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第五章 獣人国編
第127話 お帰りブルナ 神様は居た。
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バルチでブルナを救出しようとして意識不明になったソウ。
ソウをキューブで手術中だが手術は予想以上に困難だった。
通常の怪我では無くソウの体内に人工物があり、その人工物は意思があるかのように体外排出を拒んでいた。
術者は人狼族の血を持つピンターだ。
『電撃による異物の活動停止を試みます。実行しますか?』
ピンターは困って周囲の大人の反応を待った。
「やる以外にないな・・・」
ドルムが反応した。
異を唱える者はいない。
「メディさん。やって。できるだけソウ兄ちゃんを傷つけないで。」
『実行します。イリヤ様は患者の背骨に集中してヒールをかけ続けて下さい。』
「わかったわ。」
全員が固唾をのんで見守る。
チュン!!
一瞬、メディの義手先から青い光がスパークした。
球の触手が動かなくなった。
メディが球をつまみ上げたが、球の触手は何の抵抗も見せず5センチほどの触手4本は垂れ下がったままだ。
『術式成功、バイタル安定、体内の毒素浄化までの所要時間およそ5分、その間のヒール補助を推奨します。』
ピンターがドルムに抱きつく。
ドルムはピンターの頭をなでる。
エリカはその場に座り込んだ。
ドランゴとテルマは手を取り合って笑顔を見せている。
イリヤも笑顔でヒールをし続けている。
「ほんま、世話のやけるやっちゃで。汗かいたわ。目が覚めたら救助費用ふんだくったろう。」
アウラも笑顔になった。
ドルムがピンターの頭をなでながら座り込んでいるエリカに目を向けた。
「ところで、エリカさん。状況を教えてくれないか?どうしてこうなった?」
ドルムの質問にかぶせるようにピンターが言った。
「ねぇちゃんは?」
エリカは、ゆっくり立ち上がり、それまでの経緯をかいつまんで話した。
ピンターの表情が曇る。
「え?それじゃソウ兄ちゃんを殺しかけたのはブルナねぇちゃんなの?」
エリカは頷いた。
「おそらく、ドレイモンだな。ピンター、俺達もドレイモンかけられていただろ?働きたくないのに働かされ、逃げたいのに逃げられなかった。あれと同じ術がブルナにかかっているんだよ。」
「それにしても術者は酷いやっちゃな。ブルナはソウにとっては家族やろ。その家族に刃をむけさせるとはの。」
イリヤがヒールをかけながら頷いた。
「そうよね。無視できない命令とはいえ、ブルナさんの心には大きな傷が残るかも知れないわね。」
神の助けを待つブルナ、やっと助けに来た神を殺そうとしたのだ。
ブルナの心が壊れてもおかしくない。
「それでブルナねぇちゃんはどうなったの?」
ピンターの表情は暗い。
「大丈夫だ。今はウルフの中で眠っている。」
ドルムのその言葉を聞いてかけ出そうとするピンター。
ドルムはあわててピンターの腕を掴んだ。
「まて、ピンター。お前のねぇちゃんは、まだドレイモンにかかったままだ。どんな命令が隠れているかもしれない。ソウが元気になってドレイモンを解除するまで近づくな。」
「でも・・」
テルマがピンターの前に立つ。
「もうちょっとの辛抱よ。ピンターちゃん。一年以上も耐えてきたんだから、あと数分、頑張りましょう。ね。」
「そうでやんすよ。もう少し、もう少しの辛抱でやすよ。師匠が目覚めるまで頑張りやしょう。」
ピンターは頷いた。
『患者体内の毒素浄化完了、患者を覚醒させますか?』
全員がメディに振り向いた。
「メディ、ソウ兄ちゃんを起こして。」
『了解しました。』
ソウは夢を見ていた。
田舎の古びた民家、庭の隅には井戸がある。
井戸の側で老婆が手押しポンプの柄を上下させ井戸水をくみ上げタライに移している。
タライの中には大きなスイカが浮かんでいる。
ソウは、さっきとってきたばかりのカブトムシを戦わせて遊んでいる。
「ソウちゃん。暑いからちゃんと帽子をかぶるのよ。スイカが冷えたら一緒に食べようね。」
ソウが声のする方向を振り向く。
80代の女性が優しく微笑んでいる。
ソウは、その女性の笑顔を見るだけで幸せな気分になれた。
ソウは、野球帽をかぶり直しながら老婆に駆け寄り、老婆の膝に抱きつく。
懐かしい匂いがする。
「ばぁちゃん。」
「何?そうちゃん。」
「ばあちゃん、好き。」
ソウは幼くて今の自分の気持ちをうまく伝えることが出来ない。
今のこの幸せな気持ちを。
幸せが何かということさえわからないが、今老婆に抱きついているだけで、とても心地の良い気分なのだ。
それが『ばあちゃん、好き』の意味なのだ。
「あら、うれしいわね。ばぁちゃんもソウちゃんのことがとても好きよ。」
ソウが老婆に抱きついた手を離すと、場面は冷たいコンクリートの建物に変わっていた。
ソウの手を母親が握り閉めている。
目の前には大きな木の箱がある。
母親は空いた方の手に持った花束を箱に収めた。
「ソウちゃん。お別れしましょうね。」
母親は花束を一つソウに手渡した。
ソウが箱の中をのぞき込む。
「ばぁちゃん。・・・・」
棺に花を添えると、ソウの目から大粒の涙が止めどなく流れ落ちる。
ソウが始めて自覚した『悲しい』という感情が涙を押し出すのだ。
「ばぁちゃん・・・・」
と言葉にしたとき、目が覚めた。
涙で潤んだ目を開けると、何人かの顔が見える。
見覚えのある顔だが、肉親ではない。
(父さん・母さん・・・?・・・どこ?)
「兄ちゃん!!ソウ兄ちゃん!!」
子供が俺を呼んでいる。
誰?
あ・・・
ピンター・・・・
意識が戻ってきた。
俺は上半身を起こして周囲を見回した。
ピンターが抱きついてきた。
俺もピンターを抱きしめた。
俺はメディの上に居ることがわかった。
メディの上?
そうだ俺はブルナを助けに行ってブルナを抱きしめたら突然背中に痛みを感じて意識を失った。
それから?どうなった?
俺はメディから降りた。
俺の周りには俺の仲間がいる。
なぜだかイリヤ様とテルマさんが俺から目を背ける。
ドルムさんがシーツを俺に手渡した。
「気がついたな、良かった。良かった。とりあえず、これ巻いとけ。」
俺は全裸だった。
どうりでイリヤ様もテルマさんも・・・
俺は慌ててシーツを腰に巻いた。
見慣れない女性が近づく。
左目の部分以外を包帯で巻いた女性だ。
体型や雰囲気からエリカだとは思うが・・・
「ソウ様、良かったです。本当に・・」
「エリカなの?どうした?怪我したのか?」
「ええ、少し、でもイリヤ様が手当てして下さったので大丈夫です。」
エリカが顔を伏せ加減に答えた。
大丈夫そうに見えない。
エリカのことも気になるが、それより何がどうなったのかを知りたい。
「ブルナは?」
ドルムさんが答えた。
「大丈夫。ウルフの中で寝ている。ドレイモンで行動を束縛されているようだったからアウラ様が眠らせた。」
状況から考えると俺はブルナからの攻撃を受けて意識を失ったと思われる。
ブルナは敵の誰かから俺を殺すように命令されていたのだろうか?
でも、俺とブルナの関係を知っている敵がいるとは思えない。
「わかりました。ブルナを解放しましょう。どこに居ます?」
「ワイの神殿や。」
ドレイモンがかかったままで、俺や仲間を攻撃する可能性があったからアウラ様が眠らせたということがわかった。
まだ事情は飲み込めていないが、少なくともブルナが俺の近く、アウラ神殿に居るのだ。
ドレイモンを解除してから事情を聞くことにした。
服を着てゲートをくぐりアウラ神殿に出た。
みんな付いて来ている。
ピンターが俺の手を取り、引っ張っている。
早くブルナに会いたいのだろう。
ウルフにはブルナと他6人の少女が眠っていた。
服装からしてブルナと同じ奴隷兵のようだ。
「ここじゃなんやな、全員、神殿へ運んだほうがええやろ。」
アウラ様がそう言ってくれたのでブルナと6名の少女をアウラ神殿の礼拝堂まで運んだ。
「ほんなら、まずブルナから起こすで。」
「はい。」
アウラ様は左手を開きブルナの額に当て、ブルナのこめかみを掴んだ。
アウラ様が手を話すとブルナがゆっくりと目を開けた。
「ねえちゃん!!」
ピンターが抱きつこうとする。
それをアウラ様が止めた。
「まだや。」
ブルナはピンターを見た。
「ピンター!!」
起き上がりピンターに駆け寄ろうとするのを俺が止めた。
「ブルナ・・」
ブルナが俺を見る。
「ソウ様・・」
ブルナの笑顔が消える。
瞳の光も消えた。
ブルナは無言で懐から銀色の筒状の金属を取り出して俺に向けた。
俺は素早くその筒をブルナから取り上げた。
取り上げた筒をドルムさんに渡してブルナの両腕を掴んだ。
「テルマさん、他に無いかブルナの体を探して。」
「は、はい。」
テルマさんはブルナの衣服を丹念に検査した。
テルマさんが首を横に振る。
他の武器は無いようだ。
俺は獣王化した。
俺の体に少し残っている毒素が急速に消失するのを感じる。
体力も気力も充実した。
ブルナが操られていることは間違いない。
ブルナをドレイモンから解放しなければならない。
俺の体の周囲をゆっくりと流れる魔力が意思を持った触手のようにブルナの体にまとわりつき、一部はブルナの体内に入る。
俺はブルナの心をのぞき込んだ。
ブルナの心の中に檻がある。
あくまでもイメージだが、そのように感じる。
その檻は意外と強固だ。
檻の中には本当のブルナがいる。
悲しそうな目をしているが、まだ目は死んでいない。
檻に触れたとき、その檻を発動させた人物がすぐにわかった。
ヘレナだ。
間違いない。
檻を構成する魔力の波長が以前戦ったことのあるヘレナの魔力波長と全く同じだった。
俺は全てを理解した。
ヘレナは何かの理由でブルナと俺の関係を知り、ブルナと俺が接触した時に発動するトラップをブルナの心に仕掛けていたのだ。
俺は檻の中のブルナに呼びかける。
ドレイモンからの解放には、ドレイモンをかけられた本人の強い意志が必要だ。
自由になりたいという意思が。
『ブルナ、ブルナ、』
檻の中のブルナが俺の呼びかけに反応した。
『ソウ様』
ブルナは檻の隙間から手を伸ばす。
俺はその手を握りしめた。
『ブルナ、ここから一緒にでるよ。いいかい?』
『はい。』
俺はブルナの心にある檻の格子を魔力で思い切り広げた。
ブルナはその隙間から懸命に出ようとする。
更に出力を上げた。
とうとうブルナは脱出に成功した。
ブルナが檻から出ると同時に檻は消滅した。
ブルナを抱き上げた。
ブルナも俺にしがみつく。
俺の胸を何か温かい物がつたう。
ブルナの涙だろう。
「おかえり、ブルナ。」
「ソウ様」
意識を現実世界へ戻した。
ブルナの腕にあったドレイモンの入れ墨は消えている。
「ブルナが帰って来たよ。」
俺がそう言うとピンターがブルナに飛びついた。
「ねえちゃん!!!」
「ピンター!!!」
ピンターにとっては久しぶりの本物の家族だ。
ブルナに抱きつきながら飛び跳ねている。
その様子を全員が見守っている。
「ソウ、他の子も順に起こすぞ。」
「はい。お願いします。」
他の6人の子も心の中の檻に閉じ込められていた。
俺は全ての檻を引き裂き、子供達全員を現世に連れて帰った。
10歳くらいの女の子がブルナに近寄り言った。
「ブルナねえちゃん。ホントに居たね。神様。」
ソウをキューブで手術中だが手術は予想以上に困難だった。
通常の怪我では無くソウの体内に人工物があり、その人工物は意思があるかのように体外排出を拒んでいた。
術者は人狼族の血を持つピンターだ。
『電撃による異物の活動停止を試みます。実行しますか?』
ピンターは困って周囲の大人の反応を待った。
「やる以外にないな・・・」
ドルムが反応した。
異を唱える者はいない。
「メディさん。やって。できるだけソウ兄ちゃんを傷つけないで。」
『実行します。イリヤ様は患者の背骨に集中してヒールをかけ続けて下さい。』
「わかったわ。」
全員が固唾をのんで見守る。
チュン!!
一瞬、メディの義手先から青い光がスパークした。
球の触手が動かなくなった。
メディが球をつまみ上げたが、球の触手は何の抵抗も見せず5センチほどの触手4本は垂れ下がったままだ。
『術式成功、バイタル安定、体内の毒素浄化までの所要時間およそ5分、その間のヒール補助を推奨します。』
ピンターがドルムに抱きつく。
ドルムはピンターの頭をなでる。
エリカはその場に座り込んだ。
ドランゴとテルマは手を取り合って笑顔を見せている。
イリヤも笑顔でヒールをし続けている。
「ほんま、世話のやけるやっちゃで。汗かいたわ。目が覚めたら救助費用ふんだくったろう。」
アウラも笑顔になった。
ドルムがピンターの頭をなでながら座り込んでいるエリカに目を向けた。
「ところで、エリカさん。状況を教えてくれないか?どうしてこうなった?」
ドルムの質問にかぶせるようにピンターが言った。
「ねぇちゃんは?」
エリカは、ゆっくり立ち上がり、それまでの経緯をかいつまんで話した。
ピンターの表情が曇る。
「え?それじゃソウ兄ちゃんを殺しかけたのはブルナねぇちゃんなの?」
エリカは頷いた。
「おそらく、ドレイモンだな。ピンター、俺達もドレイモンかけられていただろ?働きたくないのに働かされ、逃げたいのに逃げられなかった。あれと同じ術がブルナにかかっているんだよ。」
「それにしても術者は酷いやっちゃな。ブルナはソウにとっては家族やろ。その家族に刃をむけさせるとはの。」
イリヤがヒールをかけながら頷いた。
「そうよね。無視できない命令とはいえ、ブルナさんの心には大きな傷が残るかも知れないわね。」
神の助けを待つブルナ、やっと助けに来た神を殺そうとしたのだ。
ブルナの心が壊れてもおかしくない。
「それでブルナねぇちゃんはどうなったの?」
ピンターの表情は暗い。
「大丈夫だ。今はウルフの中で眠っている。」
ドルムのその言葉を聞いてかけ出そうとするピンター。
ドルムはあわててピンターの腕を掴んだ。
「まて、ピンター。お前のねぇちゃんは、まだドレイモンにかかったままだ。どんな命令が隠れているかもしれない。ソウが元気になってドレイモンを解除するまで近づくな。」
「でも・・」
テルマがピンターの前に立つ。
「もうちょっとの辛抱よ。ピンターちゃん。一年以上も耐えてきたんだから、あと数分、頑張りましょう。ね。」
「そうでやんすよ。もう少し、もう少しの辛抱でやすよ。師匠が目覚めるまで頑張りやしょう。」
ピンターは頷いた。
『患者体内の毒素浄化完了、患者を覚醒させますか?』
全員がメディに振り向いた。
「メディ、ソウ兄ちゃんを起こして。」
『了解しました。』
ソウは夢を見ていた。
田舎の古びた民家、庭の隅には井戸がある。
井戸の側で老婆が手押しポンプの柄を上下させ井戸水をくみ上げタライに移している。
タライの中には大きなスイカが浮かんでいる。
ソウは、さっきとってきたばかりのカブトムシを戦わせて遊んでいる。
「ソウちゃん。暑いからちゃんと帽子をかぶるのよ。スイカが冷えたら一緒に食べようね。」
ソウが声のする方向を振り向く。
80代の女性が優しく微笑んでいる。
ソウは、その女性の笑顔を見るだけで幸せな気分になれた。
ソウは、野球帽をかぶり直しながら老婆に駆け寄り、老婆の膝に抱きつく。
懐かしい匂いがする。
「ばぁちゃん。」
「何?そうちゃん。」
「ばあちゃん、好き。」
ソウは幼くて今の自分の気持ちをうまく伝えることが出来ない。
今のこの幸せな気持ちを。
幸せが何かということさえわからないが、今老婆に抱きついているだけで、とても心地の良い気分なのだ。
それが『ばあちゃん、好き』の意味なのだ。
「あら、うれしいわね。ばぁちゃんもソウちゃんのことがとても好きよ。」
ソウが老婆に抱きついた手を離すと、場面は冷たいコンクリートの建物に変わっていた。
ソウの手を母親が握り閉めている。
目の前には大きな木の箱がある。
母親は空いた方の手に持った花束を箱に収めた。
「ソウちゃん。お別れしましょうね。」
母親は花束を一つソウに手渡した。
ソウが箱の中をのぞき込む。
「ばぁちゃん。・・・・」
棺に花を添えると、ソウの目から大粒の涙が止めどなく流れ落ちる。
ソウが始めて自覚した『悲しい』という感情が涙を押し出すのだ。
「ばぁちゃん・・・・」
と言葉にしたとき、目が覚めた。
涙で潤んだ目を開けると、何人かの顔が見える。
見覚えのある顔だが、肉親ではない。
(父さん・母さん・・・?・・・どこ?)
「兄ちゃん!!ソウ兄ちゃん!!」
子供が俺を呼んでいる。
誰?
あ・・・
ピンター・・・・
意識が戻ってきた。
俺は上半身を起こして周囲を見回した。
ピンターが抱きついてきた。
俺もピンターを抱きしめた。
俺はメディの上に居ることがわかった。
メディの上?
そうだ俺はブルナを助けに行ってブルナを抱きしめたら突然背中に痛みを感じて意識を失った。
それから?どうなった?
俺はメディから降りた。
俺の周りには俺の仲間がいる。
なぜだかイリヤ様とテルマさんが俺から目を背ける。
ドルムさんがシーツを俺に手渡した。
「気がついたな、良かった。良かった。とりあえず、これ巻いとけ。」
俺は全裸だった。
どうりでイリヤ様もテルマさんも・・・
俺は慌ててシーツを腰に巻いた。
見慣れない女性が近づく。
左目の部分以外を包帯で巻いた女性だ。
体型や雰囲気からエリカだとは思うが・・・
「ソウ様、良かったです。本当に・・」
「エリカなの?どうした?怪我したのか?」
「ええ、少し、でもイリヤ様が手当てして下さったので大丈夫です。」
エリカが顔を伏せ加減に答えた。
大丈夫そうに見えない。
エリカのことも気になるが、それより何がどうなったのかを知りたい。
「ブルナは?」
ドルムさんが答えた。
「大丈夫。ウルフの中で寝ている。ドレイモンで行動を束縛されているようだったからアウラ様が眠らせた。」
状況から考えると俺はブルナからの攻撃を受けて意識を失ったと思われる。
ブルナは敵の誰かから俺を殺すように命令されていたのだろうか?
でも、俺とブルナの関係を知っている敵がいるとは思えない。
「わかりました。ブルナを解放しましょう。どこに居ます?」
「ワイの神殿や。」
ドレイモンがかかったままで、俺や仲間を攻撃する可能性があったからアウラ様が眠らせたということがわかった。
まだ事情は飲み込めていないが、少なくともブルナが俺の近く、アウラ神殿に居るのだ。
ドレイモンを解除してから事情を聞くことにした。
服を着てゲートをくぐりアウラ神殿に出た。
みんな付いて来ている。
ピンターが俺の手を取り、引っ張っている。
早くブルナに会いたいのだろう。
ウルフにはブルナと他6人の少女が眠っていた。
服装からしてブルナと同じ奴隷兵のようだ。
「ここじゃなんやな、全員、神殿へ運んだほうがええやろ。」
アウラ様がそう言ってくれたのでブルナと6名の少女をアウラ神殿の礼拝堂まで運んだ。
「ほんなら、まずブルナから起こすで。」
「はい。」
アウラ様は左手を開きブルナの額に当て、ブルナのこめかみを掴んだ。
アウラ様が手を話すとブルナがゆっくりと目を開けた。
「ねえちゃん!!」
ピンターが抱きつこうとする。
それをアウラ様が止めた。
「まだや。」
ブルナはピンターを見た。
「ピンター!!」
起き上がりピンターに駆け寄ろうとするのを俺が止めた。
「ブルナ・・」
ブルナが俺を見る。
「ソウ様・・」
ブルナの笑顔が消える。
瞳の光も消えた。
ブルナは無言で懐から銀色の筒状の金属を取り出して俺に向けた。
俺は素早くその筒をブルナから取り上げた。
取り上げた筒をドルムさんに渡してブルナの両腕を掴んだ。
「テルマさん、他に無いかブルナの体を探して。」
「は、はい。」
テルマさんはブルナの衣服を丹念に検査した。
テルマさんが首を横に振る。
他の武器は無いようだ。
俺は獣王化した。
俺の体に少し残っている毒素が急速に消失するのを感じる。
体力も気力も充実した。
ブルナが操られていることは間違いない。
ブルナをドレイモンから解放しなければならない。
俺の体の周囲をゆっくりと流れる魔力が意思を持った触手のようにブルナの体にまとわりつき、一部はブルナの体内に入る。
俺はブルナの心をのぞき込んだ。
ブルナの心の中に檻がある。
あくまでもイメージだが、そのように感じる。
その檻は意外と強固だ。
檻の中には本当のブルナがいる。
悲しそうな目をしているが、まだ目は死んでいない。
檻に触れたとき、その檻を発動させた人物がすぐにわかった。
ヘレナだ。
間違いない。
檻を構成する魔力の波長が以前戦ったことのあるヘレナの魔力波長と全く同じだった。
俺は全てを理解した。
ヘレナは何かの理由でブルナと俺の関係を知り、ブルナと俺が接触した時に発動するトラップをブルナの心に仕掛けていたのだ。
俺は檻の中のブルナに呼びかける。
ドレイモンからの解放には、ドレイモンをかけられた本人の強い意志が必要だ。
自由になりたいという意思が。
『ブルナ、ブルナ、』
檻の中のブルナが俺の呼びかけに反応した。
『ソウ様』
ブルナは檻の隙間から手を伸ばす。
俺はその手を握りしめた。
『ブルナ、ここから一緒にでるよ。いいかい?』
『はい。』
俺はブルナの心にある檻の格子を魔力で思い切り広げた。
ブルナはその隙間から懸命に出ようとする。
更に出力を上げた。
とうとうブルナは脱出に成功した。
ブルナが檻から出ると同時に檻は消滅した。
ブルナを抱き上げた。
ブルナも俺にしがみつく。
俺の胸を何か温かい物がつたう。
ブルナの涙だろう。
「おかえり、ブルナ。」
「ソウ様」
意識を現実世界へ戻した。
ブルナの腕にあったドレイモンの入れ墨は消えている。
「ブルナが帰って来たよ。」
俺がそう言うとピンターがブルナに飛びついた。
「ねえちゃん!!!」
「ピンター!!!」
ピンターにとっては久しぶりの本物の家族だ。
ブルナに抱きつきながら飛び跳ねている。
その様子を全員が見守っている。
「ソウ、他の子も順に起こすぞ。」
「はい。お願いします。」
他の6人の子も心の中の檻に閉じ込められていた。
俺は全ての檻を引き裂き、子供達全員を現世に連れて帰った。
10歳くらいの女の子がブルナに近寄り言った。
「ブルナねえちゃん。ホントに居たね。神様。」
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