物使いという天性のスキルを持った者が多く生まれる土地柄で、ラーシャ国の戦力の殆どが魔獣使いの能力による魔獣だそうだ。
昔キノクニキャラバンがサソリや蛇の大群に襲われたことがあるが、あれが人為的に起こせるとすれば、その戦力は相当なものだろう。
ましてやドラゴンまで使えるとなれば並大抵の戦力ではおぼつかない。
「ラーシャ国は強気だ。前回の戦争は獅子王様自ら先頭に立たれ、前ラーシャ国王の首を取ったことでなんとか停戦まで待ち込めたが、その恨みを今の国王は忘れていないだろう。いずれ機を見て襲いかかってくるはずだ。」
これで、だいたいの事情は飲み込めた。
おそらく今回のゲランとジュベルの戦争は、最初からヒュドラ教によって計画されたいたものだろう。
戦争の目的がどこにあるのかは知らないがセプタやネリアが壊滅したのもライベルに毒がまかれたのも全てヒュドラ教の画策によるものだ。
俺がライジンに向かって言った。
「それで、これからどうするんだ?」
「もちろん王族の捜索は続ける。しかしまもなく開戦だ。俺は軍を率いて前線へ行く。国境の守りを固める。」
「そのことだが、既にネリア村周辺は襲われた後だぞ。誰一人残っていない。」
「ああ、ライベルからの報告が来ている。人間どもめ・・・一人残らず殺すとは。」
「全員殺されたわけじゃない。一部は俺が保護している。」
セトとガラクが驚いている。
「一部って?」
「300人くらいだ。安全な場所に居る。食料も十分ある。」
「どこで?なんの為にお前が?」
「場所は言わない。残った難民は俺の知り合いだからだ。ただそれだけだ。」
翌日ライジンはジュベル国軍2万を率いて出陣した。
戦争を止めるべく努力はするが「国民を守るため。」という大義を抱えたライジンを止め立てする言葉は見つからなかった。
「ライジンが戻ってきたぞ。」
ライジンは誘拐されたルチア達を追って隣国ラーシャへ行っていたが、そのライジンが帰還したという。
「ルチアは?」
俺は真っ先にルチアの安否を確認したかった。
しかしガラクは首を横に振った。
「いなかったのか?どうなったんだ?」
「俺からの説明よりもライジンに直接会った方が早いだろう。ともかく一度、オラベルへ戻ってくれ。」
夕食の途中だったが、俺はオラベルへ戻ることにした。
「俺も行くぞ。」
ドルムさんも付いて来た。
キューブ地下室のゲートをオラベルのゲートへチャンネルに合わせた。
ゲートをくぐるとオラベルの宿屋に出る。
「ライジンはどこにいるんだ?」
「今は自宅に居るはずだ。さっき王宮への報告を済ませたとセトから聞いた。まずは詰め所へ行ってセトに会おう。」
「わかった。」
俺とドルムさん、ガラクは歩いて宮殿近くにあるジュベル国軍の警備詰め所へ行った。
詰め所の前には竜人族の門番がいる。
ガラクが門番に名乗った。
「ガラクと言う。セト大隊長に面会したい。」
ほどなくセトが現れた。
セトは俺達を見た。
「今、馬車を用意する。ライジン将軍宅へ案内するよ。」
ガラクが答える。
「ああ、頼む。」
セトの表情は暗い。
あまりよくない結果だったのだろう。
馬車の中で俺がセトに質問した。
「お前の知っていることを全部話してくれ。」
ライジンが嘘を言うとも思えないが、ライジンから話を聞く前に少しでも情報を収集しておきたかった。
セトが重い口を開いた。
「俺が知っているのは、ルチア様達は見つからなかったということだけだ。・・・後はライジン様に聞いてくれ。」
セトの応えはありきたりだが韻を含んでいた。
想像以上の悪い結果があるのかもしれない。
馬車が高級住宅街へ入り、一際大きな屋敷の前で止まった。
あらかじめゲランで仕入れていた情報では、オラベルは汚い獣の巣が集まった集落で、そこに獣の王が生肉をかじりながら人族を迫害しているということだったが、この住宅街はゲラニの上級貴族の屋敷より清潔で豪華に見える。
やはり人の噂というのはあてにならない。
ライジン将軍の屋敷は高級住宅街の中心部にありレンガと漆喰で作られた3階建ての建物だ。
敷地は広く、入り口の門から正面玄関まで100メートルはありそうだ。
門番にセトが何かを言うと鉄の門扉が開き、石畳が玄関まで続いていた。
石畳を通り、ロータリーの途中で馬車が止まると執事らしき者が出迎えた。
「いらっしゃいませ。」
正面玄関入り口、左右3名ずつ並んだ執事が一斉に頭を下げた。
俺がセトに話しかけた。
「ライジンって金持ちなんだな。」
セトは困った顔をした。
「ここでライジン様を呼び捨てにしないでくれ。せめてライジン将軍と呼んでくれ。」
まぁここはセトの顔を立ててやろう。
「わかりました。三大英雄のセト様。」
セトはますます嫌な顔をした。
執事の案内で豪華な敷物の上をあるき、書斎らしき場所へ案内されたが、ライジンは居なかった。
「しばらくお待ちくださりますようお願い申し上げます。ただ今主人を呼びします故。」
俺は勝手に豪華なソファーにドスンと腰をかけた。
「ちょっと行儀が悪くないか?」
ガラクがつぶやく。
俺はルチアが戻って居ればセトにだってライジンにだって丁寧に接し厚く感謝の意を告げただろう。
しかし、ここにルチアは居ない。
「少しばかり不機嫌だが。許せ。ガラクに他意はないんだ。」
「わかっている。」
執事がドアと出ると同時に猫耳のメイドが茶らしきものを持って来た。
良い香りがするコーヒーだろうか?
出された飲み物を口に近づけると懐かしいコーヒーの匂いが鼻をくすぐる。
一口に飲んですぐわかった。
本物のコーヒーだ。
「コーヒーか・・」
セトが俺の言葉に反応した。
「ほう、この飲み物を知っているのか。」
「ああ、この国でなんて呼ぶか知らないが、俺達の国ではこの飲み物を『コーヒー』という。」
「そうか。ここいらではこの飲み物を『カピ』という。ラーシャ国の特産品だ。」
久しぶりのコーヒーを味わって少し心が落ち着いた。
コーヒーには鎮静作用があるのだろう。
コーヒーカップをテーブルに置いた時、ドアが開き、豹頭の獣人が入室した。
ライジン将軍だ。
ライジンは俺の正面に腰掛けた。
「久しぶりだな。ソウ。」
「ああ、久しぶりだ。ライジン」
俺とライジンはお互いの目を見て少しの間沈黙した。
にらみ合いに近いが、喧嘩の前哨戦ではない。
お互いに心の内を読み合っているような形だ。
その姿勢のまま数秒するとライジンが
「ふぅ・・・・」
と一息ついて腰を深く下ろした。
「ソウ。お前、何があった?」
「何があったとは?」
「お前、本当にソウなのか?前に会ったとき時とは別人だ。・・・見かけは同じだが中身は違う人だ。」
ライジンは俺の心の内に宿った『神の種』に気づいたのかも知れない。
神の種は日に日に生長している。
「何も変わってはいない。人はそれぞれ成長するものだ。」
「まぁいい。長年生きていると、目を見ただけである程度は、その人となりや強さがわかる。お前には何の隠し事も出来ないようだな。」
ライジンが何をもってそのようなことを言っているのかわからないが、もしライジンが嘘や誤魔化しを言っても、俺はおそらく、それを見破るだろう。
その自信はある。
「ああ、正直に話せ。」
ドルムさん、セト、ガラクが俺達二人を見守っている。
「まず結論から先に言おう。ルチア様達はさらわれた。さらったのは、おそらくヒュドラ教。手を尽くしたが、行く先は未だ不明だ。」
「ラーシャには居ないのか?」
「ラーシャ国がヒュドラ教と手を組んでいるようだ。ラーシャ国内に捕らわれている可能性は高い。だがおいそれとジュベルの王族を手放したりしないだろう。」
その後何度か応答を繰り返しライジンの話す内容が理解できた。
まず今回ルチア達をさらったのは、ブラックドラゴンを操る「エレイナ」だ。
このことは前後の状況から間違いないだろう。
そもそもエレイナは獅子王の弟「レギラ」がラーシャ国から借り受けて来た奴隷だそうだ。
ラーシャ国には昔から魔獣使いというスキルを持つ者が存在していた。
ラーシャ国からの申し出で今ゲランと戦闘状態にあるジュベルにとって喉から手が出るほど欲しい戦力、ブラックドラゴンをドラゴン使いの「エレイナ」ごと、借り受けたというのだ。
エレイナにはドレイモンが施されていて当初はライジン他数名の幹部の命令通り動いていた。
ところがセプタでの停戦交渉が終わると同時に命令権者の意に反して、セプタを壊滅させ、ルチア達をさらって姿をくらましたというのだ。
「ドレイモンを自ら解除することはできないはず。誰か策略を練っている者がいるかもしれぬ。」
ライジンがつぶやいた。
「何言ってんだ?ライジン」
「何をとは?」
「ドレイモンなんて、魔力の高い者なら簡単にはずせるぜ?」
ゲランでもそうだったが、ここジュベル国でもドレイモンは反抗不能な神の加護と位置づけられているようだ。
「そうなのか?俺は未だかつて自分でドレイモンを解除した者など見たことがない。」
「目の前にいるぞ。」
「お前は奴隷だったのか?」
セトも驚いている。
「ああ、元、ヒュドラの奴隷だ。自らの力で解除した。」
「しかし、ラーシャ国の人間に、それほどの魔力を持つ者がいるとは思えない。」
「何いってんだ?エレイナは神族だぜ。」
俺は以前、エレイナに鑑定スキルを使われたことがあるが、その時の魔力波形をしっかり覚えている。
あれは間違いなく「神族」の魔力波形だ。
しかもエリカに大怪我を負わせた「ヘレナ」のものにかなり近い波形だ。
エレイナはヘレナの家族か、それに近い同族なのだろう。
「やはりそうなのか。ラーシャ国は神族と手を組み、俺達とゲランを争うように仕向けているのか。」
「ああ、そうだよ。まずジュベル国ネリア村を宣教部隊が襲い、その報復でジュベル国がセプタを襲う。停戦が決まりそうになるとブラックドラゴンを使ってセプタを殲滅し開戦を促す。そしてジュベル国の急所ともなりえるルチア達、王族をさらった。これが大筋だろうな。」
「ラーシャ国でルチア様達を探すため、エレイナとブラックドラゴンを追跡した。その際ラーシャの王室に連絡を取ったがけんもほろろに扱われた。『ジュベル国は貸与したドラゴンを失ったばかりかラーシャ国を疑うのか。それならば再度戦争だな。開戦と言うことでよいのだな。』と、まったく話にならなかったよ。」
「誰が言った?」
「ラーシャ国王だ。」
ライジンの話では、ラーシャ国は独裁政権で一握りの王族が実権を握り、多くの国民から搾取している。
国民の半分近くは農奴で過酷な労働を強いられている。
兵士の多くは奴隷兵で使い捨てされているそうだ。
ただラーシャ国は強い。
なぜならば昔から魔物使いという天性のスキルを持った者が多く生まれる土地柄で、ラーシャ国の戦力の殆どが魔獣使いの能力による魔獣だそうだ。
昔キノクニキャラバンがサソリや蛇の大群に襲われたことがあるが、あれが人為的に起こせるとすれば、その戦力は相当なものだろう。
ましてやドラゴンまで使えるとなれば並大抵の戦力ではおぼつかない。
「ラーシャ国は強気だ。前回の戦争は獅子王様自ら先頭に立たれ、前ラーシャ国王の首を取ったことでなんとか停戦まで待ち込めたが、その恨みを今の国王は忘れていないだろう。いずれ機を見て襲いかかってくるはずだ。」
これで、だいたいの事情は飲み込めた。
おそらく今回のゲランとジュベルの戦争は、最初からヒュドラ教によって計画されたいたものだろう。
戦争の目的がどこにあるのかは知らないがセプタやネリアが壊滅したのもライベルに毒がまかれたのも全てヒュドラ教の画策によるものだ。
俺がライジンに向かって言った。
「それで、これからどうするんだ?」
「もちろん王族の捜索は続ける。しかしまもなく開戦だ。俺は軍を率いて前線へ行く。国境の守りを固める。」
「そのことだが、既にネリア村周辺は襲われた後だぞ。誰一人残っていない。」
「ああ、ライベルからの報告が来ている。人間どもめ・・・一人残らず殺すとは。」
「全員殺されたわけじゃない。一部は俺が保護している。」
セトとガラクが驚いている。
「一部って?」
「300人くらいだ。安全な場所に居る。食料も十分ある。」
「どこで?なんの為にお前が?」
「場所は言わない。残った難民は俺の知り合いだからだ。ただそれだけだ。」
翌日ライジンはジュベル国軍2万を率いて出陣した。
戦争を止めるべく努力はするが「国民を守るため。」という大義を抱えたライジンを止め立てする言葉は見つからなかった。
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